おばけがいなくなった日   作:kasyo

2 / 3
おばけをみつけた日

「あ、おばけはここにいた」

先輩の素っ頓狂な声がスピーカーから響く。

 

真面目にやってくださいと言っているのにすぐこれだ。

さっきもお化けがいなくなった理由を聞かされ辟易したのに。

 

「先輩、真面目にやってください」

私はモニターにため息を吐いた。

 

「そもそも何でビデオミーティング何ですか?」

わざわざ用意されたモニターにはひょこひょこ動く先輩が映っている。

 

正直言ってすごく邪魔だ。

何だったら音声もいらない、チャットで十分なくらいだ。

 

私たちは古いシステムを新しいプラットフォームに移植する作業を行っている。

ほとんどの作業は自動化できたが、ひとつ問題が見つかった。

 

有り体に言えば「バグ」が見つかったのだ。

 

旧プラットフォームではこのバグは問題にならなかった。

しかし、新しいシステムへ変換するときにエラーとなって発見された。

 

古い設計にもコメントもなかったコード。

当初はこれがどう機能しているのかが検証された。

 

検証した結果、機能のない意味不明な文字の羅列ということが分かった。

それはもはやプログラムではなくただのゴミだった。

 

その結果、そのコードは削除された。

当然の処置だった。

 

しかし、問題が起こった。

完全に移植されたシステムが動かないのだ。

 

検収に掛けても問題はない、仮想マシンでも動く。

それなのに実機では動かない。

 

それからこのプロジェクトは一気に燃え上がった。

1行1行が人の手でチェックされる地獄の作業へ様変わりした。

 

それでも問題は発見されない。

 

実機側の技術者も呼ばれたが、どちらでチェックしても問題が発見されない。

その時の絶望感たるや口では言い表せないものがあった。

 

問題があるのに何が問題なのかわからない。

白紙の問題用紙を見てテストを解くようなものだ。

 

その時、チームの一人が言った。

 

「彼、呼んでみる?」

 

その彼というのが、今モニターの向こうにいる先輩だ。

 

マネージャーに呼ばれてフラフラと現れたヘラヘラとした男はこともなげにこう言った。

 

「消してダメなら入れてみれば?」

 

その男はポチポチ、ポチポチとゆっくりとした動作で変更を加えていく。

 

「できたできた、検収掛けてみて?」

 

検収はエラー、もちろん仮想マシンでも動かない。

 

「多分うまくいってると思うよ?入れてみて?」

 

間違ったプログラムが実機に入れられる。

 

私以外のメンバーは男の動きを真面目な表情で見つめている。

 

おかしい、絶対におかしい。

こんなことをして何になるのか。

こんな事じゃ絶対に動かない!早く作業に戻った方がよい!そう思った。

 

そして、

 

実機は動き始めた。

 

正直訳が分からなかった。

プログラムの種類も違うのに、なぜ古いコードを入れただけで動いたのか。

 

「やったね!じゃあ僕はもう行くから!」

 

男はすぐに立ち去ろうとした。

 

マネージャーが必死に止めた。

 

間違ったプログラムで仮想マシンでも動きませんが実機では大丈夫です!

そんなものが納品できるはずがなかった。

 

そこで別のチームが立ち上げられ、正体不明コードの解析が始まった。

そのチームに選ばれたのが私と先輩だった。

 

私は正直嫌だった。

でもマネージャーから、彼なら大丈夫だから!話し相手になるだけでいいから!

 

そう言われてしまい断れなかった。

他のメンバーからも頭を床にこすりつける勢いで頼まれてしまった。

 

「それじゃあしばらくよろしくね」

 

嫌だった。

 

それからは、この仕事についてから一番暇な時期だった。

私の仕事は先輩が遊ばないように見張るだけ。

 

屈辱的だ。

 

先輩は仕事をしているようで、していない。

話をしてもほとんどうわの空でたまににやにや笑っている。

 

私はこの人より仕事ができないのか。

少なくとも周りからはそう思われている。

 

その事実は私を蝕んだ。

 

このプロジェクトが終わったら会社を辞めよう。

そう思った。

 

 

「おばけはまだいたんだよ」

 

「でも私が分かってしまったからいなくなっちゃった」

 

私は机を叩いた。

「真面目にやってください!」

 

その声にびっくりした先輩が椅子からずり落ちた。

 

私の隣のドアが開いた。

大慌ての先輩が現れた。

 

「ごめんごめん、いま説明するからね」

 

私たちは隣の個室同士でリモート会議をしていた。

これも意味わからない、もう嫌。

 

それから先輩はひとつづつ説明をした。

 

ところどころお化けの話が混じる。

 

しかし、話す内容は極めて論理的だった。

 

言われてみれば簡単に理解できる。

 

なぜこんな基本的なことが誰にもわからなかったのか。

 

「すごい…。」

私は思わずそう言ってしまった。

 

「でしょでしょ?おばけのなぞ!」

 

それじゃーあとはよろしくね!

そう言うと先輩は自分の個室に戻っていった。

 

私は結果をマネージャーに報告した。

マネージャーは私の持ってきた報告書に手を合わせて祈りだす。

 

私は身分証をドアに当て会社を出た。

 

暗い夜道、とぼとぼと歩く。

お化けが出そうな雰囲気だ。

 

でも大丈夫。

 

「おばけ、いなくなっちゃったじゃない」




プログラマーの人ってすごいですよね。
わたしはいっこもわからないです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。