魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
『星見ヶ丘の天川ストリートで突如として大量に発生した《ヤミノマ》の侵攻。かつてないほどの事態でしたが、規模に反して被害は軽微でした。また、この件には魔法少女アネモスの他、新人の魔法少女2名が関わっていたとされ、一体何者なのか世間では注目が集まって──』
『先の大規模侵攻では、これまでにないほどの《ディスナンド》の侵攻について、専門家は──』
『《ヤミノマ》の大侵攻は、破滅の前触れ? 市民の間で広がる不安の声──』
「……何処のニュースも先のことばかりだな」
「そりゃそうさ。あれだけの規模の《ヤミノマ》が現れるのは初めてのことだからね」
ニュースを見て呟いた嶺の言葉に俺は同意する。
嶺は、病院のベッドの上で病衣を着て横たわっていた。俺はその見舞いに来ていた。
「ハチ、来ていたのか」
「あぁ。それで? 傷の方はどうなんだ?」
「全く問題ない。むしろ、清々しいくらいだ。なんなら今からきみと剣道で試合したって良いぞ」
「やるかアホ。まったく、《ヤミノマ》から庇うだなんて無茶をする」
俺はため息を吐きながら、近くの椅子に座る。
「だがまぁ、良かったよ。直接《ヤミノマ》の攻撃を喰らったのに、命に別状はなし。負のエネルギーも、魔法少女たちが中和してくれていたおかげで精神に変調もない」
「大金持グループが手掛けていた最新の医療機器も備わっていたおかげだ。そうでなければ、精神はともかく肉体の方が傷を癒すのに多大な時間を浪費していただろう」
そりゃ、俺が頼み込んでそうなるよう調整したからな。
あの時、嶺の周りにまとわりついていた負のエネルギーを祓ったものの、傷そのものは癒すことができない俺は、応急処置を済ませ、事態が収束した後に速やかに嶺を病院へと運ばせた。
頼んだのが、大金持だったから、星ヶ丘随一の病院に運ばれるとは思ってなかったけど。その甲斐あってか、特に後遺症なく回復している嶺を見て安堵する。
「そうそう。今日はお前のお見舞いだけじゃなくて預かっていたグッズを届けに来たんだ」
「あぁ、わざわざすまないな」
「だけど、すまん。回収はできたんだが、騒動のせいでちょっと壊れてしまった」
「……いや、あの状況ならば仕方あるまい。気にしていない」
「そんな血涙流さんくらいに悔しそうな顔されたら、説得力ないよ」
やっぱり若干破損したのはまずかったか。
でも、完膚なきまでに破壊される可能性があったと考えたら良かった方だろう。
さて、これで俺の用事は済んだんだが、まだ残っている人がいる。
「どうした、まだ何かあるのか?」
「いや、俺の目的は達したと言っても良いんだが……。いつまで隠れているんだい?」
「……お兄さま」
俺が入り口に声をかけると、恐る恐る大きなストローハットを被った澪が顔を覗かせた。
「……ハチ?」
「いや、あの、本来なら俺が送り届ける予定だったんだが、病院の前でうろうろと迷っていたからね。同じ相手だから一緒に来たんだ」
「つまりはきみが仕組んだのか」
「さぁ? 俺は迷っていたから案内しただけだよ。そこがたまたま目的地が一緒だっただけだ」
俺の言葉に、嶺は非難するような視線を向けるがどこ吹く風だ。
「それじゃ、俺はもう行くわ」
「は? 待ちたまえハチ」
「し、ししょう?」
「ん、え、師匠?」
「あっ」
俺の言葉に動揺する月詠兄妹。
その姿にお互いが気付き、気まずく顔を背ける。やっぱこの2人兄妹だな。
