魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:火星人マーズ
猫たちに囲まれて、だらしない笑みを浮かべている月詠澪。
会えたらといいと思っていたがこんなに早く出会うとは。
澪を中心に、サークルみたいに囲む猫の姿。全匹がちゅ〜るに夢中になっている。あれだけの数を買ったのか。
やがて澪はそのうちに一匹を抱え、すぅ〜っと猫の腹に顔を埋め、深呼吸し、恍惚とした表情を浮かべた。
「えっ」
「あっ」
そのタイミングで目があった。
お互いに硬直する。明らかに空気が凍った。
動いているのは、暢気にちゅ〜るを貪る猫だけだ。
すぅ……きまずっ。
なんとか接触を図りたいとは思っていたが、タイミングが悪すぎ。
「あ、わ……ァ…………!」
泣いちゃった! とまではいかないが澪は、固まっていたがみるみるうちに耳が赤くなっていく。
わかる、わかるよ。
誰もいないと思って鼻唄を歌っていたら、実は背後に人がいて熱唱を聴かれていたのに気づいた時、恥ずかしさのあまり死にたくなるもん。
ならば何も、見なかったとして去るのが大人の優しさなんだろうけどこのチャンスを逃したくない。
はてさてどうしたものかと考えていると、澪の指が傷ついているのが見えた。おそらくは野良猫に引っ掻かれたのだろう。それを見た俺は澪に近づく。
「え? あの、なんですか?」
「とりあえず、傷は手当しておいた方が良い。傷口自体は浅いだろうが、化膿する可能性があるからね」
とりあえず、今のことには指摘しない。
野良猫というのは
それはそれとして、日々いろんな場所を歩き回っているのだから、当然雑菌も多い。
だから、傷をつけられたのは良くないので、俺は鞄から常日頃から持ち歩いている救急セットを取り出す。
寧々子がよく怪我をしていたから、その頃からずっと救急セットを持つようになったのだ。手際よく、澪の傷を手当てする。
「かわいい……」
「ん?」
何やら呟いている。視線の先には、猫の肉球の形をした絆創膏。寧々子のお気に入りだから、俺の持つ絆創膏はすべてこれだ。
「はっ! 絆創膏、ありがとうございます。ところで貴方は誰ですか? どのような理由で、こんな人気のない場所に?」
「その言葉、そっくりそのまま返したいところだけど、まぁいいか。俺は……」
「澪ちゃ〜ん! どこいったのぉ〜!?」
警戒心をあらわに問いかけてくる澪の問いに答えようとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あー、居た! 一緒に帰ろうって言ったのに、先にいなくなるだなんてひどいよぉ! って、わぁ!? 何ここ猫カフェ!?」
やっぱり焔ちゃんだったか。
猫のたまり場と化しているこの場に驚いていた。
「あれ! おにいさん! どうしてここに!?」
「やぁ、焔ちゃん。たまたま帰る途中に猫の鳴き声が聞こえてね。つい、つられて来てしまったんだ」
一方で澪は、俺と焔ちゃんの顔をきょろきょろ確認する。
「天照さん、知り合いなの?」
「あ、うん! あたしの隣の家に住んでる八雲おにいさん! すっごく優しいんだよ! 八雲おにいさんはね! 毎朝、わたしと会ったら『おはよう』ってちゃんと挨拶してくれるんだ! わたしもね! 八雲おにいさんと朝一番に会うために、起きるの苦手だけど頑張ってるんだよ! それでね! 八雲おにいさんはね! すごく優しくて、わたしが宿題でわからないことがあったら教えてくれるんだ! それでちゃんと解けたら、褒めてくれるから、わたしもがんばるぞぉ〜、って思えてね!」
重い。焔ちゃんからの信頼が重すぎる。
一生懸命紹介してくれるのはわかるが、熱量がすごい。
「それでね──」
「も、もうわかりましたから結構です!」
「そうなの? まだ語り足りないんだけど……、八雲おにいさん! この子は月詠澪ちゃん! あたしの新しいお友達!」
「ちょっと、近いっ……!」
凄まじいまでの俺の紹介トークに、澪が
それで澪の方も、焔ちゃんに顔を寄せられてほっぺた同士がくっついている。それでも口ではいやそうにしながらも、振り解くようなことはしない。仲良きことは良きことかな。
「こんにちは。なら改めて自己紹介を。俺は八雲頼仁。焔ちゃんの家の隣に住んでいる高校生だ。彼女とは長い付き合いでね。焔ちゃんは昔から一直線に突っ走る癖があるからね。きみも随分苦労させられているんじゃないかい?」
「えぇ。それはまったくもって」
「がびーん! ふたりともひどーい!」
少し屈んで視線を合わせながら、自己紹介する。
焔ちゃんと知り合いだとわかったからか、かなり警戒心が薄れている。焔さまさまだ。
「それにしても、焔さんの知り合いだなんてね。意外と世間は狭いのかしら」
「どうだろうね。単に焔ちゃんの交友関係が広いだけだと思うよ、月詠さん」
「澪で結構です。年上なのに、気を使う必要はございません」
「そうかい? なら、ご厚意に甘えさせてもらうよ」
「そうだよ、八雲お兄さん! みおみおって言っても良いよ!」
「あなたはもっと人に対しての距離感というのを覚えてください」
「あれー!?」
突き放された焔ちゃんがショックを受けた顔をする。実際、距離感のつめ方バグってるからなぁ。俺の時もそうだった。同級生の初恋とか無自覚に奪ってそうだ。
まぁ、トワイライト学園は女子校だから男は入る余地ないんだけどね!
