魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
月明かりすら届かない海原を進む豪華客船。その甲板の上で、二つの炎が激しくぶつかり合っていた。
紫と黒が互いを喰らい合うように入り乱れ、衝突するたびに暗闇を一瞬だけ照らし出す。
「ふッ!」
「ぬぅッ!」
お互いの炎は互角。どちらも互いの身体を傷つけるには至らない。もっとも、それは当たれば致命傷になり得るからこそ、当たらないように気をつけているからだ。
何度目かになる、互いにぶつかり合ってからの距離を取る。ドン・ドゥーベンが舌打ちをする。
「埒があかんな」
「なんだ、諦めるのか?」
「いいや、手を代えてやろうと思ってな。貫通力を上げてやろう。〝ターミ・ガン〟ッ!」
「いっ!?」
一つ一つの黒い炎が、まるで弾丸のような形に変化し、放たれた。その速度、先ほどまでとは比べ物にならない。
いや、そんなことできるのかよ!?
《スター⭐︎トゥインクル》じゃ、〝ターミ・ネッター〟以外の技使ってこなかっただろ!? そしてあの貫通力、今まで通りには防げない。
《主様! あの炎、途中で迎撃せんと船内を貫通するぞ! さすれば、乗客らにも被害が及ぶ!》
「わかってるッ! 〝百鬼焚光〟ッ!」
周辺にまるで人魂のように、多数の紫の炎が出現する。『百鬼夜刀〜朝と夜の大決戦〜』のタイトルを象徴するような、文字通り百個の業火だ。
空中で数多の爆発が起き、その度に黒と紫の入り混じった炎が夜空へ溶け込んでいく。
「ぬぅんッ!」
「〝鬼祓門〟ッ!」
そこにドン・ドゥーベンが黒い炎を巧みに利用し、加速しながら殴り掛かってきた。俺もまた、ムラサメを振るった。
ぶつかり合う拳と刃。
通常であれば刃が勝るはずなのに、拮抗どころか力で押し負けて壁にまで吹き飛ばされた。
「ボス!」
「ブフフ、ドン・ドゥーベンはオラたち《セブンスター》で最も強いダス。たとえ、リ・オートを倒したあの男でも敵わないダス!」
「む、ボスはつよい。負けないもん。今の言葉むかついた。ぼっこぼこにする。〝つよつよパンチ〟」
「ブヒィ〜ッ!? い、痛いダスゥ! ヤ、《ヤミノマ》! オラを助けるダス!」
寧々子の方も、フェック相手に善戦している。
フェックがあまり強くなく《ヤミノマ》を自身の身を守るために使っているおかげで、俺の方は《ヤミノマ》の邪魔が入らないで戦えている。
《ぬぅ、主様よ。やはり、あの黒い炎は厄介じゃな。
「あぁ。それにその近接戦、《トライデント》のキンニバベールを思い出す」
あれもあれで強い相手だった。あとやたらと筋肉を主張するポージングを決めてきたのを、覚えている。
しかもドン・ドゥーベンは黒い炎を纏ってくるから、その威力は桁違いだ。
あの黒い炎は、闇のエネルギーを纏っているから食らえば火傷を負うだけでなく、相手に強制的に負のエネルギーを発生させ、それを吸い取ってさらに燃え上がる。
強敵だ。
ともすれば、今までで一番の。
「お前、それだけの力を持っていてもダークネスの側近である《トライデント》にはなれなかったんだな。その点は意外に思うよ」
「《トライデント》! そう、《トライデント》だ! なぜ奴らが、オレを差し置いてダークネス様に側近なのだ! 奴らなんぞよりも、オレの方が上のはずだ! なぜだ……!」
そして思った以上に、吠えてきた。
その人間関係はよく知らないが、どうやらドン・ドゥーベンの地雷を踏んだらしい。その形相に思わず呆気にとられる。
確かにドン・ドゥーベンは強い。
キンニバベール以上の力だし、たとえ他の《セブンスター》の面々が束になろうとも彼には敵わないだろう。事実、だからこそ彼が《セブンスター》のリーダーなのだ。
ドン・ドゥーベンはダークネスに対して、とある思いがあった。
そう、自身がダークネスに成り替わり、銀河を闇に包みたいという欲望が。
『魔法少女マギアイリス』で本人が語っていたから間違いない。それを踏まえると、わかることが一つある。
「結局のところ、腹の底を見抜かれていたんだよ。お前は」
どれだけ優秀でも、反旗を狙っている輩を側に置いておくはずがないのだ。
冷酷、極悪な性格のダークネスではあるが、それでも自身の配下の野望を把握していて、そばに置くほどの愚物ではない。
だからこそ、当初この惑星を攻め入る際に自身と《トライデント》を動員しながらも、《セブンスター》を使わなかったのだ。
