魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
『続いてのニュースです。四月から頭角を現し、今やこの星見ヶ丘において知らない人がいない魔法少女サンシャインとオーロラミスト、通称 《オーレオール》が謎の二人組の魔法少女によって怪我を負いました。また、その二人組の魔法少女は一般人にも攻撃を仕掛けたとの証言もあり、人々の間では不安が──』
もはや何度目かわからないほど繰り返されている報道。その内容も全て同じ、魔法少女が人を襲い、更に同士討ちまでしたというものだ。
高校から家に帰ってきた俺だが、そのニュースを見てムラサメが憤っていた。
「ぬぎぃ〜! ワ、ワガハイの火戸赤門が放送延期になっとるではないかぁ! 何回、この話題を繰り返すんじゃあ!!!」
「思った以上に、反響が広がっているな」
「おうっ!? ぬ、主様よ。帰っておったのか、おかえりなのじゃ」
「あぁ、ただいま」
そのまま鞄を下ろして、ニュースを見る。
「高校でも話題で持ちきりだったよ。それも、焔ちゃんと澪が負けたことにじゃない。魔法少女が人を襲った、そのことについてだ」
「当たり前じゃろ。魔法少女が人に攻撃してみよ。容易く人体を破壊できるぞ。そんな存在が、力を自分たちに振るってくるかもしれんことは、力を持たぬ一般人にとって恐怖じゃろう」
「あぁ、魔法少女は人々の味方。その前提が崩れたんだから当然だろうね」
良くも悪くも、これまで魔法少女が人々に危害を及ぼしたことはなかった。
それは九年前、大金持の奥さんがメディアのせいで《ディスナンド》側に正体を知られたことで追い詰められても、その原因となったメディアに力を振るわなかったように。魔法少女が人々に対して力を振るうことはない。
嶺の語るように、気高いという言葉が相応しい魂の持ち主。それが魔法少女だ。そして、その清廉な輝きは『魔法少女マギアイリス』シリーズの魔法少女たちに脈々と受け継がれてきた。
だからこそ、《双星の魔女》は黒歴史になっているのだ。
何故なら、あの双子は平然と人を襲う。
「ただいま」
「おかえり寧々子」
「ん。テレビ見てるの? む、またあの話? もう聞き飽きた」
そこに寧々子が帰ってくる。
そして同じように、魔法少女が人々を襲ったというニュースに辟易とした顔をする。どうやらトワイライト学園でも、似たような状況らしい。
特に、トワイライト学園は女子校だから、その手の話題には敏感だろう。
「これまで魔法少女が人々を自発的に攻撃したことはない。話題になるのも無理はないだろう」
「でも、なんで今まで魔法少女が人を
「阿呆が。それはそもそも魔法少女がそういう
妙に可愛い擬音で殴ることを表した寧々子に、ムラサメがビシッ、と食べ終わったみたらし団子の串を突きつける。
「魔法少女になれるのは歳若くミラクルパワーを扱える少女のみ。そしてミラクルパワーは、正の性質……楽しいだとか嬉しいだとか、そういう感情が起因して発生する。そう、誰もがミラクルパワーを大なり小なり発生させるのじゃ。ミラクルパワーが人格を善にするのではない。そういう心根の娘だからこそ、ミラクルパワーを扱えるのじゃ」
「でも、寧々子はボスのためなら他の魔法少女とも戦えるよ」
「まっこと阿呆が。それもまだ誰かを守りたいという意志じゃろう。じゃが、あやつらの纏う雰囲気……テレビで僅かに映った程度じゃが、そんな意思はない。単に、そうしたから襲った。そんな明け透けな思考が見て取れたわ」
そこまでわかるのか。
流石はムラサメだ。普段みたらし団子を食べて寝そべりながら時代劇を見ているだけとは思えないほどの、観察眼だ。
「ふむふむ。つまり、寧々子はボス大好きってことだね。ふんす、当然だもん。だから、ボス、褒めて!」
「あぁ、俺も寧々子のことが大好きだよ」
「にゃふふ、やったぁ!」
抱きついてきた寧々子をよしよししながら、俺は考える。
ムラサメの言葉は、おおよそ事実だ。
問題の本質は、何故人々を襲ったか、だ。
《双星の魔女》が現れたこと自体に、驚きはない。現れるにしても、時期が早すぎるとかは、些細なことだ。
人々を襲うこと、普通に考えてメリットがない。
そもそもそれは所謂アンタッチャブル……、『魔法少女マギアイリス』という作品において明確なしてはいけない。製作上、明確に越えてはいけない
当たり前だ、魔法少女は正義の味方なのだから。
それは原作でも同じだった。
《双星の魔女》はあくまで
それが、どういう訳かあの二人が人々を襲った結果、世間が大きく揺らいでいる。
「ムラサメ。もし仮に、今後も《双星の魔女》が人を襲ったりするとなると、どうなると思う?」
俺の言葉に、ムラサメは暫し考え込む。
「魔法少女は
ムラサメは心底ため息を吐いた。
やはり、そうなるか……。それだけ、今の世間は加熱していた。
……これが
率直に言おう。俺は《双星の魔女》の裏に、姿を消した黒井が関わっていると思っている。これは推測じゃなくて、
原作では、黒井が捕まった後に研究所が《魔法執行機関》によって制圧される際に、セフィリアとクリフィアが逃げ出した。そして《双星の魔女》編が始まる訳だが、黒井がまだ捕まっていない以上、なんらかの手段によってあの二人を動かせたとしても何も不思議なことはない。
だが、二人の背後に黒井が居るとして、メリットはなんだ?