「いい加減目を逸らすのはやめてやれ。理由はどうであれ、彼女は向き合うためにここに来たんだ。嶺も、月詠家の跡取りとしてじゃなく月詠澪の兄としてちゃんと向きあってやれ。……
「……? おい、ハチ」
「悪い出すぎた真似をした。とりあえず、話し合ってみてくれ」
◇◇◇
八雲が去った後も、しばらくの間月詠兄妹は無言だった。ちくたくと、時計の音だけが静寂に響き渡る。
「……澪。怪我の方はどうだ」
「え、あ、はい。わたしの方は大丈夫でした。お兄さまの方は」
「問題はない。至って健康だ。明日にも退院できるだろう」
端的な、兄妹とは思えないあまりに事務的な会話。
またも会話が途切れる。意を決して、澪が話しかけようとした時。
「すまなかった」
「え?」
突然嶺は謝罪した。
「父も、母も、きみに対して僕のようになれと言いながら、その言葉通りに、きみは僕のようになろうとした。だからこそ、僕はきみを遠ざけた。そこに、きみの意志がないと思ったからだ」
そこで言葉を飲む。
「だが、澪。きみは自らの意思で《ヤミノマ》に立ち向かっていた。僕が思っていたよりもずっと芯のある人だった。憶測で判断していたのは自分の方だった。……結局のところ、僕もまた父母と変わりなかった」
「そんなっ、そんなことはありません! お兄さまは……!」
「僕は魔法少女が好きだ」
「は、はい?」
脈絡のない話題変換。思わず、澪は素っ頓狂な声をあげる。
「あの恐ろしい《ヤミノマ》相手に臆することなく戦うその姿を見ていると、勇気をもらえる。親に隠しているが、それなりにグッズだって集めている」
取り出したのは、八雲に持って来てもらった魔法少女のフィギア。もっとも、先の《ヤミノマ》騒動で足が折れてしまっているが、嶺は気にせず愛おしそうに眺める。
「もっとも、良い歳した男が何に夢中になっているのだと言われるだろうけどな。というわけで、澪。きみが思うほど、兄は完璧ではないのだ。だから、きみが僕のようになろうとする必要はないんだよ」
遠い存在だと思っていた兄が、本当は近い存在だと知っての安堵としての笑いだった。
「わたしにとってお兄さまは身近で、それでいて憧れの存在でした。確かにお父さまとお母さまにお兄さまのようになれと言われました。でもお兄さまに憧れて、あなたのようになりたいと思ったからです……!」
「澪……」
「だから、わたしもお兄さまに認められるにはお兄さまのようになるしかないと思って、品性高潔であろうと致しました。そうしたらお兄さまのようになれるとおもって」
そこで澪は頭を振った。
「でも、違いました。その話を聞いてお兄さまは、お兄さま。わたしは、わたしなんだと。ねぇ、お兄さま。わたしにも、秘密があります。わたし、実は猫が大好きなんです」
ふんわりと、年相応の笑みをした。
◇◇◇
どうやら完全に兄妹間の蟠りは解決したようだな。
俺は病室の前で、会話を聞いてそう判断する。
盗み聞きだから、申し訳ない気持ちもあるがそれ以上にあの兄妹の行く末を杞憂していたからだ。
原作では、嶺が《ヤミノマ》に襲われることはあったが入院まではしていなかった。その齟齬がどこまで現れるのか、気になったのもある。
でもそれ以上にあの兄妹が早く仲直りしてほしかった。
ふっ、役目を終えたサブキャラは去るとするか。
須佐八雲はクールに去るぜ……。
「あら、おにいさん! 何を辛気くさい顔して歩いてるの?」
「お腹いたいんかい? お医者さんにみてもらいんしゃい」
あっ、やめて!
おばあちゃんたち、大声で話しかけないで! 中にいる2人にバレるから!
