魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
side 焔
六月。
梅雨入りしたせいで、雨が降り注ぐ。そのせいで、否応なくクラスのみんなもテンションが下がっているような今日この頃。
そんな中で、あたしはと言うとニュースで流れてくるとある言葉に浮き足立っていた。
「オーレオール、オーレオール……うぇへへ」
「いつまで復唱しているの?」
「だってぇ? かっこいいじゃん! 《ビックスリー》みたいに、ついにあたしたちにも2つ名がついたんだよ!」
「だからと言ってあなたはご機嫌過ぎよ」
なんというか、しっくりくる!
パズルのピースが当て嵌まったみたいな、一致感! なんだか不思議な気分!
ご機嫌なあたしを、澪が呆れた様子で見ていた。
でも、わかるよ。澪も口ではああ言ってるけど満更でもない顔してるもん。それを言ったら、また鼻を摘まれるから言わないけど。
そんな風にご機嫌に学園に通って、あっという間に放課後になった。クラスのみんなが帰り支度をする中、あたしはねこちゃんに話しかける。
「ねこちゃん、もうショートホームルーム終わったよ? 帰らないの?」
「ん〜……ひと眠りしてから帰るぅ……」
「机で寝るのは、身体に良くないわよ。……もう寝てるわ」
そのまま、すやぁと机の上で寝てしまう。
ねこちゃんは本当に猫みたいな自由気ままさだった。いつもだったら、一緒に帰るのだけどこの様子じゃ起きるのは相当先かなぁ。起こすのも可哀想なくらい、幸せそうに寝てるし。
なのであたしは澪と一緒に先に帰ることにした。
でも、それでよかったのかもしれない。
だって帰宅途中に、雨が急に止んで、空が赤くなる現象──
「澪!」
「えぇ、急ぎましょう!」
すぐにあたしたちは魔法少女の姿になる。
そのまま逃げる人々とすれ違い、混乱の起きている場所へと向かう。
「あ、あれは魔法少女サンシャインにオーロラミスト! た、たすかった!」
「きゃははッ! いいわ、そのまま負のエネルギーを集めなさい! ……って、あら、またあんたたち? しつこいわねぇ」
「それはこっちのセリフ!」
「えぇ、その通りね。懲りずにまた人を襲って、恥を知りなさい!」
向かった先にいたのは《セブンスター》のメスレスだった。
メスレスはすでに召喚していた《ヤミノマ》を従えながら、こっちを見て笑う。襲っていた人たちを放って、あたしたちの方を見た。
「ちょうど良いわ! 豪華客船での屈辱! 今ここで返してあげるわ!」
「えぇ!? あたしたちなにもしてない!」
「あなた、最後にちょろっと来てすぐ逃げ帰っていきませんでしたか?」
「むききぃ〜!!! 生意気な〜! 今度こそ目にモノみせてあげるんだからね! いきなさい、《ヤミノマ》!」
《ヤミノマー!》
そのまま《ヤミノマ》を差し向けてくる。さっきまで負のエネルギーを集めていたせいか、ちょっと強そうな気配を感じる。
あたしとオーロラミストはお互いに拳を構えて、《ヤミノマ》を迎え撃つ──
「あはは♪ ねぇ、随分と楽しそうなことしているね?」
「ちょうど良いじゃん。おれたちも混ぜてよ」
《ヤミノマッ!!?》
そこに、聞いたことが無い声と共に、《ヤミノマ》が頭上から押しつぶされた。
だ、だれ!? 見たことない魔法少女だった。
真っ白なドレスみたいな服に柔らかな笑みを浮かべている娘と、真っ黒でところどころにカットが入っていて肌の見える服を着たニヤついた笑みを浮かべている娘だった。
「白い服に、黒い服。サンシャイン、あなた知っている?」
「う、ううん。知らない。魔法少女大全の最新刊にも載っていなかったよ」
「なら、新しい魔法少女ということね。……でも、それにしてはなんだか雰囲気がトゲトゲしいと言いますか、なんというか……」
