魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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ファンたるもの、魔法少女とは適切な距離を計るべし

 

 『魔法少女マギアイリス』が始まり、ダークネスが顕現した《ダークドリーム》が起きた四月。

 《セブンスター》の宣戦布告から、豪華客船〝エスポワール号〟のハイジャック事件が起きた五月。

 

 たった2ヶ月の間に、これほどまでの大事件が立て続けに起きた。

 

 世間では《ディスナンド》が異星人による侵攻だったと、大きな論争が起きている。紛れもなく、人類において大きな分岐点となる今。

 

 そんな一大事件を尻目に、世間では大きくなくとも、俺にとっては大きなイベントがあった。

 

 それは。

 

「待たせたな、月詠嶺。完全復活だ」

 

 俺の親友である月詠嶺が病院から完全に退院した。

 

 いつものように、眼鏡の端を手であげながら、出来る男みたいなポーズをしていた。少なくとも、後遺症はなさそうだった。

 

「結構長かったな。傷自体はそうでもなかったんだろう?」

「あぁ。傷自体はもう塞がっていたんだが、《ヤミノマ》にやられた傷だからな。念のため経過観察が必要だとかで、退院を延ばされていた。しかも、その肝心の検査も《ヤミノマ》の出現による非常警報やら何やらで、何度も中断されてな」

「それはまた。病院で寝泊まりは、気が休まらないだろ」

「まったくだ。病院のベッドは柔らかすぎて良くない。僕は蕎麦殻の枕でなければ寝れないのだ」

「それは知らなくてもよかったかな」

 

 枕に対して、変なこだわりを持つな。

 

 いや、まぁちょっとわかるが。俺もムラサメを連れての遠征の際に、大金持の用意したホテルに泊まった際は、場違い過ぎて寝れなかったことがある。

 

 ムラサメと一緒に野宿していた時の方がマシだった。あの時は夜空が綺麗だった。

 ……まぁ、その夜空のほとんどがダークネスの支配下にあると思ったら途端に綺麗だと思えなくなったが。

 

 嶺の退院の催しは、喫茶店の《スター⭐︎ゲイザー》で行われることとなった。

 嶺は俺と同じ、将来は《魔法執行機関》に入ることになる。妹の澪が魔法少女であることを既に知っているためだ。

 今日は《魔法執行機関》についての説明もするため、俺が嶺を連れていくことになっていた。

 

「ここが魔法少女たちが集う聖地(・・)か。何だかドキドキしてきたな。これほどのときめきは、初めて魔法少女のフィギュアを買った時以来だ」

「家族との思い出はそうでもなかったのかと、悲しくなるからやめろ。あと、中に入ったらもっとドキドキするぞ。……悪い意味で」

「む? ハチ、それはどういう……。あ、おい、勝手に入って良いのか?」

 

 『CLOSED』とプレートがドアにかけられているが、よく見ると右下に星のマークがある。これは所謂隠語で、店は閉まってはいるものの中には普通に魔法少女たちが待機している。

 

 なので入っても問題はない。

 

 俺たちが入店すると早速出迎えてくれたのは、この店で働く魔法少女……ではなく。

 

「あんらぁ〜! 八雲くん、いらっしゃい。あら! 眼鏡の素敵な男の子! 冷徹さを感じさせる眼差しがたまらないわね! もしかしてぇ、あなたが澪ちゃんのお兄ちゃんかしら? 初めましてぇん、この店ならオーナーのミッチェルよぉん⭐︎」

 

 笑顔で出迎えてくれたのは、ミッチェルさんだ。

 当然いつものメイド服で出迎えてくる。分厚い胸板が、間近に迫ってくる。柔らかそうな胸ではなく、カチカチ硬そうな胸が、だ。

 しかもなぜかちょっと良い匂いする。おそらく香水を使っているのだろう。いやな事実に気付いちゃったよ。

 

「…………!? こっ、こちらこそ、妹が世話になっております。この場を借りてお礼申し上げます」

「あらまぁ〜! 真面目ねぇ! でも、だめよん! 今日の主役はあなたなんだから。ほら、座って座って。すぐに飲み物持ってきてあげるからぁん」

 

 流石は嶺だ。

 

 《スター⭐︎ゲイザー》の店長、漢女(おとめ)であるミッチェルさんを見たにも関わらず、一瞬フリーズするだけで済んでいる。いや、ほんとうすげぇな。

 

 そのまま近くのテーブルに座ると、嶺は冷や汗を拭う。

 

「あらかじめ澪から多少聞いていたが、何という存在感だ。だが、その所作。まさに、メイド服を着こなす(・・・・)という意味では、右に出る者はいないだろう。見事だ」

「けどさぁ、俺ミッチェルさんのメイド服見れても何も嬉しくないんだけど」

「安心しろ、僕もだ」

 

