魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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モノクローム

 

「ほっほっほ、よくもやってくれましたねェ。おかげで計画が台無しではないですカ」

 

 疲弊している俺の前に、アルヴィオス伯爵が現れた。

 苛立たしげに、何度も杖を甲板(デッキ)に叩く。ガンッ、と彼の心境を表すように音が鳴った。

 

「それは、残念だったな。そもそも、計画自体に穴があったんじゃないか?」

「ふんっ、生意気ナ。どうやラ、《ヤミノマ》もやられたようですシ。全く何が、《セブンスター》ですカ。とんだ無能集団ではないですカ」

 

 その言葉に、俺は焔ちゃんと澪が《ヤミノマ》の核を破壊したのだとわかった。ドン・ドゥーベンが豪華客船を沈めようと、何度も攻撃を加えていたから《ヤミノマ》も大変だったろうな。

 

 そう考えると、ドン・ドゥーベンのおかげで《ヤミノマ》を倒せたとも言えるのか。

 

「どいつもこいつも不甲斐ない。ヨが立てた完璧なる計画を満足に遂行できないとはァ! 不愉快極まりなシ! だぁがぁ? 何も問題はなイ。《ヤミノマ》なんぞ、いくらでも生み出せル。それも、先ほどよりも強力なのをですヨ」

 

 懐から取り出したのは、黒い宝石──〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟。

 

「魔法少女も《セブンスター》も、全てこの場で始末すル! ですが、その前にイレギュラーは排除せねバ。そちも、そろそろ限界なようですネ?」

 

 アルヴィオス伯爵が俺を見る。

 醜悪に、歯を剥き出しにしながら嘲笑う。

 

「忌々しいイレギュラーめ! 余が命ずる! いますぐに自害せよ!」

「ボスッ!」

《主様ッ!》

 

 〝サイコール〟を唱えるアルヴィオス伯爵。寧々子が焦ってこちらに来ようとする。ムラサメも俺の名を呼んだ。

 

 だけど、問題はない。

 

 アルヴィオス伯爵には、仲間がいない。

 

 だが、俺には──仲間(・・)がいる。

 

「〝ミラーリング〟」

「ほっ?」

 

 不意に。

 

 アルヴィオス伯爵と俺の間に何かが落ちて来た。

 それは一枚の手鏡。そして映るのは、伯爵。それはそのままアルヴィオス伯爵の催眠を跳ね返した。アルヴィオス伯爵自身の戦闘能力は低い。それは、自身の催眠を極めたが故に、皮肉にも本人自身がその催眠への耐性を持っていないほどに。

 

 アルヴィオス伯爵の手に持つ杖の先が、喉へと近づく。

 

 それを見て、初めてアルヴィオス伯爵の顔が恐怖に歪んだ。

 

「待て」

「因果応報。なんて、ありふれた言葉がある。鏡は嘘をつかない。映したものを、ただそのまま返すだけだ。この世に鏡ほどの正直者(・・・)はいない」

「余、余がこんな」

「人は鏡を見て、自分の姿を知る。なら君も最後くらい、自分が何をしてきたのか、その身で確かめるといい。それでも抵抗するならば、ボクが命じよう。──その場で自害せよ」

「こんなところでぇぇぇ!!!」

「オール・ヴォワール(さようなら)」

 

 己の最も得意とする催眠に、己自身がかかったアルヴィオス伯爵はそのまま自らの胸を貫いて自死をした。

 

 彼女の舞台を利用し、軽んじ、最後まで眼中にすら入れていなかったミスティリアにアルヴィオス伯爵は最後の最後に出し抜かれた。

 

 その様子を見るミスティリアは、背後の月光に銀髪や格好もあり、一枚の絵画のようだった。彼女は甲板(デッキ)に転がった〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟を拾い上げると、それにそっと口付けを落とす。

 

「ふっ、〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟は確かにいただいたよ。……それで、どう!? ねぇ、どうだい!? 今の決め台詞。めちゃくちゃ決まってなかった!?」

「あぁ……かっこよかったよ」

 

 すぐさま、いつものミスティリアに戻ったことに苦笑するのであった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

《ヤ、ヤミノマ〜……》

『あんらぁ〜! これはもう無理ねぇ。撤退よ、撤退ぃ〜!』

『あたしなにもしてないんだけど!? むきぃ〜! おぼえていなさい!』

 

 度重なる揺れの中、隙をついたサンシャインとオーロラミストは何とか《ヤミノマ》の核を破壊。それを見たミザリィーンと、ついでに来て早々に決着がついてしまったメスレス、両名ともその場から姿を消す。

 

 それを見届けたサンシャインとオーロラミストは、すぐさま甲板(デッキ)へ戻るべく走っていた。

 

「はぁ、はぁ、急がないと!」

「えぇ、さっきの戦闘音は甲板(デッキ)から。きっとドン・ドゥーベンの仕業よ、あれだけの威力、無頼さんであろうとも無事であるかどうかは……、はぁ、はぁ、あ、まって! だから、置いていかないでって!?」

 

