魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:火星人マーズ
side:寧々子
寧々子はボスが大好き。なので、ボスの頼みならなんでも聞く。……決して大トロに釣られたわけじゃないよ。
寧々子の居場所は、ボスのお膝元。
他の仲間たちは、なんか色々肩書きやら立場があってボスの側になかなかいられない。
でも、寧々子だけはそばにいられる。
これは誰にも譲らない。あの妖刀おばばはボスの懐刀だとかでマウントを取ってるけども、ボスになでなでしてもらうのは寧々子だけの特権。むふー。
だから不満があるとしたら、隣に住む天照焔とかいう子の方。
ボスのお隣に住む家の子だからといって、まるで仔犬みたいにまとわりつく。
気に入らない。
でも、ボスの指示だから寧々子はあの天照焔……もうワン子で良いや。ワン子の前に姿を現せない。
なんでも色々とせけんてい? ってのがあるらしい。
かなしい。
ボスは、本当は寧々子にも学院に通わせたいって言ってた。
寧々子には、こ、こ、戸籍? それがないらしい。既に亡くなったものとして処理されているって。だから手続きができないって。なんだかよくわからない。
でも、
「学院。こんなの学んでいて何になるんだろ」
毎日同じ時間に、同じところに集まって、同じことをする。それの何が楽しいんだろ。木の上から、ワン子の授業を受けている様子を眺める。
「それじゃこの問題を天照さん、答えてもらえるかしら?」
「は、はい! えーと、こーなって、もういっこがこうだから……あれ?」
ボスに頼まれたあの焔って子は、うんうんと頭を捻っていた。
おばかだ。
答えは、2と4だ。
寧々子はボスにべんきょー教わってるからかしこいのだ。
「ならそうね……月詠さん。答えてもらえるかな?」
「はい、先生。答えは1、2、4です」
「流石ね、正解だわ」
「うぐぅ〜、わ、わかんなかった」
ちがった。
ワン子の代わりに答えた娘は澄まし顔で当然みたいな顔をする。なまいき。寧々子もわかんなかったのに。
やがてりんごんりんごんと、鐘の音が鳴ると同時に、座っていた生徒たちもみんな立ち上がった。
「あ、月詠さんも一緒にどう!?」
「遠慮致しますわ。失礼いたします」
ワン子は、さっきのなまいき女のことも誘うけど、にべもなく断られた。そのままワン子を見ているのもつまらないので、ほんのちょっとだけ息抜きで校舎裏でのんびりした。
……なんでボスはワン子を気にかけてるのだろ。隣に家に住むからって気にしすぎだと思う。
「……ねこちゃん」
「にゃ?」
ポツリと呟く声。気づけば背後に、あの月詠って娘がいた。
きょろきょろと、辺りを窺っている。それはもう念入りに。木の裏一本一本に至るまで。変な子。
そしてゴソゴソと鞄を漁って何かを取り出す。
「ほら、チュールだよぉ〜。おいで、おいで〜」
チュール?
寧々子は、こんなのよりも良いものをボスにもらってるのです。
こんなので振り向かない。寧々子は安い女じゃにゃし。大トロ持ってくるが良き。
プイッとそっぽを向く。
「あぁっ」
哀しそうな声がしたけど、関係ない。
「ふ、ふふ、さすがはねこちゃん。自由奔放なその姿、それでこそ手懐け甲斐があるというものよ……!」
《にゃっ……!?》
え、笑ってる。
なんで。何か鼻息荒くして、そのまま猫じゃらしをまたカバンから取り出してにじりよって来る。こ、こわい。
「あれ、誰かいるんですかー?」
ワン子!
声と共にひょっこりと校舎の陰から現れる。普段はボスにまとわりつくから気に入らないけど、今だけは歓迎する!
「あなたは確か、天照焔。どうしてここに」
「あたしは今、購買の帰り! じゃん! 見て見て、メロンパン! がんばって買ってきたんだぁ。みおみおは、ここで何してるの?」
「ちょっと待ちなさい。みおみおってわたしのことですか?」
「そうだよ? 月詠澪って名前だよね? だからみおみお! 可愛いよ!」
ワン子は、笑顔でそう語る。
寧々子はその間にそそくさと、距離を取る。
「かわっ!? こほん、それにわたしと貴女は、名前で呼び合うほど親しくありません。やめてください」
「えー。じゃあ、今からお友だちになろう! あたしのことは焔って呼んでね! それじゃ、一緒に食べよう!
