魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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7月26日に、もう一つの作品と間違えて話を投稿してしまいました。混乱させてしまい、申し訳ございません。
メッセージBOXや感想で伝えてくださった方々、ありがとうございます。今後はこんなことがないように努めます。


豪華客船の上で

 

 《ディスナンド》、それは数多の銀河を闇に包み込んだ悪の組織。

 

 しかし、その支配者であるダークネスがこの惑星に存在する魔法少女に敗れた。更にその幹部である《トライデント》もである。

 

 当然、《トライデント》が壊滅した以上《セブンスター》こそが《ディスナンド》において幹部筆頭であることには違いなく、ダークネスが現在力を蓄えるために身を潜めている以上、この惑星に対しての作戦遂行の指揮は《セブンスター》によって執られていると言っても過言ではない。

 

 目障りだった《トライデント》が全滅し、これからは《セブンスター》こそが時代をつくるハズ(・・)であった。

 

「なんなのだ、このザマは!」

 

 憤っていたのは、《セブンスター》のリーダーであるドン・ドゥーベン。彼は当たり散らすように壁を殴ると、一瞬で壁が崩壊する。それを見たミザリィーンがため息を吐く。

 

「あんまり壊さないでよん。でもまぁ、気持ちはわかるわぁん。随分とこの基地も広くなったものねぇん。メラック、リ・オート、アルルカ、既に《セブンスター》も半分近くがやられたわん」

「《ヤミノマ》たちもオラたちの力で強化しているのにあんまり負のエネルギーを集められないんだな。こ、ここらの魔法少女、ぜ、全員強すぎダス」

 

 元々サンシャインとオーロラミストの前に姿を現した《セブンスター》だが、初日に2名を失った。

 更には、いつまで経ってもメラックが帰ってこないことで、彼までもやられたことを悟った。二人の、特にフェックの言葉を聞いたドン・ドゥーベンはなおのこと激怒する。

 

「忌々しいのは魔法少女ではない! あの無頼とかいう奴の方だ!」

 

 ドン・ドゥーベンにとって、魔法少女が手強いことは理解していた。なぜなら、首魁であるダークネスもいずれ復活するにせよ、退けられたのだから。

 だが、全く情報のない神出鬼没な無頼に半数のメンバーがやられたこと。そのことにドン・ドゥーベンは憤っていた。

 

 奴さえ居なければ人海戦術によって、より効率的に負のエネルギーを集められたはずなのに。ギリギリと、歯を食いしばる。

 

「あてもなくあの男を探すより、せめて魔法少女たちのアジトがわかればねん。そこを総力を持って攻め落とせたなら、ここら一帯の地域はわたくしたちの独壇場になるのにん……ところでメスレスちゃんはぁ?」

「へ、部屋に居るダス。メ、メラックがほんとうにやられたってことを知って、意気消沈しているダス」

「まぁ〜、子どもねぇん。しょうがないから後でオヤツ持って行ってあげましょ。あたしと女子会したら、多少は気が晴れるでしょん」

「ミザリィーンは女じゃないんだな……」

「あ〝?」

 

 圧のあるドス声に、フェックは縮こまることしかできなかった。

 

 不満が募っていく。空気が悪く、澱んでいく。《セブンスター》の間に、不和が広がる。このままでは空中分解までもしかねない有様だった。

 

「難儀しているようだーヨ」

「誰だ!」

 

 そこに、空気を読まないように妙に語尾の伸びた声が響き渡る。すぐさまドン・ドゥーベンは声の方向に、黒い炎(・・・)を放つ。

 

「ほっほっほ、そう敵意を露わにしないで欲しいですヨ、同胞ヨ」

「なんだ貴様は……どこから現れた」

 

 また別のところで声が聞こえた。

 そこにいたのは慇懃に、それでいて無礼に、頭のシルクハットを軽く上げて挨拶する男。また、奇妙な片眼鏡(モノクル)を付けていた。にぃ、とやたらと白い歯を剥き出しにする。

 

「ダークネス様の親衛隊である《セブンスター》であらせられる皆様方に、実は良い話があるのですヨ」

「良い話だと?」

「えぇ、この星に存在する負のエネルギーの集合体、又の名を〝呪負具〟という言葉を知っておるますかナ?」

 

