魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
天川事変。
そう呼称される《トライデント》の幹部二人による《ヤミノマ》の襲撃。
それから一日だけだけど、《ヤミノマ》が現れることはなかった。これまでにない穏やかな日々に、人々は健やかに過ごすことができた。
しかし、その平和が今日破られた。
《ヤミノマーッ!》
「うわぁぁぁ! 《ヤミノマ》だぁぁ!」
突如として再び現れた《ヤミノマ》。それらによる混乱はすぐさま騒ぎとなった。
「澪ちゃん!」
「えぇ、いきましょう焔!」
「「変身!」」
そこに居合わせたあたしとみおみおは頷き合う。
お互いに背中を合わせ、魔法少女としての力を解き放つ。
「人々の希望を照らす太陽の光、魔法少女サンシャイン!」
「人々の不安を包み込む月夜の輝き、魔法少女オーロラミスト!」
すぐさま魔法少女へと変身し、現場へと向かう。
そしてその最中、違和感に気付いた。
「見て、
「つまりは、
《ヤミノマ》が現れる際に起きる人々を閉じ込める現象、
これまでにない事態に、否が応でも緊張感が高まってくる。
「見つけたわ……魔法少女サンシャイン。魔法少女オーロラミスト」
「貴女はっ、エレガンシッ……!?」
「その姿は!?」
そこへ現れたのは、《トライデント》のエレガンシア。
だがその姿形は大きく異なっていた。
自慢だった美貌は、肌が大きくくすみがかり、黒い痣とも言える模様が身体中に迸っている。有り体に言っちゃうと、病人みたいだった。
「そんな目で見るんじゃないっ。あんたらを消しに来たのよ。このわたくしに与えてくれた屈辱、晴らしてくれはりわ!」
「そっちこそ、人々を襲うだなんてゆるせない!」
「
《ヤミノマ》が現れる時は必ず
昔はこれがなくて、死者が出たこともあった。そして、いつしかこの現象が起きるようになったって聞いた。理由はわからないけども、《ヤミノマ》が人の負のエネルギーを集めるのが目的な以上、死人が出てしまえばそれっきりで集めることもできなくなってしまうからだと、あたしは風羽さんに聞いた。
でもエレガンシアは違う。
そのことを指摘するとひどく顔を顰めた。
「うるさいうるさい! お黙りなさい! あとがないのよ。ここであんたたちを消し去らなきゃ、わたくしはッ……! おいきなさいッ、《ヤミノマ》!!!」
《ヤミノマーッ!!!》
「うわぁ!?」
「なんて、力……っ!?」
エレガンシアの言葉に呼応して《ヤミノマ》が現れる。
でもサイズが全然違う。
命の危険を感じた人々の負のエネルギーを集めた《ヤミノマ》から感じる気配は、今までとは比較にならない。一発殴ってきただけで、地面が大きくえぐれていた。
「ふ、ふふふ、そうよ。わたくしはつよい。つよいのよ。わかったかしら? あなたたちに勝ち目はないわ。わかったら、あの男の居場所を教えなさい!」
「あの男?」
「惚けるんじゃないわ! 刀を持ったあの男よ!」
エレガンシアの目には怒りと焦りが混じっていた。
あの男って、まさか無頼? なんでエレガンシアが探しているの? 仲間を倒された敵討ち? でも、あたしたちに聞くのは間違っている。
みおみおが呆れたように、口を開いた。
「そう、なら残念ね。わたし達と彼には何のつながりもないわ。あなたの言葉はてんで的外れよ!」
「なんですって……!?」
「あたしたちも、あの人のことは知らない。突然現れては、いつのまにかいなくなっちゃうもん」
そう、なんであの人が《ディスナンド》に対抗できるのか、そもそもなんで《ヤミノマ》を倒すのかも知らない。
……うん、あたしたちほんとうにあの人のこと知らないね! 今度会ったら色々聞こう!
