魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
「ウヴォォォォッッッ!!!」
咆哮が響き渡る。
聞く者全てを震えあげさせる怨嗟に満ちた声だ。その声の主は、ドン・ドゥーベン。だがその姿は大きく変わっていた。全身を黒い炎が纏い、まるで炎の魔人のような姿になっていた。
あの姿を俺は知っている。ドン・ドゥーベンの第二形態だ。
この姿で、かつて魔法少女たちを一度壊滅寸前まで追い込んでいる。その力は単純明快、ただただ己の肉体を糧に黒い炎の火力を上げるという奥の手だ。ただし、あれを使えば最後、自身の命までも燃え尽きる諸刃の剣だ。
それを今使ったのか!?
「〝ターミ・ガン〟ッッッ!!!」
威力を増した黒い炎でできた弾丸の嵐。
躱すことは……できないッ!
あれを放置したら船内に穴が開く! そうなれば、待っているのは沈没だ。今の時期は五月。冬ほどではないとはいえ、海はまだ冷たい。海に落ちたらただじゃ済まないだろう。そもそも、救命ボートすら《ヤミノマ》がいる現状乗ることは難しい。
待っているのは、船内に閉じ込められたままの全員溺死だ。
「〝禍災烈祓〟ッ!!!」
その場で大きく火柱を上げ、黒い炎を相殺する。
完全に防ぐのは不可能。なら、貫通しない程度に黒い炎を弱める……!
試みは成功。
〝禍災烈祓〟によって生じた炎の壁が、黒い炎を弱めた。だが、代わりに俺はその場に足を止めてしまった。
「ぬぅぅぅらあぁぁぁッ!!!」
「ぐぅっ!?」
《主様!!?》
接近したドン・ドゥーベンに殴り飛ばされる。
そのまま船室の外壁に激突し、衝撃に息を詰まらせる。
ま、ずい。はやく、体勢を整えないと……!
だが、ドン・ドゥーベンは俺を追撃せずに、なぜか豪華客船そのものに攻撃を加えていた。そこら中で黒い炎が燃え上がり、船が衝撃で揺れる。
「ぐっ……正気か!? 豪華客船そのものを沈めるつもりか!?」
《いや、主様よ。どう見てもアレは正気じゃなさそうじゃ》
ムラサメの言葉に唸る。
確かに妙だ。
ドン・ドゥーベンは野心こそあるが《セブンスター》の面々をそれなりに気にかけてはいた。そうでなければ、嫌味を言いながらも敗北し、トドメを刺されそうになっていたメスレスやミザリィーンの前に現れたりしない。
「ブヒィィィッ!!? し、死ぬダスゥッ!? ドン・ドゥーベン! このままじゃ、みんな海の藻屑ダスよぉ!?」
「あぶなっ。あついっ、尻尾の先焦げた……! カーバンクルのらぶり〜ちゃ〜みぃ〜な尻尾が……!」
それが今、仲間などどうでも良いとばかりに船そのものを攻撃している。
「全員、死ね。船、を、沈める。それ、が、使命……ッ!!!」
しかもあの言動。
俺を無視してとにかく豪華客船を攻撃することといい、様子がおかしい。ドン・ドゥーベンらしくない。
そして、らしくないということは──何者かに強制されている可能性が高い。それをできる人物は、この船に乗っている。
「アルヴィオス伯爵か?」
『その通りだよ、マイスター』
「ミスティリア」
姿を全く現さないアルヴィオス伯爵。その技である〝サイコール〟。あれで操られているのではないか。そう考えていると、肯定するようにミスティリアからの連絡が入った。
『どうやらアルヴィオス伯爵は、《セブンスター》まで始末するつもりみたいだね。あの男を利用して、他の幹部連中、魔法少女、そしてマイスターも全員、豪華客船ごと沈めて殺すつもりだよ』
「そうか。嫌な予感が当たってしまったな」
『ボクも出ようか? 《ビックスリー》の守護する乗客以外は全員、もう鏡の世界に入れて、安全な陸地の方に放り出したよ』
「いや、いい。それよりも、ミスティリアはアルヴィオス伯爵を頼む。おそらく奴自身はそんなに強くない。だがその催眠能力に対抗できるのは君だけだ。奴を任せる。君が受けた屈辱、きっちり返してやれ」
