魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
焔ちゃんの話から、澪の様子が変だと聞いた俺はすぐに行動を開始した。
次の日。
トワイライト学園に登校したものの、下校時間になると、すぐに澪が姿を消したと寧々子から連絡があった。普通なら探すのは困難だが、俺には秘策があった。
「それじゃあ、頼むよ」
「仕方にゃしぃ。ちゃんと、帰ったらブラッシングしてね」
寧々子に頼み、猫の姿になって、辺りの猫たちに聞き込みをしてもらう。
前に一度だけ、寧々子は周囲の猫たちを締め上げて、文字通りボス猫となったことがあった。なので、猫たちは寧々子の指示に従って、すぐさま澪の居場所を教えてくれた。
「はぁ……」
そして、いた。
最初に会った時とは違う、猫たちが集まる秘密スポット。そこに澪がいた。
いつも通り、ちゅーるを持って猫に囲まれている。
だけど、どこか心ここにあらずといった様子だった。
猫たちに、にゃーにゃーと新しいちゅーるを催促されているのに、どこか遠くを見つめたまま動かない。猫好きの澪としては異常な様子。
落ち込んでいるとの話は、どうやら本当らしい。
俺はその場で寧々子に待機を命じて、澪へと近づく。
「相変わらず、猫に囲まれるのが大好きだね」
「はひぃ!? し、ししょうっ!?」
聞いたことない悲鳴が、澪からあがった。
猫たちも、俺じゃなくて澪の悲鳴にビックリして何匹か逃げ去っていく。残っているのは、ふてぶてしい猫だけだ。
俺は澪の隣に座り、近くの猫に手を伸ばす。
すぐには撫でない。警戒されている場合があるから。幸い、人慣れしている猫だからか、逃げる様子もない。そのまま、撫でることができた。
「どうしてししょうがここに?」
「きみを探していたんだ。どうやら思い悩んでいるみたいだって、焔ちゃんから聞いてね。あと、嶺にも薄々察せられていたよ」
「焔にお兄さま……、わたしそんなにわかりやすいのでしょうか」
ぐにぐに、と澪は自らの頬を触る。
まぁ、実際は単に
俺はそのまま澪の隣で猫を愛でる。
「こうしていると、初めて澪と出会った時を思い出すね」
「あ、あの時はお恥ずかしいところをお見せしました……」
「いやいや、今となっては良い思い出だよ。流石に土下座は予想外だったけどね」
そのまましばし談笑し、機を見て本題に入る。
「思い悩んでいるのは、セフィリアとクリフィアのことか?」
「……わかりますか?」
「そりゃね。あんなことがあって、まだ数日しか経ってないし。何か、気に障るようなことでも言われたのか?」
「ほんとう、師匠はなんでもお見通しですね」
澪は諦めたように笑った。
そしてそのまま、ぽつぽつと語り出す。
「セフィリアとクリフィアに言われました。わたしが焔の足を引っ張っていると」
「それで傷ついたのか?」
「いいえ。多分、悔しかったのだと思います」
「悔しかった?」
「はい。あの時、クリフィアに言われた言葉をすぐに否定できなかったことに。わたしはいつも、焔の様子を見てから動いています。《トライデント》の時も、《ダークドリーム》の時も、この間の《セブンスター》との戦いでも。わたしが、焔の足枷となっていること。そんな自分の不甲斐なさが、悔しかったのです」
澪はぎゅっ、と唇を噛み締めた。
「わたしがもっと、大胆に動けるような性格だったら……」
「それは違うよ。慎重なのは、澪の長所だろ? そもそも、慎重なのは悪いことじゃない。相手がわからないのなら、迂闊に飛び込むのは危険だからね」
「でも、そのせいであの二人に」
「少し別の話をしようか。もともと焔ちゃんは、物事を深く考えるよりも先に動いて相手の出方を見ることが多い。俺がテスト勉強を教える時とか、とりあえず解いてみてダメだったら考えるとかだったからね」
「それは、よくわかります」
妙に実感がこもった相槌をする。
きっと、色々あったんだろうなぁ……。
「だけど、魔法少女になってからは、よりそれが顕著になった。魔法少女として、戦える力を持ったからこそ、人々を襲う《ディスナンド》をゆるせない。早く倒そうとしているんだろう。実際、《ヤミノマ》は時間をかけたら周辺の人々から負のエネルギーを集めて強くなっていく。だから、焔ちゃんの行動は基本的には正しい」
「ならやはりわたしは……」
「基本的には、と言っただろう? 実際の戦闘は違う。《ヤミノマ》は個体ごとに力だって違うし、能力だって異なる」
