魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
『先の豪華客船〝エスポワール号〟における《セブンスター》と名乗る者たちによるハイジャック事件。〝エスポワール号〟に大きな被害が出ましたが、負傷者はほとんど出ませんでした──』
『これまで《ディスナンド》とは、突然現れる意思疎通のできない存在であると見做されていました。此処にきて新たな異星人による侵略である可能性が浮上してきました。先の《天川事変》、《ダークドリーム》も同じ組織によるものだと見られ、専門家の間では──』
『逃げ場のない海の上で豪華客船丸ごと乗っ取られるという出来事でしたが、初期に起きた混乱で軽傷の怪我人が出た程度で済みました。また救出された者の中には、《怪盗》ミスティリアによって助けられたと証言する者もおり──』
そんなニュースが流されたのは今朝のこと。
今まで《ディスナンド》とは、突如現れる異形の存在としか認知されていなかった。マイスターにも聞いているけども、幹部である《トライデント》や《セブンスター》が現れ始めたのはここ最近のこと。
これまではずっと、《ヤミノマ》だけが現れていた。
それが四月から突然姿を現し始めた。
「ねぇ? 聞いた? 《ディスナンド》が宇宙人かも知れないって話」
「こわ〜い。でも、魔法少女がいるから大丈夫だよ。その、《セブンスター》? って、宇宙人も撃退されたらしいじゃん」
「そうそう。だから大丈夫だよ。そういえば、《怪盗》も活躍したんだっけ? ニュースで見たよ」
ぴくっ。
「へぇ〜。ただの犯罪者だと思ったけど良いところもあるんだね」
「ねぇ〜。意外だよね。あたし、ファンになっちゃったかも」
ぴくぴくっ。
すれ違う学生たちの会話を拾う。
ふ、ふふふ。
みんなボクの話をしている。トワイライト学園では、やっぱり昨日の事件が話されているが、やっぱりボクについての話題も多かった。
だめだ、ニヤニヤしてしまう。なんとかして抑えないと。
それにしても……、またマイスターのことはニュースに乗っていなかったな。まぁ、実際に彼に会ったのは魔法少女だけだろうし不思議ではないけども。
でも、マイスターにとっては残念かもしれない。本人は全く気にしてないけど。目立ってこそだと思うのだけれどなぁ。
「ふあぁぁ〜……」
「ちょっと、焔。はしたないわよ……、あふ」
「ん。みおみおもあくびしてる。二人揃って、間抜けツラ……はふ」
「ねこちゃんだってしてるじゃん!」
ちらり、と天照焔、月詠澪、ぬこ殿の三人を見かけた。
三人揃って、大きなあくびをしていた。〝エスポワール号〟での戦いは昨日のことだから、十分に睡眠が取れなかったのだろう。
ボクは授業中に寝てたから、眠くないけど。ふふっ、
ボクは三人の中でも、ぬこ殿に視線を向けた。
トワイライト学園に通うことになったと、マイスターから聞いた際に手助けしてあげてほしいと頼まれていたからね。なんだかんだ、馴染んでそうで安心したよ。
その時目が合ったから、軽く手を振る。
「……?」
首を傾げられた。
あ、あれ?
マイスターから同じ学園に通っていることは聞いているよね? なんでそんな、変な人を見たみたいな顔をするの?
ハッとする。
ボクは、ミスティリアとしてしかぬこ殿に会っていない! マイスターと妖刀殿、Mr.ゴールドマンは、四鏡魅夜としての姿を知っている。だが、歌姫殿とぬこ殿は違う。
つまり、ぬこ殿は今の状態のボクを、ミスティリアだと認識していない! なんか勝手に手を振ってきた
ほんのりかなしい気持ちになりながら、三人が去っていくのを見送った。
その後、授業を経て、放課後も図書委員としての務めを果たす。
「うぅ……、お尻がいたい……」
授業の時にも思ったけど、お尻がいたかった。
昨日妖刀殿とぬこ殿に叩かれたせいだ。おかげで座るたびにジンジンする。アザとかにはなってないけど、腫れてるかもしれない。こ、困るなぁ。ただでさえ、ミスティリアとしての衣装のズボンがパツパツなのに。
魔法少女の衣装は、相手からの攻撃で傷つくことはあっても勝手に破けることはないから大丈夫だけど、やっぱり気になる。これ以上大きくなったら、また私服を買い替えなくちゃなっちゃう。
結局、痛みのせいで図書委員の仕事も集中できなかった。
そのまま下校時間になり、帰宅する。
新しく入った本の中に気になるものがあったから、借りて袋に入れていた。
外に出る。頬を撫でる風に、茜色の空。
夏が近付いて来ているからか、木々がより生き生きとし始めている。ボクは暑いのは苦手なんだけどなぁ。
「やぁ、魅夜」
「ふわぁっ!?」
そんな時、話しかけられた。
声の主は、校門に寄りかかるようにして待っていたマイスターだった。向こうも学校帰りだからか、制服を着ている。な、なんだかちょっとレアかも。ボクは妖刀殿やぬこ殿みたいに、マイスターの家に住んでいないから。
「マ、マイスッ……! や、八雲さん、ど、どうして此処に?」
「きみに会いに来たんだよ。ほんとうは寧々子と待つ予定だったけど、焔ちゃんと澪に連れられて、遊びに行ったようだ。だから、俺一人できみを待っていたんだ。それ、本か? 重いだろう、途中まで持つよ」
マイスターは、気さくにボクの本が入った袋をさり気なく受け取る。
イ、イケメンだ。あまりにも自然過ぎて断る暇がなかった!
