魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
昔から美術品が好きだった。
どんな人だろうと、死から逃れることなんて出来やしない。だから、人は作品をつくる。自身が存在した証を残すために。人の想いが紡いできた、過去からの手紙。それを肌で感じ取れるのが、好きだった。
同級生の女の子たちには、変な趣味だと揶揄われたけどそれでもよかった。美術品を見るだけで、寂しい気持ちなんて忘れられた。
それだけボクは、美術品に心を奪われていた。
その日は、両親から海外で有名な美術品が初めてこの国に持ち込まれ、展示されるという話を聞いた。そして両親は特別に展示前に、ボクに見せてくれると語った。両親は、博物館の館長だったから。
わくわくした。まだ見ぬ美術品に思いを馳せ、心が躍るようだった。
だけど、それも件の美術品を見て気持ちが吹き飛んだ。
『ひっ』
一目見て、理解した。
あれは確かに歴史的価値のある物だ。
だがそれ以上に、まとわりついている
だめだ、あれを展示してはいけない。
そう思って両親にあれは良くないモノだと、教えてあげたんだ。
『何を言っているんだ! 歴史ある美術品にそのようなことを言うなんて! そんな娘に育てた覚えはない!』
『あぅっ……!』
怒られた。そして叩かれた。
歴史的な価値のある文化財に、なんてことを言うのだ。
ちがうよ、ほんとうにアレは良くないモノなんだよ。そう言えばより怒られた。親に伝えてもダメだった。
結局ボクの訴えは届くことなく、美術品は展示されてしまった。
だからせめて、見ようとする人たちに危険性を教えてあげた。
だって見えていたから。黒いモヤが、見にくる人々にまとわりついていくのを。
だけど皆鼻で笑うか、あしらうだけで誰もボクの言葉を信じてくれなかった。どうして、どうしてなんだ。なんでみんな見えないの。あんなに、禍々しい気配が漂っているのに。
なんで、ボクを
どうして、
ボクは声をあげることをやめた。
結局のところ、ボクに勇気がなかった。
美術品を壊す勇気も、他人に逃げるように促すこともできなかった。だって怖かったから。怒られるのが、失望される目を向けられることが。諦めて、何も見なかったことにして部屋に引きこもっていた。
だけど、それでも被害が出てしまっていないかがどうしても気になって、テレビを見ていた。ニュースになってしまってないかが、恐ろしくて。
そこにいたのは、華麗に盗み出す有名な怪盗の姿。
他人から何を言われても気にもせず、悠々と盗み出していくその姿。それは、到底ボクには成し得ないことで。
『すごいなぁ……』
羨望を滲ませながら、呟いた。
盗むのは、悪いことだ。
でも、あんな風に出来たならば、あの人に害をもたらしてしまう美術品を人知れずに回収できるだろうか。
そんなバカな考えをしながらテレビを消す。
近くにあった鏡に手を触れた。……ひどい顔だ。泣き腫らして、自信のない表情をしている。
結果は変わったろうか?