かつて《セブンスター》のメラックが召喚した、みたらし団子を憑代とした《ヤミノマ》。
もし焔ちゃんと澪の二人の前に現れたら、真っ先に殴る焔ちゃんはそのままみたらしの粘度で捕らえられていただろう。
「でも、きみがいる。だから、焔ちゃんは《ヤミノマ》に真っ先に突っ込むんだろう。何かあっても、澪がなんとかしてくれるって思って」
それは、焔ちゃんから澪に対する絶対的な信頼だった。
俺の言葉に、澪は嬉しそうな、それでいて悔しそうな顔をする。
「それは、なんとも重い話ですね。わたしは……その信頼に応えられませんでした」
「なら、これから応えれば良いじゃないか。焔ちゃんは、あの二人にリベンジするつもりだよ」
「知っています。メールでも息巻いていましたから」
「もちろん、澪もリベンジするだろう?」
「わたし、わたしは……こわいです。戦うことが怖いのではありません。焔の期待を裏切ってしまうことが、怖いのです」
うーむ、思ったよりもネガティブになってしまっているな。
まぁ、もともと《双星の魔女》は、焔ちゃんと澪が魔法少女として一年以上戦った後に登場する相手だ。今の状態で負けたせいで、自信を失っても無理はない。
俺が色々と改変した結果、魔法少女になってから三ヶ月しか経過してないしな。
……なら、もうちょっとヒントを与えても良いか。
「相手の動きがわからないというのなら、誘導するんだ。きみのわかる動きへと」
「誘導、ですか? でも、そんなことができるでしょうか?」
「できるさ。澪、ちゅーるはまだ余っているかい?」
「え? は、はい。どうぞ」
要領の得ない言葉に、首を傾げつつちゅ〜るを渡してくれる澪。俺はそれをありがたく受け取り、先ほど澪が悲鳴をあげたせいで一度は逃げ出し、遠目にこちらを見ていた猫たちへと向ける。
すると猫たちは、ちゅーるを求めてあっちをふらふら、こっちをふらふら、ちゅーるに目が釘付け。俺がちゅーるを動かすとともに、猫たちも動く。
そして俺がちゅーるを開けると、あっという間に群がってきた。
「きみはセフィリアとクリフィアをよく観察したはずだ。なら、あの二人の動きについても、よくわかるだろう? なら大丈夫だ。あの二人の連携は見事だが、反対に
実際に原作において《双星の魔女》を相手取る際に、澪が作戦を考えて打倒した。
思わず断言しそうになり、慌てて推測するような言い方に切り替える。
「大丈夫。きみは星見ヶ丘が誇る《オーレオール》のオーロラミスト。そして、俺の知る月詠澪は、この程度で折れない芯の強い娘だ」
「ふ、ふふふっ。なんですか、それ。でも……ありがとうございます。おかげで少し、希望が出てきました……あら?」
《にゃあ》
やっと笑った澪の元に、猫になったままの寧々子が現れた。
「あ、あれはししょうにしか懐いていない猫ちゃん! そ、それがわたしのそばに……!?」
そして寧々子はそのまま澪のそばにいき、ゴロンと寝っ転がる。ワナワナと震えながら、感動した様子で澪は手を伸ばした。そして、寧々子の毛並みに触れる。
寧々子はしょうがないとばかりに、澪に撫でられるがままだ。
口ではあーだこーだ言いつつも、寧々子も心配していたのか。
素直じゃないなぁ。
微笑ましいものを見る目で、俺は二人を見守る。
「……今なら、しても良いのではないでしょうか?」
「ん? なにを……」
《ふぎゃっ!!!!???》
そして、そのまま寧々子のお腹に顔を突っ込んだ!
寧々子はジタバタするが、爪を立てれば傷をつけてしまう。なんとか抜け出そうとするが、澪は絶妙な力で寧々子を逃がさない。
そのまま何度も深呼吸して、匂いを確かめる。
「見ていてください、ししょう。わたしは必ず、セフィリアとクリフィアの二人を止めてみせます……!」
「う、うん。わかったから、そろそろ離してあげたほうが良いと思う……」
《ふにゃー! ふにゃにゃー!!!?》
猫吸いして、元気が戻った澪に俺はやんわりと離すように伝えるのだった。
「うぅ、うぅ、や、いや。寧々子のお腹は、ボスのものなのに。ボス、ボス、寧々子のお腹吸って! 上書き、上書きしてぇ!」
「ま、まて寧々子。おへそを押し付けるのはやめっ、うぷっ!?」
「なにしとるんじゃ、お主ら……」
その後、帰宅したら寧々子が人間に戻り、俺に対して服を捲って自らのお腹を俺に押し付けてきた。
ぷにぷにと柔らかな感触を楽しむ暇なんてなく、むしろ窒息しかけていた。
そしてムラサメだけが、ドン引きした様子で俺たちのことを見ていた。
ふ、不可抗力だ……!