魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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開演の音

「んん? 誰だね、きみは。見ない顔だね。悪いが君のような木っ端と話している暇はないのだよ」

 

 初めて会った黒井は、明らかに俺を見下していた。

 

 まぁ、それも当然か。

 向こうからすれば、俺は名も知らない小僧に過ぎないだろう。実際、俺の衣装を見て、首から下げられたクルーズカードホルダーと記された名前を見て、鼻を鳴らした。

 まぁ、他の乗客と違い名前部分に肩書きがないしな。黒井は俺から興味を無くし、凪沙の方を見る。

 

「風羽、何故きみがここにいるのかね? 自身の役目をわかっているのかね? そんな男といている暇などないはずだろう?」

「っ、彼は私の先輩です。お世話になっているのですから、挨拶くらいしても良いでしょう?」

「所詮は学園という狭いコミュニティに限っての話だろう? もっと広い視野を持ちたまえ。この客船には著名人がたくさんいる。それらと繋がりを持つことこそ、今後の人生においてのアドバンテージになるのだよ。やれやれ、これだから子どもは……」

 

 こいつめちゃくちゃ失礼だな。

 服装はとても質の良いモノを着ているのに、人間性がカス過ぎる。まぁ、それは寧々子の件でわかっていたことだが。

 

 腐った食べ物に豪華な調味料をかけようが、結局腐ったままなのだ。

 

 とはいえ、このまま黒井に好き勝手話させて凪沙に嫌な思いをさせたくない。どうしたものかと、考えていると。

 

「おや、どうしたのですかな?」

 

 空気が変わる。

 

 著名人たちが集う会場である以上、ここにいる人々はそれぞれの業界の重鎮や著名人たちである。当然、それ相応のオーラというものを纏っている。

 

 しかしその中でも一際人目を引く人物。大金持CEO、大金持財参。

 

 《ヤミノマ》被害が発生して以降、わずか一代でこの国のインフラ業界を牛耳った傑物。或いは、既存のインフラ企業を次々と吸収合併し、廃業へと追い込んだ怪物。その存在は、良くも悪くもこの場において頭一つ抜きん出ていた。

 

 興味、関心、好奇、あるいは敵意や害意を込めた視線が、彼へと集中する。そんな大金持だが、俺を見つけた。

 

「これはこれは! 須佐くん(・・・・)ではないですか。どうです? 楽しんでいただけてますかな?」

 

 大金持がにこやかに話しかけてくる。

 

「お、大金持殿。この小ぞ……男の子と知り合いで?」

「えぇ、私の妻子が以前世話になったことがございましてね。その縁で、仲良くしてもらっています。此度の船も、黒井殿のおかげで乗船することができたので、彼もどうかと誘ったのですよ」

「は、ははは、そ、そのような関係があったのですね」

 

 確かに大金持の奥さんを助けたのには間違いないし、プライベートでも娘さんと仲良くしているのも間違いないな。

 

 黒井の方は冷や汗をダラダラ流している。

 まさか名も知らない若造と大金持グループの総帥が、深い仲だと思いもしなかったのだろう。

 

「そうそう、黒井殿。若者は若者同士、大人は大人同士。よろしければ、向こうで一杯いかがですかな?」

「っ、そ、そうですね。是非ご一緒させていただきます」

 

 一瞬苦々しげにした黒井だったが、大金持の誘いにすぐに笑顔を取り繕う。

 大金持はすれ違うと同時に、俺の耳元で呟く。

 

「私は引き続き彼と会話し、魔法少女を産み出す研究所について探ります。所在が判明すれば、御身の御心のままに」

 

 その言葉に、目を細める。

 

 黒井悪也、今は楽しむが良いさ。この船を無事に降りられるかどうかは、お前次第だ。

 まぁ、たとえ降りられたとしてもお前にもはや安寧はないんだけどな。

 

 すると震える手で、凪沙が俺の手を引く。

 

「せ、先輩あの大金持グループの総帥とお知り合いなんですか?」

「ん? あぁ、あの人の奥さんと偶然知り合うことがあってね。言ってなかったっけ?」

「知りませんでしたけど!? 先輩の交友関係はどうなっているんですか!?」

 

 まぁ、本当は裏でパトロンとして支援してもらっているのだけどな。今はこれくらいしか言えない。

 

 そこに料理を持った寧々子と、慌てた様子の焔ちゃんと澪がやってくる。

 