黒井の人間性は疑う余地もないクズだが、同時に魔法少女を金儲けの道具として最大限活用しようとしているのも事実。そんなヤツが、まだ非人道的な人体実験が露呈していないにも関わらず、所属している《魔法執行執行》が潰れるような真似をするか?
「いや、前提がもう違うのか? もし奴が《魔法執行機関》に帰属意識がないとするならば……」
ぽつり、と誰にも聞こえないように呟く。
黒井にとって《魔法執行機関》は目的じゃない。魔法少女を利用するための、数ある手段の一つに過ぎないのだとしたら?
仮にこのまま報道が流れ続け、世間が加熱し、人々が魔法少女を危険視するとしよう。世間一般の認識では、《ディスナンド》に対抗できるのは魔法少女だけだ。
だから、魔法少女そのものを排斥することもできない。
望むとすれば、魔法少女を自由にさせずに、《ディスナンド》が現れた時の戦力としてだけ使うこと。
それはつまり、魔法少女を
まさしくそれは黒井の理想──
むしろ《魔法執行機関》が魔法少女を庇護している現状こそ、奴にとって邪魔なのではないか。
そして、国が管理するとなれば反逆できないように、その力を大きく制限するのは間違いない。これまで通りの生活も、望めやしないだろう。
それこそが黒井の狙いではないか、と俺は考えた。
魔法少女への不信を煽り、《魔法執行機関》の立場を弱め、国による管理を必要とさせる。
その上で、新たに発足するであろう魔法少女の管理機関に自らが入り込む。
そうすれば奴は今度こそ、誰にも邪魔されることなく、魔法少女を自分の理想通りに管理できる。
……この推理があっているなら、なおのこと止めなくてはならない。
「もしあのまま《双星の魔女》が、繰り返し魔法少女を襲い、人々に害を加えるとするなら俺も動かないといけない」
「ほう? どうするのじゃ?」
「なに、単純だ。俺があの二人を相手取る」
「ボスが?」
あまりやりたくはない。
セフィリアとクリフィア。あの二人があのような性格と力を持つに至った背景についても、同情だってしている。親に売られ、望まぬ実験を受けさせられた末に、ああなったのだから。
だが、黒井が見つからない以上、手先であるあの二人に接触するのは急務。その上で、その横暴は放置できない。
……それに。
せっかく焔ちゃんと澪が、《トライデント》のアクラーツによって正体を割られ、人々から追われる展開を無くしたのに、形は違えども、自由を奪われるようなことになるというならば。
俺はその未来を阻止させてもらう。
「大金持の奥さんの時と同じだ。強制的に、魔法少女としての力を封じさせてもらう」
そして、黒井から解放すれば、それで終わりという話ではない。
◇
「あら、八雲くん。いらっしゃい! どうしたの?」
「どうも、恵さん。うちの寧々子が、トワイライト学園から焔ちゃんの分のプリントをもらってきたので、そのお届けに来ました」
俺は天照家を訪れていた。
恵さんが、驚いた顔で俺を出迎えてくれたが、持っているプリントを見て納得したようだった。
セフィリアとクリフィアとの戦いの後。
焔ちゃんと澪は、すぐに《スター⭐︎ゲイザー》の面々に保護された。本当は俺も行きたかったが、一般人を平然と襲ったセフィリアとクリフィアがまだ付近にいる可能性があるから危険だと、置いていかれたのだ。
ちなみに嶺も置いていかれた。
魔法少女同士が戦う光景にショックを受けて気絶していたが、その後意識がない嶺をミッチェルさんが膝枕するという手厚い介護をしてくれていた。おかげで、程なくして目を覚ました嶺は間近にあるコワモテぷるぷる唇のオカマに、二度目の気絶を果たした。
やがて凪沙たちが、焔ちゃんと澪を抱えて戻ってきた。
あれだけの激闘の上、〝エクリプス・スパイラル〟を受けたにも関わらず、肉体に残る傷はなかった。
元々、魔法少女は現代兵器でもほとんど傷つかないほど、強靭な肉体を得る。
