魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
《セブンスター》からの宣戦布告。
その脅威に気付ける者は少なかった。
「《セブンスター》!? どうして!?」
「彼らがこの船に? そんなことが……」
先ずは直接対峙したことのあるサンシャインとオーロラミスト。二人は顔色を悪くした。
「《セブンスター》ってぇ、たしかサンシャインとオーロラミストが出会ったって言う《ディスナンド》の幹部連中だよねぇ?」
「倒すのには変わりませんけども、タイミング悪すぎですわー!? 観客の逃げ場ございませんことよ!?」
「あうあう……せ、せんぱぁい……」
次いで《ビックスリー》の面々。ファイネルとエクレールは状況をいち早く理解し、顔を顰めた。なお、凪沙はいまだに再起動していない。
「おにぃ……!」
「あぁ、これはまずい事態になった」
寧々子が、俺の袖を引いてくる。寧々子も状況の不味さをわかったようだ。
大金持も今の宣言は聞いていただろう。ムラサメはどこにいるかわからないが、今の放送は船全体にされたので気付いただろう。
「あれ……? これ全部話題掻っ攫われた? そ、そんなぁ!」
一方でミスティリアだけが別の意味でショックを受けていた。
「は? なに《セブンスター》って」
「なにかの催し?」
「どうでも良いから早く手当しろ! 私は怪我をしているのだぞ!」
そしてこの場を占める大多数の客に、危機的状況に気付けた者は少なかった。ざわざわと今の言葉を催しか何かと思っていた。
「ない! 〝
すると一際騒ぐ声。
叫んでいたのは、〝
「おい、どこにやった!? さっきの衝撃のせいか!? 銃弾でも防ぐショーケースではなかったのか!?」
「は!? い、いえ
「何を言って……!?」
近くに居た警備員に詰め寄るも、返答に困惑する。だが、実際にすでにショーケースは空になっていて、〝
一方で俺はその言葉を聞いて、冷や汗を流した。そんな芸当を成し遂げる存在を俺は知っている。
バカな、《セブンスター》だけじゃなくて
そして、俺の嫌な予感は的中し、
「せっ、せっかくマイスターに良いところを見せようと思ったのに。まだまだ決め台詞もポーズだってお披露目できていない。こ、こんなの《怪盗》の名折れ──、へ?」
「ミスティリア!」
ショックを受けた故にか、ぼさっとしていたミスティリアが杖に思い切り殴り飛ばされた。飛ばされたミスティリアは、そのままクロステーブルにぶつかり、大きな音を立てる。
「ほっほっほ。あなたはとても良く役に立ってくださいましたよ、《怪盗》殿。おかげで我々にとってとても都合の良い舞台を整えてくださった」
代わりにミスティリアのいた位置に何者かが着地した。その手に持っているのは、〝
「良い。実に良い。この輝き……いや、
道化師のような動きと口調。
ミスティリアのシルクハットよりもさらに巨大で、装飾の凝られたシルクハットを被り、
「ご機嫌よう、魔法少女に人間の諸君。余は
「だれ!? あなたも《セブンスター》の一員なの!?」
サンシャインからの問いに、アルヴィオス伯爵は失笑する。
「ほっほっほ、確かに同じ組織に属しはしますが、余をあんな集団と同じにしないでいただけますかナ? こうしているのも、利害の一致に過ぎませヌ。余の目的は」
「何をしている!? さっさと、そんなヤツを排除しろ。何のための魔法少女だ!」
遠くから黒井が叫ぶが、黙っていろと言いたい。相手の異質さがわからないのか!
話を遮られたアルヴィオス伯爵は、不機嫌そうに笑う。
「……ほほっ、どうやら名乗り口上はお気に召さないご様子。しからば、余の妙技を見せてくれましょうゾ」
アルヴィオス伯爵の右手からぶら下がるのは、五円玉に似た硬貨に紐を通しただけのもの。
──まっずい!?
