魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
「じゃあ、ミラクルパワーもらうねぇ? 心配しなくても、また魔法少女にはなれるよ♪ まぁ、しばらくはなれないけど! あははぁ!」
「うっ……」
嬉々として気絶した魔法少女を掴み、またあの時のようにミラクルパワーを吸い取り始めるセフィリア。
「ちょっと待ったー!」
「あはぁ!? なによ、良いところだったのにぃ……!」
「それ以上の横暴は許しません!」
「また来たのかよ、えぇ、おい? 《オーレオール》さんよぉ」
そこへ、あたしはセフィリア目掛けて蹴りを放つ。
咄嗟に避けられちゃったけど、魔法少女から離れさせることはできた! オーロラミストもすぐさま倒れた魔法少女を抱えて、あの二人から距離を取り、安全な場所に寝かせる。
セフィリアとクリフィアは、明らかにイラついているようだった。
「また痛い目に遭いたいのかよ、《オーレオール》!」
「ちがうよ! あたしたちは、リベンジしにきたんだ!」
「あなたたちを止めるために、また戦います!」
「あははぁ♪ なまいきぃ〜、なら相手してあげる!」
そうしてあたしたちは、セフィリアとクリフィアた再び激突する。
「また馬鹿正直に突っ込んでくるの? それじゃ、わたしには勝てないよぉ?」
「馬鹿正直じゃないよ!
「変わらな〜い! あははぁ、良いよ。なら、無理にでもねじ伏せてあげる!」
あたしの相手はセフィリアが。
「それでおれの相手はお前かよ」
「えぇ、先の言葉を撤回させるために。わたしは、あなたを倒します」
「ほざきやがれっ!」
オーロラミストの相手をクリフィアが。
それは、まるで前の戦いの焼き直しのようだった。
一対一での戦い。殴ったり、蹴ったり、拳同士がぶつかったり、かわしたり。肉弾戦が繰り広げられる。わかっていたけど、セフィリアとクリフィアは強い。あたしたちなんかよりも、人との戦いに慣れている。
大きく後退する影。
オーロラミストだ。クリフィアの蹴りを躱したみたいだった。
「優等生だなぁ、オーロラミストさんよぉ! それじゃあ、おれには及ばないぜ!」
「……いいえ、今日のわたしは
「はぁ? いきなり何を言っていやがるんだよ」
意味不明な宣言をして、クリフィアが顔を顰めた。
そしてオーロラミストが次に取った行動。
それは、クリフィアに対して背を向けることだった。
「けひっ!? おい、おれを無視すんじゃねぇ!」
「いいえ、無視させていただきます!」
「このっ……!」
離れていくオーロラミストを、狙いを理解できないクリフィアが慌てて追いかける。そして、やがてオーロラミストの狙いにクリフィアが気づいた。
「おい、それはちげぇだろ! セフィリア!」
「あはぁ!? ちょ、ちょっと二人同時はきついかも!」
そう、オーロラミストはあたしとセフィリアの方に向かっていた。あの二人は強い。連携だってばっちりだ。だけど、二人の連携を崩してしまえば、その強みは発揮できない。
こっちに向かってくるオーロラミスト。その時、目があった。
「サンシャイン! ──任せるわ!」
「オーロラミスト! ──任せて!」
あたしはすぐにオーロラミストの狙いを悟った。
あたしも身を翻して、すれ違いざまにハイタッチをすると同時に、あたしと澪の拳が光り輝く。
〝マギアイリス・クェーサー〟ほどミラクルパワーを練り上げているわけじゃない。それでも、触れ合った瞬間、あたしとオーロラミストの力が混ざり合い、普段とは比べものにならないミラクルパワーが拳へと集まっていく。
そして、そのまま――
「あはぁっ!?」
「けひぃっ!?」
あたしがクリフィアに。
澪がセフィリアに。
突然相手が変わったことに、二人は一瞬固まる。そしてそれは、あたしたちにとっては十分すぎるほどの隙だった。
「「〝シャイニング・ミーティア〟!」」
二人分のミラクルパワーを宿した光り輝く拳が、セフィリアとクリフィア、それぞれのお腹に叩き込まれた。
「やった!!!」
やっとまともに入った一撃。
練習した甲斐があった! 達成感と歓喜が体に満ちる。
「げはぁっ……!」
「ごほっ……!」
そしてその喜びを遮るように。
