魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
『魔法少女マギアイリス』シリーズは女児向けのアニメである。
内容も可憐な魔法少女たちが、地球を狙う闇の組織《ディスナンド》との激闘を繰り広げるという単純明快かつ勧善懲悪な物語だ。女児向けとして、これ以上わかりやすいものはない。
だからこそ、《二人のオーレオール》は人気が出たのだ。
その続編である《スタートゥインクル》もまた、基本的にはその作風を受け継いではいる。
だけど、続編としてアニメ化された時期が問題だった。
この時期アニメ業界では
無論、それを取っ払うように明るい作風なのが『魔法少女マギアイリス』の特徴なのだが、2ndシーズンでは世間の風潮かあるいはスポンサーの意向の影響を受けてか、若干迷走していた。
具体的には、やたらと暗いエピソードが出てくることが多々あった。なんで日曜の朝イチから鬱屈した気分にならなくちゃいけないんだ。無論、最後は《セブンスター》をぶっ飛ばすが、もやもやした気持ちが晴れることはない。
そしてその暗黒期の負の象徴。その最たるものが《セブンスター》との抗争中に、
魔女、文字通り悪の道に堕ちた魔法少女のこと。
《ディスナンド》とはまた別に敵として現れた魔法少女同士での同士討ち。無論、あまりウケなかった。当然である。
その魔女を生み出した研究を主導した人物がいる。
それこそが黒井悪也だ。
彼はそうあれかし、と作られたキャラクターだ。
だが、此処は現実だ。実際に、その人物が存在するとなれば話は変わる。
なので、その研究を止めるべく俺は
研究所を制圧し、職員を捕らえ、被害者の少女たちを幾人か救い出すことはできた。だが、《魔法執行機関》の研究そのものを止めることはできなかった。
元凶である黒井悪也を止めなければ意味がない。
だが手がかりが無かった。《魔法執行機関》は公には存在しない組織。その内部で影響力を持つとはいえ、一個人である黒井悪也を探し出すのは容易ではなかった。
それは大金持の力を借りようとも同じだった。
しかし今。
黒井悪也がようやく尻尾を見せてきた。少なくとも、この星見ヶ丘のどこかに今いるのだ。なんとしても、エクレールとファイネルから聞き出さねば。
「どの道、ただで逃げるのは難しいしな」
《ビックスリー》は焔ちゃんと澪とは、魔法少女としての特色が違う。
単純に、火力が違いすぎるのだ。炎と雷という、人体に対して極めて殺傷能力の高い力を持っているのだから、さもあらん。普通に戦えば、俺でも危険だ。映画だと、サンシャインとオーロラミストの活躍のために、隔離されたりするくらい強いのだ。
その二人との戦い。苦戦はするだろう。ただ、凪沙が……魔法少女アネモスがいないのであれば、勝ちの目がある。
「良いだろう。来たまえ。君たちが俺に用があるのと同じく、俺もまた君たちに用がある」
「えぇ!?」
「まさかほんとうにやる気ですの!?」
俺が戦闘態勢をとったことに焔ちゃんと澪が驚いている。まぁ、あの二人からすれば、俺は素性はよくわからないけど味方のように思えていたのだろう。
でもごめんね。
こっちとしても引くわけにはいかないんだ。
「そうこなくてはですわね! あなたたち! 魔法少女エクレールの華麗な戦いっぷりを見ておくがよろしくてよ!」
「がんばれ〜」
「あなたもに決まっているでしょう、ファイネル!」
「うぇ〜、過重労働……」
エクレールはやる気満々、戦闘態勢をとった。
ファイネルの方も、言葉とは裏腹に立ち振る舞いに隙がない。そのまま二人の手足に、ミラクルパワーの光が集まっていく。雷が、炎が具現化していく。
「先に貴方からですわ! 先手必勝ですわ! 〝サンダーエクレール〟!」
「ボス!」
「受けるな! あれは、そんな生優しいものではない!」
バリバリと電気が弾け、足に纏わせながらエクレールが踵落としを決めに来る。
俺はすぐさまその場から飛び退く。寧々子も同じように躱した。次の瞬間、轟く爆発のような落雷の音。あっという間に、地面に小規模なクレーターができた。
「それいこー、〝熱血ナックル〜〟」
「ボス、危ない!」
次いで炎を纏わせたファイネルが、こちらへと拳を突き出す。そしてそのまま拳を起点に直線上に火柱が放たれた。
サンシャインとオーロラミストが肉弾戦の申し子ならば、アネモスを筆頭にエクレールとファイネルは魔法戦の達人だ。エクレールは雷、ファイネルは炎を用いて攻撃してくるが為、単純に攻撃範囲が広い。
俺の全身を容易く飲み込むほど、巨大な炎が迫り来る。
《ふむ、なるほど。言うだけのことはあるのう。それなりに実力はあるようじゃ。じゃが、これなら
