魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
「すぐに戻って来ると言ったのに、何をしているんだきみは」
「し、仕方ないじゃろう!? この船は、入り組み過ぎじゃあ!」
ミスティリアに連れてこられたムラサメは、いろいろと言い訳をした。やれ、《ヤミノマ》の気配を感じたから調査のために仕方なかっただの、似た通路が多すぎるだのと、文句までいろいろと。
無事なのは良かったけど、結構こっちは綱渡りだったんだけどな。
「ぷぷぷ、妖刀おばば。ボスに怒られてる。普段えらそーにしてるのに、たじたじ」
「ぬこ殿、煽るのは良くないよ」
その様子を楽しそうに寧々子が見て、ミスティリアに嗜められていた。そして、ミスティリアは俺の方を見てくる。
「それでマイスター。どんな風に反撃するんだい? ボク、なんだってするよ!」
「いや、ミスティリア。きみには暫し潜伏してもらう」
「……えっ、そんな。戦力外通知ですか? ふ、ふふ、そうですよね……。あんな敵に出し抜かれたへっぽこ《怪盗》には出番がありませんよね……」
「違う違う!? ミスティリアには、乗客を適宜救ってやって欲しいんだ!?」
アルヴィオス伯爵の時には、その場から逃げ出すのを最優先にしたせいで乗客をバラバラに〝リ・フレイクターン〟で飛ばしてしまった。ムラサメからの報告で、焔ちゃんと澪が乗客を一箇所に集めて保護しようとしているらしい。
そこにミスティリアが乗客を送ってくれたら、乗客が孤立することはない。
「なんなら最悪、鏡の世界に保護してもらっても良い」
「良いのかい? ボクの能力がバレてしまうけども」
「優先されるべきは乗客の安全だ。人命には代えられない。もっとも、ミスティリアの負担が大きいのが、申し訳ないけども」
「問題ないよ、マイスター! 任された仕事、成し遂げてみせるさ!」
「助かるよ。それで救出が終わったら、援護してもらいたい。多分、アルヴィオス伯爵がまた催眠を使おうとした時、それを防げるのはきみだけだ」
アルヴィオスの〝サイコール〟、あれを他の《セブンスター》との戦闘中にされたらめんどくさいことこの上ない。
やられたら一発でゲームオーバーだ。とはいえ向こうも、自身が搦め手を得意としているだけで、戦闘向きでないのは把握しているだろうし、前線には出てこないだろうが。
そこに大金持からの通信が入る。
『聞こえますか? 私です、大金持です』
「無事かい? そっちは今どんな感じだ?」
『えぇ、ひとまずは問題はございません。魔法少女ファイネルとエクレールがそばに居ますので。もっとも、他の乗客を探しに行こうとするのを黒井殿が引き留めていますが。おかげで空気が悪いですね』
またか。本当に余計なことしかしない。
黒井の行動も守るという意味で間違ってはいないけども、それは他の乗客を見捨てるということだ。《セブンスター》を倒せなければ、状況は何も改善しない。
とはいえ、《ビックスリー》が人を守るだけに留まるのは助かる面もある。俺が自由に動けるからな。
「何かあればミスティリアに連絡してくれ。彼女の力ならば、大金持も安全に避難できるからな」
『ご安心を。護衛もいますのでそう簡単にやられはしません。それよりも、私は黒井殿のそばにいます。えぇ、ひどく苛立っているようですので、なにか
「……もしかしなくても、かなり怒っていないか?」
『嫌いなんですよ、ああいう人が』
黒井、大金持にここまで言わせるとかどんなこと言ったんだよ。
とにかく大金持も心配なさそうか。
なら、本格的に《セブンスター》の討伐に向かうとしよう。
『この船の人間たちに告げる』
その時、またも放送が流れた。
『どうやらあの《怪盗》のおかげで逃げおおせたと思っているだろうが、そんなことはない。貴様らはこの船からは逃げられん。故に、今から追い込みをしてやろう』
その言葉と共に、豪華客船内の空気が変わった。床、壁、天井から黒い滲みが広がっていく。
《ヤミミ〜》
「いくぞ! 全員自身の務めを果たせ!」
やがて《ヤミノマ》が現れた。
ミスティリアはすぐさま鏡の中の世界に退避する。
寧々子は変身し、魔法少女カーバンクルの姿となる。ムラサメもまた日本刀の姿となると同時に、俺の足元から紫の炎が立ちのぼる。すぐに無頼としての格好となった。俺はムラサメを握りしめる。
「ムラサメ、確かより強い《ヤミノマ》の気配は操舵室付近から感じた。間違いないな?」
《あぁ、その通りじゃ間違いない》
「なら、そこを目指すとするか」
《ヤミノマー!》
「ボスの邪魔させない。〝つよパンチ〟」
《ノッマ!?》
襲いくる《ヤミノマ》を寧々子が殴り飛ばす。それだけで《ヤミノマ》が砕け散った。
「む? 一撃、よわっちぃ。いや、カーバンクルが強いだけ。ふんすー」
《ヤミノマー!》
「油断するな、まだまだ湧いてくるぞ!」
そのまま《ヤミノマ》との戦闘を開始する。
だが、寧々子の言う通りだった。この《ヤミノマ》、それほど強くない。いや、攻撃は当たればダメージを負うだろうけど、耐久性が脆すぎる。
「……妙だ」
しかし、それを差し置いても斬っても斬ってもキリがない。沸き出てくる《ヤミノマ》の数が異常だ。《天川事変》の時よりも一体一体はかなり弱いがそれにしたって多すぎる。
いくら《セブンスター》とはいえ、これだけの数を出せるはずがない。
《おかしいぞ、主様。こやつらを斬って取り込んでも、まるで力を得られぬ。まるで実体のない影を斬っておるようじゃ》
ムラサメからも不審がる声が上がる。どうなっている?
