魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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君が夢見た世界で

 

「ねー、おにいちゃーん(・・・・・・・)。『魔法少女マギアイリス』の映画観にいこーよー」

 

 机に突っ伏しながら、声をあげるのはツインテールの小学生の女の子。

 

 無論、今世の俺に妹なんていない。

 

 だからこれは……前世の記憶だ。

 

 光莉。

 

 『魔法少女マギアイリス』が大好きな俺の妹。

 

 俺と光莉は、幼い頃に親に捨てられた。

 帰ってこない親を待ってゴミが散乱した部屋で衰弱していた時に、保護された。なんとか俺よりも幼い光莉を生かそうと苦心し、僅かな食料すら分け与えていた俺は特に栄養失調がひどかった。

 

 あと少し遅かったら死んでいたと告げられた。

 

 その後は、児童養護施設に預けられ、そこで同じ境遇の仲間たちと過ごした。

 

 幸運だったのは、児童養護施設がキチンとした所だったこと。そこにいる似た境遇の子らと友達になれたこと。

 

 保護される前の地獄みたいな家と比べたら雲泥の差だった。

 

 光莉もすくすくと成長していった。中でも光莉がハマったのが、『魔法少女マギアイリス』というアニメだった。

 

 光莉は毎年公開されるたびに俺を誘って来た。

 

「またか? 去年も見たじゃないか」

「それは『救世の歌姫 〜星巡る歌声〜』だよ! 今年の『魔法少女マギアイリス』は別の映画だよ!」

「いや、ぜんぜんわかんねぇ……」

「もぉ〜! なら、始まるまでの間に色々教えてあげる! ね、ね、良いでしょう? 今なら入場者特典も付いてくるんだよ? あたし、限定ステッキ欲しーよぉ!」

「いや、流石に中学生になって女子向けの映画を見るのはキツい」

 

 映画が公開されるたびに、俺は光莉に誘われて映画を見にいった。なんなら、地上波で再放送の時も一緒に見たことを数えきれない。

 おかげで俺はやたらと『魔法少女マギアイリス』について詳しくなってしまった。まぁ、普通に映画自体は面白かったから記憶に残ったとも言える。

 

 そして光莉の誘いを俺は断った。

 

 その時の俺は思春期真っ只中。

 

 ただでさえ、妹と仲が良いと同級生から揶揄われることがいやだった。だから、距離を置こうとし、それに対して光莉がいやいやとこれまで以上にひっついてくる時期だった。

 

 今思うと、ほんとうに幼稚な行動だ。

 あのゴミ山生活から脱出して、周囲を良い大人たちに囲まれ余裕ができたから訪れた、ちょっと遅い思春期だった。

 

 その後も光莉はごねにごねたが、俺の返事が変わらないと悟るとぷくーっと、頬を膨らませた。

 

「ぶーっだ! いいもん、あとで泣いて土下座して切腹したってゆるしてあげないよーだ!」

「それもう今世で許すつもりないだろ!?」

「じゃーねぇ! いじわるおにいちゃん!」

 

 そのまま光莉は家から出て行った。

 

 今思うと、大人気なかったと反省した。だから帰ってきたら、謝ろうと思っていた。

 

 そうだ。そうだよ。

 

 当然のように、当たり前に。

 

 帰って来ると何の根拠もなく信じていたんだ。

 

 

 

 光莉が死んだ(・・・・・・)

 

 交通事故だった。

 

 

 

『信号待ちの最中に、突然コントロールを失った車が突っ込んできたのです。……即死でした。遺体は見ない方が。損傷が激しく、このまま骨葬をオススメします』

 

 信号待ちで待っていたところに車が突っ込んで来て巻き込まれたと、警察から聞いた。その時に持っていた物です、と渡された血の付着した袋には、お菓子が入っていた。

 

 光莉は、お菓子が嫌いだ。だから、自分で食べようと買ったんじゃない。

 

 なら、なんでそれを買っていたのかだなんてわからない俺じゃない。俺のためだ。仲直りするために、光莉は買っていたんだ。

 