「改めて昨日のことは礼を言うよ。すまなかったね、豪華客船に戻った後のゴタゴタで礼を言えなくて」
「あ、いや、ボクなんて、えと、大したことしてません。ただ、台無しにされたショーを、取り返しただけなんで。でゅ、でゅふふ」
「なんだい、その笑い方は」
だ、だってだって!?
マイスターの顔を見れないんだもん! 礼を言われているけど、真正面から受け取ることができないよ!
昔からそうだ。
ボクは人と目を合わせるのが苦手なんだ。すぐに視線を逸らしてしまうし、オドオドしてしまう。
それは、最初に〝呪負具〟を見た際に他の誰にも信じてもらえなかった時にさらに悪化した。前髪を伸ばしたのもそれからだ。
今も目を合わせずに、マイスターから顔を背けている。
「正直、あれだけの《ディスナンド》の戦力がいて、乗客に被害が出なかったのはきみが居てくれたからこそだ。ほんとうに感謝している」
「八雲さん……」
「だからこそ、なにか望むものはないか? 俺のできる範囲でなら、なんでも聞くよ」
「望むものだなんてそんな。ボクは八雲さんといるだけで……」
口にしようとして、ふと考える。
「……ほんとうになんでも良いんですか?」
「あ、あくまで俺にできる範囲でお手柔らかに頼むよ?」
「大丈夫です。むしろ、八雲さんじゃないとダメですから」
す〜は〜、と息を吸って吐き出す。
忙しなく手を何度も握りしめては開き、そわそわと身体を動かす。心臓がドキドキとうるさい。ミスティリアじゃないと、ボクはこんなにも臆病だ。
でも、それでも。
マイスターが待っていてくれている。
何を言ってくるのか、わかっていないだろうに、ボクのことを信じて。
なら言わなきゃ。息を大きく吸った。
「お願いしますっ。ボクとっ、……
言った。
言ってしまった。
声が上擦っていなかったかな。マイスターの顔が見れない。自分の顔が熱くなるのがわかる。ミスティリアの時なら、キザな台詞なんていくらでも言えるのに。
一秒が長く感じる。その間も、ボクの心臓はうるさいくらいドキドキしていた。
やがて、マイスターが口を開いた。
「あぁ、構わないよ」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。それで次はどこの〝呪負具〟を盗みに行くんだい?」
「あれぇっ!?」
伝わってない!
伝わってないよねこれ!?