「はっ? いや、何を言ってるのですか!?」
ぐいぐいと迫るワン子に押されてる。あぁやってボスにも纏わりつくんだ。よく窓から眺めてたから知ってる。
朝の通学のたびにボスへと一目散に走り寄って来るんだ。
ワン子め。やっぱり許すまじ。
《にゃ?》
「これはっ……!」
「えっ? な、なに!? 急に空が赤くなっちゃった!?」
そんな時に感じた、ビリビリとした肌を指す感覚。
まるで世界が隔絶されたみたいな感覚。寧々子には覚えがある。
〝
それは《ヤミノマ》が現れる予兆。空が赤く染まって、別世界のようになる。
《ヤミノマー!!!》
やがて何かが鳴るような音と同時に、寧々子の前に鐘の形をした何かが落ちてきた。
「あ、あれって《ヤミノマ》!?」
《ヤミノマーッ!》
「あわわわわ!!?」
「こっちに来る!?」
すごい勢いでこっちに来る。
でもでも、この程度寧々子なら簡単に避けられる。
「こっちだよ!」
《にゃっ!?》
かと思ったら、ワン子に抱えられた。
やめるにゃし! 寧々子を抱っこして良いのはボスだけなの! ワン子とみおみおは、必死になって《ヤミノマ》から逃げる。
「このままでは追いつかれます……!」
「それより、お、おかしいよっ! これだけの騒ぎなのに誰も集まって来ないだなんて!?」
「《ヤミノマ》が現れた際には、周りの空間が隔離されて別次元となっていると、聞いたことがあります。そのせいかもしれません」
「えぇ!? じゃあ、今ここにいるのはあたしたちだけってこと!?」
その通り。みおみおはかしこいみたい。
《ヤミノマ》は負のエネルギーを集めるため、人を異空間に閉じ込めるのだ。これを破り、中に入れるのは魔法少女だけ。そして、今は周囲に魔法少女はいない。
その後も二人は寧々子を抱えたまま逃げ回っていたけども、《ヤミノマ》はしつこく追ってくる。ワン子も焦っているみたいだった。
そしたら突然、みおみおが突然足を止めた。
「いきなさい」
「みおみお!?」
「わたしは月詠家の人間。わたしにはその血が流れているという誇りと歴史がある! わたしが気を引きます! その隙にお逃げなさい!」
「あ、ちょっと!」
みおみおは寧々子たちを置いて、わざと《ヤミノマ》の前に出てひきつける。だけど、
「いや、おっそい!?」
《にゃあ……》
おそい。
猫の寧々子よりもおそい。
あれじゃすぐ追いつかれる。
「どうしよどうしよ。このままじゃみおみおがっ……!」
《にゃあ》
「……ごめんね、ねこちゃん。みおみおのこと、見捨てられない。あたしも行ってくる。そしたら、あの《ヤミノマ》はこっちを向くと思うから無事に逃げてね」
そう言ってワン子は、離れていった。
「こっちを向け!」
《ヤミッ!?》
拾った小石を《ヤミノマ》に向けてなげつける。当然《ヤミノマ》は怒ってワン子の方を睨む。
「あなた、なんで……!」
「いつつ、あたしには誇りとか歴史とかそんな大層なモノはないよ。でも、そんなあたしでも曲げられないモノがあるんだ。あたしは、友達を見捨てない!」
「このおばかっ! だれかを見捨てることをできないだなんて、そんなのわたしも同じです!」
ワン子の叫びに呼応するように、光が奔流した。次いで、みおみおも。
二人の衣装が変わる。
寧々子はその光景を知ってる。あれはミラクルパワーの輝き。なら、あのふたりは魔法少女だ。
ワン子は、赤く燃えるような赤髪に、おへそを出した赤くて活発そうな衣装。
みおみおは、深い海みたいな青髪に、落ち着いた感じの衣装。
「わわわっ、変身した!? 何これ何これー!?」
「まさか、魔法少女!? 力が漲ってきます。まるで生まれ変わったかのように。これなら……!」
《ヤ〜ミ〜ノ〜マ〜!》
こんなタイミングで都合良く魔法少女に目覚めるだなんて。
なら、ボスはこれを知っていた? やっぱりボスはすごい。かしこい。さいきょー。
それにしても、魔法少女に目覚めるだなんて、あの二人には素質があったんだ。
よわい。
よわすぎ。
《ヤミノマ》一体にどれだけ苦戦しているの?
ワン子の攻撃は大雑把すぎて当たらないし、逆にみおみおを慎重すぎて力を活かしきれてない。
あのままだと、ふたりは負ける。魔法少女になっても《ヤミノマ》に力が通用するだけで、劇的に強くなれるわけじゃない。
実際、ふたりは得た力に振り回されていた。
《にゃあ……》
……べつに、寧々子にあのふたりを助ける理由なんてない。ボスに頼まれたのも、監視だけ。けど……。
『おそくなってすまない。大丈夫だ、もう大丈夫。これからは俺がきみのそばにいる。独りにはさせないから……』
思い出すのは、あの時ボスに助けてもらった時のこと。
雨の中、ぼろぼろの寧々子を涙を流しながら抱きしめてくれた温もりを思い出した。
……しょうがないにゃあ。助けてもらえるのは、うれしいことだから。
「変身」
寧々子は変身する。
頭からは猫耳が生えて、長い二股の尻尾がぴょんっと出てくる。寧々子の魔法少女フォームだ。力が漲る、なんでも出来る気がする万能感。
《ヤミノマ》がワン子とみおみおに夢中になっている隙に、横から接近する。
「"つよパンチ"」
《ノマッ!!?》
一撃で《ヤミノマ》を粉砕する。ふたりは驚いて目を見開いている。だけどこの程度、寧々子にとっては朝飯前なの。
「こんな相手に苦戦するだなんて、あなたたちは弱い。よわよわさん。そんなんじゃ、この先生き残れないよ。その力は何のためにあるの? 勝てないなら、戦えないなら、立ち向かおうとしないで逃げればよき」
でも、それはそれとして思ったことは言う。
寧々子はあまくないのです。ふんすー。