魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:火星人マーズ
side:焔
《ヤ、ヤミノマー!!?》
大きな声と共に、《ヤミノマ》が爆散する。
そのまま小さな黒い塊がたくさん四散して、どこかに散っていく。何度か見る《ヤミノマ》が取り憑いた対象が破壊されると、あぁやって《ヤミノマ》たちは小さくなってどこかに散っていく。何度か見た光景だった。
「ふぅ、やったねみ……オーロラミスト!」
「はぁ、サンシャイン。あなたねぇ」
「わぁー! わかってるわかってるよー! だから、怒らないで!」
思わず名前を言っちゃいそうになって慌てて誤魔化す。うぅ、みおみおの冷たい視線が痛い……。
「まったく、今回だってサンシャインの機転があってモノよ。どうして、そっちの方はゆるいのですか」
「いゃぁ〜、あはは。でも、オーロラミストが注意を引いてくれたおかげだよ! ありがとう!」
今回の《ヤミノマ》は最近オープンした新しいデパートを広告するアドバルーンが変化したものだった。
ふわふわと浮いて、しかも上空から一方的に攻撃してくる。みおみおが注意を引いてる隙に、あたしはなんとか《ヤミノマ》を地面に落とすことに成功して倒せたんだ。
これで今回もだれも傷つかず終われる。よかった。
「あれ、おかしいなぁ?」
「えぇ。〝
そう思っていたのに。
いつまで経っても、〝
いつもなら《ヤミノマ》を倒せば直ぐに元の青空に戻るのだが、今回はいつまで経っても戻らない。
嫌な予感に、あたしたちは警戒する。
「ホッホッホ、お見事デス! 《ヤミノマ》を倒すとは! いやはや、やはりこの町の魔法少女は質が高い!」
「だれ!?」
響き渡る笑い声。
現れたのはまるで卵みたいな体型に、やたらと手足の長い人間ではない奇妙な人物だった。
「いやはや、失礼つかまつる。わたくしは、ダークネス様の忠実なる僕、《トライデント》の一人、アクラーツと申します」
慇懃に帽子をとりながら、礼をするアクラーツと名乗る怪人。
普段であればお辞儀を返すけど、聞き捨てならない言葉があった。
「ダークネスって?」
「左様。我らが《ディスナンド》の首魁でございます。数多の星を闇に包み込んだ暗黒の帝王! この星を闇に包み込むべく、《ヤミノマ》を遣わせました」
「それは、つまり今この世界を攻めている首魁ということ?」
「その通りでございます!」
つまり、今の世界がひどいことになっている元凶。
その手先だという相手に、あたしたちは警戒を露わにする。
「本来であれば容易く制圧できたはずが、魔法少女とかいう存在のせいで《ヤミノマ》たちは思ったほど負のエネルギーを集められていない。全くもって忌々しいですな」
「なら、諦めてもらいたいのだけれども?」
「そうそう! さっさとこの世界から出ていって!」
「ホッホッホ、ご冗談を! 我らが宿敵の魔法少女。それも消耗している。ならば、このチャンス、見逃すバカはいないのデス! いでよ! 《ヤミノマ》よ!」
アクラーツが杖を向けると同時に黒いモヤが発生する。思わず身構える。
けど黒いモヤはあたしたちの方じゃなくて、吸い込まれるように近くにある売り物の家電用品へと取り憑く。
《ヤミノマーッ!》
「《ヤミノマ》!? また出たの!?」
「しかも先ほどよりも強い気配……!」
「さぁ、やっておしまい! にっくき魔法少女を倒すのデス!」
アクラーツが笑う。
まさかの連戦。
《ヤミノマ》も毎回やっと倒しているあたしたちにはあまりにも困難な状況。
しかし、あたしたちは諦めなかった。
なんども打ちのめされたけれど、励まし合って立ち上がる。
「今よ!」
「これで決めるッ! はぁぁぁぁッ!!!」
《ヤ、ヤミノマーッ!!?》
そうして遂に2体目の《ヤミノマ》を倒した。
「はぁ、はぁ、へへーん! どぉーだぁ! やっつけてやったぞぉ!」
「その格好で言っても説得力が……ないわよ……ふぅ、ふぅ」
結構いっぱいいっぱいだったけど、なんとか倒すことができてよかった。
《ヤミヤミ……》
「ふん!」
《ヤミっ!?》
