魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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八雲の決心

 

「あー! 美味しかった!」

 

 焔ちゃんが満足げにお腹を摩る。

 

 《スター⭐︎ゲイザー》から焔ちゃんと一緒に帰っていた。

 

『あの、あのあのあの、コートはもちろんお返しします! ただ……! ちょっと、2日で良いので待ってもらえませんか!? あの時、急いで帰ってしまったせいで、汗が……! とにかく、ちゃんと後日お返ししますから!』

 

 妙に慌てた凪沙から、そんな言葉を受けて、また後日会う約束をした。

 

「風羽さんに、八雲おにいさんの前で魔法少女に変身したって言うのすっかり忘れてました。みおみおも珍しく、忘れちゃって二人して顔を見合わせたんですよ〜」

「だからか。随分と日が経ってからだと思ったよ」

 

 こないだ朝一緒に登校している時に、普通に話していたからてっきり報連相が済んでいると思っていたよ。

 

「でも八雲おにいさんが、あそこまで魔法少女を尊敬してくれているなんて知りませんでした」

「ふふっ。魔法少女は俺にとって、希望の光だからね」

 

 『魔法少女マギアイリス』のおかげで光莉は明るくなった。だから、嶺ほどではないが、俺も魔法少女推しだ。

 

「なるほど、希望の光……なんだか大きいですね! でも、あたしは八雲おにいさんも負けてないと思いますよ?」

「それはなんでだい?」

「覚えてますか? あたしが山でキャンプした時に、迷子になったときのことを」

「随分と懐かしい話をするね」

 

 一度だけだが、俺は天照家に誘われて山にキャンプに行ったことがある。

 多分、両親が居らず一人暮らしの俺を慮ってのことだろう。実際には寧々子とムラサメがいるから寂しくはなかったのだが、ご厚意を無下にすることもできず、参加した。

 

 で、焔ちゃんは途中見かけた兎を追いかけて山で迷ってしまった。

 

 居ても立っても居られなかった俺は、捜索隊を待たずに勝手に探した。今思えば、普通に危ないし、二次遭難の危険があった。でも、どうしても動かずにいられなかったんだ。

 

 また、手遅れ(・・・)になるかもと思ったから。

 

「あの時、すっごく嬉しかったんですよ? もちろんお母さんにはすごく怒られちゃいましたけど」

「二人揃ってものすごい怒られたね」

 

 いくら心配だからといって山の中を素人が捜索するなと、後からきた捜索隊にも焔ちゃんのお母さんにもすごく怒られた。

 当たり前である。ほんと、ご迷惑をおかけしました……。

 

「だから、あたしにとっても八雲おにいさんはヒーローなんですよ!」

「いや、俺は……そんな大層な人間ではない」

 

 あの時も。

 

 光莉の時に……、肝心な時に俺はいなかった。

 

 そんな俺がヒーローを名乗る資格なんてない。

 

「八雲おにいさん!」

 

 ビシッと、俺の鼻に焔ちゃんが指を突きつけた。

 ちょっと距離が足りなくて背伸びをしてプルプルしていた。

 

「だめですよ! そんなに自分の卑下したら! あたしにとって、それだけ嬉しかったんです! ですから、きちんと前を向いてください!」

 

 焔ちゃんは、ぷく〜と頬を膨らませて告げてきた。

 

 そうか、そうだよな。

 

 俺が否定しちゃ、焔ちゃんの気持ちまで否定することになってしまう。

 

「わかった、ありがとう」

「はい!」

 

 にぱー、笑顔を浮かべた。本当に太陽みたいな娘だな。

 ……なんか日向ぼっこしているしば犬の笑顔にも見えるのは、気のせいだろう。

 

「焔ちゃん、学園は楽しいかい?」

「……? はい! 楽しいですよ! おともだちも沢山いますし、すっごく楽しいです!」

 

 そう語る彼女の顔は笑顔に満ちていた。

 

 その後、一緒に帰り焔ちゃんが家に入るのを見送った後、俺はすぐ自分の家に入らず暫し考え込んだ。

 

「……よし」

 

 元々どうするか悩んでいたが、決心がついた。

 

 俺は覚悟を決めて、自宅のドアをあけたのだった。

 

 

 

 

「寧々子、少し良いか?」

「なに? ボス」

 

 寧々子はとてとてと近寄ってきて、俺の膝の上に座ってきた。なんだか最近、というかダークネス戦で俺が傷ついてからこういうことが増えた気がする。

 

 可愛かったので、とりあえず撫でてから俺は寧々子に話し始める。

 

「寧々子、学園に興味はないか?」

「……学園?」

「あぁ。俺は寧々子をトワイライト学園に通わせようと思っている」

 

 本来であれば、寧々子は学校に通っていて良い年齢だ。

 それが俺の家にいるのは、彼女が戸籍を失ってしまったためだ。でも、今ならば大金持が用意してくれた戸籍を利用することで、問題なく学園に通えるようになる。

 

 そんな考えで、俺は寧々子にそう告げたのだが。

 