完全に
とほほ……、普段の言動が裏目に出た。
うぅ、ボクのばかぁ。素直に、一緒に出掛けてくださいって言えたら良いのに、もうそんな勇気は残っていなかった。そのまま眉を下げて、しょぼくれる。
するとクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「冗談さ。わかっているよ」
「か、からかっていたんですか!?」
「あぁ、ごめんね。あまりにも魅夜が必死そうだからつい、ね」
「むぅ、ひどいです。ボク、とっても勇気を出したんですよ? ぷいっ、だ!」
そのままそっぽを向く。
マイスターは何度も謝ってくる。そして、何が考え込むように顎に手を当てた。
「しかしデートか。そういえば豪華客船では、ムラサメたちの衣装を見て褒めたけど、魅夜だけ褒めてなかったな。ふむ……」
「や、八雲さん?」
マイスターがボクの前に一歩進み出る。
そしてこちらを振り返った。垂れ下がるボクの前髪。その隙間から、マイスターの目が見えた。深い黒の、優しい瞳。マイスターは、優しくボクの前に手を差し出す。
「可憐なお嬢さん、どうか俺と一緒にデートしてくれませんか?」
それはまるで演劇の王子様のようで。
そう言って微笑む、彼の瞳と目が合って。
「ふきゅぅ〜……」
「あれ、魅夜!?」
ボクはそのまま力が抜けた。顔どころじゃない、全身が熱くなって力が入らない。
──あぁ、やっぱりだめだ。
かつてボクは、盗みたいモノがあるだなんて意気込んだけども。
ボクの心はそれ以上に、どうしようもなく──貴方に盗まれている。
そう思いながらボクは慌てて支えてくるマイスターに身を委ね、気絶したのだった。
◇◇◇
それは豪華客船〝エスポワール号〟が最寄りの港へ寄港し、乗客たちが救出されて間もなくのこと。
八雲たちが焔たちと互いの無事を喜び合っていた、ちょうどその頃。
黒井はとある一室で、《魔法執行機関》の面々と会議をしていた。
会議といっても、それは詭弁。実質的には、黒井への糾弾の場であった。
「大問題ですよ、黒井殿。確かに《ディスナンド》による、豪華客船乗っ取りは予想外でした。ですが、貴方のその後の行動はあまりにもまずい」
黒井の前にあるのは複数のパソコンたち。
そこから流れる音声と映る人物たちは、全員黒井と同格の《魔法執行機関》のメンバーであった。彼らの視線は冷たい。
黒井は必死に抗弁を行う。
「あ、あれは正当な行為だ! 乗客を守るための!」
「己を守るためではなくてですか? 乗っていた財政界の重鎮たちも、この点について抗議がきています。なぜ、アネモスやサンシャイン、オーロラミストたちは乗客たちを助け回っていたのに、ファイネルやエクレールはその場から動かなかった、と。それを指示していたのは、貴方だと」
「ぐ、ぐうぅぅ……!」
黒井は歯軋りをする。
言い訳はいくらでもあった。
そもそも黒井は自身の身を守るために、エクレールとファイネルをその場に止めたのは事実だが、その場には自分以外の乗客だっていた。だから、この点について責められる謂われはないはずだった。
それがまるで、自分だけが悪いようにされている。
(なぜ奴ら裏切った!? この場に魔法少女らを留めることに、賛同していたではないか!)
黒井は知らないが、事態が解決した後、大金持は同じように側に居た乗客たちと
確かにこの場にいる人々を守るために、魔法少女を留めていること自体は間違いではない。しかし、それは時と場合による。
豪華客船そのものが《ヤミノマ》と化していた以上攻勢に出ねば、何の解決にもならず、待っているのはジリ貧である。
魔法少女たちと共に、何かしら策を考えるのではなく、ただただ守ることだけを命じるなど、話にすらならない。
それを理解しているのか、と《魔法執行機関》の面々は問い質していた。
「我々とて、魔法少女を戦力として扱っていないとは言いません。しかし、貴方のそれはあまりにも恣意的濫用過ぎる」
「さよう。魔法少女たちは、
「黒井殿、貴方の功績は認めています。魔法少女たちに資金が渡せるようになったのは、貴方のメディア戦略がうまくいったからこそ。しかし、我々はあくまで裏方。実際に戦うのは魔法少女なのです。だからこそ、我々大人が彼女たちの道を塞いではならないのです。……今日はここまでにしましょう。貴方には、豪華客船の人々の安全を確認する義務と今回の件についての説明がある。我々の問い詰めは、また後日場所を改めて行います」
そうして会議は終わった。
「何が大人だ。単にこどもに媚び諂うことしか出来ぬ腑抜けなだけではないかッ」
苛立ちを隠そうともせず、荒々しく足音を響かせながら黒井は通路を歩く。
地図に載っていない、《魔法執行機関》専用の秘密通路。彼は豪華客船の乗客や、魔法少女たちのいる豪華客船に戻ることなく、すべての会話を打ち切って、とある場所を目指していた。