小さくなった《ヤミノマ》が、アクラーツのもとに集まるも彼はそれを踏み潰す。
「な、なにをしてるの!?」
「何って、処分に決まっています! 《ヤミノマ》とは絶望を与えるための道具! その為の役割がこなせなくなったモノなんぞ、単なる不良品に過ぎないのデスよ!」
「なんてひどい……!」
先ほどまで《ヤミノマ》を足蹴にするアクラーツ。その姿を見たあたしは驚き、みおみおも、顔を
「ふん! なんと言われようとも、必要なのは結果! 今回はここで退くとしましょう。デスが! 次こそは魔法少女を捕らえてその力をダークネス様に捧げてみせるのデス!」
「待ちなさ、くっ……!」
「もう、力がっ……!」
アクラーツが黒い杖を掲げる。
逃げられる。でも、疲弊したあたしたちじゃ止められない。
折角、敵の幹部が現れたのに。
どうしようもない無力感に包まれながら、あたしたちは見ることしか──
「悪いが、お前に帰る場所なんてない」
響いた、落ち着いた低い声。
気付いた時には、アクラーツの杖を持っていた方の腕が落ちていた。
「ぎゃあぁぁぁ!!? わ、ワタクシの腕がぁぁぁ!!?」
普通なら、そこから赤い血が溢れるだろうに、アクラーツの切り落とされた腕からは黒い粘液が吹き出るだけだった。やっぱり人とは違う生物なんだと、何処か他人事のように思う自分がいた。
「がぁぁ、ぐぅぅ……! 何者だぁ! 姿を現したまえ! 不敬ですよ!」
「不敬? はっ、普段は臆病者のくせに、悪知恵ばかり働いて、姿を現さない癖に手柄を立てようとする時だけ躍起になる貴様になぜ敬意を表する必要が? だがその軽率な行動のおかげで助かったよ」
右手には、紫色に光る刀を握っていた。ポタポタと、滴れる刃は今まさにアクラーツを斬り裂いたんだと、わかった。
「オ、オーロラミスト。あれって誰っ?」
「し、知らないわ。何者なの?」
それは歴史のお勉強で習っていた、武士が装備しているものに似てた。でも、全身をくまなく覆っている訳じゃなくて、日本刀を握っている側の腕や肩に限られていた。
顔には目元を隠すように仮面があった。それは古い言葉になるが──鬼武者を彷彿とさせる出で立ちだった。
それだけでも異様なのに、それを上回る衝撃があたしたちを襲う。
「お、男の人? な、なんで? 《ヤミノマ》には魔法少女しか対抗できないんじゃないの!?」
「正確には、あいつらの負のエネルギーに対抗できるのがミラクルパワーって、アネモスさんに聞いたわ。でも、あの刀からはそんな力は感じない。いや、それどころか、ミラクルパワーとは真逆の力を感じる……!」
そう、現れた人は完全に男の人だった。
出立ちも中々に怪しいけども、それ以上に男の人が《ヤミノマ》に対抗できることに、あまりかしこくないあたしの頭はパンクしそうになる。
その間にも、アクラーツは現れた男の人を睨みつける。
「ぐぬぅ、なんだこれはッ。傷が塞がらない。しかも、なんだ? なぜ、魔法少女でもないアナタがワタクシに攻撃できるのデスか!?」
「その答えを知ったところでどうする? 逃げるのか?」
「いいな、否っ! 魔法少女でないにも関わらず、それだけの力を持つ存在! 興味深い! 必ずや捕らえてみせようゾ! いでよ! 《ヤミノマ》よ!」
「これは……っ」
「う、うそっ。まだこれだけいたの!?」
あれだけの力を誇った《ヤミノマ》。
それも三体も現れた。
アクラーツは全く本気じゃなかった。そしてそれだけの《ヤミノマ》を生み出せる《トライデント》の実力に寒気を覚えた。
「これはワタクシの持つ《ヤミノマ》の中でも、特別! 本来ならば出したくはなかったデスが仕方ありません! この数にひとりで対抗できますかな!?」
あたしたちが血の気を引く一方で、男はせせら笑う。
「愚策、愚行だ。数を揃えれば勝てるとでも思ったのか? ならばそれは驕りというものだ」
「なんとでも言うといい! 世界はダークネス様の元! 闇に包まれるのだ! ゆけぇっ!」
号令と共に《ヤミノマ》が一斉に襲いかかる。
「──抜刀」
逃げてっ、と声を出そうとして、静謐にそんな言葉が聞こえた。剥き出しになっている日本刀の紫色の刃が、ゆらめいた。