 そう言って男は──()()()()()()()()は、意地悪そうに笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星見ヶ丘から少し離れたところに存在する、綺羅浜。その砂浜を歩くと、その刺激で音が鳴るという観光名所であり、夏場には数多くの海水浴客で賑わうという。

 

 そこに一際目立つ白色の豪華客船があった。

 

「なんとか乗船することができたな」

 

 俺はその船の上で海を眺める。衣装はタキシードで、普段着ることのない仕立ての良いものに包まれている。とはいえ、それは俺だけではなく、ここに居る客の大半は似たり寄ったりの格好だ。強いて違いをあげれば、他の客は煌びやかなアクセサリーや装飾品をつけていることか。

 

 因みに名前はエスポワール号。

 

 なんだろうな。すごくすごく不穏な予感がするのは。具体的には、借金背負った人たちがここでギャンブルを行いそう。

 

 無論そんなことはない。何なら借金とは無縁の、上流階級しか乗っていない。どこを見ても、煌びやかな衣装を着た人ばかりだ。何人か、テレビ見たことある著名人もちらほら居るし。

 

「ふふん、待たせたのう。主様よ!」

「むむむぅ……」

 

 そんな言葉と共に、ムラサメが現れた。背後には寧々子も一緒だ。そのまま見せつけるように胸を張る。

 

「ふふふん、どうじゃ主様よ? ワガハイの姿は?」

「普段の和服も似合っているが、その服も良いね。ムラサメの濡羽色の髪によく似合っている」

「当然じゃ! なにせ、ワガハイじゃからな!」

 

 ムラサメは基本和服に身を包んでいるため、洋風のドレスを着るとまた違って見える。純白のドレスという、褐色の肌と濡羽色の髪の対比も素晴らしい。髪も襟足を見せるようにアップにして束ねることで、より大人っぽさも増していた。

 

 ちなみにであるが、今のムラサメは具現化しているので他の人からも人間の姿が見えている。

 

 上流階級が集う以上、無論乗船チェックは厳しい。厳しいが、それはつまり一度入り込めば疑われないわけで。

 

 大金持の手回しで招待された俺と寧々子について来る形でやってきたムラサメは、実体化してわざわざこのドレスを着た。

 まぁ、来るだけならいつもの半透明か妖刀形態でやってくれば良いのだけど、ごはんが食べれなくなっちゃうしね。

 

「ボス、すごくこの服動き辛い」

 

 一方で寧々子はすごく嫌そうにしている。

 まぁ、自由気ままな寧々子にこの手の服は嫌だろうな。寧々子の服もまた、ドレスとなっていた。ムラサメと違って、寧々子の髪はそれほど長くないので髪の毛はふんわりとカールを描くように、ドレス自体もそれほど装飾は多くないがお淑やかに歩けるように、スカートの長い代物だった。

 

「確かに普段の寧々子が着るような衣装ではないかもしれない。でも、似合ってるよ。いつもの寧々子は可愛いけど、今日はちょっとお嬢様みたいだな」

「! おじょうさま……!」

「うん。髪も綺麗にしてもらってるし、ドレスも似合ってるからね。こうして見ると、寧々子って結構何でも似合うんだな。だから、もう少し見ていたいんだが、ダメかな?」

「……ん、ボスがそう言うならよき。動き辛いのも、我慢する。だから、もっと褒めて。もっともっと」

 

 フンスフンスと、鼻息を大きくしながら寧々子がねだる。俺は笑いながら、寧々子を褒めるのだった。

 

 とはいえである。

 

 そもそもの話、俺は寧々子を連れてくるつもりはなかった。理由は明白、あの黒井悪也もまたこの船に乗っているからだ。

 

「寧々子、もう一度言っておく。この船には、きみにひどいことをした《魔法執行機関》の人間がいる。それでも、俺と来るつもりかい?」

「ん。ボスの近くが寧々子のいる場所だから。大丈夫、たとえアイツが現れてもボスを守るよ」

 

 寧々子は、こう言って譲らなかった。

 

「わかった。ただ、もし例の人物……黒井が近くに居たら離れて欲しい。護衛してくれるという気持ちはありがたいが、今は奴にきみの存在がバレる方がまずい」

 