 後悔した。あの時、断るんじゃなくて一緒に観に行けばよかった。そうしたら、こんなことにならなかったんじゃないかって。

 

 でも、後悔したところで時間が巻き戻るはずがない。

 

 俺は妹を失った。

 

 がらんと、静かになった部屋で俺はぼんやりと天井を見上げることしかできなかった。

 

 手に持っていたのは、光莉の遺骨が入った骨壺(・・)だけ。

 

 辺りの部屋は散らかったまま、片付けもせず。

 

 光莉がいなくなったことを信じられない俺は、光莉との思い出を辿ろうとした。

 一緒に遊んだことも、喧嘩したことも、たくさんあったはずなのに。

 不思議と頭に浮かぶのは、光莉が大好きだった『魔法少女マギアイリス』のことばかりだった。それだけ、妹との思い出には『魔法少女マギアイリス』が絡んでいた。

 

 情けなさに、また涙が流れた。

 

 そのまま、骨壷を抱えたまま、ただただぼんやりと。食事も、水も摂らずに部屋で座り。心配した児童養護施設の人や友だちからの連絡にも出ずに。

 

 生きてるのか死んでいるのかわからない日々を過ごした。

 最後に見たのは、つきっぱなしだったテレビに映る『魔法少女マギアイリス』の主題歌だった。

 

 

 

 やがて『魔法少女マギアイリス』の世界に転生して。

 

 光莉が夢見ていた世界に、なんで妹じゃなくて俺が転生したんだと苛まれながら過ごした。それでも平和な日々に、ほんの少しずつだが心の傷が癒えていった。

 

 そんな時、《ヤミノマ》による襲撃に巻き込まれた。

 

 《ヤミノマ》が一人の女の子に車を投げつけた。

 

 その瞬間、フラッシュバックした。光莉の死んだ姿。記憶から離れなかった、原型をとどめなかったという光莉のひどい姿。

 

 それが目の前で起きようとした。

 

 すぐさま俺俺は巻き込まれそうだった少女を助けた。

 そのまま一緒に逃げ、無事に母親と再会させた。

 

 一緒に逃げようとの言葉にも、耳を貸さずにそのまま離れた。

 

 《ヤミノマ》はその間も人々を襲い続けていた。

 幸い魔法少女が現れ、《ヤミノマ》を倒してくれた。その後、アニメでよく見たミラクルパワーによって、人々の心を癒してくれた。

 人々の顔が、安らいでいく。

 

 

 

 そして俺はそれが効かず、ずっと負の感情に蝕まれていた。

 

 

 

 ずっと吐き気が止まらず、頭の中が叫んでいるみたいに痛んだ。

 

 離れない、消えないんだ。

 

 光莉の亡くなった時の光景が、ずっと。ずっとずっとずっと。

 

 それからだ。

 

 それまでの俺は、ただ《ディスナンド》を恐れていた。

 

 だがその日を境に、俺は《ディスナンド》を必ず滅すると決意した。

 

 俺は、安寧が欲しい。それに嘘偽りはない。

 

 だけどほんとうは、俺のような境遇の人を増やしたくなかったからだ。だからこそ、悲劇的な運命を辿る映画ボスたちを救ってきた。

 

 打算がなかったとは言わない。何せ、この世界で《ディスナンド》に対抗できるのはミラクルパワーを扱える魔法少女だけ。

 

 男である俺が、何かをするならば彼女らの力が必要不可欠だった。

 

 でも結局俺は凡人で、どうしようもないほど馬鹿で、だからこうして下手をこく。

 

 自分が器用な人間じゃないことはわかっている。

 映画ボス(かのじょら)のように、世界に対して勝負を挑むような気概なんてない。主人公(焔と澪)のように、異星人から世界の平和を守る誇り高い(こころざし)なんてない。

 

 ただ、恐怖で震えることがいやで、どうにかしようとがむしゃらにもがいていただけだ。

 

 だから、自分の目的を達成するためにそれなり以上に親しい主人公(焔と澪)が傷つくのを許容したはずなのに、結局は手を出して事態を悪化させた。

 

 ならば最初から何もせず、焔ちゃんたちに任せるべきだったのかもしれない。……いや、本当にそうだったのかすら、今の俺にはわからない。

 それが、それがたとえ、正史では焔ちゃんと澪がアクラーツによって正体が割られ、一時民衆に追われてしまうという展開になってしまうとしても。

 

──あの娘たちが大きく心の傷を負ってしまうとしても?