「八雲おにいさん! だ、大丈夫でしたか!? いじわるされてませんでしたか!?」

「いじわるって。まぁ、嫌味は言われたけど大丈夫だよ」

「師匠。先ほどの様子を遠くから見てましたが、師匠はあの大金持グループの総帥と縁があるのですか?」

「うん、まぁいろいろと縁があってね」

 

 そこに、とことこと料理を食べながら歩いてやってきた寧々子が胸を張りながら答える。

 

「ん、成金ピカピカ太郎(・・・・・・・・)はおにぃに良くしてくれる。当たり前、だっておにぃはすごいもん」

「成金ピカピカ太郎!?」

「ちょっと、寧々子さん! そのような言い方はおよしなさい、しつれいよ!」

「えっ、でもほんとうに……」

 

 まぁ、寧々子にとって大金持は、なんかいろいろと良くしてくれるやたらとピカピカした服を着ているおじさんという認識だよな。向こうも向こうで親戚のおじさんみたいに、ちょこちょこ寧々子にお菓子あげてるし。ちなみに、最近送られてきたお菓子は金箔入りの金平糖だ。

 

 そのお値段、小瓶ほどの量で5万円である。たっけぇ!

 

 ちなみにそんなに美味しくなかったらしい。まぁ、金箔って見た目華やかにするためだけに使われてるだけだし……。

 

 当然そんな関係性を知る由もない二人からすれば、寧々子の呼び方は不敬だと思うのも無理はない。多分、大金持本人は聞いたら笑うだけだと思うよ。妻が生きていて、子がいるからか本当に映画の時と違って愉快なおじさんと化していた。

 

 そのままわぁわぁと喚く三人と、先輩聞いてますか!? と引っ張ってくる凪沙の言葉を右から左に流しつつ、俺はその時を待つ。

 

 そう、もう時間が迫っていたから。

 

「わっ!? なに!?」

「急に辺りが暗く……」

 

 突然照明が落ちる。驚く焔ちゃんと澪。

 ざわざわと、周囲の参加者たちの声も聞こえてきた。

 

「……あれ」

 

 やがて寧々子が声をあげる。

 

 そこに居たのは、真っ暗な暗闇の中で唯一鏡から放たれる光に照らされる一人の少女。

 

「レディース・アンド・ジェントルメン。今宵、素晴らしき夜会にお集まりの皆さま。どうぞ、よしなしに。予告させていただきました通り、〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟を頂きに、《怪盗》ミスティリア、ただいま参上いたしました」

 

 《怪盗》ミスティリア。今回の主役が現れた。

 

 芝居かがった口上も、挙動一つ一つも見事に様になっている。いっぱい練習したんだろうなぁ。しみじみと、昔会った時と違って自信満々なミスティリアの様子に感慨に耽る。

 

 ちらっ。

 

「……今宵、君たちはこのボクの華麗なる妙技に目を奪われることとなるだろう。いかなる時でも、必ず、ぜったいに。目を離してはいけないよ」

 

 ちらっ。

 

「何故ならば、この主催の主役は〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟。しかして、この夜の主役は誰を差し置いてもこのボク《怪盗》ミスティリアだ。華麗に、流麗に盗むその姿をどうぞご覧あれ」

 

 ちらっ。

 

 ……あぁ、うん。わかったから。さっきからチラチラと『ちゃんと見てる?』みたいに何度も視線送って来るのやめてほしいな。見てるよ、君の晴れ舞台。

 

「先ほどから何度もこちらを……もしや、気付かれたの?」

 

 凪沙も凪沙で勘違いしてるし。

 

 多分向こうは君が魔法少女アネモスとは気付いてないよ。一応、伝えてはいるが直接の面識はないわけだし。

 

「澪、ついに現れたよ! 行こう!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなた、寧々子さんもそばにいるのよ!? この場で変身できるはずがないじゃないっ」

「はっ!? そ、そうだった。ど、どうしよう? 多分、八雲お兄さんあたしたちが魔法少女だってねこちゃんにも言ってないよね? ねこちゃんも、まったくそんな素振りみせてなかったし……!」

 

 一方で、寧々子がそばにいるため、二人は変身できずに困っていた。寧々子は、こそこそ何やってんだろ、という視線を向けている。

 やがて何か思いついたのか、焔ちゃんが表情を明るくした。

 