「あぁ、その通りだッ! 〝鬼祓門〟ッ!」
ムラサメが紫の炎を噴き出す。
そのまま迫り来るファイネルの炎を逆に焼き尽くす。それを見た二人の反応が一変する。無論、悪い方に。
「やっばい。アタシ以上の炎だよこれ」
「あ、あら、お、思ったよりもつよいですわー!? ちょっとお二人とも! 見てないで手伝ってくださいまし!」
「えぇ!? あ、あたしたちもっ!?」
「確かにアネモスさんからも捕らえることができないと聞いてはいました。けど……」
どうやらあまり乗り気ではないらしい。
とはいえ時間の問題か。サンシャインとオーロラミストに手加減しつつ、エクレールとファイネルを捌くのには流石に苦労するだろう。
「カーバンクル、君はあの二人を抑えておいてくれ」
「ん、わかった」
友達だから、心苦しいと思ったが流石に四対一だと俺が手加減できない。苦渋の末に寧々子に指示を出すと、寧々子は逡巡することなくすぐさまサンシャインとオーロラミストの前に立ち塞がった。
当然、サンシャインとオーロラミストは狼狽える。
「カーバンクルッ、あなたも戦うの!?」
「別にあなたたちに恨みもないし、戦わずに済むならそれで良いと思ってる」
「でしたら、戦う必要はっ」
でもね、と寧々子は言葉を続ける。
「ボスの邪魔するなら倒すよ。──立ち塞がる奴は、全部敵だから」
「「っ……!」」
その言葉にサンシャインとオーロラミストが足を止める。
うぐぐ、図らずとも『月狂の獣/ムーンビースト』で観た光景と同じになってしまった。寧々子の台詞も同じだし、こんな所で映画のオマージュをしなくても良いじゃないか。
「すきありー、〝あちあちほかほかっクル〟〜ッ!」
「ぐっ!?」
「まだまだいきますわよ〜! 〝テンポラーレ〟ッ!」
《主様! よそ見するでないわ!》
よそ見していたら、ファイネルから重い攻撃を腹に喰らう。焼けるような炎の弾の連打。ムラサメの炎で相殺するも、完璧には防ぎきれない。そこに、エクレールからの雷を小規模に纏わせた蹴りの連打も加わる。
魔法少女の中でも《ビックスリー》と呼ばれるだけの戦闘能力はあり、コンビネーションも素晴らしいくらいだ。その技の連携と威力は《天川事変》で戦ったキンニバベール以上だ。そして俺は、彼女たちを倒しはしたいが、傷つけたい訳じゃない。
必然的に後手後手になる。
そして俺は防ぐのに手一杯となり、大きく吹き飛ばされた。
「とりましたわー!」
「かくごー」
体勢を整える暇もなく、エクレールはバリバリと雷を脚に纏わせ。ファイネルはほにゃほにゃした言葉とは裏腹に拳に強力な炎を纏わせながら、左右同時にこちらへと殴りかかってくる。
これは……、刀身だけでは防げないな。全力でやれば、二人を斬ってしまう。
「仕方ないな」
《やるのか?》
「あぁ」
ムラサメと会話を交わし、俺は腰に携えた鞘へと刀身を収めた。
「なんですの?」
「あきらめちゃった? なら、今すぐその日本刀をそばに……」
「いいや、
瞬間、鞘が光り輝いた。辺りを眩い閃光が包む。
とてつもない光量に、思わず二人は目を閉じる。そしてその隙に、俺は両者の攻撃を鞘で防いだ。
「なんですって!?」
「防がれた?」
必殺のタイミングでの連携を防がれたことに、二人は驚愕する。
だがそれは致命的な隙だ。
「少しばかり、おいたが過ぎるぞ。お嬢さんたち……ッ!」
「うきゃうっ!!?」
「わひゃー!?」
そのまま俺は、渾身の力を込めて両者を弾き飛ばす。
そして、それだけで終わらない。
「〝天津罪〟」
「うわっ……!?」
「なにっ……!?」
鞘を二人に向けると同時に鞘全体が光り輝く。
鞘から魂のような
そのまま地面に落ちて、立ち上がろうとしたところで自身に起きた異常に気付く。
「力が……炎が出せない……?」
「う、動けませんわー!? 全身金縛りになったみたいガッチガチで動けませんわぁ〜!?」
エクレールとファイネルが騒ぐ。
そんな彼女たちの周りを、白い光が鎖のように拘束していた。
「え、え、何が起きたの!?」
「魔法少女の力が、ミラクルパワーが使えていない? そんなことが、できるだなんて……!」
「よそ見、厳禁」
「うわぁ!?」
「あぐぅ!?」
寧々子が、雌ライオンの姿で殴り飛ばした。
「無駄だ。君たちの力の源であるミラクルパワーは今、その白い鎖によって封じられている。それでも力を使おうとすれば、その身を焼き尽くすことになる」
これこそが、ムラサメのもう一つの力。
紫の炎は、負のエネルギーを焼き祓ったり、喰らう力。
対して鞘の方は、対象を