「一」
《ヤミッ!?》
ベンチの形をした《ヤミノマ》が一振りで寸断される。いつ抜いたのかわからない、先ほどの日本刀が斬り裂いていた。
「二」
《ノマッ!?》
ブランコの形を《ヤミノマ》が、その身体を大きくしならせ襲いかかるも避けられ、逆に刻まれた。
「三」
《ヤミノマーッ!!?》
象の滑り台。と言っても、自由自在に動く様からほんとうの象のよう力強い《ヤミノマ》が瞬く間に両断された。
「あんな、一瞬で全部の《ヤミノマ》を!?」
「うそ、ありえない。あんなの、魔法少女アネモスですら……」
あたし達は一体ですら苦戦したのに、全て一瞬。
思わずパクパクと口をあけてしまうし、みおみおも目を見開いている。
「ば、ばばば、ばかなァ!? こんなはずがない! 理解が不能!? 不可解を解釈!?」
よくわからない言葉を羅列しながらアクラーツが混乱する。
その間にも、遮りものがなくなった男の人はアクラーツへ歩みを進める。アクラーツは後ずさる。
「こ、こんな所で!? ワガハイはこの功績を糧に、よりダークネス様に認められるはずだったのに!」
「悪いが此処でお前は終わりだ。のこのこと姿を現した己自身を恨むといい」
「なっ、ま、待て──」
「〝鬼祓門〟」
日本刀の鍔の部分から紫色の炎が噴き出る。
抜かれた刀身でアクラーツを斬り裂いて、その傷口から紫色の炎が包み込んだ。アクラーツの絶叫すら呑み込んで、炎はやがて男の人の刀の元へと戻る。
「え? クソまずい? そう言わないでくれよ、奴らを完璧に封じるのはムラサメしか出来ないんだからさ。……わかったわかった、帰ったらちゃんと手入れするからさ」
男の人は何やら呟いて、日本刀を鞘に仕舞った。
あたし達は、見ていることしかできなかった。
「さて……」
「ひっ」
「っ……!」
仮面のせいで視線がわからないけども、確かに仮面の男の人がこっちを見た。
こわい。
みおみおの怯えもひどい。
当たり前だよ。だって《ヤミノマ》を生み出していた幹部が手も足も出ずにやられたんだもん。
あの刀が振るわれるだけで、あたしもアクラーツみたいな最期を遂げる。
あたしだってこわい。許されるなら、すぐにでも謝って許しを請いたい。
でも……そんなのみんなを守る
「サンシャイン!?」
気付けば、澪を守るように前に進み出ていた。
「教えてください! あなたは……敵ですか!? 敵だというのなら、あたしは貴方と戦います!」
「サンシャイン!? 何を言って……!」
オーロラミストが止めるけれど、あたしは一歩も引く気はなかった。
どれだけの困難があろうとも、どれだけの怖いことがあろうとも。後ろに守るべき人がいるのならば、立ち向かうのが本当の
あたしは、
あたしは決意を胸に、構えているけども男の人は暫し沈黙した。
目元を隠す仮面のせいでわからないけど……なんだか困惑してる?
「その質問には答えないでおこう。答えたところで意味のないことだ」
「えっと、どういうことですか?」
「なに。正義と悪で語れるほど、世の中は一答で動いていない。残酷な現実と向き合うにはまだ君たちには早すぎる」
「へ? ……え???」
「あー……とにかく、今答えるつもりはないということだ。わかったかい?」
あたしがまるで理解出来ていないと思ったのか、やんわりと答えてくれる。
だ、だって難しい言葉わからないんだもん!
やがて赤い空が消え始める。〝
「……時間だ。悪いが、俺は去らせてもらおう」
「あ、まって! せめて名前を教えてください!」
その背中に言葉を投げかける。
男の人は暫し足を止めた後、口を開いた。
「俺の名は、
紫の焔が、辺りを包み込む。
思わず目をつぶっちゃうけども、熱さはなくて、目を開けるとあの男の人は居なくなっていた。
「いなくなっちゃった……」
「そうね。《トライデント》に、それを打ち破った男……いろんなことが起きすぎて頭が混乱しそうだわ」
「うん……」
あたしたちはぼんやりと座る。
それは《ディスナンド》との戦いが激化する予感。そして、謎の人物無頼との初めての邂逅だった。