熱い何かが、あたしの頬に飛び散った。
液体? ううん、ちがう。
あの二人が血を吐いている。
「あは、あははぁ……♪ すごいねぇ、《オーレオール》の名前はぁ、伊達じゃなかったってことかなぁ」
「けひ、けひひぃ……! やるじゃねぇか、驚いたぜぇ……!」
セフィリアとクリフィアは、自ら血を吐いたことにさして驚くこともなくあたしたちを見ている。
「なっ、えっ、ど、どうして……!?」
血を吐いたことに、あたしは動揺する。
だって、確かに新しい技ではあったけど、それでも殺傷能力は抑えた技だった。一般人ならともかく、魔法少女だったらどう間違っても、食らっただけで血を吐くような威力じゃない。
実際、風羽さんたちに当てた時だって、痛そうにするだけで血の一滴も流さなかった。
だけどあたしの考えとは裏腹に、あの二人は血を吐いている。
セフィリアは、白い衣装を血で染めながらクリフィアへと視線を向ける。
「クリフィア……調子は?」
「さいっこうに、最低だぜセフィリア……! けひひっ、やっぱり無理が祟ったかぁ……!」
「あははぁ……! けほっ、わたしもぉ。さっきのミラクルパワー、中途半端にしか吸えなかったしぃ。
「おれもさ。けひひっ、やっぱり
血を吐いたというのに、ちっとも動揺した様子のない二人。
一方であたしは、拳が震えてしまう。
「サンシャイン! 動揺を抑えて!」
「オーロラミスト……ッ、でもっ」
「わかるけども、あの二人を先に取り押さえないと。治療だって、その後すれば良いわっ!」
澪も動揺しているはずなのに、それを無理やり抑え込んであたしに言葉を投げかける。
そうだ。
今、ここであの二人を捕まえないと。血を吐いてしまった理由も、あとで聞こう。その思いを胸に、行動しようとしたあたしたちは──
「あははぁ♪ ひどいなぁ、そう思わない? ねぇ? ──
「けひひっ。ひどいじゃねぇか、そうだろう? なぁ──
その言葉に完全に凍りついた。
「えっ?」
「はっ?」
いま、なんて。
ほんみょう。本名だ。
誰の?
あたしの。澪の。
なんで。どうして。
あたしたちの本名を、セフィリアとクリフィアが知っているの?
《ヤミノマー!!?》
「なっ!? 《ヤミノマ》!!?」
「こんな時に……!」
動揺を抑える暇もなく、そこへ割って入る《ヤミノマ》。
さっき倒されたばかりなのに、もう新しい《ヤミノマ》が!!? いくらなんでも早すぎる!
しかも《ヤミノマ》は、
「理由はわからねぇが、チャンスだぜセフィリア」
「あははぁ、そうだねクリフィア」
その隙を突いて、セフィリアとクリフィアがその場から離れていくのが見えた。
あたしは思わずその背中に言葉を投げかける。
「待って! あたし、まだあなたたちの口から理由を聞いてない! どうしてあたしたちの名前を知っているの!? あなたたちは、本当は何者なの!?」
「さぁねぇ。ごほっ、あは、あははぁ……! 自分で考えてみたらぁ?」
「お前らも魔法少女なら、ちったぁ頭使えよなぁ。ごほっ、けひ、けひひっ……!」
「サンシャイン! 先に《ヤミノマ》をなんとかしないと!」
あたしの問いかけに、二人は答えなかった。口から血を流しながら、昏い笑みを浮かべてその場を去っていく。
追いかけたかったけど、《ヤミノマ》のせいであたしたちは二人を追えなかった。
リベンジは果たせた。
あたしと澪は、確かにセフィリアとクリフィアに痛手を与えた。
だけど、あたしはちっとも嬉しくなかった。
あたしたちの本名を知っている事実。
そして何より、あの時、顔にかかった血の生温かい感触が。
いつまでも、あたしの頭から離れなかった。
◇◇◇
「何をしているのかね? 君たちは!!!」
苛立った声が、響き渡る。
質の良い黒いスーツに身を包んだ、一人の男。
〝エスポワール号〟の一件以来、《魔法執行機関》から姿を消した黒井であった。
セフィリアとクリフィアは、敗北した後に秘密の通路を通って此処に戻ってきた。そこは地図に載っていない、巧妙に隠された山の中にある秘密基地。
過去、度重なる研究所への
そんな黒井の前で、セフィリアとクリフィアは──
「あ、はぁ……ッ!」
「け、ひひっ……ッ!」
もがき苦しんでいた。
床に倒れ伏し、首を押さえている。