オーロラミストの言いたいこともわかった。
なんというか、他の魔法少女にある柔らかな気配が
「なに? アンタら、きっしょい気配して。本当に魔法少女なの?」
中でも、メスレスが気味が悪いものを見るような目で二人を見ていた。
「わたしはセフィリア」
「おれはクリフィア」
「あなたが噂の《セブンスター》って人よね?」
「それでこっちが《ヤミノマ》。良いじゃん、なかなかに
「ほんとう、気色悪いわね……。まぁ、良いわ! どっち道、敵には変わりないし! ほら、《ヤミノマ》! へばってないで、さっさとそいつらを倒しなさい!」
《ヤ、ヤミノマッ……!》
すぐに二人を振り払った《ヤミノマ》が、セフィリアとクリフィアに襲いかかる。あたしたちはすぐに加勢しようとする。
「わたし、右ね」
「おれは、左」
《ヤ、ヤミノマッ!?》
だけどあの娘たちが左右に分かれて攻撃し始めたことで、かえって邪魔になりそうだったから、踏みとどまる。
「あの連携、全く無駄が無いわ。なんていう練度……」
「うん。目配せだけで戦っている」
二人の戦い方はすごかった。
全然違うところを攻撃しているのに、《ヤミノマ》がセフィリアの攻撃でよろけたら、すかさずクリフィアが反対方向から攻撃する。《ヤミノマ》は振り子みたいに弄ばれている。
あれは相当息が合わないとできない。
《ヤミノマ》はあの娘たちが対処してくれている。なら、あたしたちはメスレスをなんとかしないと。
「むききぃー! なにしてやられてんのよ! 頑張りなさいよ! 応援してあげてるよだからさぁ!」
「今よ!」
「うん!」
「きゃはっ!? も、もう散々ね! 覚えてなさい!」
メスレスを倒そうと殴りかかる。
拳が当たる寸前に、黒いモヤによってワープして逃げられちゃった。悔しい、あと少しだったのに。でも、これで新しい《ヤミノマ》は発生しない。
「くふふ♪ それじゃあね」
「けひっ、終わりだ」
《ヤミノマ!!?》
向こうでも戦いが終わった。
二人して同時に殴ったことで、《ヤミノマ》が大きく吹き飛ばされた。
「えっ!?」
「ちょ、ちょっとなにしているの!?」
でも、あたしたちはその光景に大きく目を見開いた。
「きゃあぁぁぁ!」
「うわぁっ!!?」
だってそこには、避難している最中の人々がいたから。
あたしとオーロラミストはすぐに、飛ばされた《ヤミノマ》に向かって《ダブル・マギアイリス・キック》をして蹴り返す。《ヤミノマ》は、セフィリアたちの近くに飛ばされて倒れた。
「あははぁ? なんか巻き込みかけたみたいだね」
「けひひっ、ま、良いんじゃねぇの? 別に」
「なにも良くない! 良くないよ! 巻き込みかけたんだよ!? 魔法少女なんだから、周囲に気を配らないと!」
「えぇ、その通りよ。《ヤミノマ》を相手取るのは素晴らしい動きでしたのに」
だけど、あたしたちの言葉にセフィリアとクリフィアは首を傾げる。
「なんで魔法少女なのに、わざわざ人を守らなきゃいけないんだよ?」
「えぇっ!? 魔法少女だからこそ、人を守るんでしょう!?」
「それってぇ、押し付けだよねぇ? 《ヤミノマ》と戦っているのだから、それで良いじゃない」
「でも、わたしたちには力を持つからこそ弱い人々を守る義務がっ」
「知らないな、そんなこと」
「意味ないわぁ、そんなこと」
セフィリアとクリフィアは、どちらも笑みを浮かべながら淡々と話す。
な、なんだろ。
すっごく変。あたしとオーロラミストも、思わず一歩後ずさる。
同じ魔法少女のはずなのに。
この娘たちは、あたしたちとは何かが根本的に違う。そんな違和感を二人から感じる。
《ヤ、ヤミミ……》
現れたセフィリアとクリフィアっていう魔法少女を見ていたら、《ヤミノマ》が弱々しい声をあげて呻いた。
ま、まだ生きてた!