ピピっと、俺のスマホに通知が来た。
見れば、嶺からのメール。病院から退院したら話があると。
oh……これはダメみたいですね。覚悟の準備をしておかねば。
俺は流れているニュースを見る。
あの事件のあと、俺の存在と寧々子の存在がニュースに出ていることはなかった。解決したのは、あくまで魔法少女。そうなっている。
俺のことは揉み消されている。
まぁ、市民も
だが、男の俺が放送されないのは《ディスナンド》に対抗できるのは魔法少女だけという、前提が崩れることによる混乱が予想されているからだろうが、寧々子のことにも触れられていないのは気になる。
寧々子は魔法少女、別に放送しても問題ないはずだ。
情報規制がされている。そう考えるのが妥当か。
《魔法執行機関》がどこまで把握しているのか不明だが、とりあえずダークネスとの決戦まではあまり関わりたくないものだ。
次の日。
大金持グループの所有する高層ビル。
その最上階、大金持グループの総帥及びCEO専用の一室にて。
「おぉ〜、たかい。人がゴミムシみたい」
「ふはははっ! 高みにおるワガハイに相応しい光景じゃ!」
窓の方でムラサメと寧々子がそんな会話をしているのを聴きながら、俺は大金持に先の出来事を話す。
「なるほど、先の天川事変でそのようなことが……」
先の《ヤミノマ》の大発生は、天川事変と世間では名付けられた。
前例のない、10体の《ヤミノマ》の同時出現。それは規模に反して驚くほど被害が少なかった。理由はもちろん、焔ちゃんと澪の尽力のおかげである。彼女たちが俺がたどり着くまでに《トライデント》の気を引いてくれなければもっと被害は大きかったはずだ。
俺は今、大金持と共に詳細な内容を話していた。
「《トライデント》も既に残り一人。特に、その残りの一人は相手取った魔法少女に執着している。そう遠くないうちに現れるだろう」
「例の新人魔法少女ですか。失礼ですが、勝算はあるので?」
「ある。確かに技量、技術は魔法少女アネモスにはまだ及ばない。だが、彼女らには魔法少女としてもっとも大切なモノ、心の強さというモノに光るモノを感じた。もしかすれば、一角の人物となるかもしれない」
何なら魔法少女界でトップクラスになるけど。
普通なら一笑に付すであろう俺の言葉を、しかし大金持は神妙な顔で顎に手を当て考え込んだ。
「それほどですか。貴方様が言うのであれば、そうなのでしょうね。ならば残りの《トライデント》が現れてもすぐ把握できるように、監視を強めます。そう言えば、連れていく戦力はやはり寧々子殿とムラサメ殿ですか?」
「あぁ。寧々子も連れて行くがつゆ払いを任せるだけさ。ムラサメも、彼女がいなければ俺は戦えないしな」
「しかし、万全を期すには
大金持の言葉に俺は難しい顔をする。
俺の知る限りにおいて、
「彼女の力は確かに組織の中で最強だ。だからこそ、
「ならばせめて《怪盗》
「彼女も今別件で追ってもらっている。ないモノを強請っても仕方ない。それで、例の装置についてはどうなっている?」
俺の言葉に、大金持は声を潜める。
「アクラーツの杖の解析により、極々小規模ですが
「
「さようでございます」
一長一短だな。
俺は考える。
《怪盗》ミスティリアはともかく、歌音の方は居てくれたらダークネス戦で頼りになるのは間違いない。今は表の顔の
呼び戻したら、さぞめんどくさくなるのは間違いない。何せ、ダークネスがいつ現れるのかも不確定なのだ。どれほどの期間拘束するのか、それも不明瞭だ。
だが、『魔法少女マギアイリス』の全ての元凶を退治できるかもしれないチャンスなのだ。やはり、呼んだ方が得策だろう。
埋め合わせはあとで考えよう。
「……仕方ない。やはり、歌音も呼び戻して常時警戒体制を取ることにしよう。多少時間はかかるけどそれでも」
「主様!」
「ボス!」
そんな俺の言葉に遮るように、ムラサメと寧々子。その顔には焦燥が滲んでいる。
「空が! どんどん暗くなっていっとるぞ! それになんじゃ、この凄まじいまでの負のエネルギーは……!」
「お空がまっくろ……! あっちの方!」
「なにっ!!?」
すぐに俺も外を見た。
星見ヶ丘の象徴である虹が消えていく。
代わりに夜かと見間違えるほどに暗くなっていく。そしてその中心にて遠目からでもわかる、重々しい気配。
ばかな、早過ぎる……!? まだ天川事変から2日しか経ってないんだぞ!?
その光景を、俺は知っている。
『魔法少女マギアイリス』において、ダークネスが現れる前兆であった。