おばけがいなくなった。
いや、もうずっと前からいなかったのかもしれない。
いつからいなくなったのか。
それすらわからないくらいだ。
子供の頃には確かにいたと思う。
でもいつのまにかいなかったのだ。
そこで私は考えてみた。
どうして、おばけがいなくなったのか、を。
うーん、うーん、と考えた。
そして、はたと気づいてしまった。
私が考えてしまったからお化けはいなくなってしまったのだ。
おばけのすみかは何処だろう。
それは薄くらい曲がり角や、はたまた自分の後ろ。
あるかないか、はっきりしない。
うすぼんやりしたところ。
おやおや、しまったしまった。
私は世界をはっきり見えるようにしてしまった。
薄くらい曲がり角は外とうが煌こうと照らす。
私の前にはコンピュータがあって小さな目が私を映している。
しまったしまった。
今は会議中だった、おばけのことを考えていたら話がすすんでしまった。
そして、またはたと気づいてしまった。
コンピュータの向こう側、彼女の後ろにもおばけはいなくなってしまった。
私の後ろは彼女が見て、彼女の後ろは私が見る。
おばけのいないことがはっきりしてしまった。
考えてみれば今の世ははっきりしたことばかりだ。
明かりは煌こうと世界を照らし、小さな目ははっきりと世界を映す。
なんだなんだ、そんなことだったのか。
おばけがいなくなった理由に気づいてしまった。
ふんふん、と私は上機嫌になる。
世界のひみつを解き明かしてしまった。
ひとつわかると次のなぞもとけてくる。
そうか、食べものもないんだ。
むかしは猫のおばけがいて、たしか行燈の油をなめにくるんだ。
ゆらゆらゆれる明かりにぼやっと浮かぶ猫のかげ。
うわー、これは怖い、きっとおばけだね。
でも私は知っちゃった。
目の前にあるコンピュータで調べてみたんだ。
昔はさかなの油を使っていたから猫がなめに来たんだって。
焼き魚の匂いなのかな?うーんおいしそう。
おばけおばけ、たのしいな。
もっとたくさんしらべてみよう。
絵本に出てくる提灯おばけがいたぞ。
うんうん、確かに確かに見たことあるぞ。
はてはて、さてさて、ほんとに見たことあったかな?
いやいや、ぜんぜん見たことないぞ。
子どもの絵本にあっただけ?
そもそも提灯みかけないな。
やきとり屋さんにはあったよな。
きょうのご飯はやきとりにしようかな。
それからそれから、どんどんどんどん調べてみよう。
調べてみたらあっさり、さっぱり見つかった。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
うわー、昔の人も気づいていたんだね。
この人が気付いた時がおばけがいなくなった日なのかな?
うんうん、またひとつかしこくなってしまったぞ。
ありゃりゃ、しまったしまった。
また会議が進んでしまった。
ふむふむ、なるほどなるほど。
私のしごとはコンピュータにおべんきょうをさせることだ。
たくさんたくさん、文字やら記号やらを書いてお勉強させる。
わたしのコンピュータにはたくさんの文字や記号が流れていく。
ほへぇーコンピュータっていうのは頭がいいね。
まぁ私には負けるけどね、ふふん。
「先輩、さっきから楽しそうですけど話聞いてました?」
コンピュータのがめんに怒られてしまった。
「聞いてる聞いてる、ちょっとおばけについて考えていたけどね」
私は気づいてしまったこの世界の真理をちょっぴり彼女に教えてあげた。
「真面目にやってください、このトラブルが解決しないと次に進まないんですから」
またコンピュータのがめんに怒られてしまった。
こわいこわい、まじめにやろうっと。
「正体不明で、でも外すと動かない、そんなコード危なすぎます」
もうそんなにおこらないでよ。
わたしはまじまじと文字と記号をまじまじみつめる。
ぐるぐる、ぐるぐる。
あっちへいって、こっちにもどって。
うわーこんがらがっちゃった。
なぞになぞなぞしているぞ。
これが世に聞くスパゲティ?
ごめんね、ごめんね、きょうのご飯はやきとりだから。
そして私はまたまたはたと気づいてしまった。
「あ、おばけはここにいた」
おばけは観測するから存在するのか。
観測したからいなくなったのか。
むずかしい。