でも、もう虫の息だ。メスレスもいなくなったから、あの《ヤミノマ》もじきに消滅するはず。
「あははぁ♪ ねぇ、クリフィア。はやく、やっちゃいなよ」
「うん、そうだな」
そして、そんなあたしたちを他所に。
クリフィアって娘が《ヤミノマ》に対して拳を突き刺した。それだけなら、トドメを刺したように見えたけど、すぐに違うことに気付いた。
《ヤミノマッッッ……!?》
「な、なにあれ……!?」
「小さくなって、いや取り込んでいる?」
《ヤミノマ》が縮んでいく。
「けひ、けひひっ。滾るぜぇ、こいつは! ははは、やっぱり《ヤミノマ》から得られる力は違うなぁ。すっごく、
「悪いって言ってるのに笑って変なのぉ。でも、良いなぁ、良いなぁ。わたしももっと力が欲しいんだよねぇ」
「なら、ちょうどそこに二人いるだろ?」
「あはぁ♪ たしかに」
二人の視線がこっちに向く。
セフィリアって娘が、妖しい笑みを浮かべた。
「そーゆーわけで、ちょっと二人のミラクルパワー……ちょうだい?」
そのまま急接近して、あたしの前に現れる。
驚いたあたしの腕を、セフィリアが掴んでくる。
「わわっ! いったいなに……ふわぁ!?」
「サンシャイン! 離れなさい!」
思わず声をあげる。
異変に気づいたオーロラミストが割って入ってくれたおかげで、すぐに腕は離される。あたしはすぐに手を開けたり、閉じたりする。
「無事ですか!? 今のはいったい」
「わ、わかんない。でも、なんだか力が抜けてる……。もしかして、ミラクルパワーを吸われたのかも」
「ミラクルパワーを!? そんなことが、可能なの……!?」
あたしもよくわからないけど、明らかにさっきよりも身体に力が入ってこなかった。逆に、あたしの方からミラクルパワーを吸ったセフィリアの方は調子が良さそうだった。
「あははぁ♪ 良いね、これ。もっと欲しいなぁ。ほらほら〜、抵抗しないと吸っちゃうよぉ? 良いのかなぁ、戦わなくて?」
「なぜ、わたし達とあなたたちが戦わねばならないのですか!?」
オーロラミストが叫ぶ。あたしも同じ気持ちだ。
追ってくるセフィリアから、距離を取る。セフィリアは可愛らしく頬を膨らませた。
「逃げないでよぉ、ひどいなぁ」
「おれも手を貸すぜ、セフィリア」
だけど、向こうはそんなの関係なしにこっちに攻撃してくる。
あたしもオーロラミストも、躱すしかない。
そのまま二人となんとか距離を取る。
「迷ってる? それじゃあ、わたしたちに勝てないよぉ?」
「優柔不断だなぁ? 戦いってのは、迷わないやつが強いんだぜ!」
「そんなのむりだよ! だって、あなたたちと戦う理由なんてないもの!」
「あははぁ♪ そんなにやる気出ない? なら、こうしたらどうかな?」
そう言ってセフィリアが見たのは、
そんな人たちが、あたしたちが争うのを見て、固まっていた。
そしてセフィリアが、拳を構える。
……まって、だめだよそれは。
セフィリアが何をしようとしているのかわかって、あたしは血の気が引いた。
「ちょっと痛い目にあっちゃえ」
「きゃあぁぁぁっ!!?」
「そんな、魔法少女が僕たちに攻撃をっ!?」
そんな人たちに向けて、セフィリアは白い光の弾みたいなのを放った。悲鳴があがる。あたしはすぐに駆け出して、白い光から人々を守る。
「危ないっ! うぅぅ……!」
「サンシャイン!」
「だい、じょうぶっ……! ほら、あなたたちも逃げて!」
身体を割り込んで攻撃を受けたせいで、当たった脇腹がすごくいたい。
オーロラミストも心配してくれている。
でも、弱いところを見せるわけにはいかない。
あたしは無理に笑みを浮かべて、庇った人たちに避難を促す。みんな、あたしを心配そうに見ながら走って逃げていった。
あたしはすぐにセフィリアに振り返る。
セフィリアは無邪気に笑っていた。
「わぁ! すごいすごーい! へぇ、やっぱり強いんだねぇ」
「魔法少女が人を襲うだなんて、何を考えてるの!?」
「知らな〜い。だって、わたしたちが用があなたたちだけだもの」
「あぁ、そのとおりだぜ」
「なんですって……!?」
あたしたちの言葉に、悪びれる様子もなく二人は笑う。
「《オーレオール》、すっごく人気みたいだね? 随分と聞かされたわぁ。同時に、生意気な少女たちだってことも。
「
「それは──」
「けひひっ、あまり喋るなよセフィリア。……また躾されるぜ」