これも、アルヴィオス伯爵の力によるモノか? いや、アイツにそんな力はない。
その催眠能力は厄介だが、それを考慮しても、アルヴィオス伯爵本人の戦闘能力は
ならば、《セブンスター》か。
確かにドン・ドゥーベン
「──いや、待て?」
確かに今俺たちが対峙しているのは《ヤミノマ》だ。それは間違いない。
だが、その《ヤミノマ》は何に憑依した?
《ヤミノマ》が力を振るうには、憑依するための
だが、さっき倒した《ヤミノマ》は元に戻ったか?
ファイネルとエクレールの〝ツインスター・サンダーフレア〟だって、《ヤミノマ》を倒したが、何かがその場に残っただろうか。
ムラサメの言葉が脳裏をよぎる。
まるでそこかしこから《ヤミノマ》の気配を感じた、と。
「まさか……!」
気付く。
考えうる最悪なシナリオ。だが、そうとしか思えない。だけど、確かにありえるのだ。『魔法少女マギアイリス』の《スター⭐︎トゥインクル》の中盤でも、《セブンスター》は一度、残ったメンバーを集結させた。
その時、普段よりも強力な《ヤミノマ》を生み出した。なら、この場で強力な《ヤミノマ》を生み出すとして、
「やつら……豪華客船そのものを《ヤミノマ》にしたのか!?」
その言葉に応じるように、床が大きく揺れる。それはまるで、内臓そのもの、血液の流れる動脈のように。
《ヤミノマァァァァッッッ!!!》
悪意に満ちた咆哮がそのまま振動として周囲を轟かせた。
◇◇◇
「船そのものが《ヤミノマ》!!?」
「えぇ、そう考えるべきでしょう」
あたしは澪の言葉に驚いた。
あの後、ミスティリアの力によってどこか鏡のある部屋に飛ばされた。その後、乗客の協力も得て、あたしたちは人々を一箇所に集めていたのだけれども、さっきの放送以降、あちらこちらから《ヤミノマ》が現れ出した。
あたしたちは湧いてくる《ヤミノマ》を倒し続けたのに、倒しても倒してもキリがない。すると澪が、「もしかして……」と先ほどの言葉を口にした。
「先ほどから何度も《ヤミノマ》を倒しているのに、まるで途絶えないわ。あれはいわば末端……木で例えるなら、枝葉のような存在よ。だからどれだけ倒しても意味はない」
澪は、あのアルヴィオス伯爵が召喚した《ヤミノマ》を倒した時から、違和感を覚えていたらしい。そして再び《ヤミノマ》を倒して思ったんだって。あまりに脆すぎる、と。
そ、そうだったんだ。あたし、単に自分が強くなったと思っていたよ。うぅ、脳筋でごめんなさい……。
「なるほど、それは確かに信憑性のある話ですね」
《ヤミノマッ!?》
途中、放送が鳴る前に合流したアネモスさんが、拳から発生させた風で《ヤミノマ》を倒す。
すごい! 一気に五体も倒した!
あたしと澪は、直接接触しなきゃ倒せないのに。やっぱり、自然現象を扱えるっていいなぁ〜。〝マギアイリス・クェーサー〟を使えば《ビックスリー》にだって範囲攻撃には負けないのに、澪と手を繋いで足を止めなきゃ使えないし。
「ここにいない乗客たちのほとんどは、エクレールとファイネルが護衛しています。ですから、ひとまず心配はありません。ですが、事態そのものを解決しなければジリ貧なのは確かです」
「はい。ですが幸い、《セブンスター》が何処にいるのかはわかりました」
「その通りですね。なので──」
「まってまって!? 二人だけで解決しないで!? あたしにもわかるように教えてよぉ!?」
そんな、わかっていて当然みたいな態度は良くないと思う! そういうのが、疎外感を与えてひねくれ者に育っちゃう一因になるんだよ!