 正直、寧々子には俺じゃなくて、自分の身を守って欲しい。でも、そう言ったら無言の寧々子パンチをぺしぺし食らったんだよな。

 

 結局俺は、寧々子を止めることが出来ずこうして連れてきてしまっている。

 黒井と直接対面させる気はないが、それでも口酸っぱく言っておかないとな。

 

 今回の俺の目的は、黒井を捕縛することだ。

 

 そもそもの話、大金持と黒井が接触できた時点でもうアイツは逃げることはできない。それでもなぜ放置しているのか。それが、奴が主導する人工的に魔法少女を生み出す研究所の所在がわからないからだ。

 

 黒井を先に捕縛すると必ず向こうも違和感に気付く。

 アニメだと黒井一人の仕業にされたが、実際には黒井が音頭をとっている派閥によるものだ。なので働いている研究員も同罪、必ず裁きは受けてもらう。

 

 とはいえ、黒井は作中でも神経質なまでに、研究所に連絡を取っていた。それがなくなれば、向こうも不審がるだろう。身柄を押さえたと研究所側に知られれば、連中は証拠を消す。いや、研究記録だけならまだいい。問題は、実験体である少女たちまで〝証拠〟として処分される可能性があることだ。

 

 ニチアサなのに、そんなことあり得るのか? と思われるだろうが、現実世界でアニメ業界の暗黒期に作られた黒井の設定を考えるに、ありえる(・・・・)。そもそも今はこっちが現実だしな。

 

 なので大金持が、先に魔法少女を生み出す研究所を聞き出す手筈となっている。すぐに研究所の確認が取れれば奴は用済み。俺はその後、黒井を捕える手筈になっている。全て大金持に任せないのは、俺のわがままだ。

 

「だが、厄介なことにいるんだよなぁ。あの三人……」

 

 乗船客の帳簿を見る。

 大金持の協力者によって得られたこの船に乗船する客の名前が載った名簿だが、そこには見覚えのある名前があった。

 

 風羽凪沙。

 

 吾妻エクレア。

 

 炎谷熾穂。

 

 そう、《ビックスリー》である。

 黒井のやろう、自らの護衛にあの三人を選びやがった。いや、《怪盗》を確実に捕えるための布陣か? どちらにせよ、黒井を捕まえようとすればこの三人との戦いは避けられない。

 当然、俺も一人だとこの三人に真正面から対峙するのはそれなりに……いや、かなりキツい。

 

 三人とも一度俺にしてやられただけに、多分本気でこっちに向かって来る。

 

 いざというときは、ミスティリアに頼んで鏡の世界に隔離を……いや、魔法少女エクレールとファイネルなら大丈夫だが、アネモスとかち会ったらまずい。

 

 先に言っておくが、ミスティリアじゃアネモスに勝てない(・・・・)

 

 ミスティリアの能力は、確かに無法だ。絡め手、逃走において彼女に敵う魔法少女は『魔法少女マギアイリス』シリーズでもいないだろう。だが、そんな彼女の力の根幹となるのは鏡の反射だ。鏡の世界に入れるのは素晴らしいが、あれは戦闘能力のない力だ。

 

 そしてアネモスと相性が悪いのが、風を操るということ。

 

 そう、つまり風は鏡に映らない(・・・・・・・・)。光を反射して視界を妨害することもできるが、所詮は光。風そのものをどうこうできるわけではない。

 なので、ミスティリアはアネモス相手だとなすすべなく鏡を全て割られる。そして、ミスティリア自身の直接戦闘能力は、サンシャインとオーロラミスト以下である。

 

 創作だと、相性勝ちとかだと心の中の少年魂が踊るけど、実際にされる側になるとたまったもんじゃないな。それに、ミスティリアは目立ちたがり屋だが同時に打たれ弱い。あまりトラウマになるようなことは、させたくない。

 

 ……場合によっては、今回は黒井を始末するのを諦めるか。

 

 なに、問題はない。

 姿形も見せなかった奴だが、今はもう大金持の手のひらで踊っているに過ぎない。機会だって、また作れる。

 

 あとは俺の心境の問題だ。

 今実験されているであろう、少女たちをすぐに助けられないという不甲斐なさを感じている俺の。

 

「おい、なにを難しそうな顔をしとる」

「ムラサメ」

「悪い癖じゃぞ。一人で考え込むのは。もっと周囲を頼らんか」

「ボス、寧々子はボスのためならなんだってするよ」

「そうだな。心配させてすまない、二人とも」

 

 俺の謝罪に、二人は満足そうに頷いた。そして、ムラサメがニンマリとする。

 

「ところで、主様よ。ワガハイ、この船を見て回るが良いな?」

「む、ボスの側を離れるの? サボり?」

「ふん! 〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟をお披露目するパーティということは、当然! あるわけじゃろう? 美味美食の数々! これを食べずして何が妖刀じゃ!」

 

 妖刀なら斬るのが本題では?

