魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:火星人マーズ
side:寧々子
寧々子。
それが寧々子の名前。
もともとは、ふつうな家に住んでいた。
でも、小学生になる前に寧々子の生活は変わった。
《ヤミノマ》っていう色んな所に現れる変なヤツに、寧々子の両親は家を壊された。それから、両親が喧嘩することが増えて、いやなことばっかり起きるようになった。
両親の喧嘩の内容は、寧々子にはよくわからなかった。
でも、お金がないって言っていたことをよく覚えてる。
いつも、いつもいつもいつも喧嘩していた。それがいやで、寧々子はいつも布団に包まって耳を塞いでいた。でも、全然寝れなかった。布団にいるのに、暖かくなくて、早く朝になれば良いと思ってた。
そんなある日、両親がニコニコとしながら寧々子を連れ出した。
『ねぇ、どこいくの?』
『良いところよ。きっとあなたも気にいるわ』
『あぁ、その通りだ。だから何の心配もいらない。大人しくついてきなさい』
両親が手を引いて訪れたのは、変な施設。
寧々子はそこに置いていかれた。売られたんだと、幼いながらもわかった。
そこから先は思い出したくない。
『魔法少女は、正の力によって目覚めるとされている。だが、ミラクルパワーという存在はかなり曖昧だ。日々、数を増す《ヤミノマ》に対して魔法少女の数は足りていない。魔法少女として覚醒する方法を見つけ出すこと。これは急務だ』
白い部屋に連れて行かれて、研究員みたいな服の人の言ってることはよくわかんなかった。でも、ひどい目にあわされたのは覚えている。
やめてとどれだけ言ったか覚えてない。
こわいとどれだけ叫んだかわからない。
でも研究員の人たちは止めてくれなかった。
終わらない苦痛と恐怖。真っ白で綺麗な空間なのに、それが何よりもこわかった。
誰も助けてくれない。
誰も救ってくれない。
誰も。だれも。だれも。
両親だって、ほんとは最初は迎えに来てくれるって思ってた。売られたって思っても、まだ優しかった頃の両親が記憶に残っていたから。
でも一日経って、三日経って、一週間経って、一ヶ月が経った。
来なかった。
そのうち、月日を数えるのをやめた。
いつものひどい実験を終えて、牢屋みたいな部屋でぼんやりと月を眺めていた。
《にゃ〜お》
「……ぁ」
その時、自由気ままに外を歩いていた猫を見かけた。猫はひと鳴きした後、月を背に去って行った。いいな、と呟いた。
猫は自由だった。誰より自由だった。閉じ込められず、外の世界を謳歌していた。
その全てが羨ましかった。
あぁいう風になりたいとおもった。生まれ変われるなら猫が良いと、つよく、つよくそうおもった。
そしたらある日、寧々子は猫に変身できるようになっていた。
それからの行動は早かった。猫に変身してなんとか隙をついて、逃げ出した。
それでも帰るところなんてなくて、ひとりぼっちで。知らない土地で、どこに行けば良いだなんてわからなくて。
彷徨っている間に雨が降って、避けるようにして橋の下で倒れ込んだ。
「さむい…………さみしい…………」
おなかが空いて、寒さに震える。
だけど、だれもいない。だれもたすけてくれない。だれも……寧々子を愛してくれない。
《ヤミノマーッ》
声が聞こえた。朧げに目を開くと、大きな段ボールに目がついた変な生物がこちらを見ていた。
《ヤミノマ》。
決まった姿形のない、魔法少女の天敵。
寧々子の負の感情に引き寄せられたのか、こちらに向かって来る。その際に、あたり一面を破壊していった。
……あぁ、すごいなぁ。
あんな風に力を自由に振るえるなんて。
なんで、寧々子は人目を避けるように逃げ惑っているんだろう。
そうだ。そうだよ。
誰も助けてくれない、敵しかいないんだったら寧々子だって、あいつらみたいに好き勝手やったって。
じわりじわりと、心に負の感情が溢れ出す。
《ヤミノマーッ!!?》
絶叫と共に《ヤミノマ》が斬られた。
倒れた《ヤミノマ》の先で、変な刀を持った人が、一人立っていた。刀はすぐに、女の子に変身した。
「む、主様よ。こやつ魔法少女にしては、妙な気配じゃぞ」
「わかっている。くっ、時期がわからなかったから、しらみつぶしに探していたがようやく見つかった……。すまない、遅くなってほんとうにすまない……!」
男の人は泥だらけで、汚れている寧々子を抱きしめてくれた。
「……あったかい……」