 俺の言葉に寧々子はぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。

 

「ね、寧々子、なんかした? ボス、おねがいすてないで……おやつだって、週一でがまんするからぁ……」

「なんか微妙にこすっからいの」

「ちょっと静かにしてくれるかいムラサメ。寧々子、勘違いして欲しくないんだが、俺は決してきみが嫌いになったからとかじゃないんだよ」

「なら、どうして……?」

 

 俺は、まっすぐ寧々子と瞳を合わせる。

 涙を指で拭い、安心させるようにゆっくりと頭を撫でる。

 

「これまで寧々子、俺自身がきみに勉学を教えていたが《ディスナンド》との戦いがこれまで以上に激化する可能性がある。そうなると、俺がきみに勉学を教えるのは難しいと思った。俺にも一応高校生という身分があるからね」

「なら別に勉強なんてしなくて良い。寧々子はボスのそばにいられたらいいよ」

「その言葉は嬉しいけど、だめだよ。この国で生きていく上で、勉強は必須だ」

 

 『月狂の獣(ムーン・ビースト)』ではその後、寧々子がどうなったかまでは描写されてなかったが……、まぁあまりポジティブには考え辛い。そもそも、《魔法執行機関》にまた連れ戻されたのが気がかりだ。

 

 《魔法執行機関》は魔法少女を支援すべく立ち上げられた組織だから、善人が多い。だが、組織という者は大きくなるにつれどうしても澱み(・・)が出来る。

 

 特に《スター・トゥインクル》で登場するあいつ(・・・)を考えると良い方向に考えづらい。

 

 寧々子が魔法少女に目覚めた経緯からして、また実験施設に戻された可能性は十分ある。描写されてないけどね。

 

 明るい作風が売りの『魔法少女マギアイリス』であり得るのかと思うけども、《スター・トゥインクル》自体がアニメ業界で妙に暗い話が流行り出した時期に制作されたやつだから、可能性として全然あるんだよ。

 

 流石に不評だったので、次回作からは《魔法執行機関》は完全な味方になったけど。

 

 それにダークネスを一時的にとはいえ倒したサンシャインとオーロラミストだが、正直その戦闘能力には不安がある。だって魔法少女になってから一月しか経っていない。

 

 なのでもしもの際には、裏から手助けをしてほしい思惑もある。

 

 ……まぁ、寧々子の正体がバレたら芋蔓式に俺の正体もバレかねない危険があるのだが、この際リスクを飲み込むしかないだろう。

 

「リスク、か」

 

 誰にも聞こえないように呟く。

 

 

 わかってるさ。

 

 

 本当ならもっと良い方法があるのはわかっている。ほんとうだ。

 

 大金持に頼めば、寧々子に勉学を教えてくれる人材も場所だって用意させられるだろう。そちらの方が秘匿性もずっと高い。だけど、その環境は寧々子自身が選び取ったものじゃない。

 

 そして、何よりそんな環境では友達(・・)をつくることができない。

 

 大金持が用意するであろう環境は、彼自身の信が厚い者、つまりは大人だ。それじゃあ、意味がない。

 

 叶うのならば寧々子自身にも友達を作って、普通の子として過ごしていけるようになってもらいたい。あんな、身も心もボロボロになって独りで戦って最後は同じ魔法少女によって倒されて終わりだなんて、悲しい結末を迎えて欲しくなかった。

 

 だから、これは俺のわがまま(・・・・)だ。

 

 俺は知っている。

 前世でゴミ部屋で過ごしているのを助けられたあと、学校に通ってできた友だちと一緒にいる楽しさを。押しつけかもしれないが、寧々子にもその楽しさを味わって欲しかった。トワイライト学園なら、焔ちゃんと澪。あと学年は違うがミスティリア(・・・・・・)もいる。

 他の知らない学園よりは安心できる。

 

「のう、主様よ。ワガハイには、何らかの考慮はないのか?」

「ふっ、きみと俺は既に一心同体。そんな心遣いが必要か?」

「必要に決まっとるじゃろ! 贔屓はゆるさんぞ!」

「あれ?」

 

 ふつーに怒られた。

 

 俺とムラサメがわちゃわちゃしている間に、考えがまとまったのか寧々子が見上げてくる。

 

「……わかった。寧々子は、そこの幼刀とちがって良い子だから、ちゃんとボスの言うことを聞くよ」

「なんじゃとぉ!?」

 

 憤るムラサメを他所に、寧々子はぽすん、と俺の胸に頭を埋める。

 

「だからボス。寧々子が帰って来たらおかえりって言ってね。寧々子の帰るところは、ボスのところだから」

 

 流石のムラサメも、空気を読んで黙った。

 

 俺はただ、寧々子のことを優しく抱きしめたのだった。

 

 そんな会話からはや一週間。諸々の寧々子の転入手続きが終わり、ついに登校日が来た。

 

「ほら、行こう」

「……うん、わかった。おにぃ(・・・)

 

