魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
「きゃ〜! 良い、良いわぁ! 次はこっちのポーズをお願いね!」
「え、えぇ。こう、ですかね?」
「そうそう! 素敵よ、八雲くん!」
なにこの状況。
俺は一体何をやっているんだ?
俺は、恵さんに煽てられるままにまた別のポーズを取る。
要求されるのは、基本的に刀を構えたポーズ。その度に、恵さんは四方八方から写真を撮りまくる。
そう、俺は何故か模造刀を持ったまま、恵さんに写真撮影をされていた。
「やっぱり剣道部だからかしら!? すごく似合ってるわぁ! 良い、すごく良いの! はぁ〜、ほんとうに良いわぁ! ほんと、
頬を紅潮させながら、恵さんが語る。すごいな。『魔法少女マギアイリス』でも、そしてこっちに転生してからも、見たことのない表情だ。
「八雲くん、次はこれを付けてもらえるかしら! あと、目線も欲しいわ。それと、もっと笑う感じ……あ、満面の笑みじゃなくてちょっとニヒルな感じでお願いね!」
「え、えぇ。わかりました。でも、あの、恵さ」
「それじゃあ、いくわよぉ! はい!」
促されて、思わず言われた通りにしてしまう。しかも、目元を隠す仮面みたいなのを付けて。
それをまた嬉しそうに撮る恵さん。
あの、恵さん。
そのカメラはいったいどこから引っ張り出してきたのですか?
黒くてえらくごっつい、今となっては日常でそうそう見ることもない一眼レフカメラが、恵さんの手に握られていた。
「焔が小学生の時に使ったっきりだけど、まだまだ大丈夫ねぇ。引っ張り出してよかったわぁ。スマートフォンも良いけど、やっぱり一眼レフカメラは画質が違うわねぇ」
そんな小学生の頃の思い出の品を、こんな俺のコスプレのために使ってるの!!?
あ、やばい、コスプレとか言ったら俺にもダメージがきた。
ち、違うんだ。無頼としてのあの姿は、決してコスプレなんかじゃっ……いや、正体がバレないために仕方のない行為であって、断じてコスプレが好きなわけではない。
無頼の姿に、俺の趣味が入っているって?
それはそう。
だってどうせならちょっとでもカッコいいのが良いと、ムラサメや大金持と一緒に選んだから。
まずい、どう言い訳しても俺にダメージがきてしまう。
魔法少女たちが羨ましい。彼女たちの場合、あの姿になるのは純然たる強化のためであって、人から揶揄われるような理由なんて微塵もないのだから。
「ねぇ、八雲くん。次はこのポーズを」
「あの、恵さん。そろそろ俺、焔ちゃんの見舞いに行きたいのですが」
「はっ!? ご、ごめんなさい、わたしったら。そうよね、八雲くんは焔のお見舞いに来てくれたのだものねっ。わ、わたしったら。ご、ごめんなさいねっ。今すぐにでもっ」
「あぶないっ!」
俺に言われて正気に戻ったのか、恵さんが大慌てで片付けようとする。その拍子に、屈んだ恵さんの大きなお尻が棚にぶつかり、上に積まれていた本が崩れ落ちてくる。
俺はすぐさま、落ちてくる本から恵さんを庇った。
いてぇッ!? 結構重いぞ、これ!?
「大丈夫ですか? 恵さん」
「は、はわわ……」
俺は抱き寄せる形になりながら、守った恵さんに問いかける。
恵さんは、ぱくぱくと口を開け、頬を赤らめながら俺を見ていた。
あれ、おかしいな。
ムラサメに蹴り上げられて、壁ドンした時にはこんな反応はせず、大人の対応をしていたのに。
まるで違うぞ。
「あの、恵さん?」
「……はっ! え、えぇ。全然平気よ、ありがとう。ありがとう、八雲くん。それで、あなたの方は?」
「いえ、この程度なら全然大丈夫です」
「そ、そうなの? なら、ここはそのままで良いわ。わたしが後で片付けるから、八雲くんは焔のところに行ってあげて。わたしは、飲み物とイチゴを用意してくるからー!」
そのまま恥ずかしそうにしながら、ぴゅーっと去っていく恵さん。片付けるんじゃなかったのですか?