「そのコインを見るな! 何か変だ!」
咄嗟に声を出すも、時既に遅し。魔法少女たちは、何かあると思ったのか庇う仕草をしたが、大多数の客たちは、アルヴィオス伯爵の方を向いてしまっていた。
「〝サイコール〟」
ぐわんぐわんぐわん、と円形の波動のようなものが広がった。それを見てしまった大多数の客たちの動きが止まる。先程の騒ぎが嘘のように静かになる。
「な、なに? なんともないよ?」
「いえ、サンシャイン。何か、周囲の様子が変だわ」
「ほっほっほ、勘が良い者もいたようですが既に遅きに失しましたなァ。さぁ、ゆけ! 余の傀儡たちヨ!」
その言葉を皮切りに、多くの客が魔法少女の方へ向かって襲いかかってきた。
「え、ちょ、ちょっと? わぁ〜!? それはちょっとまずいってぇ〜!」
「やめてほしいですわー!? 魔法少女はお触り厳禁でしてよー!?」
ファイネルとエクレールが慌て出す。当然だ、単なる人に過ぎない客たちに魔法少女の力を使えばどうなることやら。二人は必死になって、戦闘体勢になっていた炎と雷を納め、客たちの襲撃を躱す。
そして観客たちは、サンシャインとオーロラミストにも向かっていく。
「わぁー!!? なになになに!? みんなどうしちゃったの!?」
「いえ、サンシャイン。違うわ、これは明らかに操られています!」
オーロラミストの言う通りであった。
これがアルヴィオスの厄介な力、
『幻影の支配者/シルエット・スター』では、手始めに焔ちゃんと澪を操って二人を
更にはミスティリアも操り、彼女の集めた〝呪負具〟の元まで案内させ、〝呪負具〟に取り憑かせた《ヤミノマ》を召喚し、一気呵成に星見ヶ丘を落としにきた。
ミスティリアが映画では俺がムラサメに〝呪負具〟を紫の炎で食らわせるようなことをさせてないが故に、結果として、超強力な《ヤミノマ》が誕生を許してしまったのだ。人々を黒いモヤで覆い尽くすその恐ろしい光景は、映画故に鮮明に上映された。
それはサンシャインとオーロラミストの仲違いを見せられた女児たちには、あまりにもショックな映像だった。なんだったら、光莉もわんわん泣いた。俺の服は、光の鼻水と涙でびしゃびしゃになったくらいだ。
そんな世の中の女児にトラウマを植え付けた、『幻影の支配者/シルエット・スター』における本当の映画ボスこそが、アルヴィオス伯爵だ。
その脅威が、この狭い豪華客船というフィールドで存分に振るわれている。
「さぁさぁさぁ、あなたたち魔法少女は操られた人間たちにその力を向けることができますかなぁ? ほっほっほ!」
慌てふためく魔法少女たちを見て、アルヴィオス伯爵はどこまでも愉快そうに嗤う。
「もぉ〜! 追いかけてこないでよぉ〜!」
「これではまったくキリがないですね……!」
「しつこ〜い、エッチなのはやめてよぉ。さすがにおこるよぉ?」
「不敬! 不敬不敬、不敬ですわぁ! いま、わたくしの太もも触った輩はどなたでして!? 蹴りますわよ!」
魔法少女たちは、アルヴィオス伯爵の催眠によって操り人形と化した観客たちに追いかけられていた。中には、しがみつく者もいる。
観客たちの攻撃は、魔法少女には通じないが逆に魔法少女の方は、容易く人に怪我をさせてしまう。だから彼女たちは逃げることしかできない。
同じだ。
『幻影の支配者/シルエット・スター』で凪沙が戦線離脱させられた時と。凪沙もあぁやって初めてアルヴィオス伯爵の能力が明らかになった際、守るべき市民に四肢を押さえつけられ、下手に力を使えば大怪我をさせかねない状況に陥ってしまった。
その時の映像が、例の腋見せポーズである。苦痛にうめく凪沙の身体に、たくさんの手が這い回る映像は、ジャンルが変わりそうだった。