《スター⭐︎トゥインクル》でドン・ドゥーベンがダークネスの憑代となった際、奴の身体の内側から、突如として闇が溢れ出した。
あれを、ダークネスの仕込みだと考えるのであれば、ドン・ドゥーベンは初めから命を握られていたのだ。
「お前一人に拘っている暇はない。今日この場で、《セブンスター》も、あのアルヴィオス伯爵も全員討伐する。今日が貴様の命日だ」
「貴様ッ……! 舐めてくれるものだな、ならば焼き尽くしてくれる!」
より黒い炎が集まっている。
俺もまた、ムラサメに力を集め、息を整える。
黒い炎が、ムラサメの炎を相殺するというのであれば、相殺し切れないほどの一撃で押し切るのみ。
奴はこれまでの攻防で、オレが黒い炎を破れないと思っている。そして今、怒りによって火力を増して押し潰そうとしている。
なら、それはつまり──
「せめてもの手向けだ。ダークネスに放ったのと同じ技で、終わらせてやる。──〝天羽々斬〟ッッッ!!!」
「〝エンド・インパクト〟ォッ!!!」
天翔る紫の龍と、真っ黒な炎が衝突した。
だが、拮抗したのはほんの一瞬。
果たしてぶつかり合った黒と紫の炎は、紫の炎がそのまま真っ黒な炎を喰らい尽くした。
「馬鹿なッ、こんなことがあってたまるかァッー!!?」
黒炎を喰らい尽くした紫の龍は勢いを失うことなく、そのまま、ドン・ドゥーベンを斬り裂いたのだった。
◇
囂々と紫の炎が燃え上がる。
〝天羽々斬〟を食らったドン・ドゥーベンは壁に激突し、倒壊した瓦礫の中で蠢いていた。
「まだだ……! まだオレは負けん……! こんなとこらで、終わる男ではないのだ……!」
身体中を切り傷と火傷、そして何よりいまだに身体を焼こうとする紫の炎に苛まれながら、ドン・ドゥーベンは這いずりながらも立ちあがろうとする。その最中、埃が舞う中で人影が現れた。
「ほっほっ、手酷くやられたようですナ?」
「貴様は……! アルヴィオス!」
そこに現れたのは、アルヴィオス伯爵。
もはや死に体のドン・ドゥーベンとは対照的に、無傷でドン・ドゥーベンを見下ろしている。
「どこに隠れていた……! 他の者たちも戦っているのに、貴様だけ優雅に観客気取りか……!?」
「おーおー、ひどい言われようですナ。ですが、余は初めに言いましたヨ? 魔法少女たちを集め、〝呪負具〟を手に入れる代わりに、あなた方に戦いは一任するト。それを受け入れたのはどこのどなたでしたかナ? それに、最初は戦ってあげたではないですカ」
「ぐっ……!」
苦々し気に唸るドン・ドゥーベンに対して、アルヴィオス伯爵は余裕綽々で笑う。
「しかし、かの者が予想以上に強かったのも事実。すぐにここに来るでしょウ。貴方は彼に勝てなイ」
「だかは、力をあげますヨ? この船の人間たちから集めた負のエネルギーはまだある。なぜか思ったよりは集まってはおりませんが、それでも貴方を強化するには充分でス」
「……わかった、はやくしろ」
「ええ、ええ。もちろんですとも。さぁ、手を出してもらいましょうカ」
ドン・ドゥーベンがアルヴィオス伯爵の手を握ろうと差し出した瞬間。
「〝サイコール〟」
隠し持っていた五円玉に似たコインに紐を通した催眠具を、見せた。
ぐわん、と頭に直接響くような感覚が
「き、さまな、にを……!?」
「ほっほっほっ、あなたの力は、われわれ《ディスナンド》の中でも上位に位置すル。普通であれば、余の力もあなたに通じないでしょウ。えぇ、あなたが
「貴様、最初からぁ……!」
憎々し気に睨むドン・ドゥーベン。
なんとかアルヴィオス伯爵を殴ろうと動かすが、次第に動けなくなる。やがて、電池が切れた人形のようにドン・ドゥーベンは動かなくなる。
アルヴィオス伯爵は満足気に頷く。そして、人々から集めた負のエネルギーをドン・ドゥーベンに渡しながら命じる。
「さてさて、あなたに命じまス。持てる力、その命の全てを使って
「仰せの通りに」
その言葉を受けたドン・ドゥーベンが、自らの両手に黒い炎を灯した。そして、そのまま自らの身体に着火する。
それは《スター⭐︎トゥインクル》における最後の奥の手。
燃え盛り、ムラサメの紫の炎すらかき消す黒い炎の強さに、苦悶の声をあげると共に力を増していくドン・ドゥーベンを、アルヴィオス伯爵は満足げに笑いながら踊る。