 

 そう思ったが、うずうずしているムラサメを見て肩をすくめる。まぁ、最近《ヤミノマ》も現れなかったし、外に出る機会が少なかったのでフラストレーションが溜まっていたのだろう。

 

「仕方ないな。ちゃんとミスティリアの犯行時間前までには帰って来るんだよ」

「無論じゃ! よーし、食い尽くすぞぉ! わははは! さっそく、このわいん(・・・)とやらから……ぬ? なんじゃお主ら? ……こどもは飲んじゃだめ? 誰か小童じゃあ!!!?」

 

 そのまま働いている従業員に引き留められるムラサメ。

 自分の見た目のこと考えないから……。まぁ、ほっといてもそのうち抜け出すだろう。

 

「さて、と。時間まではまだあるな」

 

 少なくとも、炎谷熾穂と吾妻エクレアの現在地はわかっている。フロアが違うから、会わないようにしながら、ミスティリアの犯行時間が来るのを待てば良い。それだけだ。それにわざわざ、俺がこの船に乗った理由は黒井のことだけじゃない。

 

 そう、もう一つの懸念点。

 

 〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟を発端とした『幻影の支配者/シルエット・スター』の真の映画ボス、アルヴィオス伯爵のことだ。

 

 まぁ、こっちは正直どうなるかが読めないが。映画での舞台もすでに違うし、そもそも前回みたいに現れない可能性も全然ある。それこそ、運命を引き寄せる主人公が居もしない限りは──。

 

「え、先輩!?」

「あれ、八雲お兄さん!? ねこちゃんも!?」

「どうしてここに……!?」

 

 見つかるのはっや!

 

 そして焔ちゃんと澪もいるじゃないか!!! 

 

 向こうもびっくりしているが、俺もびっくりしていた。3人とも、同じようにドレスを着ている。ちょっと……いや、結構過激じゃない? 高校生と中学生が着る露出度じゃないんだけど。

 

 それに凪沙はともかく、なぜ二人までいるんだ?

 

「や、やぁ。3人とも、まさかこんなところで会うだなんて奇遇だね。俺は知り合い(・・・・)の誘いを受けて来たのだけど、3人はどうして此処に?」

「私たちはとある事情がありまして……。って、あれ? 先輩、その娘は?」

 

 寧々子を見る凪沙。そういえば、凪沙は知らなかったか。

 そこに焔ちゃんが挙手をしながら説明してくれる。

 

「あ、そういえば風羽さんは知りませんでしたよね? 彼女はねこちゃん! 八雲おにいさんと一緒に住んでいる娘です!」

「焔、だから説明になっていないわ。風羽さん、寧々子という方です。師匠が預かっている親戚の娘で、わたしたちと同じトワイライト学園に通っています」

「なるほど、そのような事情が。こんにちは、寧々子さん。私は風羽凪沙。先輩の唯一の、可愛らしい後輩です。よろしくお願いしますね」

「……よろしく、腹筋おば──」

 

 寧々子の口をすぐに手で塞ぐ。

 

 その呼び方は非常にまずい。また追いかけっこが始まってしまう。バレてないか、様子を窺うと、凪沙はひどくショックを受けているようだった。

 

「ふ、腹筋……!? そ、そんな、この服の上からでもわかってしまうのですか……!?」

「いや、そんなことはないと思うよ。それで凪沙、とある事情って?」

「あ、それは……その……」

 

 そのまま会話していると、凪沙がちらちらと寧々子を見ている。

 

