魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
「とりあえず、おにいさんたちは下がっていてください! あたしたちがなんとかします!」
「あまり前に出過ぎないようにお気をつけてください」
「あ、あぁ。そうさせてもらうよ」
そのままサンシャインとオーロラミストに下げられる。
俺的には助かるな。そのまま寧々子を連れて下がる。そのまま、こっそりと。誰も気にしていないが、ミスティリアが倒れていた方向に近づく。
「大丈夫か? ミスティリア」
「生きてる?」
「うぅ〜、散々だぁ。ボクの劇は乗っ取られるし、叩かれた頬が痛いよぉ……」
目覚めていたようだが、よわよわメンタルになっていた。とりあえず、とりあえず、頬の痛み以外に目立った怪我はないことにほっとする。
ただ、これはちょっと、立て直るのに時間がかかりそうだ。
「〝ほかほかナックル〜〟!」
「〝サンダーエクレール〟!」
「〝ウインドカッター〟!」
《ヤミノマー!!?》
その間も《ビックスリー》を筆頭に次々と《ヤミノマ》たちが討伐されていく。さすがの戦闘能力だ、《天川事変》の時も三人揃っていたら容易く解決できていただろう。
その光景にアルヴィオス伯爵も、わずかに顔を歪めた。
「むぅ、やりますなァ。これは、中々手厳しイ」
『──大口叩いた割には、大したことがないな。アルヴィオス伯爵』
「うるさいですねぇ。余の本業は
『あぁ、良いだろう。すでに、
再び放送が鳴り、ドン・ドゥーベンとアルヴィオス伯爵が会話をする。
変貌? 何の話だ。そもそも、《セブンスター》はなぜこの場に現れない? 今が魔法少女を倒す絶好の機会なのに、それより優先すべきことがあるのか。
ムラサメも戻って来ない。普段なら早く俺の元に戻ってくるはずだが、来ないということは何かあったな。俺はムラサメを信頼している。その彼女が来ないということは、なにか
とはいえ、ムラサメがいないと無力な俺がこの場でできるのは、だが、奴らの力を知っている俺だからこそ、推測できることもある。
やがて、アルヴィオス伯爵周辺の地面が黒く滲んでいく。
《ヤミミ〜》
「またですか。キリがないですね」
「でも倒してみせます!」
「えぇ、奴らを倒さなければ解決しませんですもの」
そして、再び《ヤミノマ》がこの場に現れた。アネモスは難しそうな顔をするが、サンシャインとオーロラミストはやる気満々だ。
その時、ファイネルとエクレールが背中合わせで前に出る。
「待って〜。ここはあたしたちに任せて。後輩たちばかりに、良い格好させてらんないね〜。先輩として、やる気出すよ。準備は良い? エクレール」
「人間じゃなければ、何の問題もございませんわ〜! いきますわよ、ファイネル!」
「「〝ツインスター・サンダーフレア〟!」」
二人が同時に技を放つ。
荒れ狂う炎の渦に雷が絡みつき、轟音と共に《ヤミノマ》の群れへと直撃する。その威力はこちらにも衝撃が伝わって来るほどだった。
熱気が肌を撫で、ピリッとした静電気が身体を走る。
「なんという威力。これが《ビックスリー》の実力というわけなのですね」
「すごい……! あれが二人の合体技なんだ……!」
新米魔法少女二人が、その光景を見て感心していた。
特にサンシャインが目をキラキラとさせていた。わかる、わかるよその気持ち。推しの技を見たらあぁいう風になるよね。わかるわかる。
「むっ、おにぃ。寧々子だってあれくらいできるもん。てしてし」
「その目で見るのはボクだけにしてください〜。ボクだってほんとうは、あれくらいカッコよくできますからぁ……!」
俺の左右から、寧々子が腕をてしてしと叩き、ミスティリアがもう片方の腕を揺さぶってくる。
うん、今見られたら色々と勘ぐられるから、ミスティリアはもうちょっと傷が癒えるまで寝ておいてくれ。
さて、あれだけの攻撃を食らったのだ。《ヤミノマ》なんて、塵も残さず消え去っているはず……。
《ヤミミ〜!》
「なに!?」
そこにはいまだに《ヤミノマ》の群れが健在であった。
《ヤミノマ〜》
嘲笑うように、ニヤニヤと《ヤミノマ》の群れが身体を揺らす。その光景に、俺は驚愕する。
まだ生きているだと!?
馬鹿な、二人のあの技に耐えたのか!?