「魔法少女も《セブンスター》もイレギュラーも全員この海で沈むが良いですヨ! そうすれば、もうこの町で邪魔者はいなくなル! 余こそが、これからの《ディスナンド》を率いる存在! どれだけ力があろうとも関係なシ! 結局勝つのは
「ウヴォォォォッッッ!!!」
ダークネスの身体が黒い炎に包まれる。それを見たアルヴィオス伯爵が姿を隠す。
身体中を黒い炎に包まれたドン・ドゥーベンが、大きく咆哮した。
「みつけた。あとは──」
《主様、離れよ! ワガハイの炎が掻き消されとる上に、奴の力が増しておる!》
そこに現れた八雲。ムラサメの警告も虚しく、姿の変わったドン・ドゥーベンが拳を振りかざす。
「
瞬間、凄まじいまでの炎の熱と衝撃が豪華客船を襲った。
◇◇◇
「着いた!」
「ここのようね。確かに《ヤミノマ》の強い気配を感じる……!」
ドン・ドゥーベンとフェックを無頼たちに任せて操舵室に辿り着いたサンシャインとオーロラミスト。そのまま扉を蹴破り、中に侵入する。
「あんらぁ〜? 随分と可愛らしい侵入者ねぇん。どうやってここがわかったのかしらぁん?」
そこにいたのは《セブンスター》の一人、ミザリィーン。
ぷるんとした唇に、カールがかったまつ毛。やたらと厚化粧な顔と、一度見たら忘れられないインパクトに満ちていた。そして、二人は別の意味で驚いた。
「てんちょーの親戚!!?」
「きゅぅ……」
「あぁ!? だめだよ、オーロラミスト! おきて!」
喫茶店の《スター⭐︎ゲイザー》の店長ミッチェルと似た風貌に衝撃を受けた。
特にミッチェルによる
その間もやたらとクネクネとミザリィーンは、身体をくねらせる。
「やだもぉ〜、あたくしの美貌に見惚れちゃったのかしらん? いやだわぁ、美しさって罪ねぇん。だ、け、ど。ここに来ちゃったからには、ただで返す訳にはいかないのよねぇん。だってぇ、あなたたちの狙いはこれでしょう?」
ミザリィーンの側、豪華客船の舵を取る舵輪にまるで心臓のように鼓動する巨大な黒い塊がへばりついていた。
見ただけで二人はわかった。あるが豪華客船の《ヤミノマ》の核だと。
「あれを壊せれば……!」
「えぇ、この船はもとに戻るはずです」
「いやぁ〜ん、怖いわぁ。そんな顔しないでよん。悪いけども、これを壊させる訳にはいかないわぁん。それにあなたたち、わかってないでしょ? 核が近いってことは、それだけ強い《ヤミノマ》も出せるってことよ」
《ヤ〜ミ〜ノ〜マ〜!》
ミザリィーンが投げキッスすると同時に、《ヤミノマ》が出現する。
それを見た二人が拳を構える。ミザリィーンは、幼子の抵抗を見るような目で笑う。
その時、突然響き渡った衝撃に両者とも転けそうになる。
「わ、わわわ、なにこの揺れ!?」
「
《ヤ、ヤミノマァァァァッッッ!!?》
驚いたサンシャインとオーロラミスト。そして一体化しているが故に、モロに被害を食らった《ヤミノマ》が苦痛の大声をあげた。
「なによぉ、この揺れぇぇぇ!? ドン・ドゥーベンはなにしてるわけぇ!? あたし達ごと殺すつもりぃ!?」
ミザリィーンが、混乱したように大声をあげた。
「ダメだ、ここから離れることは許さんぞ!」
「だ〜か〜ら〜、他の人々も探しにいかないと。他に助けを求めている人がいるかもしれないし」
「はやくしなければ《ヤミノマ》にどんな目に遭わされるか、わかりませ……なんですのこの揺れはぁ〜ッ!!?」
「これは……なるほど。奴らそういう手を打ってきましたか」
それは黒井に足止めされるファイネルとエクレールに伝わった。大金持もまた、狙いを悟り眉を顰める。
「この揺れは一体……!?
そして一人孤軍奮闘するアネモスにすら感じ取れた、衝撃。
「なんで誰も来ないのよ! むきぃ〜! うきゃうっ!?」
ついでに魔法少女が来ると思って放送室で待っていたメスレスも、揺れによって転けた。
この豪華客船に乗る者全てに伝わった衝撃。
その中心であるドン・ドゥーベンは、身体を黒い炎に包まれながらも八雲と対峙する。八雲もまた、様子の変わったドン・ドゥーベンを油断なく見据える。
「さぁさぁ、あと何分で沈みますかなぁ? ほっほっほっ」
唯一アルヴィオス伯爵だけが余裕そうに嗤う。
ここまでの流れは、無頼というイレギュラーがあったものの、おおよそアルヴィオス伯爵の予想通りであった。そして今日、邪魔者は全て消される。アルヴィオス伯爵は、自身の計画が問題なく進むことにほくそ笑むのだった。
『……へぇ、そういうことか』
それが鏡の中から見られていることに気づかずに。