あたしたちの反応が本当だとわかったのか、エレガンシアは苦虫を噛み潰したみたいな表情をする。
「くっ、ならあんたたちから先に潰してあげるわ! 《ヤミノマ》!」
《ヤミノマー!》
再び襲いかかってくる《ヤミノマ》。
あの力は確かに強い。でも、あたしたちは微塵も恐怖を感じていなかった。
「確かにその《ヤミノマ》は強いよ! でも! 大きいからこそ、死角がある! いくよ、オーロラミスト!」
「えぇ! いつでもよ、サンシャイン!」
あたしたちは左右に分かれた。
その後も攻防が繰り広げられる。確かにあの《ヤミノマ》は今までのどの《ヤミノマ》よりも強かった。でも、天川事変の時みたいに10体同時にじゃないなら勝ち目はある。
「サンシャイン!」
「わかった!」
みおみおの目配せで、すぐに意図を悟る。戦っていてわかったけど、あの《ヤミノマ》は真正面ばっかり攻撃が集中している。だから、足元が疎かになっている!
あたしとみおみおは同時に《ヤミノマ》の足を、蹴り飛ばした。
果たして《ヤミノマ》は自重を支えることが出来ず、仰向けに転倒した。未だ!
「「ダブル・シューティング・スター!」」
《ヤミノマーッッッ!!?》
そこに、ダメ押しで二人で呼吸を合わせて拳を浴びせた。
こっそりと練習した甲斐があった! 息もぴったりだ!
「そ、そんなっ、こんな木端魔法少女ごときに!? きゃあぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま《ヤミノマ》が、エレガンシアを巻き込んで吹き飛ばす。
勝った!!!
「う、ぐぅぅぅ、こ、こんなことが、こんなの、エレガントじゃない。わたくしらしくない……!」
「まだ起き上がれるの!? すごっ!」
「伊達に幹部ではないと言うわけね。でももう満身創痍よ」
「はぁ〜、はぁ〜、まだよ。まだわたくしは……!」
バラバラに崩れた《ヤミノマ》の残骸から、エレガンシアがうめきながら立ち上がる。
そのタフさにびっくりするけども、オーロラミストに言われて油断なく構える。まだ向こうはやる気だけど、オーロラミストと一緒なら勝て──
『失敗したな、エレガンシア』
突然辺りに響き渡った低くて重い声。
寒気が背中を突き抜けるような感覚に、あたしたちは硬直する。でも、あたしたち以上に覚えているのはエレガンシアのほうだった。彼女は何処か宙を見て怯えていた。
「ま、待ってくださいっ。まだ、まだやれますっ……! お役に立って見せますっ。だから」
『まだ? 目的の人物どころか、単なる魔法少女二人に敗れる程度で役に立つなどと笑止千万。ほとほとに呆れたわ』
「まっ──」
『よって、貴様のエネルギー、存在、全てを没収する』
その言葉と共に、エレガンシアから黒い瘴気が噴き出てくる。いや、違う。あの黒い瘴気が、エレガンシアの力を吸っているんだ。
「あ、か、か…………っ!」
やがて生気が吸い尽くされ、カラカラになったエレガンシアがそのまま倒れ伏す。
死んだ。死んでしまった。
でも、そのことに意識を割けるほどあたしたちには余裕がなかった。
エレガンシアから出てきた黒い瘴気が、一箇所へと集まっていく。そして、それを中心にして禍々しい、悍ましい気配があたりを包み込んでいく。
『ふん。やはりこの程度の負のエネルギーではこれが限界か。まぁ、よかろう。さて、よくも邪魔してくれたな。この星の魔法少女どもよ』
空が暗くなる。
あたりの空気が重くなる。
こわい。
おそろしい。
身体の震えがとまらない。
「我が名はダークネス。この星を闇へと包みし者なり」
《ディスナンド》の首魁、ダークネス。
この世界を混沌に落とした元凶が、目の前に現れた。
◇◇◇
空が黒く染まっていく。
太陽の光が届かなくなり、夜中のように暗くなっていく。
「見ろ、主様よ。空が赤くじゃなく、黒く染まる。闇が、覆い尽くしておる」
現場に向かう俺とムラサメと寧々子。
その最中にすれ違う人々は倒れ伏し、ピクリとも動かない。
死んでいるわけじゃない。ただ、もはや動くこともままならないだけだ。
その姿を見て確信する。負のエネルギーの充満。それも町一つを容易に覆わせられる存在。そんなの一つしかない。
「ダークネス。もうやつが現れたのか……!」
想定よりも、かなり早いダークネスの顕現。
『魔法少女マギアイリス』でやつが現れるのは、《トライデント》が全滅して《ヤミノマ》が無差別に大量発生した後だ。
《天川事変》で《ヤミノマ》の大量発生という条件は満たしているが、まだ《トライデント》が
ボスならボスらしく幹部が全滅してから出てこいよ!