それからボクが魔法少女としての力に目覚めたのは、そう遠いことではなかった。
『やった、やった、やっちゃった……!』
ドキドキしていた。
魔法少女としての力に目覚めたボクは、件の美術品をその手で盗み出した。いけないことだ、わかっている。
罪悪感はある。でも、それ以上に昂揚感に包まれていた。このままこの美術品をどうしようか、そう悩んでいた時。
《ヤミノマー!!!》
『うぇっ……!? ど、どうしてこっちに……!?』
現れていた《ヤミノマ》がボクへと迫って来た。
ボクは咄嗟に鏡の中の世界に逃げ込んだ。そして、その場に残された《ヤミノマ》は何かを探すようにボクが逃げ込んだ鏡の近くをうろうろしていた。
それは一度や二度ではない。
美術品を盗むたびに、《ヤミノマ》が引き寄せられるように現れた。確信した。この美術品たちのせいだと。
美術品……いや、古い言葉で〝
〝呪負具〟を残していたら、大変なことになる。だから、ボクは各地の〝呪負具〟を集めることにした。
そうして集めた〝呪負具〟は、すべて鏡の中の世界へ仕舞った。
鏡の中は、ボクの世界。ボクしか入れない、ボクだけの聖域。
誰もいない。誰も
そうして盗み続けていき、気付けば、〝呪負具〟だけの世界となっていた。
キラキラと輝いている美術品も、ボクから見れば呪いの集合体にしか見えない。見る人も、語る人もいない、静寂だけが世界を包み込んでいた。でも、それで良かった。美術品自体に罪はない。だけど、あれらを解き放てば人に害が及ぶ。
その一心でボクは〝呪負具〟を盗み続けた。
ある日、文献で〝呪負具〟と思わしき物が封じられていると知ったボクは、そこに訪れた。
けど、館は既にボロボロ。
《ディスナンド》の被害によって放棄されたのだろう。かつての栄華の趣きをそこはかとなく感じる館に足を踏み入れる。
そこに彼に──須佐八雲に出会った。
『あれはまさか……。こんなところで出会うなんてな』
《なんじゃなんじゃ。ワガハイのご飯の邪魔をする気か!》
目的の美術品は、すでに破壊されていた。それに何故か、
破壊された美術品の残骸の前に立つ一人の男。鎧武者の面影がある変装だった。そこまでは良い。
問題は、彼の持つ純白の日本刀。纏わりつく凄まじいまでの、
それはこれまでの比ではなかった。あんなモノ、持つだけでどれだけの悪影響があるか。今すぐに彼から離さなくては。
『ボクはミスティリア! 各地の美術品を盗む、
そうして彼へと襲い掛かり。
惨敗した。
ボクの『
だからこそ、光を使って相手の目をつぶしたり、鏡を使って反射したりするのが主な技だった。だけど、男の人は
『くっ、ここは一旦引くしかないね……!』
とりあえず、体勢を立て直すために鏡の世界に逃げようとして。
『悪いが、せっかく会えたんだ。逃すわけにはいかないな……!』
『うぇ!?』
躊躇無く、ボクを追いかけて一緒に鏡に飛び込んできた。
そんな、確かにボクの力で鏡はあらゆるものの出入り口になっているけども! そのことを知らなきゃ鏡に突撃するなんて普通あり得ないだろう!?
『ふぎゃふっ!?』
おかげで情けない格好で、変な声をあげて着地することになった。うぅ、顔から落ちたから鼻が痛い……。
『初めて来たな。ここが鏡の世界か……。なるほど、周りが反転している以外は全く同じだ。いや、本当にすごいな……。もはやもう一つの世界だ。魔法少女一人の力によるものとは思えない』
《なんか気持ち悪いのぉ。生命の気配を微塵も感じん。ほんとうに造られた世界という感じじゃ》
彼は初めて来たにも関わらず、落ち着いていた。そ、そんな、ボクですら初めて入った時はおっかなびっくりだったし、鏡にぶつからないか恐る恐るだったのに! なんか負けた気分になる!
って、そんなことを考えている場合じゃなかった!