「八雲お兄さん、ねこちゃん! あたしたちトイレに行ってきますね! 大きい方なので、多分すぐ戻って来ないです! ほら澪、行こう!」

「男子小学生ですか!? ちょっと、わたしまで同じようにするのやめなさいよ!!? あぁ、もうっ、師匠。寧々子さんに、風羽さん。ちょっと衣装が崩れちゃったのでお色直ししてきますっ」

 

 ……あの、そんなこと言われてもこっちも困るんだけど。あと、女の子が大声でトイレとか言うのやめなさい。魔法少女に変身するための方便なのはわかるけど、言われた俺の方も反応に困るから。

 

 そんな風に、去っていく二人と入れ違うように入ってくる二つの影。

 

「ちょ〜っと、まったぁ〜!」

「盗むことなんて、許すことはございませんことよ!」

「おぉ、あれは《ビックスリー》のファイネルとエクレールだ!」

「《怪盗》と《ビックスリー》の戦い。これは大金を叩いても見る必要があるぞ!」

 

 現れたのは、魔法少女ファイネルとエクレール。

 客たちは、魔法少女でも有名な《ビックスリー》の登場に盛り上がる。ファイネルは炎を、エクレールは雷を纏って既に戦闘態勢だ。

 

「おや、随分と勇ましいお嬢さん方だね。悪いけど、きみたちじゃあボクを捕らえることはできない。ボクを捕らえることができるのは、この世でただ一人(・・)さ」

 

 しかし、ミスティリアは不敵な笑みを崩さない。ほんと、役に入り込んでいると肝っ玉すげーよな。普段と大違いだ。魅夜としての状態で会うと、俺と目を合わせてくれないし言葉もどもりどもりなのに。

 

 そしてその挑発にわかりやすく乗ってしまうエクレール。

 

「むきー! 生意気ですわね! ならばすぐに、その澄まし顔を崩させてもらいますわ! 〝サンダーエクレール〟ッ!」

「人がいるから弱火でなぐるよぉ〜、〝ぬくぬくナックル〜〟」

 

 一応、周囲に人がいるからか威力は抑えられていた。だが、当たれば並の魔法少女であれば一撃でのされる威力だ。

 

 そして、ミスティリアは並の魔法少女(・・・・・・)ではない。

 

 実際にはミスリードだったが、映画ボスとして扱われていた魔法少女だ。

 

「すごいね、さすがは名高き《ビックスリー》。だけど、それがボクに届くことはないよ。〝ミラーリング〟ッ!」

「へきゃー!?」

「あいたーっ!?」

 

 ミスティリアが指を鳴らすと同時に、頭上に大きな鏡が出現する。同時にエクレールの雷とファイネルの炎が吸い込まれ、反射。二人に直撃する。

 

 うわぁ、初見殺しだ。

 『幻影の支配者/シルエット・スター』でも、あぁやってサンシャインとオーロラミストが反射されて、そのままノックアウトしたんだよな。

 

「あの二人を容易くあしらうだなんて……! 先輩、私も向かいます」

「い、いや待つんだ。聞けば、《怪盗》はどこからともなく現れては消えるというじゃないか。なら、凪沙は不測の事態に備えた方が良い。先に姿を現せば、きみをなんとかすれば大丈夫だと向こうに情報を与えてしまう。うん、そうだ、その方が良いって。だから、今は備えておくだけの方が良いんじゃないかな?」

「ひゃうっ!? せ、せせせ、先輩っ!? そんな大胆な……、ち、ちかいぃ……! あぅ……」

 

 だめだめだめ!

 

 凪沙まで参戦したらミスティリアが死ぬぅ! いや、比喩だけど、実際に参戦したら洒落にならないって! 必死になって取り繕いながら、凪沙を口先で丸め込む。なんなら、反射的にその手を掴み、逃がさないよう引き寄せる。さながら、抱き寄せる格好になっていた。

 

 凪沙は固まって動かなくなった。ごめん、セクハラだと思うけどこっちも必死なんだ!

 

「…………むぅ、ちゃんと見てよ」

 

 あ、眩しい! 

 やめて! じみーに俺の顔に小さく反射させた光を当てるのは! 失明とかはしないけど、眩しいって!

 

「げしげし」

 

 寧々子も蹴らない!

 今のきみはお嬢様だから、そんなことしないの!