とはいえ、俺はその後ろ姿を見てほっ、と一息つく。
「あんなにはしゃいだ恵さんは初めて見たな……。もしかしなくとも、俺のせいだよなぁ……」
かつて俺は《セブンスター》のメラックの魔の手から恵さんを救い出した。
その時、無頼として割と大胆な言葉と対応をしてしまった。
その結果が、アレなのであろう。
恵さんを、
俺はなんてことをしてしまったんだ……。
と、とにかく、模造刀や衣装を丁寧に片付けた後、俺は本来の目的である焔ちゃんの部屋を目指す。
二階に上がり、"ほむら"とひらがなで書かれた木製のネームプレートが掛かったドアの前に立つ。
「焔ちゃん、八雲だ。入るよ?」
ドアをコンコンとノックして、暫し待つも返事がない。
もしかして寝てるのか? 思えば恵さんがあんなに騒ぎ立てていたのに、降りて来なかったな。
だが聞き耳をたてると中でゴソゴソ、音が聞こえるから起きているはずなんだけど。
もう一度、ノックをしてから、俺は焔ちゃんの部屋に入る。
「う〜! はぁ〜! とりゃあっ! ……あっ」
そこでは、パジャマ姿の焔ちゃんが、何かをイメージしているのか、拳や蹴りを繰り返していた。
よっぽど、激しく動いていたのか息は乱れ、汗を流していた。パジャマもボタンがところどころ外れ、裾が捲り上がり、健康的なおへそが丸見えである。
そんな焔ちゃんだが、俺の姿を見て固まった。
俺、何度もノックしたし声もかけたんだけどなぁ。
そう思いつつ、目を閉じながら再び扉を閉めるのであった。
「わぁぁぁ!!? 八雲おにいさん!? なんで、どうしてぇ!?」
今になって俺に気付き、中で悲鳴をあげる焔ちゃんの声が聞こえたのだった。
「え、えへへ〜、は、恥ずかしいところをお見せいたしました」
暫し待っていると、部屋からどうぞ、と声が聞こえたので入る。
そこでは、身なりを整えた焔ちゃん(それでもパジャマだが)がベッドの上に座っていた。
恥ずかしいというか、はしたないところだったような気もするが、指摘せずに曖昧に笑っておく。焔ちゃんも、あまり指摘されたくないだろうし。
久々に訪れた焔ちゃんの部屋は相変わらずだった。
正直、女の子の部屋というよりもスポーツ好きな男の子っぽい要素の方が多い部屋だ。
唯一女の子らしいものと言うと、魔法少女関連のグッズだった。至るところに、魔法少女についての本やグッズ等が飾られている。
まぁ、焔ちゃんは本人が魔法少女となる前から割と魔法少女が好きだったからな。というより、この世界の女の子のほとんどは魔法少女推しである。
「調子はどうだい?」
「全然平気ですよ! なんならいま《ヤミノマ》が出ても問題ないくらいです!」
しゅしゅしゅっ、と拳を突き出す。
実際に調子は良さそうだった。
「やっぱりさっきのは、特訓かい?」
「わかりますか? そうなんです、ジッとしていなくちゃとは思うんですけど、つい……」
「まぁ、一方的にやられた
「一方的じゃないですよ? すっごく善戦しましたから!」
「そうなのか? それはすごいね」
「うっ。ごめんなさい、うそつきました。……そして、めっちゃくやしいです! むきぃ〜!!!」
悔しげにベッドへ仰向けに倒れ込み、ジタバタする焔ちゃん。せっかく整えたパジャマが、また乱れていくのを苦笑いで見つめる。
乱れた髪と服のまま、焔ちゃんは起き上がる。
「でも次は勝ちますよ! 負けっぱなしは性に合いませんし、それに……あの二人をそのままにしておけませんから」
「そうかい。流石は今をときめく《オーレオール》だね」
「うぇへへ〜、その呼び方気に入ってるんですよね。自分でもわからないくらい、しっくりくるんです」
「そ、そうかい」