『は、はやく出ていってくれ! ここは危険なんだ、ここにいたらどんな影響がきみにおよぶから……! はやく出て行って……はっ!?』
慌てて外に追い出そうとして気付く。
ボクが集めていた〝呪負具〟。それらの漂う雰囲気が変化していっている。より濃く、より澱み、より禍々しさを増していく。
《ヴオォォオォォォォォッッッ!!!》
やがて〝呪負具〟から溢れ出した闇が1箇所に集まり、現れたのは怨嗟に轟く声をあげる大きな黒いモヤ。
『まさかこれは……!? 負のエネルギーに充てられて具現化したというのか!?』
言うなれば負の集合体。
何十、何百年と積み重なれてきた人の怨念が形を得たモノだった。
こうなることを、誰よりも恐れていたのに。
ボクはそれを、しかもより悪い形で起こしてしまった。
《ぬぅ。あの思念体、どうやらワガハイの気配を感じ取ってどうやら対抗するために合体したらしい。《ヤミノマ》とも比べ物にならないほどの邪気を感じよるわ》
『なるほど、この原因の一端は俺にあるということか。ならば、俺が対処するのが筋だな』
『なにを呟いているんだい!? 早く逃げてくれ! ここは、ボクがなんとかするから君だけでも鏡の外に……!』
『いいや、それには及ばないさ。──抜刀、妖刀ムラサメ』
一方で、彼は落ち着いていた。
ボク相手には抜かなかった、日本刀の刀身を露わにした。あの禍々しい気配とは裏腹に、綺麗な
《ヴォオォォォッ!!!》
『人を恨み、妬むことしかできない偽りの生命よ。そのまま、炎に焼かれて眠るといい……、〝禍災烈祓〟』
《ヴォオォォッッッ!!!?》
溢れ出た紫の炎が焼いていく。
怨念の詰まり、憎悪がこびりついた〝呪負具〟が紫の焔に焼き祓われていく。
『そ、そんなことが……』
紫の焔はやがて小さな火の玉となり、純白の日本刀へと吸収された。その姿を見て、ボクは戦意を消失した。
勝てない。勝てるわけがない。
ボクは死ぬ。あの日本刀に貫かれて。
でも当然か。ボクのせいで、あんな事態を引き起こしたんだ。許されるはずがない。
彼がボクを見た。死ぬ、殺される。ぎゅっ、と目を瞑った。
『きみはすごいな』
『……え?』
急に褒められた。思わず、唖然としてしまう。
閉じた目を開くと、彼はじっ、とボクを見ていた。
『あれだけの美術品、集めるのに相当な年月が必要だっただろう。それも一つ足りとも、呪いの気配のない美術品はなかった。人々を守るために起こした行動だったんだろう? 俺は敬意を払うよ』
その言葉にボクは驚いた。
彼は一目見ただけで、ボクが〝呪負具〟を集めていた真意を見抜いたんだ。
『ふ、ふふふ、おかしいことを言うね。ボクは
自嘲しながら語る。
そう、どれだけ大義名分があろうとも所詮はコソ泥。彼の言うような決して褒められたような行いではない。
しかし男の人は変なことを聞いたように首を傾げた。
『
『ッ──』
誰にも賞賛されなかった。誰にも認められなかった。
誰も、ボクのことをわかってくれなかった。
この言葉だって、うそかもしれない。ほんとうは、内心ではばかにしているのかもしれない。
だから、そんな言葉で心が揺り動かされるはずなんて、ない、はず、なのに。
『あ、あれ。おかしいな、は、ははは、涙が止まらないや……!』
ぐしぐしと、白手袋を履いた手で涙を拭う。白手袋が、汚れた。けど拭いても拭いても、涙は止まらなかった。
彼は何も言わずに、ボクを見ていた。
怒られたくなかった。
うそつきだと思われたく無かった。
でも、それ以上にボクは話を聞いて欲しかった。遮られるのでも、流されるのでもなく。どうして? と一言聞いてほしかった。ただ、それだけだったんだ。
『こうして会ったのも、何かの縁だろう。きみがこれから先、あの呪いの品を集めるのであれば話したいことがあるんだ。……ムラサメ』
『ふむ、まぁ仕方ないじゃろう』
そうして彼は仮面を外し、優しげな素顔を晒し。
日本刀は、一人の和服の少女へと変化した。
『俺の名前は、須佐八雲。ミスティリア、きみと話がしたい。どうか聞いてくれるだろうか?』
その後、ボクは須佐八雲……いや、マイスターと手を組んだ。それと同時に、《
それが、それこそがボクからマイスターに対する最大限の敬愛だから。