『……! うん、わかったよ! ……はっ、ごほん。あぁ、任された。《怪盗》の華麗なる技、見せてあげよう』
気取ったようなセリフを言うミスティリアに、笑いそうになりながらすぐにドン・ドゥーベンの方を見据える。
「ドン・ドゥーベンは俺が倒す。ムラサメ、
《ほう? 承知した》
ムラサメが面白そうに声を響かせた。
俺は痛む身体を押して立ち上がる。
「認めるよ、お前の黒い炎。どうやら炎の強さだけなら、ムラサメよりも上らしい。自身の命すら薪にして燃え上がるその力、見事だ」
正直、ムラサメの紫の炎に勝る炎があるとは思いもしなかった。あるとしても、それはダークネスだけだと思っていた。
だが現実は見ての通り、ムラサメの炎ではドン・ドゥーベンを焼くことができない。
だから発想を変える。
あの炎が強過ぎてムラサメの炎が通じないのであれば、
刀身を鞘に納める。
そのまま腰を落とし、構えると同時にムラサメの白い鞘が光り輝く。ドン・ドゥーベンの凶々しい黒い炎とは違う、優しく包み込むような白い光。
《こっちの力を本格的に使うのは久しぶりじゃのう。先の《ビックスリー》には、わずかに使っただけじゃったし》
「あぁ、その通りだ。
《かかっ。良いじゃろう。相手は《セブンスター》のリーダー、相手にとって不足なしじゃ!》
その言葉と共に、白き光が鞘から溢れ出す。
凶々しく燃え盛る黒炎へ向けて、俺はムラサメの鞘を突きつけた。
「ドン・ドゥーベン! 俺は此処にいるぞ! 放っておくだなんて、つれないじゃないか!」
わざとらしく大声をあげる。
奴は今メインマストを破壊したところだった。メインマストが落下した影響で、豪華客船が大きく揺れる。早くしなければ、ほんとうに豪華客船を沈められる。
「だ、まれェッ……! オレは、豪華客船を沈めねば……、いや、《セブンスター》を虚仮にしたアイツを先に、だ、が、命令を……!」
顔を歪めながら、呟く。
どうやらアルヴィオス伯爵の催眠と自意識がぶつかり合っているようだ。なら、もう一押しか。
「おいおい、
「う、ぐぅぅぅ、貴様ァァァァッッッ!!!」
猛り吼えながらドン・ドゥーベンがこちらに向かってきた。
その拳には、黒い炎が渦巻いている。当たれば即死を免れない一撃を、俺は紙一重で躱すと同時に、奴に向かってムラサメを振るう。奴は片腕で防いだ。
「この程度で、オレの黒い炎をどうにかできるとでも?」
簡単に防げたことに、笑みを浮かべるドン・ドゥーベン。
しかしすぐに怪訝な表情をした。俺の攻撃を防いだ腕。そこが何故か白く光っている。それだけじゃなく、明らかにその部位だけ黒い炎の勢いが落ちていた。
「貴様、何をしたッ!?」
「答える必要があるのか?」
「減らず口を……! ならばすぐに殺してやる!」
反対の腕から業火が迸る。
振るわれる剛腕を、身体を反らし躱すと同時に次は胴体に攻撃を加える。胴体にも、白い光が灯った。
〝魂津罪〟。
攻撃を加えた箇所から、対象の力を封じるムラサメの力。ただし、殺傷能力はない。本当にただ封じるだけだ。
ドン・ドゥーベンは、操られている影響でまともな判断をできていない。
とはいえ、俺も無傷という訳にはいかない。
かつて《ビックスリー》相手に使った〝天津罪〟は、遠距離からも相手を封じられる。その代わり、拘束力は弱く、効果時間も短い。今の状態のドン・ドゥーベンでは、すぐに破られてしまう。
対して〝魂津罪〟は、拘束力も持続時間も〝天津罪〟を大きく上回る。だがその代わり、直接相手の身体に攻撃を当てなければならない。
時折、奴の拳や黒い炎が掠め、その度に傷が増え、火傷が刻まれていく。そもそも近づくだけで、その熱量から結構体力を奪われている。
