魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
星見ヶ丘に存在する魔法少女が集う喫茶店、《スター⭐︎ゲイザー》にあたしたちは訪れた。
「こんにちはぁ〜!」
「あんらぁ! 焔ちゃんまた来たのね! うれしいわぁ。そっちは、澪ちゃんだったわねぇん。来てくれて嬉しいわぁん」
「は、はい」
てんちょーさんは、るんるんと嬉しそうにステップしながらカウンターへと去っていく。それを見た澪が深くため息を吐いた。
「澪はまだてんちょーさんに慣れないの?」
「流石にあの格好にすぐに慣れるのはむりがあります……。焔は能天気過ぎるのよ」
「うへへぇ〜、そんな褒めなくても」
「褒めてないわ」
そんな風に会話していると、奥にとある二人を見つけた。
「あ! お二人とも、もう大丈夫なんですか!?」
全然知らなかったけど、魔法少女エクレールこと吾妻エクレアさんと、魔法少女ファイネルこと炎谷熾穂さんはここで働いていたみたい!
お二人はメイド服に身を包みながら、あたしたちに手を振る。
「お〜、あの時のちみっ娘魔法少女たちじゃ〜ん。やっほ〜」
「心配なさらずとも、もう問題ありませんわ。きぃ〜! 『
「また負けるかもだから一人で突っ走らないでね〜。てか、どこからハンカチ出したの?」
エクレアさんは、ハンカチをわざわざ噛み締めながら悔しがっている。熾穂さんはそんな様子にツッコミを入れているけども、人のこと言えないと思う。机にだらーんと、突っ伏してるし。
「あの二人のことは放っておいて大丈夫です。いつものことですから」
「風羽さん!」
「こんにちは」
そこに風羽さんがやってくる。
二人と違って、普通の店員が着るような服だった。
「それで二人とも、『
あたしは澪と目を合わせて、語り始める。
「まず、無頼の力は圧巻でした。エクレールさんとファイネルさんのコンビネーションを捌き切る技量もそうですが、あの紫の焔。ファイネルさんの炎を容易く燃やし尽くしました。そして何より、あの白い光の鎖。魔法少女の力を一時的にですが、使えなくするなんて想像だにもしませんでした」
「ピカーンッて鞘が光ったと思ったら、そこからぶわわって白い魂みたいなのがいっぱい出てきたんです! それに当たったエクレールさんとファイネルさんは、ふんぬー! って力を込めても動けませんでした!」
「……あと、カーバンクルもかなり強かったです。単純に、力もですけどライオンへと姿を変えるトリッキーな戦法に苦戦致しました」
「そうそう! こう、しゅばばっ! って感じで、あたしたちが攻撃しても躱されちゃうの!」
お尻に生えている二股の尻尾の使い方も巧みだった。あたしたちの攻撃を尻尾を使って逸らしたり、逆に利用して三次元的な動きをしたりして、とにかく上手というよりも
そんな風に語っていると、澪がすごく難しそうな顔をしていた。
「…………あの、焔。さっきから何の補足にもなっていないわ」
そんな!
ショックを受けていると、風羽さんも何か考え込むような顔をしていた。そ、そんなにあたしの説明だめだったのかな!?