「…………寧々子、向こうに美味しそうな料理があるよ。取りに行ったらどうだい?」

「ん、そうする。ワン子、みおみお。一緒にいこ」

「わぁ〜! 良いね! あたしも気になっていた料理があるんだぁ〜!」

「ちょ、ちょっと。焔、これから忙しくなるかもなのに……! あぁ、もう。あの2人を放っておけません、師匠、風羽さん失礼致します。待ちなさい2人とも! あと、みおみおはやめてって言ってるでしょう!」

 

 俺はそれとなく、寧々子を誘導して離れさせる。うまい具合に、焔ちゃんと澪も連れて行ってくれた。凪沙が安堵の息を吐く。

 

「助かります、先輩。ちなみに、《魔法執行機関》のことは、あの娘には?」

「あぁ、俺は(・・)言ってないよ。だから、寧々子は焔ちゃんと澪が魔法少女だとは聞いてないよ(・・・・・・)

 

 知らないとは言ってないけどね。

 しかし、凪沙は納得してくれたようだ。

 

「……それでここだけの話ですが、《怪盗》ミスティリアが現れるとのことです。私とこの場にはまだいませんが、熾穂とエクレアも、彼女の捕縛を命じられこの船に乗船しました。天照さんと月詠さんは、《怪盗》が現れると聞いて自発的に来てくださいました」

 

 なーるほど。

 

 そう言えば焔ちゃんと澪は、ミスティリアに出し抜かれていたな。あの時はアルヴィオス伯爵が現れるだろうと備えていたが、結局現れなかった。だから、二人が《怪盗》を捕らえようとしても不思議じゃない。

 

 ……え、ミスティリア。《二人のオーレオール》と《ビックスリー》の計5人と対峙するの? いやいやいや、無理だって! 『幻影の支配者/シルエット・スター』本編じゃ、《ビックスリー》の3人は戦場から隔離されてたじゃないか!

 

 え、まじでちょっと作戦考えないとまずい。

 ミスティリアが捕獲されてしまう!

 

……はっ! もしや今は、二人きり? これはチャンスなのでは? ……あ、あの、先輩。先輩も、タキシードを着ているんですね。すごく似合っています」

「ん? あぁ、ありがとう」

「えぇ、えぇ。特に普段の先輩は物腰柔らかな親しみやすい雰囲気がありますが、その格好もパリッとした仕事のできる大人のようで素敵です。ほら、先輩って黒が似合いますし、それにか、顔もかっこいいですから。えと、正直写真撮りたいくらいです。えぇ、ほんとうに」

 

 めちゃくちゃ早口で捲し立ててくる凪沙。

 そのあと、そわそわした様子でこちらを期待の目で見てくる。わかりやすいなぁ。

 

「ありがとう。嬉しいよ。凪沙のドレスもすごく似合ってる。凪沙のイメージに合った空色で、爽やかで綺麗だ。身体のラインが出るデザインだけど、凪沙はスタイルがいいから様になってるよ」

「あ、はい。魔法少女の姿よりはマシなのでこのくらいは恥ずかしくないので……。そ、それで私は先輩から見ても魅力的に思えるということでしょうか!?」

「当然だろう? 凪沙は最初から素敵な女性さ。ドレスも、きみの魅力を引き立てる装飾に過ぎない。いつまでも見ていたいくらいだ」

「は、はぅぅぅ、せ、せんぱい……!」

 

 どこまでも感動したように俺の名前を呼ぶ凪沙。そこまで感動されると、こっちもちょっと恥ずかしくなるな。でも凪沙の姿が綺麗なのは事実だから仕方ない。

 

 凪沙が俺を見る目が潤んでいる。

 な、なんかちょっと雰囲気が……。これはちょっと、誤魔化した方が良いかも知れない。

 

 その時。

 

 腕に嵌めている腕時計が揺れた。

 

 それは、とある人物の接近を知らせるアラート。

 

「何を、楽しそうに会話しているのかね? 本来の目的を忘れているのではないか? ん?」

 

 少し間をおいて、やってきた。

 

 あぁ、来たな。

 声からしてわかる、こちらを見下している声色。

 

 俺は内心の怒りを抑えつける。

 

「初めまして。俺は須佐八雲と申します」

「んん? 誰だね、きみは」

 

 不遜に鼻を鳴らす黒井に、俺は敵愾心を隠しながらにこやかに話しかけるのだった。

 

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