 

 ……いや、俺は結局動いただろう。

 それを看過することなんてできない。

 

 なら原作を変えてしまったのなら、責任を果たすべきだったのだ。自分であの二人を鍛えあげることもせず、二人ならきっと乗り越えられると、勝手に期待し、勝手に理想(・・)を押し付けていたのは俺の方だ。

 

 ミラクルパワーを消し去ると決めているのに、結局はそれに一番縋っていたのは俺の方だった。

 

 焔ちゃんと澪ならきっと勝つ。

 そんな都合の良い願いを、どこかで信じていた。

 

 右往左往。芯がない。何もかもが中途半端。

 

 結果、こうして惨めにダークネスに敗北した。

 

 後悔に駆られる。

 

 そう、後悔だ。後からやってくる悔しい思い。

 

 その通りだ。

 

 これまでの映画ボスたちを救おうとした時も、寧々子を助け出したときも、焔ちゃんと澪を助けようとしたときも。

 

 光莉に、謝ろうと思ったときですら。

 

 俺はいつだって、遅いのだ(・・・・)

 

 

 

 

 

「あっ……?」

 

 目が覚める。同時に、身体中が重く、痛い。だがそれがまだ俺が生きている証だ。視界に映ったのは黒髪の少女がこちらを覗き込んでいた姿だった。

 

「気がついたか」

「ムラサメ。状況はどうなっている?」

「起きてすぐそれか、まったく。状況は良くないのう。特に、あの牝猫がかなり狼狽えて敵に吶喊する始末じゃ。止めたのに、聞かなんだ。それにつられてあの二人も戦っておる」

「そうか。寧々子には、つらいところを見せてしまったな」

 

 呆れたようなムラサメの返答。

 

 その時、地面が揺れた。どうやらまだ戦いは続いているようだ。

 

「ムラサメ、準備はどうだ?」

「ワガハイはいつでも。じゃが、主様が無理じゃろう。振るえたとしてもあと一太刀じゃろう」

「そうか。なら、問題ないな」

 

 ぐぐぐっ、と身体を起こす。

 

 《ヤミノマ》とは比べものにならない攻撃を食らったのに動けるのは、その負のエネルギーを自らの糧と出来るムラサメがあの後、俺を祓ってくれたおかげだろう。

 

 とはいえ、痛みはひどい。

 今も立ち上がると、そのままたたらを踏みそうになった。

 

「やれるのか? そんな状態で」

「……はは」

「むっ、何がおかしい?」

「いや。その言葉。きみと組んでから、《ヤミノマ》相手にボロボロになっていた時によく聞いたなと思ってね」

「ぬぅ、茶化すでないわ!」

 

 プンプンとムラサメが怒っているが、実際俺を心配したのだろう。足が汚れている。態々人に変化して、俺を安全なところに運んでくれたんだ。

 

「いくさ、そのためにここに来たんだ」

「……そうか。ならばもう何も言わぬ」

「あぁ、ありがとう。心配してくれて」

「ぬっ!? 心配してなんておらぬ! ワガハイを扱う担い手がそのような弱気では困るから発破をかけただけであってだなっ、ええい、さっさとゆくぞ!」

 

 ムラサメが日本刀へと変化する。俺はそれを手に取り、すぐさま戦いの現場へと駆け出した。

 

「無意味な。無駄だとまだわからんのか?」

 

 ダークネスとの戦いは熾烈を極めていた。

 あたりはボコボコ、至る所に破壊の跡が広がっている。それだけでどれだけの激戦が繰り広げられたか想像に難くない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

「もうやめて! だめだよ、それ以上動いたら」

「うるさい、あいつは、ボスを傷つけた! ゆるさないゆるさないゆるさない! 八つ裂きにしてやる!」

「闇雲に戦っても勝ち目はないわ!」

 