いや、むしろもしかして今《トライデント》が倒されたのか? 魔法少女サンシャインとオーロラミストならあり得る。
だが、結局ピンチに変わりは……いやこれはチャンスか。
ダークネスが姿を現したということは、まず間違いなく対峙しているのはあの二人だろう。
魔法少女サンシャインと魔法少女オーロラミスト。『魔法少女マギアイリス』の《二人のオーレオール》の主人公たち。
ならば使えるはずだ。
あの二人の合体技『マギアイリス・クェーサー』。
『魔法少女マギアイリス』シリーズ屈指の威力を誇り、その強さは後発のシリーズを含めても最上位に位置する。この技によって2人は必ずダークネスを倒す。
だが、完全に滅することはできない。だから俺はそこを突く。
ムラサメの奥義であれば、完全にダークネスを焼き祓うことができるはずだ。だからそれまでは静観をせざるを得ない。
だが、到着した現場で見たのは。
「無駄だ」
「うわぁぁぁ!!?」
「きゃあぁぁ!!?」
蹂躙。
ダークネスに対して、全くと言って良いほど対抗出来ていなかった二人の姿であった。
「ミラクルパワー。我々に対抗できる忌々しき力。それが存在する惑星は我々にとって非常に不都合だ」
「う、ぐ、このぉっ!」
「だめよ、サンシャイン先走っては!」
奮い立ち、サンシャインが振るう光を纏った拳をダークネスは自身を構成する闇で相殺、いや逆に侵蝕する。
「とはいえ、だ。この程度の力で余に歯向かおうとは、甚だ思い上がりが過ぎる。余は数多の星々を闇に包み込んだ、ダークネスなり。貴様らの時の弱き光ではどうにもならない、漆黒の闇そのものだ」
「うああぁぁぁっ!?」
「サンシャイン!? きゃあぁぁぁっ!!!」
サンシャインが弾き飛ばされ、オーロラミストもそれに巻き込まれた。更にダークネスから放たれた闇の波動が二人を吹き飛ばす。
「絶望しろ、悲嘆せよ。終わりだ、魔法少女よ。貴様らの断末魔をかわぎりに、この世界を闇にへと包み込ませてもらおう」
「う、あぁぁぁ」
「くぅぅぅぅぅ」
闇で出来た手が、二人を掴んだ。苦悶の表情を浮かべる。
天照焔と月詠澪は『魔法少女マギアイリス』の主人公だ。
二人の強さは追い込まれれば、追い込まれるほどに強くなる。
ほんとうにそうか?
ダークネスが本来正史で現れるのは、12月のクリスマス当日。今はまだ4月の終わりかけ。つまり
焔ちゃんと澪は正史では《トライデント》を全滅させた。しかし、俺がアクラーツとキンニバベールを倒したことで、その経験を積むことができなくなっているのではないか。
目の前の蹂躙が、その証左だ。
ダークネスを倒すには、二人の力が必要不可欠だ。だから、二人が覚醒するのを待つのが得策なんじゃないか。
だって、『魔法少女マギアイリス』じゃ二人は《トライデント》に追い詰められるたびに、力を増して撃破してきた。なら、今回だってなんとかなるかもしれない。
ダークネスが俺に気付いていない、今が千載一遇のチャンス。
此処を逃せば、俺に勝ち目が無くなる。
でも。
だが。
おにいさん、と懐いてくれている焔ちゃんが苦しがっている。
師匠、と慕ってくれている澪が呻いている。
なんの罪もない二人が、苦しんでいた。
《主様》
「ボス」
ムラサメと寧々子が俺を見ていた。
……あぁ、そうだよな。
「ゆくぞ」
葛藤は消えた。俺は力強くムラサメを握りしめる。ムラサメは応えるように鍔を鳴らし、寧々子もにんまりしながら俺に続いた。
「〝鬼祓門〟!」
「なに?」
迸る紫の炎の斬撃。それは闇そのもののダークネスを斬りつけ、辺りを照らす。
そしてダークネスがこっちを見た隙を突くように、寧々子が二人の元へ駆け出す。
「〝つよつよパンチ〟!」
「わわっ!?」
「あなたはっ……!?」
サンシャインとオーロラミストを掴んでいたダークネスの手を、寧々子が叩き落とした。
「また新たな魔法少女か。そして貴様は……そうか、貴様がエレガンシアの言っていた妙な男か」
「お初に、すべての元凶殿。悪いが、お前はここで倒させてもらう」
対峙してわかる。
こいつは次元が違う存在だ。ミラクルパワーを持たない男の俺では、ムラサメの力をもってしてもどれだけ対抗できるか。
やはり、早いところ焔ちゃんと澪が回復して、〝マギアイリス・クウェーサー〟を放って弱ったところを突くしか勝機は──!?