「あの、風羽さん。何か気にかかることがあるのでしょうか?」
「そうですね……。無頼の力が予想以上だと言うのも確かなのですが、私としてはカーバンクルの方に疑問がありまして」
「カーバンクルが?」
「えぇ。あまりにも魔法少女としての力が
澪の言葉に、風羽さんが歯切れ悪そうに答えた。
でも、確かにそうかも? 魔法少女の力の源であるミラクルパワー。それは人を守りたいって時に発現することが多いって聞いた。だから、魔法少女の力も基本的には、誰かを守ったり助けたりする形で現れることが多い。
でも、カーバンクルの力は大きなライオンにもなっていた。確かに変な話かも。だって、誰かを護りたいと思った時に、あんなライオンになりたいだなんて思うかな? それとも、単にライオンが好きだったのかな。
まさか、獣になりたいって思うことはないだろうし。
「相変わらず、辺鄙なところで店をやっているのですなぁ」
そうやって首を傾げていると。
そんな風に小馬鹿にした声が喫茶店に響いた。
そこに居たのは、黒い仕立ての良いスーツに身を包んだ、鳥の嘴みたいに曲がった鼻の男の人。てんちょーが休業中の札をかけているのに、不躾に入ってきてこの言い草。
「え? だれあの人?」
「ん、あれは黒井悪也。《魔法執行機関》のえらそーな奴」
「えらそーではなく、偉いのだよ!」
熾穂さんが教えてくれたのに対して、ふんっ、と鼻息を荒くして吐き捨てる。そして男の人はこっちをじっとりと見る。
「そこの二人は?」
「あらぁ、新しい魔法少女の天照焔ちゃんと月詠澪ちゃんよぉ。巷ではサンシャイン、オーロラミストって呼ばれているわ」
「あぁ、例の英雄ともてはやされている二人ですか。本来であれば、あなた方から挨拶に来るのが筋ですがまぁ良いでしょう。所詮は、社会のしの文字も知らぬ子ども。大目に見てあげるのが大人というものです」
……いやなひとだ!
大目に見るつもりならわざわざ言わなくていいのに、言ってくるあたり陰険さが垣間見えるよ!
澪も言葉には出さないけど、眉を顰めている。
「それよりも、だ。炎谷、吾妻。私からの指令であったあの獣の魔法少女。取り逃すとはどういう了見かね?」
「うぐっ、そ、それは」
「未登録の魔法少女なんてあってはならない。魔法少女は《魔法執行機関》に属すことが至上なのです。その為に貴方たちに依頼をしたというのに……情けない」
「むー、負けたのは事実だけど……」
「ねぇ、澪。もしかして……」
「えぇ、どうやら指令とやらを出していたのはあの方のようね」
どうやら、無頼さんも言っていたけどカーバンクルを捕えろと指示した人は、あの黒井って人っぽい。
でも、なんだろ。
あたしは黒井って人の言葉に違和感を覚えた。なんというか、嘘は言ってないんだけど、本心は別にあるような……。
「……あまり責めるのはやめてもらいたいです。あの無頼の実力は私もよく知っています。大きな傷を負わずに戻ってきただけでも上等です」
そこに風羽さんが割って入る。けど、黒井さんは鼻を鳴らす。
「貴方もですよ、風羽凪沙。先の《天川事変》での出来事といい、何度も遭遇しているのに取り逃すとは。星見ヶ丘の《ビックスリー》が揃いも揃って『
むー。確かに無頼さんに遅れを取ったのは事実かもだけど、その時は明確に人に危害を加える《ヤミノマ》、それを操る《トライデント》だっていた。
敵か味方かわからない人よりも、明確に敵とわかっている《ヤミノマ》を優先するのは間違ってないと思うのに。
「《ヤミノマ》を倒せるのは自分たちだけだと、驕っているのではないかね? 確かにミラクルパワーを扱える魔法少女は代替の効かない存在だ。だが、感情に振り回されるなど、所詮は未熟な小娘に──」
「そこまでにしてもらおうか」
おどろおどろしい低い声。
一瞬、誰の声かわからなかった。でも振り向いてすぐにわかった。
てんちょーの声だ。でも、その声色はずっと低い。
「確かに相手に不覚を取ったのは事実。けど、彼女たちはまだこども。こちらの都合を一方的に押しつけるなんて恥ずべきことだ。特に、戦いもしないお前が。口出しする権利はない」
「なにを……っ! そもそもの話、魔法少女なんぞの自由意志など不必要であろう! 魔法少女は所詮は兵士──」
「それ以上言ってみろ。それは一線を越えるぞ、小童」
こ、こわい! こわいよぉ!?
いつもの笑顔なのに、筋肉が服を押し上げるように盛り上がっているし、顔にもいくつも血管が浮き出てる! 背後に鬼が見えるくらいの圧がある!
澪もびっくりして、あたしの服をつまんでくる。あ、やめて! 服破けちゃう! こんな時だけあたしを盾にするのやめてよぉ!