 流石に外でボス呼びは不都合だったので別の呼び方をお願いしたら、昔、寧々子を拾った当初の呼び方になっていた。懐かしさに頬をほころばせる。

 

 玄関で寧々子の手を引き、外へ出る。

 寧々子の服は、焔ちゃんと同じトワイライト学園のものに身を包まれていた。

 

 そのまま学園の方まで歩き出した。時間的にそろそろかな。そう思っていると、すごく聞き覚えのある走る足音が聞こえてきた。

 

「おにいさん! おはようございます!」

 

 もはや日課と化した焔ちゃんの朝の挨拶。

 てててーっ、と小走りでこちらに笑顔で走って来る様子は柴犬を彷彿とさせる。そして、すぐさま俺のそばに隠れるようにいる寧々子に気付いた。

 

「あれ? おにいさん、その娘は?」

「この子は、寧々子。俺の親戚の娘でね。訳あって俺の家に住むことになったんだ。そして、今日からトワイライト学園にも通うことになる。だから、仲良くしてくれると嬉しいな」

「え!? そうなんですか!? うわー! 新しいお友だちが増えてうれしいなー! よろしくね! っあうちっ」

「ちかい」

 

 あっという間に近づいてきて、寧々子のパーソナルスペースに入ってくる。距離感のつめ方えぐいな。差し出された手を、寧々子が軽くはたく。

 

「寧々子、それはよくないよ」

「うっ……」

 

 俺の言葉に寧々子がうめく。

 そのまま俺の顔を見て、焔ちゃんの方向き、頭を下げた。

 

「ごめん、ちょっといじわるだった」

「ぜんぜんだいじょーぶ! あたしこそ、ごめん! ちょっと近づき過ぎちゃった! 改めて、あたしは天照焔! よろしくね!」

「寧々子は……寧々子。よろしく、ワン子」

「うん! よろしく寧々子ちゃ……ワン子? え、それあたしのこと!?」

「いつもおにぃにまとわりついてるから、ワン子。知ってるよ、わざとおにぃに会えるように、登校時間あわせてること」

「おにいさん!?」

 

 焔ちゃんがびっくりした表情で俺を見てくる。

 

 たぶん、俺が言ったと思っているのだろうけど、寧々子はよく黒猫の姿で焔ちゃんと俺が話すのを見ていたから誤解だ。

 

「うぅ、なんか複雑ですけど……事実なだけに何も言えない。な、なら、あたしもあだ名で呼ぶね! 良いよね、ねこちゃん!」

「いいよ」

「あれ!? 否定しないの!?」

「……? 寧々子は、()だから何もおかしくないよ?」

 

 微妙にすれ違いが発生してるが、とにかく二人の中でのあだ名が決まったようだった。

 

「そっかー、じゃあ、ねこちゃん! 学園まであたしが案内するね!」

「え、べつにおにぃにしてもらうから、いらない」

「おにいさんだって学校があるんだから、それにトワイライト学園ならあたしの方が詳しいよ! ほら、いっしょにいこう!」

「わ、わ。ひっぱられ……力つよっ……わ、ワン子ぉっ……!」

 

 寧々子がぐいぐいと、焔ちゃんに引っ張られて連れていかれる。

 

 俺はその様子を手を振りながら、見つめていた。

 

「……大丈夫かな」

 

 ハラハラとした気持ちを抑えきれない。

 

 思えば基本寧々子は、俺やムラサメと共にいた。確かに一人で外を出歩くこともあったが、その時は猫の姿だ。基本で自由きままな寧々子が、学園生活を果たして過ごせるのか今になって心配になってきた。

 

 しかし、既に決めたことだ。あとは、成り行きを見守ろうとしよう。

 

「よかったのか?」

「ムラサメ」

 

 そんな俺の横に、ムラサメが現れる。

 和服に身を包んだ少女という装いなのに、周囲の人間は誰も気付かない、気づけない。当たり前に日常を過ごしている。

 

「一応、あやつの組織での役割は主様の護衛じゃろ。それを自ら離すようなことをして」

「良いんだよ。本来なら、あの年頃の子は学園に通っているのが当たり前なんだ。ミスティリアや歌音だって、普段は学生生活をしているんだ」

「それはそうじゃが……、主様があやつらを集めたのは自身の身を守るためじゃろ?」

「それでも良いと言っているんだ」

「はぁ……やれやれ、相変わらずチグハグな奴じゃな」

 

 呆れたようにため息を吐くムラサメに、苦笑する。心配してくれているようだ。

 

 それにしても、あの二人が学校に行く……か。

 

『あたし、あなたと友達になりたかった』

『そう。もっとはやくに出会えていたらよかったね』

 

 そうやって、映画は終わり、結局は同じ道に進めなかった二人。

 

 それが今、同じ道を歩いている。

 

 その後ろ姿を俺は、見えなくなるまで見続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ところでムラサメ。今日はきみは俺の近くに居てもらうよ」

「む? 構わないが……どうしたんじゃ?」

「いや、そろそろ奴らが……《ディスナンド》が動きそうな気がしてね」

 

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