ちなみに『魔法少女マギアイリス』の映画ランキングで『幻影の支配者/シルエット・スター』についての視聴者コメントも、こどもからは『サンシャインとオーロラミストが戦うのがこわかった』だのと不人気だったのに、凪沙のシーンだけ『腋見せ最高』などと大きなお友達が変態コメントを多数残していたのを、俺はネットで見た。
当然、光莉にそっちのコメントは見せなかった。純粋なこどもたちに、あのコメントは澱みすぎている。
「おにぃ。みんな手も足も出てないよ。
「いや、今寧々子が出るのはまずい。あとで言い訳が効かなくなる。ミスティリアは大丈夫だと思うが……ここからじゃ向こうにいけないな」
ミスティリアが飛ばされたのは反対方向だ。介抱するにしても、ここからあの観客たちを越えて向かうのは至難の業だ。
そして起き上がる気配もない。もしかして、気絶しているのかもしれない。ミスティリアは打たれ弱いから。
「おまけに厄介なのは、操られていない客もいるということだ」
ちらり、と見る。
「えぇい、何をやっているのだ……! 《怪盗》に出し抜かれたあげく、《ディスナンド》に襲われるなどと、このような失態をどう言い訳すれば……!」
「落ち着きたまえ、黒井殿。彼女たち魔法少女は最善を尽くしている。我々に出来るのは彼女たちの勝利を信じることだけだ」
「大金持殿、しかしですねぇ。敵に手玉に取られるなんて、愚かにも程がある。これだから
「……」
相変わらず喚いている黒井を筆頭に、大金持と十数人の客たちのグループ、そしてちらほらと個々人がアルヴィオス伯爵の〝サイコール〟から難を逃れていた。
これは、警告が仇となったか? いっそ、観客は全員〝サイコール〟で操られてくれた方が後々俺が動く時に楽に……、いや馬鹿なことを考えるな。
彼らは被害者だ、彼らは被害者だ。そんなことを考えるなんて、外道のすることだ。
やはり、希望は凪沙しかいない。
俺のせいではあるのだが、早いところ目を覚まして欲しいところだ。
「──はっ!」
「凪沙! 気がついたか!」
「あっ、先輩ちかいぃ……あぅ」
「まってまって!? 今はほんとうにまずいんだって、なんとか気をしっかり持って!」
「おにぃ、とりあえず肩から手を離せば良いと思う。代わりに、寧々子愛でて良いよ。ほら、撫でて? ね?」
そのまま寧々子をヨシヨシとしつつ、俺は凪沙に簡素に説明する。凪沙は周囲を見て、すぐに状況を把握したようであった。
「なんたる不覚……! これ以上奴らを野放しにできません。私もいきます!」
「……え。あ、ちょっと凪沙、待って!?」
憤慨した凪沙の姿が、すぐさま光に包まれる。
そう、それはかつて《天川事変》の時に起こった、俺の前で焔ちゃんが変身した時と同じ。
ミラクルパワーが溢れ出すと共に、魔法少女の姿へと変身するために凪沙のドレスが消えた。
ここで変身するの!? 寧々子もそばにいるのに! やがて次々と光景が目に入ってくる。
細長くしなやかな腕。それとは対照的に、元陸上部として走り込んできたもの特有の、引き締まり健康的で太ましい太もも。
そして何より目を引いたのが腹部だった。
細い腰とは対照的に、腹筋にはうっすらとではなく、はっきり
そして何より、女性らしい丸みを帯びた胸が──。
って、冷静に見てる場合じゃない!!! そこまでで俺は目を閉じた。
いや、むり。ほんとうむり。焔ちゃんの時も色々とやばかったのに、凪沙の変身を間近で見るとかセンシティブ過ぎるって!
「むむむ、おにぃ、すけべ」
いたいいたいいたい!
やめて寧々子、お腹を自分の頭でぐりぐりしないで! あと自分で言うのもなんだけどすけべじゃない男子高校生はいないと思う。その中でも、俺は結構紳士的な対応をしていると思うんだけど!