実際、あの黒井ってひとも冷や汗かいて後ずさる。
「ふ、ふん! 貴様が魔法少女に入れ込むのは勝手だがな、これは《魔法執行機関》としての決定だからな! 貴様がどう思おうとも覆ることはない! よく覚えておくのですな! それと、これは新たな指令だ!」
黒井さんは懐から、紙と何かのチケットを近くの机に投げる。
これって……乗船のチケット? なんで?
「業腹だが、次いつ現れるかわからない『
すごすごとそれだけ言って黒井って人は去っていった。
「いー! ですわ!」
「塩まいとこ」
エクレアさんは歯を剥き出して威嚇し、熾穂さんはどこから取り出したのか塩をさっさっと撒いていた。めちゃくちゃ嫌ってる……。澪はその様子を見て、話し出す。
「御二方はよほどあの黒井という方が嫌いなのですね」
「一応、あれでも優秀なのよねぇん。魔法少女関連のグッズを販売する企業各社と話をつけて、収益が魔法少女にも入るように整備したしぃ」
「え!? あたしそれ知らないけど!?」
てんちょーの言葉に思わず驚くと、澪が呆れる。
「あなた、風羽さんと会ったときに色々説明されたじゃない。書類だって書いたでしょう?」
「え、えーと、難しい字ばっかりでよくわかんなかったから言われた通りにしかサインしなかった……」
「わたし、あなたが将来詐欺にあわないか心配だわ」
「へぐあ!」
だってだって!
ズラー、とびっしりと埋め尽くすような文字の羅列見たら誰でも読む気なくなるし!
お母さんだってポイントカード作るときに規約書を渡されてもよく読まずにとりあえずサインしているもん! あたし、わるくないもん!
あたしの様子を見て、さっきまで黒井って人がいた空気が和らいでいく。
「確か焔ちゃんと澪ちゃんは、うちの管轄になってるから通帳なら此処にあるわよぉ。見る?」
「見たいです!」
てんちょーさんの言葉に即答すると持ってきてくれたのは可愛らしいプリントがされた通帳。開くとそこにあったのは、漫画とか問題文でしか見たことないような0の桁がたくさんの数字の羅列。
「ほんとうだ! いっぱいお金が入ってる! やったー! 魔法少女やっててよかった!」
「あなた前にお金のために魔法少女はやっていないって言ってなかったかしら?」
「もらえるものはもらっておくよ!」
「現金なものね……」
澪からの視線が冷たいモノに変化していくけども、あたしはこれからこのお金を使ってどうするのかで頭がいっぱいだった。
どうしよっかなぁ。とりあえず、あたしの大好きな苺のとちおとめは毎日食べたい!
あ! あと八雲お兄さんも誘って旅行に行きたいな。ねこちゃんもいっしょに。なんなら澪とあたしはあんまり好きじゃないけど澪のお兄さんも。きっと楽しい旅行なるぞぉ〜! 今から楽しみ!
「言っておきますけど、簡単には降ろせないですよ?」
「え゛」
「魔法少女は若い子が多いからねぇ。不相応のお金が手に入って、若気の至りで身を持ち崩しちゃ、元も子もないのよぉん。だから、降ろすのには相応の理由がないといけないわぁん」
「そ、そんなぁ!? あたしの、三食とちおとめのデザート計画がぁ!?」
風羽さんとてんちょーさんの言葉にあたしはうちひしがれる。
うっ、うっ。あたしの完璧な計画が。八雲おにいさんとの楽しい旅行がぁ……。
「……よし。元々知らなかったお金なんだし、なかったことにしよっと」
「お〜、切り替えはやいねぇ〜」
「それがあたしの長所なので!」
八雲お兄さんにも褒めてもらったあたしの良いところ!