いや、ほんとうによく《スター⭐︎トゥインクル》じゃ焔ちゃんと澪はコイツに肉弾戦を挑めたな!? 『魔法少女マギアイリス』では、シリーズが進むにつれて魔法少女にも様々な特殊能力が追加されていくが、二人は必殺技以外は全てステゴロで戦い、勝利している。
あまりにも暴の者過ぎる。普段の二人には、そんな要素微塵もないんだけどな。
ドン・ドゥーベンの攻撃を紙一重で躱し、逆に俺の攻撃を与えていく。まるで舞いのように戦いながら。それでも火傷を負いながら、俺は〝魂津罪〟で奴の力を封じていく。
右肩、左肩。
右足、左足。
腰、腹、首、額、背中。
次々とドン・ドゥーベンの力が封じられていく。
比例して、燃え上がる黒い炎が弱まっていく。
「ウヴォォォォッッッ!!!」
ドン・ドゥーベンが叫ぶと共に今出せる最大火力で辺りを薙ぎ払った。流石に躱しきれないので、ムラサメを盾にする。なんとか相殺して、吹き飛ばされるだけで済んだ。
ドン・ドゥーベンもまた、先ほどまでとは比べものにならないほど炎が弱まり、肩で息をするほどに追い込まれていた。
《主様よ、そろそろいけるぞ》
「わかった」
ムラサメの言葉に、俺は次の手を打つ覚悟を決める。
ドン・ドゥーベンは自らの身体にいくつも灯る白い光を見て、唸った。
「違う……、これは、この力は……ッ!?」
「ドン・ドゥーベン。お前は強いよ。《セブンスター》の中でもっとも。だからこそ、アルヴィオス伯爵も搦め手でお前を手駒にしたんだろう。その点は哀れに思う。だけど、お前は倒す。此処で、この一刀で」
さっきは仕留め損なったから、アルヴィオス伯爵に付け入る隙を与えてしまった。
ならば今度は、隙を与えない。
ドン・ドゥーベンの力は、先ほどよりも格段に落ちている。ムラサメも、これならいけると判断した。
この一刀、この一振りでヤツを倒す。
炎は十分に弱まった。だが、〝鬼祓門〟ではまだ足りない。
ムラサメの紫の炎。
それを全て圧縮していく。熱量も、破壊力も、爆発力も何もかも。ただ、斬るという一点に力を集中させていく。鞘で抑え込んでいるのにわかるほど、マグマのような莫大なエネルギーが内部で渦巻いている。
俺はドン・ドゥーベンを見据える。
奴は俺を見ていた。その顔は恐怖でも怒りでもなく、驚愕していた。
「その、白い光ッ……! 何故だ、何故貴様が
「〝八咫断〟」
言葉は最後まで続けられなかった。
全てを切断する一刀が、奴の身体を真っ二つに切断した。
ただただ斬ることに特化させたその威力は、ドン・ドゥーベンのみならず
雲が断たれ、その裂け目から月光が差し込む。照らされたムラサメの刀身は、普段の刀身が変化し、波紋が炎の形をして蠢いていた。
「ば……かな…………」
ドン・ドゥーベンはそれだけを呟いて、真っ二つになった身体が燃え上がった。そのまま刀身へと吸い込まれていく。
「ドン・ドゥーベン!!? そんな、そんなことあり得ないダス! また、オラは仲間を見殺しに……!」
「隙だらけ、〝めちゃつよパンチ〟」
「ダスゥ〜〜〜!!!?」
残った《セブンスター》のフェックも驚いている隙に、寧々子によって大きく吹き飛ばされた。夜空に飛んでいき、そのまま星となって消えた。
「かはっ、す〜はぁ〜、す〜はぁ〜……っ!」
《大丈夫か、主様!》
膝をつき、ムラサメを地面に突き刺して支えにしながら息を整える。
〝八咫断〟は、ムラサメの持つ力の全てを〝斬る〟ことだけに注ぎ込む一撃必殺の技だ。生半可な防御では、その一刀を受け止めることはできない。そして力は、絶大であると共に俺の体力と気力を根こそぎ持っていく。
現に今の俺は疲労困憊、腕も震えている。まともにムラサメを振るうのは、もう無理だろう。
だが、まだ倒れる訳にはいかない。まだ敵はいる。
「ほっほっほ、お見事でス。まさかドン・ドゥーベンを倒すとハ。おかげで、計画が台無しでス。ほんとうに……よくもやってくれましたネ、イレギュラーが」
満身創痍の俺を見て、アルヴィオス伯爵が姿を現した。