 寧々子は、果敢にダークネスに突撃するも悉く対処された。その度に傷が増えていく。

 

 魔法少女カーパンクルが映画のボスであろうと、相手は『魔法少女マギアイリス』シリーズのラスボス。当然、力の桁が違う。

 

 サンシャインとオーロラミストは、そんなカーパンクルを援護しつつどうにかダークネスに攻撃を加えるもまるで効いた気配がない。

 

「そろそろ貴様らにも飽きたところだ。終わりにしてくれよう」

 

 ダークネスの掲げた腕に、闇の力が渦巻きながら集まっていく。

 

「闇の力に屈し、滅ぶが良い。〝ダーク・スーパー・ノヴァ〟!!!」

 

 全てを闇に包む一撃が放たれようとした。

 

 奴は、魔法少女たちしか見ていない。

 

 一撃だ。俺は一撃しかもう放てない。

 

 だけども、今の俺が放てる最大の攻撃。それをもってヤツに致命傷を与える。ムラサメの柄を強く握りしめる。応えるように、ムラサメから力がみなぎった気がした。それに微かに笑みを浮かべ、全身全霊で技を放つ。

 

「〝天羽々斬〟ィッ!!!」

「なにぃぃ!!?」

 

 空気を切り裂き、迸る紫の炎。

 

 全てを焼き尽くす紫の炎は、天翔る龍の姿を象り、そのままダークネスの上半身を大きく斬り裂いた。

 

「貴様はっ、ぐ、この程度の傷で余が……な、ぬぅぅ!? この炎はッ……!」

 

 紫の炎は纏わりつくようにダークネスの動きを阻害する。奴の真っ暗な闇の体が、紫の焔で照らされる。

 

「無頼さんッ!?」

「そんな傷で……!」

「構うなァ、ゆけッ! 君たちの未来を切り開け……!」

「ボスッ!」

 

 血反吐を吐く。どうやら無理をし過ぎた。

 頼む、頼む。不甲斐ない俺の代わりに。闇を照らしてくれ。

 

 崩れ倒れる俺を、寧々子が支える。

 

「サンシャインッ!」

「うん、わかってる! この隙をむだにはしないよ!」

 

 俺の言葉を受け取ったふたりは、すぐさまダークネスへと構える。

 

「貴方が世界を闇に包み込もうとするならば!」

「わたしたちは、光の力で世界を照らしてみせる!」

 

 聞いたことがある決め台詞。

 

 そして二人が手を繋ぎ、ミラクルパワーが中心に溢れ出す。二人の感情が、いまだかつてない程の魔法少女の力を引き出しているんだ。

 

「「マギアイリス・クェーサー!!!」」

「ぬ、おぉぉぉおぉぉぉぉッッッ!!?」

 

 吹き荒れ、七色の虹のように光り輝く光の奔流。

 

 ダークネスも闇の波動を放つも片腕を失い、半減した威力では相殺しきれない。

 

「馬鹿な、こんなことが。この闇の化身であるダークネスが──!!?」

 

 闇の波動は、眩い光の光線により押し込まれていきやがてはダークネスを貫いた。そしてその光の奔流は、留まらずに空高くまで昇っていく。

 

「すごい……」

 

 俺を支える寧々子が思わず呟く。

 それくらいに強力な光の奔流だった。

 

《みよ、主様よ。ダークネスの気配が散っていく。どうやらあの二人、やり遂げたようじゃぞ》

「あぁ……」

 

 光が差し込む。

 

 辺りを包み込んでいた闇が消え、吹き飛ばされた雲の隙間から光が差し込み始める。

 

 やがて完全に闇が消え去り星見ヶ丘に、大きな虹がかかっていった。まるで、祝福するように美しい光景に、皆が目を奪われる。

 

 

 

 一方で、その光景は。

 

 俺にとって何度も光莉と一緒に見た『魔法少女マギアイリス』《二人のオーレオール》の最終話の時と全く同じで。

 

 だからこそ。

 

「ほんと……綺麗だな」

 

 俺はただ一人。

 

 自らの計画の失敗を悟ったのだった。

 

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