「焔ちゃんたちがもう少し年齢が上ならねぇ、ある程度融通がきいたのけれどもまだ中等部だからねぇ。厳しくしないといけないのよ」
「もしかして、風羽さんたちが此処でバイトしているのは生活費を稼ぐためでしょうか?」
「勿論、それもありますが単純に此処に居ると《ヤミノマ》が現れた時に、すぐに情報を得られるので急行しやすいのですよ」
《スター⭐︎ゲイザー》は《魔法執行機関》の支部。
当然、《ヤミノマ》が現れた際に何処で現れたのかすぐさま情報が送られてくる。
「わたくしは、このイヤリングを買うためにアルバイト代を全部突っ込みましたわ。ふふっ、今月の昼食は毎日お惣菜パンですわ……」
「また無駄遣いしたのですか、エクレア」
「必要経費でしてよ! 一流のお嬢様たるモノ、身につけるモノも一流でなくてはならないですわ!」
「一流のお嬢様は、日々のご飯にひもじい思いはしてないとおもうなぁ〜」
わちゃわちゃと、話し合う高等部の人たちをあたしたちは眺める。
口ではあぁ言ってるけど、3人には深い絆があるのだとわかった。
「あたしたちも負けてられないね! みおみお!」
「なんですか急にっ!? あと近い! それにみおみおはやめて!」
あたしも、もっとみおみおと絆を深めて、一人前の魔法少女にならないと!
帰る頃にはあの黒井っていう人のことすっかり忘れていた。
そういえばあの人、何の用事で去っていったんだろう……?
◇
「いやはや、まさかかの大金持グループのCEOである貴方様に取り合ってもらえるとは。感謝の限りでございます」
あの後、《スター⭐︎ゲイザー》を後にした黒井悪也だが、彼はとある高層ビルにいた。
《スター⭐︎ゲイザー》で見せた尊大な態度は鳴りを顰め、緊張を滲ませながら黒井は喋る。
その先にいるのは、見るからに質の良いスーツに身を包んだ男。
大金持グループ。
目の前の大金持財参をCEOとするこの企業グループは、《ヤミノマ》の被害によるインフラ復興において躍進を遂げた大企業である。
確かに
だが、最初期の頃は《ヤミノマ》の出現時に
しかしそれがなかった頃は当然、《ヤミノマ》が暴れた後の周辺はめちゃくちゃ。交通機構は麻痺するのが当たり前。そして何より、
そんな最中、躍進したのが大金持グループ。
今となっては、《ヤミノマ》被害による復興のあらゆるインフラを掌握しているといって過言なく、それによって培われた技術は《ヤミノマ》被害がない地域でも使われており、大金持グループはこの国のインフラを担っているといっても過言ではない。
いかに《魔法執行機関》としても、無視することのできない存在だ。
しかし、《魔法執行機関》が接触しようとしても梨のつぶて。
魔法少女と繋がりを持てるのであれば、とてつもないアドバンテージとなるのに何故か大金持は興味を示さなかった。《魔法執行機関》に所属する魔法少女という
そんな時に、
歓談もそこそこに、本題に入る。
「先の《ダークドリーム》以降、市民の不安は高まるばかりです。その緩和に、魔法少女の存在は必要不可欠。が、魔法少女は《ヤミノマ》が現れた時にしかその姿を表さない」
「その通りです。嘆かわしい。《ヤミノマ》が現れたのであれば、すぐに討伐するのが魔法少女のあるべき姿であるのに」
「ほう? それがあなたが提唱する新たなシステムに関わりがあると?」
魔法少女は基本的に、《ヤミノマ》が現れない限り日常を過ごしている。
これは戦いに赴く魔法少女の精神を守るために、行われている措置だ。彼女たちは、あくまで
そのことに黒井は不満があった。
「魔法少女は、
「ほう……それはそれは。目の付け所が違いますな」
「わかってもらえますか!」
「えぇ、
大金持がにこりと笑いかけて話す。
黒井は歓喜した。己の考えに同意してくれる人がいることに。
「天下の大金持殿のお力添えがございましたら、今すぐにでも《魔法執行機関》を変えることができる! ぜひとも、我々……いや
「そうですね……。ならば、今度は場所を改めて、ゆっくりお話を伺いたいですな」
「おぉ! ならばぜひ! よろしければ、今度〝
「ほう? それはそれは。
大金持の返事に黒井は気を良くする。
風向きは自分に向いている。己の野望通りに進んでいることにほくそ笑むのだった。
「……えぇ、ほんとうに。
その瞳の奥にある、ぐつぐつと煮えたぎるマグマのような怒りの視線に気付かぬまま。