「なぜ、こうもうまくいかない。くそっ、それもこれもあいつが……、あの魔法少女が逃げ出してからだ!」
これまで魔法少女を人工的に生み出す研究所からの脱走者はいなかった。
当然だ。
普通に考えて、未成年の少女相手に虐待に等しい実験など倫理的にアウトである。
それがたとえその殆どが、《ディスナンド》の被害によって身寄りを失った少女や、困窮した家庭から
だからこそ、この研究も黒井や黒井に賛同する者たちしか知らない。そのため、施設そのものも脱走者を出さぬように厳重に警備されていた。
それがある日、忽然と一人の少女が姿を消した。
その名前は、
すぐに付近を探したが、
それからである。
魔法少女の研究を行っていた研究所が、次々と何者かの襲撃を受け始めたのは。
極めて短時間に壊滅させられた挙句、誰一人として残っていなかった。血が流れていたわけでも、死体があったわけでもない。研究員も、少女たちも、誰もいなくなっていたのだ。
伝手を経由し、捕らえていた少女たちを探したが梨の礫だった。どこに行ったのかもわからない。まるで
「ようやく見つけたと思ったら、肝心の《ビックスリー》は、無頼とやらに敗れる始末。くそっ、どうしてうまくいかない……!」
故に、カーバンクルの報告を受けた時、寧々子の面影に気付いた。故に、もう一度捕らえようとした。
保護を名目に、《ビックスリー》を動かしたものの、無頼という男により敗北。失敗に終わった。
彼は知らない。
寧々子が、焔たちと同じ学園に通っていることを。魔法少女たちをこどもだと見下しているが故に、黒井は焔と澪の交友関係にまで目を通していなかった。
もっとも、仮に気付いて接触してきた時にはその日のうちに行方不明となっていただろう。悪運だけは強い男であった。
しかしそれも尽きつつあった。転げ落ちるように自身の立場が悪くなっていく。
このままでは全て失う。
キャリアも、財産も、地位も、そして恐らく命すらも。
「まだだ! まだ終わらない! こんなことで終わってたまるか。わたしはまだ、成り上がるのだ。く、くくく、構わんさ。そっちが私を切り捨てると言うのであれば、逆に私が新たな組織を立ち上げるだけだ」
黒井は笑う。どこまでも醜悪に。
「《魔法執行機関》の愚図どもめ。何が魔法少女の未来を、だ。そんな回りくどいことをして、なにになる。魔法少女は、ビジネスだ。それがなぜわからない。魔法少女という
黒井にとって、魔法少女とは都合の良い手駒に過ぎない。
だからこそ、彼はここにやってきた。
これまで自分が主体となって行ってきた、魔法少女を人工的に生み出す研究。その集大成の
「あははぁ♪ 御用かしら、マスター」
「けひひっ。命令かよ、マスター」
厳重な扉を開けた先に居たのは、二人の少女。
一人は白を基調としたドレスに似た服に身を包み、明るく微笑み。
一人は黒を基調としたゴシック調の服に身を包み、睨み上げる。
そしてその両方が、
「あぁ、出番だとも。お前たちに与えたその力をもってして、存在感を示すのだ魔法少女……否、
どこまでも利己的に、己の野望のための駒として、命じる。
《双星の魔女》と呼ばれた二人は何も言わずに、ただその場に跪く。
「そしてそう、私こそが頂点に立つのだ。全ての魔法少女という
黒井は最後に上を見上げる。
そこに吊るされた、
その数時間後。
大金持の私兵が斥候として、大金持が聞き出した研究所に向かったものの全てがもぬけの殻であった。
同時に《魔法執行機関》も異変に気付く。
黒井悪也が、忽然と姿を消していたことに。
『ま、魔法少女が人を襲うだとぉ!? そ、そんなことあってはならない! 解釈違いだっ、天地が逆転しようともあってはいけないことなんだぁぁぁぁッーーー!!! ぐへぇっ』
『なぜ、わたし達とあなたたちが戦わねばならないのですか!?』
『魔法少女が人を襲うだなんて、何を考えてるの!?』
『わたしはセフィリア』
『おれはクリフィア』
『『こんな世界なんて、何もかも壊れちゃえば良い』』
『あららぁ〜。魔法少女たちが争うだなんて、好都合じゃない。なら、もっともぉ〜っと、その姿を拡散してあげるわぁん。せいぜい守るべき市民に、石を投げられる感覚を楽しむことねぇん。最後に笑うのは、あたくしたち《セブンスター》よん』
『誰も彼も役に立たない愚図が、これだからこどもは……! もう良い! ならば力尽くで従えてやろう! 私が造り上げた究極のロボット兵器によってなぁ! 従え! 屈しろ! こどもが夢見る時代はもう終わりなのだよ!!!』
『お待たせしました。大金持 財参、機体名〝ゴールドラッシュ〟。見参致しました』
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