魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:火星人マーズ
side:焔
魔法少女へと変身して《ヤミノマ》と戦っていたあたしたちだけど、突然現れた別の魔法少女に一撃で《ヤミノマ》が倒された。
《ヤ、ヤミミ〜……》
情けない声と共に《ヤミノマ》が消えていく。
《ヤミノマ》は突然現れる。そして倒すとまるで生気が抜けるように煙を出して、消えるって聞いたことがあるけど、間近で見てそれがほんとうだと驚いた。
けどそれ以上に、《ヤミノマ》を倒した存在に釘付けだった。
「あの子も、魔法少女なの?」
「でも、あんな人見たことないわ」
二人して戸惑う。
あたしもよく魔法少女大全を見るけどあんな人見たことない。でも、とりあえず話しかけなくちゃ。
「あ、あの」
「よわい」
「は、はい?」
「《ヤミノマ》一体に時間かかりすぎ。二人いるのに、なんで真正面から挑むの。力もあなた達のそれは振るうんじゃなくて、振るわされてるだけだし。それじゃ隙だらけ」
ずばすばとあたしたちの
そ、そんなこと言われたって、今まで戦ったことないんだから仕方ないじゃん!? 変身したのも今日が初めてだし!
すると、みおみおが何かに気付いたような顔をする。
「もしかして、わたし達を助けに来てくれたのではないのですか?」
「そうだよ」
「えぇ!? 《ヤミノマ》が現れたのに!?」
「別に……他の魔法少女が対処するならあたしが戦う必要はない。そもそも、ここに居たのだってボ──」
ちりんちりん。
「!」
「きゅ、急に向こう向いちゃった」
「なに? まさかさっきのがまだ他にもいるの?」
不審な動きに警戒する。
けどあの娘はあたしたちを気にすることなく、何処か遠くを見て……目を輝かせている?
「もう行くね。じゃあね、よわむし、けむし、ダンゴムシのふたり」
「えっ!? ま、まちなさい!」
「あ、ま、まって! せめて名前だけでも! あぁ、行っちゃった……」
そのまま何処かへ去っちゃった。止める暇もなかった。
まだお礼も言えてないのに。
しょんぼりしていると、隣から怒気を感じた。
「だれが弱虫、毛虫、ダンゴムシですか……! せめて、優美に舞う蝶々に喩えなさいよ……!」
「え!? そっち!?」
ぷんすかと、みおみおが怒っていた。
ハッとしたような表情になる。
「いけない、《ヤミノマ》が倒されたから
「えぇ!? と、解くって言ってもどうやって!?」
狼狽えているといつのまにか、みおみおは元の制服に戻っていた。
「い、いつのまに!? どうやって!?」
「そんなの解除と念じるだけで大丈夫でした。簡単よ」
「えぇ!? で、でも、そんなことしたらあたし裸になっちゃうよ!?」
「おばか! 元々服の上から変身したんだから解いたら元の服装に戻るに決まっているでしょ! わたしの格好をよくみなさい!」
「そ、それもそっか。よぉし、解除ォッ!!!」
「いや、そこまで
力いっぱい叫ぶと共に、あたしの衣装が元の制服に戻る。ちゃんと制服だ。触ってほっと息を吐く。
「それにしても、あの娘は何者だったのかなぁ。また会えたらお礼を言わないとなぁ」
「そうね。……あっ、猫! 天照さん、猫はどうしたんですか!?」
「え!? 確か囮になるから逃げてって伝えたんだけど。あれ、もういない!?」
あたしたちは巻き込んでしまった猫を探すも、いないことに気落ちする。ど、どうしよう無事……だよね?
「これは、もう《ヤミノマ》が倒されている?」
別の声。
いつのまにか現れたのか側に到着する、一人の魔法少女。
あたしたちよりも背が高く、明らかに場慣れした雰囲気を醸し出していた。深い藍色の瞳が、あたしたちを見る。こ、この人って……!