 息が上がりながらも、二人は甲板(デッキ)へと辿り着く。

 そこで見たのは、先ほどまでの戦闘を物語る様々な破壊痕に、不自然に雲が両断され月が見える夜空。

 

「おや、戻って来たのかい? 流石は《ダークドリーム》を退けた魔法少女だね。いや、それじゃ味気ないな……二人の(・・・)オーレオール(・・・・・・)と呼んだ方が良いかな?」

 

 そして、姿を現さなかったミスティリアがそこに居た。

 

「あなたは、ミスティリア!? 今までどこにっ?」

「それを答える必要はないかな。何せ、決着はもうついた」

 

 ピンッ、と手に持つ〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟を宙へと打ち上げる。

 

 するとそこに紫色の焔が迸り、〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟を焼き尽くした。そして、その紫の炎が尾を引いて一箇所に戻っていく。

 

「あの炎は……まさか!」

「無頼さん……!」

「そちらもうまくやったようだな。こちらも、ドン・ドゥーベンは始末した」

 

 その先に居たのは、当然のごとく無頼であった。至る所に傷を負いながらも、確かに二本足で立っていた。ドン・ドゥーベンを倒したという言葉に息を呑む二人。

 

 そこへ魔法少女カーバンクルが隣に音も無く着地し、ミスティリアは当然のように反対側へ佇む。そしてその中心には、当然とばかりに無頼が佇んでいた。

 

「やりましたわねぇ〜! 《ヤミノマ》が姿形もなく、さっぱり消え去りましたわぁ〜。悔しいけれど、あなたたちのおかげで……『影なき死神(ペイルライダー)』!?」

「わぁ〜、辺りめちゃくちゃ。損害賠償いくらになるんだろうこれ」

「なぜあなたがここに……! それに《怪盗》も一緒に居るなんて!」

 

 そこに《ビックスリー》が現れる。

 豪華客船に変貌した《ヤミノマ》が倒されたことで、乗客たちの危機がなくなり、サンシャインとオーロラミストを援護すべく現れた。

 

 今まで、サンシャインたちは無頼を一個人にすぎないに過ぎないと思っていた。

 

 でも違う。

 

 あれは組織だ。それも魔法少女すらメンバーにした。

 

「カブトムシのふたり、思った以上に、つよくなったね。カーバンクルもびっくり。でも戦えばカーバンクルの方がつよつよだから。さっきも、《セブンスター》の一人をぶっ飛ばしたし。ちょーし乗ったらだめだよ」

「カーバンクル……! あなたも、《セブンスター》を倒したのですね」

「うん、ぶっ飛ばしたしだけだけど」

 

 オーロラミストの問いに、頷くカーバンクル。

 そして、決意を秘めた瞳でサンシャインが一歩前に出る。

 

「教えてください! あなたたちは、何者なんですか!? どうしてあたしたちを助けてくれたり、《ディスナンド》とも争っているのですか!?」

 

 そう、それはかねてからずっと思っていたことであった。

 

 魔法少女しか《ディスナンド》に対抗できないこの世界で、男性でありながら敵に通用する力で戦うことができて。

 

 魔法少女に対して友好的であると思えば、事情を教えてもらうことを頑なに拒み、魔法少女と戦うことも辞さないなど。

 

 行動原理が見えてこない。

 

 でも少なくとも、《ダークドリーム》で庇ってくれたからこそ、味方だとは思いたい。サンシャインとオーロラミストはそういう思いから、逆に無頼にしてやられたファイネルとエクレールは警戒するように、アネモスはその心理を見極めようと、全員が無頼を見る。

 

「……それは」

「ふふふ、何者かを問うなんてナンセンスだね。

 

 代わりに口を開いたのは、ミスティリアであった。

 無頼は、ジッとミスティリアを見た(「え? 何言ってるの?」)。

 

 その間もミスティリアは演者のように、一挙一動に洗練された動きをしながら、シルクハットのつばを指でつまみ、その整った顔を魔法少女たちへと向ける。

 

「ボクらは〝モノクローム〟。穢れを知ることのない正義の白(魔法少女)でも、何者にも染まらない悪の黒(ディスナンド)でもどちらでもない、灰色(モノクロ)さ。また会おう、魔法少女たち。今宵のショーは、これでおしまいだよ」

 

 指を鳴らす。頭上に出現した大きな鏡が光り輝く。

 

 ミスティリアが鏡に触れ、あたり一面が光に包まれ──気づいた時には、無頼たち全員がいなくなっていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ミスティリアの力によって船上から消えた俺たち。

 

 ここは、鏡の中の世界。

 

 誘われた者以外は決して入ることのできない聖域。

 

 豪華客船が《ヤミノマ》そのものと化した際に、ミスティリアは乗客の一部をこの世界に避難させたが、その後別の鏡を介して豪華客船外に放り出したため、今俺たち以外には誰もいない。

 

 そんな鏡の世界の支配者であるミスティリアはというと。

 

「いひゃいいひゃいいひゃい〜!」

 

 絶賛、ムラサメと寧々子によって責められていた。

 