「正義の御旗をたなびかせ、悪しき闇を吹き飛ばす! 魔法少女アネモス!」
やがて目を開けると、そこには変身を終えた凪沙……アネモスが立っていた。威風堂々立っていて、衣装のところどころにある羽衣みたいな部分がたなびいている。
よかった、これならもう大丈夫そうだ。ほっ、と安堵の息を吐く。
アネモスとしての衣装も、これはこれで露出度は高いがさっきと比べたら雲泥の差だ。凪沙は俺の視線に気付く。
「せ、先輩どこ見ているんですか? えっちですよ!」
サッとお腹を隠す。
あぁ、うん、隠すのそこなんだ。俺は危うく君の全裸を見そうになっちゃったんだけどな。思い出したらもう凪沙の顔を見れなくなるから、必死に頭から追い出している。
「アネモスさん!」
「やっときたぁ〜。遅刻だよぉ」
そしてアネモスが現れたことに喜ぶサンシャインに、口ではそう言いながらも安堵するファイネル。
「ほっほっ? まだ魔法少女が居たのですカ? ですが、この状況で力を振るうことができますかナ?」
「舐めないでもらいたいですね。風とは、荒々しい嵐のような強風だけでなく、人を優しく包み込むそよ風にもなるのですよ、〝アウラ・ブロッサム〟!」
つむじ風のような風が吹いたと同時に、観客たちが飛ばされて一箇所に集められていく。すごいな、正確に操られている人と操られていない人を区別している。しかも、怪我しないように極めて正確かつ力が抑えられている。
「エクレール!」
「えぇ、わかっておりましてよ! 申し訳ないのですが、いったん眠っておいてくださいまし! 〝エレクトショック〟!」
そこへ、意識を刈り取るだけの威力にまで雷を弱めたエクレールが、観客たちに電気ショックを放った。
なるほど、これなら確かに相手を傷つけずに無力化できる。観客たちもその場で倒れて動かなくなった。
阿吽の呼吸での連携といい、さすがは《ビックスリー》だ。
「ひどいことをするものですねェ。操られた人々をそのように攻撃するとハ」
「その通りだぞ! ここにいる人たちは、上流階級の方々なのだ! 傷つけることなく制圧したまえ!」
「あなたどっちの味方なんですか!?」
黒井の無茶な暴論に、思わずオーロラミストがツッコミを入れた。いや、ほんとうにそう思う。
「しかし、思ったよりも決断の早い。ならば、こういう手は如何ですかナ?」
《ヤミノマ〜!》
《ヤミミ、ヤミ》
《ヤッミッミ〜!》
アルヴィオス伯爵が杖を床に叩きつける。黒いモヤが杖から発生し、付近にあるテーブルクロス、落下したシャンデリアなどに取り憑き、《ヤミノマ》が現れた。
「先ずは、余の妙技を邪魔してくれたそこの小童から襲わせてもらいましょうカ」
「げっ」
「むっ、おにぃには傷一つつけさせないよ!」
また俺かよ!
だからなんで真っ先に狙ってくるんだ!? 寧々子はやる気満々だが、今のその姿じゃ危ないって。《ヤミノマ》たちがこちらに向かって来る。
まずい、そう思った時。
「八雲おにいさんに」
「ししょうに」
「先輩に」
「「「何をしているの(ですか)!!!」」」
瞬間、凄まじい勢いで《ヤミノマ》がサンシャイン、オーロラミスト、アネモスに殴り飛ばされた。こっわ……、凄まじい怒気を感じた。俺を守ろうと前に出た寧々子も、思わず戻ってきて俺の服をきゅっと握るくらいこわかった。
「大丈夫ですか! 八雲おに──」
「おばかっ、寧々子さんはわたくしたちを知らないのよ!?」
「はっ! そ、そうだった! えっと、そこのイケてるおにいさんに、猫みたいな女の子。もう大丈夫だよ。あたしたちが来たからには安心して。必ず守ってみせるからさ」
やたらときらんっ、と歯を見せながらスマイルでサンシャインがこちらに語ってきた。似合わないキザな台詞だ、どこで覚えたのだろうか。
「……なんか、今の言い方おにぃに似てた」
「えっ、うそ」
寧々子の言葉に愕然とする。
え、普段の俺あんな風に見えているの? 思わぬ言葉に、俺はショックを受けるのであった。