 

「ま、まったまったー! ふひぃ〜、ま、間に合った……! 《怪盗》ミスティリア! 今度こそ逃がさないよ!」

「はぁ、はぁ。そ、その通りです。先の出来事のリベンジ……はぁ、はぁ。やらせていただきます……うぷっ、は、走ったせいで吐きそう……」

 

 そこにすでに疲れた様子でサンシャインとオーロラミストが現れた。

 きっと変身するために人が居ないところを探し回って、船の中を走り回って戻ってきたのだろう。特に澪が疲労困憊である。

 

「おぉ〜、増援助かるぅ〜」

「おーほっほぉー! 形勢逆転ですわね! 降参するなら今のうちでしてよ!」

「てか、アネモスは?」

「あら、確かに。どこで何しているのですやら」

 

 ごめん、アネモスは俺の腕の中にいます。

 

 とはいえ、これで四対一。

 ちょ〜っと、まずいかもしれない。いざという時は、ミスティリアはいつでも鏡の世界に逃れられるとはいえ、あの意気込みようからしてそんなカッコよくないことをするのか不安になってきた。

 

 てかムラサメが戻って来ない! 時間には帰ってくるようにちゃんと言っておいたのに、なにやってるんだあの妖刀は!

 これは帰ったらお仕置きだな。

 

「ふふふ、どうやら役者は揃っているようだね。さぁ、ショーを始めようじゃないか!」

 

 ミスティリアが指を掲げる。魔法少女たちが構える。

 

 そして指を鳴らす瞬間。

 

 

 

 ──ずぅぅぅん

 

 

 

 とても大きな衝撃がエスポワール号を襲う。

 それこそ、衝撃のあまりに立ってられないほどに。会場を彩っていたシャンデリアや装飾品まで、次々と床へ落ちていく。

 

「なんだ!? 何が起きた!?」

「いたい! わたくしの足を踏まないで!」

「ぐっ、ワイングラスが割れた拍子に切り傷が……」

 

 客たちが全員よろけて倒れている。怪我した人もいるようだ。

 

「やっばぁ。被害洒落になってないよこれ」

「まさか、これもあなたですのっ!?」

 

 当然、疑いはミスティリアに視線が集中する。だが。

 

「えっ、何それ知らない……こわ……」

 

 困惑し、所在なげに、掲げた指を見つめていた。

 

 だが、俺にとっても今の衝撃は想定外だった。何が起きた? 

 

 まさか《ディスナンド》が? だが、映画ボスであるアルヴィオスがこんな手を使ってくるはずが──

 

 

 

『この船に乗船した人間たちに告げる』

 

 

 

 放送が流れた。

 

 先程から流れていた船旅を楽しむための優雅な音楽とは違う。悪意と害意に満ちた声が。

 

「こ、この声って……!」

「そんなまさかっ!?」

 

 そして焔ちゃんと澪が大きく動揺する。

 

 それは俺も同じだった。

 会ったことはない。でも、その声色(・・)をテレビ越しに俺は覚えている。

 

 ドン・ドゥーベン。

 

 奴の声だ。

 

 そして、放送はそれだけにとどまらなかった。

 

『愚かでおばかな人間ちゃ〜ん。きゃははは! 絶望しちゃいなさ〜い、あなたたちは生け贄よ!』

 

『お前たちはもう逃げられないダス。この海のど真ん中、逃げ場なんてないのダス』

 

『うふふふ、あははは。こわいかしらん? 恐ろしいかしらん? 良いわ、良いわぁ。それこそがあたくしたちの召喚する《ヤミノマ》の力となるのよん』

 

 メスレスの甲高い嘲い声が、フェックの威勢のよい宣言が、ミザリィーンの悪意に満ちたねばりつくような声が聞こえてくる。

 

『我々は《セブンスター》。この船は我々が乗っ取った。お前たち人間には、我々の糧となってもらおう』

 

 それは本当の意味で、《ディスナンド》が魔法少女以外の人々に宣戦布告した契機であり。

 その宣言はこの場にいる人間にとって、最悪な知らせであった。

 

 

 

 

『ほっほほほ、始めましょうか。最低で最悪な劇を!!!』

 

 そして俺の預かり知らぬ場所で。

 その様子を見て嗤うアルヴィオス伯爵がいた。

 

 『幻影の支配者/シルエット・スター』、開幕。

 




【ご報告】
いつも応援ありがとうございます。
このたび、本作の書籍化が決定いたしました!
ここまで応援してくださった皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。
詳細は今後改めてご報告いたしますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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