誰かに抱きしめられた記憶なんて、もう思い出せなかった。だから分からなかった。人の体温というものが、こんなにも暖かいものだったなんて。
あったかくて、やさしさに包まれていて、涙が止まらなかった。
同じ涙だったけども、さっきのとはぜんぜんちがった。
その後、寧々子は男の人の家に連れられて介抱を受けた。
その全てが暖かかった。
優しい瞳は、寧々子を思いやっていることがすごくわかった。運ばれてきた料理は、どれも食べたことないくらいに美味しかった。その全てが、
「ど、どうした!? なにかきらいなモノがあったのか!?」
「ひっく、えぐ……、ちがう、ちがうぅ……」
だから、食べている最中に泣いてしまった。
それに慌てる男の人の様子が、この人は優しい人だと何よりも表していた。
男の人は、須佐八雲と名乗っていた。ついでにすごく生意気そうな女の子は、ムラサメって言っていた。
寧々子は、研究所から逃げ出したこと、帰る場所がもう無いことを話した。それを黙って聞いてくれた。
「大丈夫だ。俺がきみの家族となろう。今日からここが、きみの家だ。これならもう、
そして寧々子は迎え入れられた。
猫が人に変化するのも驚いていたけども、すぐに受け入れていた。だからおにぃ……ううん、
おにぃにはたくさんの仲間がいた。
その人たちといっしょに何かを企んでいるようだった。でも、悪いことじゃ無いのはわかった。
仲間の人たちは、それぞれ別の呼び名で呼んでいた。あのムラサメと名乗った日本刀になる女の人だって、『主様』と呼んでいた。だから、寧々子もおにぃのことを、ボスと呼ぶことにした。
寧々子の居場所は、ボスのお膝元。
これは誰にも譲らない。あの妖刀おばばはボスの懐刀だとかでマウントを取ってるけども、ボスになでなでしてもらうのは寧々子だけの特権。むふー。
他の仲間たちは、なんか色々肩書きやら立場があってボスの側になかなかいられない。
でも、寧々子だけはそばにいられる。いっしょに過ごすことができる。
「ボス、寝てる?」
早朝。
ボスの部屋にこっそり入って覗くけど、ボスは寝息を立てて寝ていた。そのままもぞもぞと、ボスのベッドに入っていって、その隣でごろんと横になる。
ボスがすぐそばにいる。
ボスの暖かさが伝わってくる。
「……にへへ」
ボス。
ねぇ、ボス。
ずっとそばに居させてね。
こわいことも、いやなこともたくさんあったけどボスのそばに居るだけで安らぐの。
ボスの暖かな眼差しで見られるだけで心がポカポカするし、褒めて撫でてくれるだけで嬉しくてたまらないの。ボスといっしょなら、どこにだってついていけるから。
いつも喧嘩の音に怯えて包まっていた布団。
でもこの場所は優しさで満ちている。安心して眠られる。
そのままボスの腕を抱えて、寧々子も眠りについた。
「あれ? ボス、いない……」
むくり、と起き上がる。
隣で寝ていたはずなのに、いなくなっていることにしょんぼりする。掛け布団は、寧々子にかけられていたからボスが起きた後、寧々子が風邪ひかないようにかけてくれたのだとわかった。
やっぱりボスは優しい。
そのまま起きて、1階に降り、リビングに入る。
「んあ? なんじゃ、牝猫。やっと起きたのか。もうお昼じゃぞ、いつまで寝てるんじゃ」
そこにはテレビを見ながら寝そべっている妖刀おばばがいた。そのままリビングを探すけど、ボスはいない。
「妖刀おばば、ボスは?」
「じゃから、おばば言うではないわ! 主様か? 主様なら、後輩に会いに出掛けたぞ。いわゆる、デートという奴じゃな」
「……え」
デート。でーと。
男の人と、女の人。
二人がいっしょにたのしむこと。
寧々子の脳が弾けたような感覚が起きた。
「おい、どこに行く!?」
「追いかける! ボスに近づく人は追い払うの!」
「あほぬかせ! そんなことが許されるはずがないじゃろう! 冷静にならんか!」
「冷静! ボスのそばに居て良いのは、寧々子だけなの!」
「おい、それ他の同胞らを敵に回すから絶対に言うでないぞ!」
ボス!
ボスは優しいから、いろんな人が近寄るのはわかる! わかるけど……!
ボスは寧々子を拾ってくれた。家族だって、言ってくれた。でも、もしもボスにとって大切な人ができたら寧々子はどうなるの?
また、独りになるの?
置いていかないで。独りはもういやなの。ボスがいなきゃ、寧々子はあの橋の下のひとりぼっちに戻ってしまうから。
結局寧々子は、止めてくる妖刀おばばのせいでボスの元にいけなかった。代わりに、帰ってきたら散々甘やかしてもらうことに決めた。