まぁ、『魔法少女マギアイリス』における君たち二人を指すタイトルだったし。
「でも、あたしよりも澪の方が心配なんです」
「澪が?」
「メールを送っても、簡素な返事しかなくって……。あ、別に返事自体はいつも事務的な感じですよ? でも、どことなく覇気がないというか元気がない感じがして」
「なるほどね……」
少し悩む。
もともと、《双星の魔女》に《オーレオール》の二人が一度敗北すること。
それ自体は『魔法少女マギアイリス』の《双星の魔女》編でも実際にあった出来事だ。
この後、焔ちゃんと澪は《ビックスリー》の面々に鍛えられて、見事再戦でリベンジを果たす訳だ。
澪の元気がないのも、負けたせいだろう。
嶺に澪を任せたいところであるが、嶺は今一人暮らし。対して澪は実家暮らしだ。
前日は澪を実家に送り届けた上で、嶺もそのまま泊まったらしい。今朝、学校に来てから嶺に話を聞いたところ、『特に問題はない』と聞いている。
しかし、それは強がりなのかもしれない。
悩みがあればとにかく体を動かしたりして発散する焔ちゃんと違い、澪の方は抱え込んでしまう傾向がある。
兄である嶺もそれを見抜いているようだった。その上で、体調は問題ないと言ったのだろうが、心はそうでもなさそうだった。
これは、俺も動くべきだな。
だが、普通に接触しても澪は隠しそうだ。弱みを見せるのを嫌う娘だから。どうしたものかなぁ……。
「そうだ! 八雲お兄さん! せっかくなら遊びませんか! あたし、新しいゲームソフトも買ったんですよ! ゲームだからと侮っちゃいけませんよ、めちゃくちゃ身体動かしますから。お母さんも、一回やってバテるくらいに!」
「非常に魅力的な誘いだけど、今回はやめておこうかな。静養しなさいって言われたのに、また動こうとしないの」
「えぇ〜、せっかく八雲お兄さんが家に来てくれたのに……」
ぶーたれる焔ちゃん。
この娘、本当にジッとしているのが苦手だ。
《にゃあ》
不満気な、猫の鳴き声。
見ればベランダの方で、猫……もとい寧々子がジト目でこちらを見ていた。
「あれ!? 猫! 猫ちゃん! どうしてここに居るの?」
「さ、さぁねぇ。たまたまじゃないかなぁ」
「でも嬉しいなぁ! 猫ちゃん、お部屋入る? あっ、いっちゃった……」
ちらりと時刻を見れば、結構な時間が経っていた。
まぁ、ほとんどは恵さんの撮影に付き合ったせいだが。
焔ちゃんは、寧々子を部屋に入れようとしていたが逃げられてしまった。そろそろ戻らないと、本格的に拗ねそうだな。
「焔ちゃん。それじゃあ、俺もそろそろ」
「お待たせぇ。色々持ってきたわぁ。あら、八雲くん。もう帰るの? まぁまぁ、もうちょっといても良いんじゃないかしら。ほら、ちょっと色々とお詫びもあるし……ね?」
「わぁ〜い! あたしの大好きないちごが山盛りだぁ! ……ん? お詫びってなに? お母さん」
「あ、あはは。とにかく、どうぞ一緒に食べてねぇ」
その後、両手いっぱいに駄菓子といちごを持った恵さんに引き留められ、結局俺が帰ったのは一時間後だった。
自宅に戻り、いまだに猫のままの寧々子をひょい、と抱き上げる。
「寧々子、お願いがあるんだが……うぷ」
「だめ。まずは寧々子を可愛がってからにして」
肉球を顔面に押し付けられる。
やきもち焼きな寧々子をそのまま構って、機嫌が良くなったところで俺は頼み事をした。
「明日、一緒に澪に会いに行ってくれないか。寧々子は、猫のままで」
澪は猫が大好きだ。
なら、それを利用すれば心を解きほぐせるかもしれない。そう思って寧々子に頼む。
「え、やだ。寧々子は、ボス専用の愛猫だもん」
ふつーに断られた。