「あなたはもしかして……」
「あなたたちがやったのですか? 私は魔法少女アネモス。何があったか、説明してもらえますか?」
「サ……」
「サ?」
「サインくださいッッッ!!!」
「……はい?」
あたしの言葉に、現れた魔法少女は困惑に満ちた声を出した。
それは焔は知るよしもなかったが。
本来であればまだ出会うはずのなかった『魔法少女マギアイリス』の2ndシーズン、それに登場する
◇◇◇
side:八雲
「ボス!!!」
元気良く俺の元に寧々子がやって来る。いや、飛びついて来る。
笑顔満悦で俺が避けることなんて、微塵も考えていないのだろう。いや、まぁ避けないんだけどさ。そのまま優しく抱き止める。
「やぁ、寧々子。怪我はないかい?」
「むふふ、当然。あの程度の《ヤミノマ》、寧々子にかかればいっぱつけーおーだよ」
自慢するように、シュシュシュッと空に拳を突き出す寧々子。
うん、まぁきみは映画ボスの一角だし、単なる《ヤミノマ》じゃ相手にならないよね。
「くはっ、あんな《ヤミノマ》一体如きに何を誇らしげにしとるんじゃ」
「うげっ、妖刀おばば。いたの?」
「妖刀ムラサメじゃ! 何度言わせるんじゃこの頭すっからかん娘が!」
「まぁ、話はあとだ。今は早くこの場から離れよう」
褒めて褒めてと俺にひっつく寧々子を抱え、不完全燃焼だったのかガチャガチャと鯉口を鳴らすムラサメを御しながら、俺はさっさとその場を退散した。
「……これからどうしよ」
良かれと思ったことが全て裏目った俺は、乾いた笑みを浮かべるのであった。
◇
翌朝。
まず結論から言おう。
『魔法少女マギアイリス』の第一話から、崩壊してしまった。
この件について、寧々子を責めるわけにはいかない。元より、俺の指示で焔ちゃんについて行ってもらった訳だしな。そもそも、伝説の一話を見たいという、俺のわがままが発端だ。
とはいえ、寧々子が不用意に姿を現してしまったのも事実。
『寧々子、今回きみに任せた任務はあくまで焔ちゃんの護衛だ。その姿を見せて良いとまでは言ってない』
『うっ、ごめんなさい』
『だから大トロのご褒美はなしだ。けど、人を助けようとしたその心意気は、非常に尊いものだ。だから間をとって中トロにするよ』
『ボス、愛してる!!!』
調子に乗らないようにだけ、中トロにランクを下げたけど、本人は満足そうだった。
幸い、焔ちゃんと澪が魔法少女に目覚めたことには変わりないのだし、特に問題はないと自分に言い聞かせる。
いや、ほんとうなら仕方なくもないが……もうどうしようもないのだから割り切るしかない。
なら、あとはどれほど原作と乖離したかを把握する必要がある。
「やぁ、おはよう焔ちゃん」
「ふぁ〜……わっ、お兄さん!? 見てました?」
「随分と大きいあくびだったね」
「うひゃ〜!」
朝の登校。いつものように焔ちゃんと出会った俺は挨拶をする。焔ちゃんはあくびしているところを見られて、恥ずかしそうにしていた。
「じ、実はなかなか寝つけなくて。夜更かししちゃったんです」
「その割には随分とご機嫌だね、焔ちゃん。何か良いことがあったのかい?」
「えへへ〜、実はですね……は!」
「実は?」
「えーと、その、はっ! 乙女の秘密ですよ!」
多分途中で言っちゃダメなのを、思い出したんだろうな。焔ちゃん、隠しごとを隠すの苦手だから。
それにしても乙女の秘密か。
隠したいのは山々なんだろうけども、もうすこし探らせてもらおうか。
「そう言えば知っているかい? なんでもこの辺りで《ヤミノマ》が出たって噂だ」
「う、えぇっ!? そ、そそそ、そうなんだ!」
「あぁ。といってもすぐ倒されたらしい。又聞きなんだけどね」
「え、えぇ。す、すごいですねー」
「倒したのは、どんな子だったんだろうね。ぜひ一度会ってみたいものだ」
「う、うへへ〜。そ、そうですかぁ? そうですね〜」
すっっっごい、自分がその魔法少女です! って言いたそう。
俺が褒めるたびに、にまにま、でれでれしてるし。ただ、残念ながら言ってはこないか。アニメだと最初の頃は口が軽いせいで、危うく正体を言ってしまいそうになるのを、よく澪に止められてた。
……残念だが、これ以上は流石に危険か。
「そういえばトワイライト学園の方はどうだった? 新しい友だちはできたのかい?」
「あ、はい! みおみおとお友だちになったんです!」
「みおみお……?」
月詠澪のことか。
寧々子も妙な名前の覚え方してたけど、きみが発案者か。
「はい! しっかりとして落ち着いているすごい子です! あたしとは大違いです!」
「確かに焔ちゃんは元気いっぱいで犬っぽいからね」
「えぇ〜!? あたしそんな風に思われてたんですか!? おこりましたよ、がぶがぶしますよぉ〜!」
「意外とノリノリだね」
でもまぁ、二人が知り合いになり魔法少女になったのは確定だな。昨日は遠目から見ていただけだったから本人の口から聞けたのは大きな収穫だ。
「じゃあ、今日も元気にいってらっしゃい」
「はい! いってきま〜す!」
焔ちゃんを見送った俺は、今後のことについて考えを巡らせる。
アクシデントこそあったが、『魔法少女マギアイリス』の大元の流れと変わってないだろう。一先ずは安心だ。なら、次に考えるのは俺自身がすべきこと。
焔ちゃんが魔法少女として目覚めたあの日。そこからの展開を加味すると、自ずと答えは出る。
《ディスナンド》の首魁、ダークネス。
その彼の配下《トライアングル》の一人、アクラーツが現れる頃だ。
『魔法少女マギアイリス』初めての幹部であり、そして1stシーズン終わりまで魔法少女二人に立ち塞がる難敵。
そう、敵なのだ。そして、
なら、することはひとつだった。
「ぬっ!? 緊急《ヤミノマ》速報じゃと!? やめぬか、せっかく火戸赤門に無粋な横槍を
「ムラサメ」
「ん? なんじゃ、主様? 学校はどうした?」
一度家に戻り俺が呼びかけると、ムラサメがソファに背もたれしながらこちらに顔を向ける。
寧々子はお昼寝していた。それを傍目に、オレはムラサメへ語りかける。
「喜んでも良いと思うよ。今日の夕方には、思う存分
「……へぇ、それはまた手応えがありそうじゃな」
それは艶がありながら、どこかゾッとするほど冷酷な笑みだった。
そしてそれに合わせるように、俺も暗い笑みを浮かべるのだった。
『魔法少女マギアイリス』、《二人のオーレオール》。
第一話の