八雲おにいさんみたいに、優しく教えてよ! 八雲おにいさんは、あたしの勉強を見てくれる時に、どこかわからないのか親切丁寧に教えてくれるんだから。
澪はあたしが理解していないとわかると、丁寧に説明してくれる。
「さっきの放送。あれは間違いなく、この船の
「そして、この船を《ヤミノマ》へ変えた核も、その近くにある可能性が高いです。そこを叩けば、この《ヤミノマ》たちの大量発生も止められるはずです。……ですが問題があります。操られていない人々を放置して向かうことができない……!」
アネモスさんが悔しそうな顔をする。
そう、あたしたちは《セブンスター》の居場所はわかったけれども根本的な問題、乗客を守るということが足枷となっている。
「だったらあたしたちに任せてください、アネモスさん!」
「サンシャイン。しかしですね……」
「わたしたちも、魔法少女としての役目を果たしたいのです。それに先ほどの動きを見てわかりました。アネモスさんの方が、多数を相手にするのに向いています。わたしたちでは、溢れ出す《ヤミノマ》から乗客を守れません……!」
悔しそうな顔をする澪。
そうなの、あたしもわかっていた。あたしたちは《ヤミノマ》を倒すのに直接殴ったり蹴ったりする必要があるけども、アネモスは風で一気に倒すことができる。なら、この場に残るのはアネモスさんの方が良い。
本当は、《セブンスター》との戦いを考えるならアネモスさんが向かった方が良い。それくらい、あたしにだってわかっている。
でも、それ以上にこの人たちを守れるのもアネモスさんなのだ。
「えへへ、アネモスさんからすれば頼りないと思いますけども」
「……いいえ、あなたたちを弱いと思ったことはありませんよ。《天川事変》の時も、《ダークドリーム》の時も、あなたたちは私にできないことをやってのけた。だから、
「「はい!」」
アネモスの信頼に身体が震える。そして大きく返事をした。
アネモスさんは満足そうに、あたしたちを見ていた。
「一気に道を切り拓きます。〝ウインドストーム〟ッ!!!」
《ヤミノマァァァッッッ!!?》
乗客たちと、あたしたちを中心に大きな竜巻が発生した。
豪華客船自体を壊さないように手加減されていたけれど、あたしたちの周囲にいた《ヤミノマ》たちは、床にいようが、天井にいようが、全てアネモスさんの風に切り刻まれた。
「行ってください!」
「はい!」
「あとはよろしくお願いします!」
そうしてあたしたちは放送室に向けて駆け出した。
道中現れる《ヤミノマ》を殴り倒しつつ、進んでいく。やがて海の香りがした。あたしたちは
「外に出ちゃったね」
「でもここを越えれば、あとは放送室に一直線です。急ぎましょう」
見晴らしも良い。
これならさっきみたいに壁や天井から《ヤミノマ》が現れることもない。
そう思っていた時、あたしはぞわりと嫌な気配がした。危機感と言っても良いかもしれない。とにかく、この場にいたらまずいと直感が告げている。
「オーロラミスト! 危ない!」
「サンシャイン!? なにをっ」
あたしはすぐさま手を引いて、澪と共にその場から離れる。
あたしたちの居たところに、黒い炎が燃え上がっていた。炎を見て、あたしは一瞬だけ無頼さんのことを思い浮かべたけど、彼の紫の炎とは違う。
どこまでも凶々しい炎だった。
「来たか。忌々しき魔法少女」
「あなたは、ドン・ドゥーベン!」
「袋のネズミダスよ」
「フェック! あなたもいたのね……!」
頭上から声が聞こえる。船の煙突部分に立っていたのは、ドン・ドゥーベン。
《セブンスター》のリーダーの彼は、マントを羽織い、威風堂々と高い場所に立っていた。そしてその下には、
フェックは鼻息荒く、こちらを睨む。
「魔法少女がここに現れるとは聞いていたダス。アルヴィオス伯爵の読み通りダス」
「褒めるな、フェック。しかし、来たのは貴様らか。てっきり、あの《ビックスリー》とやらが来ると思っていたが、勘が外れたか」
「どっちにせよ、倒す相手には変わりないダス」
「その通りだ。予定とは違うが、ダークネス様の仇討ちといかせてもらうッ!」
「来るわよ、サンシャイン!」
「わかってるよ、オーロラミスト!」
空間が歪んだ。
そう錯覚するほどの熱量を持った黒い炎が、ドン・ドゥーベンの両手へと集まっていく。
「〝ターミ・ネッター〟ッッッ!!!」
降り注ぐ黒い炎の弾丸の嵐。
あたしたちは咄嗟にその場から躱す。銃弾のように降り注いだ黒い炎が、
なんて威力……!?
「さぁ、始めようか。蹂躙をな」
どこまでも不遜に、ドン・ドゥーベンが悪辣な笑みを浮かべた。