だからボクは《怪盗》として名を馳せるために、予告状を出しては〝呪負具〟を盗み出す。マイスターは、呆れることもあったけどやめるつもりはなかった。
だってボクは、彼の前ではかっこいい輝く《怪盗》で居たいから。
ボクがあなたという
仲間もたくさんできた。
年齢も職業も何もかもバラバラだけど、それでもかけがえのない仲間だ。まぁ、意見が食い違うことはあるけども。わかってないよね、怪盗は予告状を出してこそなのに。
でも楽しかった。
前までの灰色の日々とは比べ物にならないほどに。表では日常生活を送り、夜には時にマイスターと共に〝呪負具〟を盗み出す。そんな充実した日々を送っていた。
……いずれこの世から〝呪負具〟は無くなるだろう。その時、《怪盗》ミスティリアとしての役目は終えると、ボクはマイスターに語っている。
でもね、ほんとうは嘘なんだ。
〝呪負具〟以外に、最後に盗みたいものがあるんだ。
それが何かは、あなたにだけは教えないけどね。
そのことを知ったら、マイスターはどんな顔をするのかな。驚くかな、顔を赤くするかな。でも、それはまだ先だ。今はまだ、〝呪負具〟を集めなければ。彼が言ってくれた《
◇
「ふぅ。これで終わりですね」
トワイライト学園の図書室で息を吐く。
手元には揃えられ、ラベルを貼り終えた本があった。
図書館は嫌いじゃない。
だってここにある本を見れば、どんな〝呪負具〟があるかを知ることができる。《怪盗》としての知識を蓄えるのに、必要不可欠だ。
さて、今日はこの後どうしようかな。また新しいかっこいいポーズでも考えようか。
ふふ、そうしたらまたマイスターはボクをカッコいいと褒めてくれるかな。
「わひゃっ!? な、なに……?」
そんな風に考えていると、ポケットに入れていた携帯が鳴る。マナーモードだったけど、油断していただけに驚いてしまう。そこに映し出された名前は、須佐八雲。思わずあわあわしながらも、慌てて電話に出る。
「も、もしもしっ。な、なんのようですか……?」
『やぁ、ミスティリア。いや、その口調だと今は
柔らかい声。
何度聞いても、耳が蕩けそうな優しさに満ちた声だ。同時にスマホから漏れて鼓膜に直接聞こえてくるから、こそばゆく感じる。少し、耳元から離す。
……電話越しでこれなんだ。耳元で直接囁かれたら、いったいどうなってしまうのだろうか。
ちょ、ちょっと録音しておこうかな? うん、これは調査のために仕方のないことなんだ。そう、仕方ない。
そんなボクの少し邪な考えをよそに、マイスターは話を続けている。
『──そういう訳で、今度きみが〝
「…………へ?」
茶目っ気を滲ませながら、笑いながらそう語る彼の言葉に。
「え、えぇ〜〜〜ッ!!!!?」
ボクは思わず大声を出してしまった。
「図書館では静かに。基本のことなのに、図書委員のあなたが破ってどうするのですか?」
「ごめんなさいごめんなさい! ほんとうにごめんなさい!」
「魅夜さぁ〜ん、探して欲しい本が……って」
「怒られてますね……」
司書さんに怒られた。
図書委員が規則破ってどうするんだって。しかも、
うぅ、ふんだりけったりだ!
四鏡 魅夜(ミスティリア) 15歳
映画において、ミスティリアは孤独に、孤高に、〝呪負具〟を盗む怪盗であった。誰にも心を許すことをできなかったので、〝呪負具〟を集め続けた結果とんでもない厄災が起こりかけた。幸い焔と澪によって厄災は倒されるも、その後も彼女はひとりで〝呪負具〟を集め続けた。焔と澪には感謝をしているが、それは彼女の傷を癒すには足りえなかった。
八雲という理解者を得た彼女は、映画の時以上にやたらと目立ちたがる。その理由は言わずもがな。
ちなみに元の性格はかなり引っ込み思案。《怪盗》という仮面をかぶってアプローチしているので、素の状態で八雲と会うとクソ雑魚ナメクジになる。目を合わすと5秒で赤面する。
魔法少女としては珍しく男装した衣装となっている。中等部にしては、尻がでかい。尻がすごくでかい。おっきい。なのでズボンはパツパツ。
呼び方一覧
八雲→マイスター(my star)
ムラサメ→妖刀殿
寧々子→ぬこ殿
大金持→Mr.ゴールドマン
歌音→歌姫殿