「あははぁ! ……それは、いやだなぁ」
一瞬だけ、二人の表情が陰る。無意識なのか、それぞれの首にあるチョーカーに触れていた。
どうしたのだろう……? だけど、すぐにそんなことなんてなかったように、セフィリアとクリフィアは笑みを浮かべてきた。
「とにかく、あなたたちをここで倒す。これは決定なの。わかったら、はやくわたしたちと戦ってよ」
「こっちももう怒ったよ! 人々を危険に晒すだなんて、許せないんだからね!」
「まって、サンシャイン! 挑発に乗ったら相手の思う壺よ。
「で、でも、向こうはやる気満々だよ? それにまた人々を襲ったらどうするの?」
「それは……!」
「おいおい、戦う前に喧嘩か? 余裕なことだな!」
割って入るように、クリフィアが踵落としをしてきた。
あたしとオーロラミストは、左右に分かれて躱す。分断されて、あたしはセフィリアと。オーロラミストは、クリフィアと対峙する形になった。
図らずとも、一対一の形になる。
でも、力の差は歴然だった。
「とりゃあぁっ! あれっ、躱された!? はぐっ!?」
「一直線で感情的な動きねぇ、素直な娘。でも、それじゃあ、わたしに及ばないかな♪」
「サンシャイン! うぐっ!?」
「教科書通りみたいな動きだなぁ、優等生さん? そんなんじゃ、おれに勝てねぇよ」
あたしが殴りかかれば、わかっていたようにセフィリアがするりと躱してカウンターをくらう。
そして、あたしをフォローしようとしたオーロラミストも、クリフィアに横合いから蹴り飛ばされてしまう。
つよい。
まだほんの少し手合わせしているだけだけどわかる。この二人、
あたしたちは、まだ魔法少女同士で戦うことへの躊躇もあってか、次第に押し込まれていく。
「おらぁ! ……はぁ、だめだめだなぁ。とくに、お前だよオーロラミスト。さっきといい、サンシャインの動きを見てから動いてる。自分から仕掛けることもできねぇ。……お前、一人じゃ何も決められねぇのか?」
「そ、れは……」
「やめて、オーロラミストをばかにしないで!」
「あははぁ♪ 庇ってる庇ってる。ねぇオーロラミスト。あなたがいなかったら、サンシャインはもっと自由に戦えるんじゃないかなぁ?」
「っ……!」
「あははぁ♪ もしかして図星だったぁ?」
セフィリアとクリフィアが笑う。
どこまでも無邪気に、悪意なく人を傷つけるような笑いだった。
「やめてよ、あたしの大切な相棒を傷つけないでよ!」
だけど、どれだけ怒っても、あの二人に拳は届かない。むしろ、そのせいでより単調な動きになって、セフィリアの攻撃を食らう。オーロラミストも、明らかに精彩を欠いた動きになって、クリフィアに蹴り飛ばされた。
「あぐっ!!」
「かはっ!!」
そうして二人して大きく飛ばされ、地面を転がる。
「かわいそうな娘たちだね。戦いを押し付けられて」
「憐れな奴らだな。戦うことでしか、存在価値を示せないだなんて」
「「だから、わたし/おれが終わらせてあげる/やるよ」」
セフィリアとクリフィアが手を繋ぎ合う。
「《オーレオール》。今、一番注目されてる魔法少女なんだよねぇ?」
「だったら話は簡単だ。そんな奴らをぶっ潰せば、おれたちの名前も嫌でも広まる」
「いっぱい戦って、いっぱい力を奪って……そうすれば、わたしたちはもっと強くなれる」
「あの人の計画も進むだろう。おれには、どうでもいいけどな」
「あははぁ♪ わたしもぉ」
「そんな……、あれってまさか……」
唖然とした様子で、オーロラミストが呟いた。
あたしにはわかる。
ううん、あたしたち魔法少女にはわかってしまう。
「ミラクルパワー、それに負のエネルギー……」
セフィリアがミラクルパワーを。
クリフィアが負のエネルギーを。
二人がそれぞれの力を増幅させている。
そしてそれが、絡み合い、溶けあっていく。
「「〝エクリプス・スパイラル〟」」
白と黒。
二つの相反する色が、螺旋になり、巨大な白黒の奔流となってあたしたちを包み込んだ。
いたい。
くるしい。
身体中をズタズタに引き裂かれながら、内側まで掻き回されるような感覚。
包み込まれた後は、もう一歩も動けなかった。
「あははぁ♪ それじゃあね、《オーレオール》」
「けひひっ。あばよ、《オーレオール》」
薄れゆく意識の中、そのまま去っていくセフィリアとクリフィア。
あたしは……。
あたしたちは。
それを見ていることしかできなかった。