「たかだか一つの惑星の、一生命体にできるとでも? 〝ダーク・オーラ〟」
周囲の闇がダークネスを中心に集まり、そして破壊の一撃を放ってきた。咄嗟に俺はムラサメを振り、斬り払うが濁流の如く襲いかかってくる。
《ぬおぉぉっ!? 何たる力じゃあ!? 気を抜いたらワガハイも呑まれそうじゃ!》
「踏ん張れ! ここを乗り切れば勝機はある! 俺ときみなら!」
《言ってくれるのぉ! じゃが、わかった! 妖刀の力舐めるでないわぁ!》
頼もしく吼えるムラサメ。
しかし、現実はムラサメの紫の炎すら包み込みそうなダークネスの闇の力。想定以上の力に圧倒される。
ここまでか、ここまで違うのか!?
映画ボスの強さは俺が一番よく知っている。
だが、彼女らはあくまでその
「ボス!」
「くるな! カーバンクル!」
「でも……!」
「やかましいぞ、魔法少女」
「うわあぁぁぁぁ!!?」
ほんのちょっと、〝ダーク・オーラ〟の一部を寧々子に向けただけで簡単に寧々子が吹き飛ばされた。
「カーバンクル!!!」
《牝猫ッ!》
巻き込まれた寧々子を見て、俺は更にムラサメの出力をあげた。歯を食いしばり、筋肉が悲鳴を上げるのを無視して〝ダーク・オーラ〟を完全に討ち祓った。
ダークネスは闇に浮かぶ目だけを、爛々と輝かせる。
「なるほど、余の部下を二人始末したのは間違いないようだ。だが今のでわかったぞ。貴様、
ダークネスの片腕が動く。
「え?」
「あ……」
その矛先は俺──じゃなくて、焔ちゃんと澪の方。
「まて」
その先の光景を幻視し、俺は制止するもお構いなしにダークネスはその黒い波動を二人へと放った。
ムラサメで迎撃を、いや刀を振るうのが間に合わない。寧々子も、この距離じゃ間に合わない。
そしてあれだけの威力、消耗している二人じゃ耐え切れない。
──!
俺には使命がある。
ダークネスをこの場で始末する。それこそが後の悲劇を生み出さない方法だと、知っている。
そのために、何年戦ってきたと思っている。
全てはこの時の、この瞬間のための準備だったはずだ。
──ちゃん!
だから。
だから、そう。
たとえ、俺を慕ってくれる二人を見捨てても果たすべきなのだ。それが、それこそが正しいとわかっている。
どうしようもなく、抱きしめ合う二人の姿を見つめ、俺はその間にダークネスへと刃を向ける。このままヤツを仕留める。そのために。
──
不意に。
《主様っ……!?》
「ボスッ!?」
気が付けば、身体が動いていた。
俺はムラサメを巻き込まないように放り投げ、そのままダークネスに向かうのではなく、焔ちゃんと澪を突き飛ばしていた。
驚いたようにこちらを見ている二人の表情が。
泣きそうな顔で目を見開いている寧々子の姿が。
驚愕と心配を滲ませた悲鳴のようなムラサメの声が。
そして最後に、嘲笑うように目を細めるダークネスが見えた。
あぁ。
なにをしているんだろうな。
結局俺は
迫り来る闇の力の嵐。それに俺は包まれた。