 寧々子がミスティリアの背中に乗っかって、顎を両手で掴んで後ろに引っ張り、ムラサメがげしげしと素足でミスティリアのお尻を蹴る。

 

「おいコラ、でか尻怪盗(・・・・・)が。いつからお主が組織の首魁になったのじゃ? ん?」

「だってだって!? あんなの絶好の名乗りポイントだったじゃないか!? あそこで名乗らずいつ名乗るって言うんだい!? あ、やめて! お尻蹴らないで! 破けちゃう!」

「ボスを差し置いて、自分が中心ですって顔で名乗っているのむかつく」

「あぁぁぁ! ごめっ、ごめんって! だからキャメルクラッチはやめておくれぇっ! いたいよぉ、いた、いたいんですぅ〜!」

 

 とうとう、わんわん泣き出したミスティリア。

 話し方が魅夜に戻っている。ムラサメと寧々子は、俺を差し置いて勝手に仕切った上に組織名まで決めたミスティリアに大層ご立腹であった。

 

 しかし、当の俺はというと。

 

「……センス良いな」

 

 〝モノクローム〟。

 

 白と黒、その両方を内包する言葉

 

 魔法少女(白)でも、《ディスナンド(黒)》でもない、俺たちの立ち位置を表すのにうってつけの言葉だ。流石ミスティリア、芸術品の造詣が深いだけに、知識も豊富だ。

 

 うってつけの名前を考えてくれた。

 

「どの道、組織名は必要だった。〝モノクローム〟……いいじゃないか。この際、ミスティリアが名乗ったその名前でいこう」

「だよね!? 流石はマイスター! 話がわかる!」

「え〜……」

 

 ミスティリアは嬉しそうだが、寧々子は不満そうだった。

 呆れた様子で見ていたムラサメだが、ふとこちらを見る。

 

「……ちなみにじゃが、主様はどのように名乗るつもりじゃったんじゃ?」

「ん? 〝ジャスティンガー〟だが」

 

 正義(ジャスティス)の一撃(スティンガー)を掛け合わせた言葉だ。語呂も良いだろ?

 

「主様って……ネーミングセンスが小学生じゃな」

「ぐっはぁぁぁ!!?」

 

 俺が正論の一撃(・・・・・)を喰らった! 

 

 その場に崩れ落ちる。ムラサメが、阿呆を見る目で俺を見てきた。

 

 し、仕方ないだろう!? 前世中学生だぞ、俺は!

 

 ネーミングセンスが幼くても仕方ないじゃないか! 俺はかっこいいと思ってるんだからさ!

 

 ひ、光莉! 

 

 助けて光莉! みんなの冷たい視線に、おにいちゃん心が折れそうだ!

 

『え〜、なにその名前〜。おにいちゃんセンスな〜い』

 

 前世で光莉と遊ぶ際に人形に名前をつけようとした時に、言われた言葉を思い出した。

 

 だめだ、心が砕けた。

 

 最愛の妹に、あんなこと言われて当時半日寝込んだのを思い出した。

 

 俺はがっくしと肩を落とす。

 

「と、ところでムラサメ。ドン・ドゥーベンと〝夜天の宝石(ノクターン・ジュエル)〟を喰らったわけだが、調子はどうだ?」

「ん? すこぶる快調じゃぞ! なんなら、今からもう一戦やっても良いくらいじゃ!」

「俺の方が限界だから勘弁してほしいかな」

 

 苦笑いする。

 

 〝呪負具〟に《セブンスター》という大物を喰らったことで心配したが、ムラサメは至って好調だと語る。

 

 とはいえ、心配は心配だな……。

 

 近々歌音(・・)に会って、歌ってもらうとするか(・・・・・・・・・)。ん、いや、だが、ムラサメと歌音はなぁ……。

 

 ちょ〜っと、相性(・・)が良くないんだよなぁ。

 

 って、そんなこと考えている場合じゃなかった!

 

「ミスティリア、申し訳ないんだけど、また俺たちをあの船に戻してもらえるか? 俺と寧々子がいないと分かったら、色々と面倒が起きる。あと、大金持も無事か確認しないと」

「なら先に無事じゃないボクを助けてくださいぃ! あ、やめて! 二人ともお尻は叩かないで!」

「いーや、ダメじゃ。勝手に名乗った分、尻で責任を取るのじゃ!」

「ん。ボスより目立った。重罪。お尻ぺんぺんの刑」

「ひゃあんっ!!?」

 

 泣きながらミスティリアが助けを求める。

 

 もっとも、寧々子とムラサメも、本気で怒っているわけではなく、楽しそうにミスティリアを弄っていた。ミスティリアからすればたまったものではないだろうが。

 

 ……まったく。豪華客船を沈めようとした《セブンスター》の企みを砕き、映画ボスのアルヴィオス伯爵まで倒した直後だというのに。

 

 どこまでも締まらないなぁ。

 

 ま、これはこれで俺たちらしいと言えば、俺たちらしいか。

 

 そう思いながら、俺は小さく笑うのだった。

 

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