「はい!? あれを食らって生きておりますの!?」
「うへぇ〜、流石に予想外〜」
あまりの予想外に魔法少女たちも驚愕しているが、俺はすぐに気付いた。笑っている《ヤミノマ》とは別に、倒れて消えていく《ヤミノマ》も数多くいた。
ファイネルとエクレールの技は、紛れもなく《ヤミノマ》を倒した。間違いない。
だが、それ以上の速度で──《ヤミノマ》が地面から沸き続けているのだ。その数はどんどん増していく。
かつて《天川事変》で《トライデント》のキンニバベールとエレガンシアが召喚した十体の《ヤミノマ》の比ではない。明らかにそれ以上の速度で《ヤミノマ》が召喚され続けている。
「ほっほっほ。ゆけ、蹂躙したまエ」
《ヤ〜ミ〜ノ〜マ〜!》
そしてアルヴィオス伯爵の号令のもと、《ヤミノマ》たちは数の力で押してくる。
《ビックスリー》が、風、炎、雷で倒そうともお構いなしに迫ってくる。
「この数、まずいです! 全員! 観客の前に! 守らなければ!」
その猛進を見たアネモスが指示する。
《ヤミノマ》たちの狙いは、魔法少女ではない。今この場に残っている乗客たちであった。そして、その矛先は当然俺たちにも向けられていた。
「まずいっ、誰か先輩と
「そ、それをしたいのは山々ですけどぉ〜!!?」
「向かってくる数が多過ぎて近づけません……!」
「何をしている!? そんな小僧よりも、我々を守りたまえ! どれだけの上流階級の人々がいると思っている!?」
「うるさい〜! 守ってはやってるじゃんか〜!」
「魔法少女は
混迷が極まっている。
魔法少女たちの焦り、乗客たちの悲鳴、黒井の怒声などが合わさり、まさに混沌としていた。
《ヤミミ〜!》
「寧々子、下がれ!」
「おにぃ、だめ。前に出ちゃ、おにぃがあぶないから! ねぇ、言って! 寧々子にアイツを倒せって!」
寧々子が必死に俺を止める。変身させて欲しいと頼まれるが、それは難しい。
とはいえ、ムラサメのいない俺は無力。だけど焦ってはいなかった。
俺は、この状況を変えられる、
「ミスティリア、ここで観客たちを救ったらすごく
ぴくり、とミスティリアが反応した。
「ほっほっほ。どうやら打つ手がないようですネ? ならば、このまま数で押し潰してくれましょうゾ……ほ?」
突然、光に包まれていく。
船上パーティを開いていたこの広間の窓、鏡、シャンデリア。あらゆる反射することのできるものが、光り輝いていた。
「痛い、痛いよ。よくもやってくれたね。こんな屈辱を受けたのは、初めてだよ」
俺の背後で、ミスティリアが立ち上がった。
そこには先ほどまでの情けない姿はない。一流の役者のように、優雅な動きで白手袋を嵌めた手を、頭上へと向ける。
「ほっほっ、まだ生きておられたのですカ? ですが、貴方に何かできるとでモ?」
「不躾な輩だ。教えてあげるよ、《怪盗》とは盗む者なのさ。宝石だけじゃない、人々の
前を向く。
自身に満ちたミスティリアが、元々端麗だった顔つきが更に美しく魅せている。
「全員、この場から立ち去ってもらおう! 〝リ・フレイクターン〟ッ!」
視界が白く染まる直前、俺は思わず笑った。
ミスティリアは打たれ弱くて、引っ込み思案で、目立ちたがり屋で、よわよわメンタルだけれども。
それでも──紛れもなく、映画一本の主役を張った《怪盗》なのだ。
瞬間、全てが光に包まれた。
それと同時に、悲鳴や怒声が消える。
「ほっ? アヤツら、どこに行きおっタ?」
《ヤミミ〜?》
光が収まったあとにはアルヴィオス伯爵と《ヤミノマ》だけが残され、魔法少女はもちろん、操られていた者も、難を逃れていた者も――観客は一人残らず、その場から消え去っていた。
「おっと」
「わっ」
光が収まると同時に、俺と寧々子は広間から離れたところにあった鏡の外に放り出された。
「ミスティリアがやる気を取り戻してくれて、助かったな」
今更だが、ここはまだ客船の上で鏡の世界ではない。
本来なら安全面を考えれば、鏡の世界に入るのが一番だ。そもそも、鏡の世界に入るにはミスティリアが直接鏡に触れていなければならない。以前、俺がミスティリアを追いかけた時に入り込めたのも彼女に触れながら鏡に触れたおかげだ。
それ以外の移動は、すべて反射した先に依存する。
なのでさっきいろんなところに人が居たが故に、バラバラに反射して転送された。
まぁ、どこに送られようとも《ヤミノマ》ひしめく広間よりはマシだ。そっと、周りを伺う。少し離れた場所に数人ほど乗客たちが、キョロキョロと辺りを見渡しているところだった。
付近に《ヤミノマ》はいない。
ひとまず安堵の息を吐く。
ミスティリアと大金持もいない。だが、あの二人は大丈夫だろう。あとは、これからどうするかだ。
「おにぃ……ううん、ボス。やるの?」
「当然。このままただ《ヤミノマ》に怯えて逃げ隠れするなんて、性に合わない。全員に指示を出さないとな。あぁ、それと、ムラサメはいったい何をしているんだ?」
人一倍俺が傷を負わないか心配しているくせに、いまだに姿を現さない自らの懐刀に、首を傾げるのだった。
実はこっそり、新作を投稿しています。
気になる方はどうぞ作者ページからご覧ください。