「……」
「ん? なにか?」
「いえ、その随分と鍛えているように見受けられるのですが、何かやってらっしゃるのですか?」
「あぁ、それは」
「八雲おにいさんは剣道部だよ! こう、シュババーン! メーン! ってやってるやつ!」
焔ちゃんが自分のことのように嬉しそうに語る。うん、さっきから俺の個人情報だだ漏れなんだが?
「八雲おにいさんはすごいんだよ! 去年の剣道大会でも八雲おにいさんのチームが、準優勝したんだから!」
「剣道部……準優勝……」
考え込む澪。
「あの、やっぱりどこかで」
《にゃあ》
何か聞き覚えのある鳴き声と共に、俺の頭に何かが着地する。視界に映る、黒い尻尾。この感触にいたずら、寧々子だ。
「あ、あの時の猫ちゃん! よかった無事だったんだ!」
《にゃっ》
「あうちっ」
心から安堵し、撫でようとすると寧々子はその手を猫パンチで跳ね除ける。
「うぅ、猫ちゃん冷たい……」
「当然よ。あの佇まいを見なさい。まさに猫の中の猫。そう易々と触れると思わないことね」
人です。
「えぇ、そうだったの!? でも、確かに他のねこちゃんと違うような気も……」
「そう、纏う気品からして違うのよ。まさに猫界の頂点に立つ王と言っても過言ではないわ!」
《にゃふん》
女の子です。
なんでちょっと誇らしげなんだ寧々子。
てか、なんで澪はそんなに熱く語っているんだ。確かに猫好きの設定はあったし、自宅には隠してはいるがお手製の猫のぬいぐるみを持っているとはいえ、当時のアニメ放送じゃここまで猫推しなのは描写されてなかったよ。
そんなことを考えていると、寧々子が俺の頭をぽふぽふ叩く。
ごめんて。ところでなんで来たの?
《ボス、帰るのおそすぎ。もう夕ご飯の時間だよ。寧々子、おなかが減りすぎて背中とくっつきそう》
小声で理由を語る。どうやら、遅かったから迎えに来たらしい。ごめんて。
わしゃわしゃと、顎の下らへんを撫でると寧々子はご機嫌そうに顔をすり寄せてきた。
「なっ……!?」
「わぁー、八雲おにいさん懐かれてますね! すっごーい!」
懐かれてはいるけども、人なんだよなぁ。なんだか騙している気分だ。
「八雲頼仁さん。お願いがございます」
「うん? なんだい?」
そんなふうに思っていると、おもむろに澪が神妙な顔で語りかけてきた。
「で……」
「で?」
「弟子にしてくださいッッッ!!!」
「…………はい?」
《にゃふ?》
それはそれは、奥ゆかしい少女からは想像もできないほどに、見事なまでの土下座であった。
◇◇◇
「で? 主様はなし崩しに弟子となることを了承したと? アホなのか?」
「返す言葉もない」
自宅に帰り、これまでの出来事をムラサメに話すと彼女は呆れた顔をした。
澪は俺に弟子入りをせがんだ。
なんでも自分も、俺のように猫と触れ合えるようになりたいとか。
『わたしは所詮、ちゅ〜るの力が無ければ猫ちゃんと触れ合えない未熟者。無論、猫ちゃんのそっけなさも愛らしさの一面であるとは理解しています。しかし、それでもやはり自らの力だけで猫ちゃんとお友達になりたいのです! なのでお願いします!』
『は、はぇ〜』
その熱量に焔ちゃんも目を白黒していた。寧々子は早く帰ろうと、俺の頭を尻尾でてしてししていた。
あまりにガンギマリな目でこちらを見ながら、土下座してくるから思わず俺も頷く以外の選択肢はなかった。
「そもそも、こやつは人間なのじゃから猫の手なづけ方を主様がわかる訳なかろうに。詐欺じゃ詐欺」
「むっ、それはボスに失礼。ボスはうそついてない。寧々子を手懐けてるし」
「お主猫扱いには否定せんのか」
「? 寧々子は猫になれるから、ほんとうのことだよ?」
「いや……もう良い。毒気が抜かれたわ」
ムラサメはため息を吐くも、寧々子はわかっていないようだった。
ま、まぁ予想外ではあったが、これで何とか澪とも関係が出来たから悪くはないはず。
てしてし、と不機嫌そうに俺の頭で黒猫の姿で叩いてくる寧々子と、呆れた目でこちらを見るムラサメ。
居た堪れない。
ボスとしての威厳が無くなっていく気がする。
「今日はハンバーグにしようか」
「おぉ、良いな。もちろん、卵を乗せることを忘れるではないぞ? 半熟じゃ」
「寧々子は2つ欲しい!」
とりあえずごはんでご機嫌を取るとしよう。
「まんぷくまんぷく。お腹いっぱいの状態で寝転ぶのは至福の一時なり……」
夕食が済み、寧々子は猫の姿になってごろ寝し、ムラサメはまたも時代劇のドラマを見ている。
食器の洗い物を終え、一息つく。
「
pipipipi──
「ん?」
携帯が鳴る。見れば、メッセージが届いた。
宛先は、しばらく会ってなかった後輩──それも、
送られてきた内容を見た俺はしばし考え、そして了承の返事をした。