 多分、男だったら誰が見てもテンション上がらないと思う。

 目に見える肌、全部筋肉でバッキバキだし。

 

「ほうほう、ならかわいい女子高生のメイド服はいかがかなぁ〜?」

「見て敬いなさい! わたくしに感心することを許可しましてよ!」

 

 そこに箒を持って、洗練されたポーズをする炎谷熾穂に、吾妻エクレア。

 いつもの愉快な二人が現れた。多分、掃除中だった。二人して箒と雑巾持ってるし。

 

 そして、二人はミッチェルさんと同じ服をきているからこそ、柔らかそうな胸の谷間や太ももがよく見えた。

 

 眼福だ。

 

 あの筋肉を見たからこそ、なおそう思う。

 

「ちょっと、凪沙! あなたも早くポーズしてくださいまし! 三人揃ってこその《ビックスリー》でしょう!?」

「しませんよ!? 巻き込まないでもらえますか!?」

「え〜。三人の絆のポーズなのにぃ〜」

 

 そこに凪沙もやってきた。

 前に見たメイド服じゃない。通常の店員服だ。ちょっと残念。

 

 一方で嶺が感動したように震えていた。

 

「今のポーズ……! もしかして、魔法少女ファイネルとエクレールか!?」

「およ? 今のでわかったの?」

「当然だ! 研ぎ澄まされたその動き! けっして、他の魔法少女では誰も真似できない!」

「お〜ほっほっほぉ〜! 当然ですわ! あなた、見る目がありますわね!」

「いやぁ〜、見る人ならわかるんだねぇ。はじめましてぇ〜、炎谷熾穂こと、魔法少女ファイネルで〜す。よろしく〜」

「いや、結構だ」

「え?」

 

 差し出された手を、嶺は拒否する。

 

 先ほどとは一変、取り付く島もない態度に流石の熾穂も目を丸くする。

 

 一方で俺は知っていた。

 

 嶺の魔法少女に対するめんどくささ(・・・・・・)を。

 

 熾穂からの握手を断った嶺は、眼鏡の縁を押し上げ、堂々と語り出す。

 

「魔法少女とは気高く、それでいて神聖なる存在! それに触れることなんて、あってはならないことだ! わかったならば、近づかないで頂こう!」

 

 ファンの鑑みたいなことを嶺が言った。

 

 その表情には確固たる決意が滲み出ていた。

 なんなら漫画だったら大コマだったり、集中線が入るくらいの勢いだ。

 

 だが、そんな嶺の言葉に《ビックスリー》の三人の反応はイマイチ……、というか困惑していた。

 

「そんなこと言いながら、自分から離れていく人、初めて見たよ〜」

 

 代表して、熾穂がその理由を語った。

 

 そう、嶺は自ら(・・)三人と距離を取っていた。徐々に離れていき、壁の端にまで行った後、背中と壁がくっつくほどピッタリと。

 

「当たり前だろう。ここに来たのは僕だ。君たちは仕事をしているだけ。ならば、離れるのは僕であるべきだ」

「そっかそっか〜。真面目なんだね〜」

「待て、なぜ近付いてくる!?」

「いや、追いかけっこして欲しいのかなぁ〜って思って」

 

 そのまま謎の追いかけっこが始まる。

 

 逃げる嶺を、熾穂が追い回す。お客さんが他にいないから良いけど、店内で鬼ごっこはあまりよろしくない気がするな。

 

 思えば、嶺は澪の兄であるという以外、設定が無いに等しかった。それがまさか《ビックスリー》とこうして面識を持つとはなぁ。しみじみこの世界が現実なんだなと思う。

 

「おい、ハチ!? 見てないで助けたまえ!?」

「ふ〜ふ〜ふ〜。お〜い〜つ〜め〜た〜……あいたっ」

「こら、あまり困らせてはいけませんよ」

「うぅ、なぎなぎがきびしい……」

 

 凪沙に軽くチョップされた熾穂が、すごすごと引き下がる。嶺は明らかにホッとした顔になっていた。

 

「落ち着いたかしらぁん? 飲み物持ってきたわよぉん。一息つきましょうね〜」

 

 そこにミッチェルさんがやってきて飲み物を振る舞ってくれた。

 

 その後、嶺は《魔法執行機関》についての説明を受けた。

 

 基本的には、俺が凪沙に聞いた時のと同じ内容だ。途中途中、既に知っている俺が内容を補足をしたりしたが、嶺はすぐに理解したようだ。流石学年トップクラスの成績を持つ男だ。

 