なんならアニメで《セブンスター》相手に朝に負けたっていうのに、夜にはリベンジを果たすくらいに回復力だって桁違いだ。それだけの力を得られるミラクルパワーの出鱈目さに、舌を巻く。
とはいえ、傷がないから万全というわけではない。ミラクルパワーの消耗は激しく、大事をとって今日は学園を体調不良という体裁でお休みをしていた。
「本当、ありがとうね。焔もきっと喜ぶわぁ。焔も、お腹出して寝たら風邪をひくっていつも言っているのに」
「あはは、今は季節の変わり目ですからね。健康優良児の焔ちゃんでも、さすがに体調を崩してしまったようですね」
どうやら、焔ちゃんはお腹丸出しで寝たと誤魔化したようだ。
《魔法執行機関》は非公式の組織。
更に魔法少女は、自らの正体を親兄妹に至るまで話してはいけない。
だからこそ、『魔法少女マギアイリス』において友達や家族に自らの正体を明かす際には、一大イベントになるし、物語において大きな契機だってなる。
まぁ、正直親くらいには話しても良いと思うが……。実際、親からしたら自らの子どもが戦いに駆り出されるとなれば、反対するだろう。そして、魔法少女の方はミラクルパワーを使えるくらい善性が強いので、自ら戦いに赴いてしまう。
つまり、話したところで溝が埋まらないのも事実。なら、秘密にしているのがちょうど良いのかもしれない。
とはいえ、心配なのも事実。
澪の方は、実兄である嶺がなんとかするだろう。お隣さんとして、俺は焔ちゃんの方を慰めないとな。
恵さんと話しながら、勝手知ったる天照家を歩く俺。
「……ん?」
ピタリ、と足を止める。
天照家の廊下。
そこに微かに開いている扉があった。
その程度なら問題はない。というより、気にするまでもない。
だけど扉の隙間から覗く、天照家に相応しくない物体に思わず足を止めてしまったのだ。
「……
なんか、すっごい物々しい
あんなもの、なかったよな?
いや、あってたまるかよ。よほどの旧いお屋敷じゃなきゃ、飾ってないような代物だぞ。こんな一般家庭の一室にあって良い訳がない。
恵さんや焔ちゃんのことをよく知るだけに、違和感バリバリだった。
「どうしたの、八雲くん? って、あっ!!?」
俺がどこを見ているのか悟った恵さんが、慌てた様子で言い訳し始める。
「ち、違うのよ!? あぁ、いえ、違くはないのだけれどもっ。最近、ちょーっと、刀に興味が出てきてっ。あ、や、刀というか
あ、え?
模造刀とはいえ、日本刀を買ったの?
ああいうのって、結構な値段がするものじゃなかったか?
それに、欲しがるのも時代劇好きか
ちなみに俺は前世で親が育児放棄したし、祖父母なんて頼れる存在もいなかったから物を買ってもらった覚えがない。
でも、光莉との旅行先で、剣とドラゴンが融合したキーホルダー。それだけは施設の人のお手伝いをして、得られたお金で買った。
『え〜。おにいちゃん、そんなの買ってもすぐ使わなくなるよぉ?』
いいの!
その時は満足してたんだから。ただ、思ったよりも剣先が鋭かったので光莉が怪我しないようにキーホルダーとしては使うことをやめ、机の引き出しの奥に眠るだけの存在に成り果てたけど。
それでも買った時は、心がワクワクしたんだから!
「ごめんなさいね。で、でも、危なくはないのよ! ほら、先だって丸くなっているから切れることはないんだからね!」
「あ、あの恵さん。わかりましたから、向けるのはやめてください」
「はっ!? ごめんなさいね! そうよね、ごめんなさいっ。すぐに片付けるからっ、あっ!」
刀身を俺に向けて見せてきた恵さんが、そのまま収めようとして鞘の方を落とす。
俺は自然な動作でそれを拾い上げた。そのまま差し出した。
「危ないですよ。ほら、俺が納めますからこっちに渡してください」
「……八雲くん」
「は、はい?」
「ちょっと、この模造刀持ってくれる? あと、少しポーズをとってもらえるかしら?」
全くもって意味のわからないお願いを、恵さんに言われた。
え、ちょっと。
目がこわいんですけど……。