理由は簡単。二人の首に嵌められたチョーカーが、容赦なく締め上げていたからだ。酸欠状態に陥った二人は、やがて顔色が悪くなる。
そこまでしたところで、黒井は手に持つリモコンを押してチョーカーを緩める。途端に二人は、荒々しく息を吸い込んだ。
「はぁ、はぁ……ッ!」
「はぁ〜、はぁ〜……ッ!」
「わかっているのか? お前たちは、魔法少女としての存在意義を揺るがしてもらわねばならんのだ。世間に不安を広げ、魔法少女への信頼を揺るがす。やがて市民は、必ず魔法少女の
それこそが黒井の狙いであった。
世間を揺るがし、魔法少女の存在意義を揺らがし、自身の都合の良い流れを作る。《魔法執行機関》を離れた彼が、再び魔法少女を掌握するために考えた策であった。
「すでに各権力者とは話はついている。あとは大金持殿だが、世間の流れが完全に傾いてから話せばどうとでもなる。あと少し、あと少しなのだ。それまでは
「わかってるわ……」
「そんなに怒鳴らなくてもなぁ……」
セフィリアとクリフィアは頷いた。
やがて溜飲が下がったのか、黒井は幾分落ち着いた表情になる。
「あとでまた調整してやる。それまで動かずに反省しておくのですね」
黒井は振り返ることすらせず、その場を後にした。
後には二人だけが部屋に残る。
「けひひ……無事か? セフィリア」
「あははぁ……無事? クリフィア」
黒井がいなくなったあと、二人が真っ先にしたのは、互いの無事を確かめることだった。
「悔しいなぁ」
「悔しいよ」
「おれたちの方が強いのに」
「わたしたちの方が強いのに」
「二回目にはしてやられた」
「ほんとうに、ずるいわ」
二人は交互に話しながら、顔を歪ませた。
その顔にあったのは、嫉妬。こんなに自分たちが苦しい思いをしているのに、あっという間に自分たちを上回ったサンシャインとオーロラミストに対する、純然たる嫉妬と、どうしようもない憎しみだった。
「負けっぱなしは、性に合わねぇ。絶対に、あの二人にリベンジしてやる」
「けどどうするのぉ? マスターには、動くなって言われたよ?」
「魔法少女として、だろう? おれたちの顔は割れてないんだ。なら、
「あははぁ♪ 悪い子だ♪」
「そっちこそ、言葉の割には良い顔してるぜ」
二人は、ゆっくりと立ち上がる。
二人は近くにあった備え付けられたパソコンのデータベースに目を落とす。
そのままキーボードを叩き、マウスを操作すると目当ての情報が出てくる。
天照焔、月詠澪。
生年月日、住所、家族構成、血液型、性格。《魔法執行機関》が把握している情報。年頃の女の子であることを考慮して、本来、《魔法執行機関》が保有しているのは、彼女たちを保護する上で必要となる最低限の情報だけだ。
しかし、黒井はそれだけに飽き足らず弱みや脆い部分まで徹底的に調べ上げていた。全ては自身が魔法少女を
《魔法執行機関》が把握しているすべての魔法少女の情報が、ここにあった。
「やっぱり家族をなんとかしたほうが良い顔するか?」
「ん〜……、でもちょっと危ないんだよねぇ。だってさぁ、家族を人質に取ったら向こうに、わたしたちが天照焔と月詠澪の個人情報をすべて把握しているって知らせちゃう。まぁ、いざとなったらそれでも良いけどさぁ」
事実、『魔法少女マギアイリス』において《双星の魔女》編におけるセフィリアとクリフィアは、最後の決戦において、家族を人質に、焔と澪を誘き出していた。しかし、今の時点では早いとセフィリアが首を振る。
「ならどうすんだよ?」
「それがねぇ、実は前に見た時に面白いことが載ってあったの」
「へぇ? なんだよそれ」
にんまりと、セフィリアが笑う。
「家族ほど近しいわけじゃない。けど、あの二人と近しい存在。珍しく、随分と感情的に書き殴られていたわ。よっぽど、この間の豪華客船の時に不快な目にあったのねぇ」
「へぇ、そんな奴が居るのかよ? けひひっ、その様子を見てみたかったぜ」
「すぐに会えるよぉ。ほら、出てきた」
青白く光るデジタルの光。
そこに浮かび上がる文字と写真をみて、セフィリアとクリフィアは悪い顔をする。
「けひひっ、なるほどなぁ」
「あははぁ、ね? 面白そうでしょう?」
そこに載っていたのは、一人の男子高校生。
氏名──