『今話題の二人の魔法少女サンシャインとオーロラミスト。かの《怪盗》も一度は退けた《オーレオール(・・・・・・)》とも呼ばれる二人の秘密に迫ろうと思います──』

 

 そんな時、天井から吊り下げられたテレビからニュースが流れる。

 

 内容はやはり、ミスティリアと焔ちゃんと澪のこと。

 

 それを見たエクレアが、どこから取り出したか、ハンカチを噛み締めながら悔しがる。

 

「きぃ〜! わたくしたちも活躍したのに、またお二人と《怪盗》に話題を持っていかれていますわ〜!」

「《オーレオール》……、確かサンシャインがミスティリアにそう言われたって語っていましたね。どこからか漏れたのやら」

 

 そう、焔ちゃんと澪が《オーレオール》と呼ばれるようになった。

 元々、《二人のオーレオール》とタイトルにあったが、作中で呼ばれる事はなかった。それがまさか、偶然とはいえ現実でも定着するとは。

 

 

 ミスティリア、きみがタイトルを回収するのか……。

 

 

 ミスティリアのどや顔を頭から追い出しつつ、俺は三人に問いかける。

 

「やっぱり先輩魔法少女としては、複雑な感じかい?」

「まぁ、うちらも《ビックスリー》なんて呼ばれてるしぃ、あの二人にも特別な呼び名があっても良いんじゃなぁい?」

「そうですけども、なんだか負けた気がしますわぁ〜! このままでは、魔法少女大全の表紙を奪われるのも時間の問題。こうなれば、あの娘たちを加えて五人ユニットを組むしか表紙を死守する方法は……!」

「やめてくださいね? どうして、素直に祝えないんですか」

 

 凪沙が呆れたように、ツッコミを入れる。

 

 実際、《スター⭐︎トゥインクル》では結構五人で行動することも多かったんだよな。相手の《セブンスター》も複数まとまって対峙してくるし。

 

 とはいえ他の『魔法少女マギアイリス』シリーズと違って、中等部と高等部という年齢差からグッズ販売だとやっぱり、焔ちゃんと澪。凪沙と熾穂とエクレアという風に分けられてはいたが。

 

 だが、五人が雑誌の表紙に載る姿は見てみたくもあるな。

 

 そんな風に、駄弁り合っていると、突然テレビの画面が切り替わった

 

『ご覧ください! 《ヤミノマ》は既に倒されましたが……、突然見知らぬ魔法少女が人々を襲い、それを止めようとした《オーレオール》の二人っ、魔法少女同士が争っています!』

 

 リポーターらしき人が、汗を流しながら生放送をしていた。

 

 背後の空は青、赤い空になる隔離空間(コンサート)は既に解除されている。そこに映っていたのは、サンシャインとオーロラミスト。

 

 つまり、焔ちゃんと澪だ。だが、彼女たちが対峙しているのは、《ヤミノマ》ではない。

 

『あはは、ねぇ? どこまで守れるの? さっきまでの威勢はどこにいったのかしら?』

『くふふ、なぁ? どこまで戦えるの? さっきまでの余裕はどこにいったんだよ?』

 

 白い魔法少女と黒い魔法少女が、交互に話す。

 

 膝をつくサンシャインとオーロラミストに対して、白と黒の魔法少女は余裕そうに二人を見下していた。

 

 あまりにも衝撃的な光景。

 

 魔法少女同士が争うという、前世でもトラウマになる女児が多発した刺激の強すぎる映像が、この場全員の目に映る。

 

「ま、魔法少女が人を襲うだとぉ!? そ、そんなことあってはならない! 解釈違いだっ、天地が逆転しようともあってはいけないことなんだぁぁぁぁッーーー!!! ぐへぇっ」

「あ、倒れた」

 

 そしてそれを見た嶺が、誰よりも大きく反応しながら、白目を剥いて卒倒した。

 熾穂が面白そうに、倒れた嶺をツンツンしていた。

 

「どういうことですの? そもそもあの魔法少女たちは何者でして!?」

「サンシャインとオーロラミストも既にだいぶやられている……。あの二人、相当手強いですよ」

「ちょ〜っとこれは、穏やかじゃないわねぇ……」

 

 エクレアが動揺し、凪沙が眉を顰め、ミッチェルさんが困ったように顎に手を当てた。

 倒れた嶺も心配だが、俺は焔ちゃんと澪が対峙している魔法少女が誰か知っている俺は、誰にも聞こえぬように小声で呟いた。

 

「《双星の魔女》、セフィリアにクリフィア……!」

 

 『魔法少女マギアイリス』においての黒歴史。

 

 魔女と称される、悪しき魔法少女。

 

 その襲来に、俺は息を呑んだ。

 

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