かつて俺は、この力で大金持の奥さんの魔法少女としての力を封じた。そうでもしなければ、魔法少女になるほど正義感に満ちた人だ。間違いなく、最後まで戦い続けようとしただろう。
「くっ、ころすなら一思いにしてくださいまし! あ、でも顔はやめてくださいまし!」
「えっちなのはやめてねぇ〜」
一応危機的状況なのに、なんか気が抜けるな。
しかし、言っていることこそ締まらないが二人の目は死んでいない。チャンスを伺っている。でも、それを許すほど今の俺には余裕はない。
鞘を向ける。同時に、二人を捕らえる白い光の鎖が光り輝く。
「さっきの言葉。俺よりもカーバンクルを確保せよ、そう命令した奴がいるのか? ……いるのだな? その指示を出した奴が今、この町に」
「な、なんですの? うぐっ」
「むぐぐ……」
「案内しろ。いますぐに、さもなくばこれ以上の苦痛を与えることになる」
《む……、主様よ。あまりに手荒にしては……》
白い光の鎖は、二人を締め上げる。
ムラサメが諫言するも俺は、耳を貸さなかった。
やっとだ。やっと、掴めそうなんだ。黒井悪也の情報を。
現実、そうこれはアニメじゃない。紛れもない現実なんだ。
黒井は、魔法少女を人工的に生み出すための計画を主導している。奴さえ排除出来れば、《魔法執行機関》は清廉で魔法少女の完全な味方になる。それは憶測ではない。『魔法少女マギアイリス』の後発シリーズで証明されている。
だから、奴を仕留められるチャンスを逃せない。
そして何より。
今も、罪のない少女が魔法少女を生み出すために虐げられている。寧々子と同じくらい、あるいはもっと幼いであろう少女が。
そんなことを看過できるものか。たとえ、エクレールとファイネルを多少傷つけてしまっても情報を──。
「やめてください!」
響き渡る声。
声の主は、サンシャイン。彼女たちは、寧々子によって背中から抑えられていた。地面に倒れながらも、懸命にこっちを見上げてくる。
「どうしたんですか!? 確かに襲いかかったのは、エクレールさんたちですけど、いくらなんでもやりすぎです!」
「えぇ、貴方の正体も考えもまだわかってはいませんが、それでもむやみやたらに人を痛めつけるような人物ではなかったはず……!」
二人が、俺を見ている。
俺のことを、怯えながらも、何か理由があるのだろうと信じている目で。ちがう。ちがうんだ。俺は君たちに、そんな目で見られるほど清廉潔白の人間じゃない。そんな目で見ないでくれ。
「ボス?」
そして何より。
カーバンクルが。
寧々子が、俺を心配そうに見ていた。
「すぅぅ……ふぅ〜……」
深く息を吸って吐く。
……そうだ、落ち着け。今、ファイネルとエクレールを責めても意味がない。先ほどから問いかけるも、二人は答えなかった。屈しなかったことから、本当に知らないか、仮に知ってても口を割らないだろう。そんな尊敬するほどに心の強い少女たちなのだ。
「すまない、ムラサメ。熱くなっていた」
《まったくじゃ。いくら情報を得る為とはいえ、ワガハイを
「あぁ、ほんとうにすまない。きみの
小声でムラサメに謝罪する。ムラサメは呆れたように、呟く。全くもってその通りだ。人間を斬ることに、トラウマを持つムラサメにはひどいことをしてしまった。今度埋め合わせをしよう。
俺は鞘を向けるのをやめ、背を向けた。
「ダークネスの件について借りがある。この場はサンシャインとオーロラミストの顔を立てるとしよう。だから此処までにしよう。カーバンクル、帰るぞ」
「まって、ボス!」
「無頼さん! まだ話が終わってないですよ!」
俺の言葉に、二人を離して寧々子が慌ててやってくる。サンシャインの呼び声にも、耳を貸さない。今の俺じゃ、心にもない言葉を言ってしまいそうだったから。
最後に俺は、動けないエクレールとファイネルを横目で見る。
「それはあと数分もすれば解けるだろう。きみたちの飼い主に伝えておけ。首を洗って待っておけと」
「わたくし犬じゃありませんことよ!!?」
「たぶん、言ってる意味違うと思うよぉ」
最後までエクレールとファイネルはいつも通りだった。思わず気が抜けて、笑いそうになるのを抑え、俺はその場を離れるのだった。
「……失態だな」
熱くなりすぎた。無駄にあの四人を傷つけてしまったし、ムラサメにも迷惑をかけた。反省しないとな。己の不甲斐なさに嫌気が差す。
……あの、寧々子。
頭をぐりぐりと俺に押し付けないでくれないか? わかった、褒める。あとで褒めるから!
無頼としての姿をやめ、須佐八雲に戻った俺は懐から携帯を取り出す。連絡先一覧を確認し、呼び出す。
『御用でしょうか?』
「大金持。人手を出してもらえるか? 頼みたいことがある」
『仰せの通りに』
深入りせずに、大金持は了承の返事だけをした。