その空気の中へ、ゆっくりとした足音が重なる。
現れたのはララクとゼマだった。特段目立つ変化はないが、ゼマの手にある武器だけが以前とは違っている。クリスタルロッドから形状可変の戦闘用装備へと進化したクリティブロッド。その分厚い金属と結晶が組み合わさった外装は、静かに存在感を放っていた。
ララクの表情はどこか硬い。対してゼマは緊張している様子もなく、ただ状況を見ているだけの真顔だった。
「おおお、ララク! さささ。な、なんか飲みほすか!? ドリンクサービスするぜ」
ロドナルは一気に空気を明るくしようとしたのか、バーカウンターへ向かって腕を大きく広げる。店内には酒類も含めたドリンクが並んでいる。
だがその動きはすぐに止められた。
「経営者は俺だ。お前にそんな権利はない」
モジリフが即座に釘を刺す。
余計な混乱を避けるための一言だったが、その声音には別の意図も混じっていた。ロドナルの勢いを抑え、場を落ち着かせようとする意志だ。
「節約ケチンボめ」
軽口で返すロドナルに、モジリフはため息を一つだけ落とす。
「ストレートに話を聞くべきだ。何か、長時間になりそうだからな」
言いながら視線はララクへ向けられていた。警戒というより、ある程度の覚悟を含んだ視線だ。すでに何かを察しているのかもしれない。
その空気を受け取ったララクは、自然と理解する。
ここから先は軽い報告では終わらない。
話すしかない。
隠されたままになっている真実を。
「まず、爆発事故の原因ですが、それは当時の人型戦闘ユニットが暴走した結果でした」
ララクの説明に、ロドナルの表情が強張る。
「暴走? あの研究所の中、暴れまわったのか」
真剣な声だった。その横でモジリフは再びタブレットへ目を落とす。画面には学院事件の記事が表示されたままで、そこにはガルアークの写真も載っていた。
(このガルアークとかいう形状と似たような物か)
断片的な情報を頭の中で繋ぎ合わせながら、猿人の男は黙って続きを待つ。
「そしてその原因は、脳波を機械と密接にリンクしすぎたからのようです。そして、その被害者の1人がアカラヘアさんでした」
その瞬間、ロドナルの肩が跳ねた。
「!! 脳のリンク……? んじゃあ、その人型の中にアカラヘアは入っちまったっていうのか? ま、まさか体ごとなんて言わねぇよな?」
彼女が今までアカラヘアの生存を信じていた理由は単純だ。死体が発見されていないからである。高い防御力を持つ冒険者の肉体が、爆発程度で跡形もなく消えるとは思えなかった。だからどこかで生きていると信じ続けていた。
「それがご名答です。そして今も……その中に」
「!?」
ロドナルが一歩前へ出る。
「あ、あいつは機械人間になっちまったっていうのか!?」
だがララクは静かに首を横へ振った。
「……ロドナルさん。濁さないで言わせていただきます。アカラヘアさんの意識は、他の被害者たちと混ざり合い、全くの別人格として生まれ変わったんです」
理解が追いつかない。
ロドナルは呆然と立ち尽くした。
「?? 別人格……? あいつは、あいつは生きてるんだろ!? それを言いに来たんだろ!? なぁ、ララク!」
感情のまま前へ出ようとする彼女の前に、モジリフが静かに割って入る。
「彼は伝えてくれているだろう。真相を……」
低い声だった。その表情は険しく、平静を装いながらも内心では激しく揺れているのが分かる。
「んじゃあ、てめぇはこんな訳わかんない話、すぐに呑み込めんのかよ。俺は吐き出すねぇ!」
ロドナルが噛みつくように言い返す。
「……この数年、飲み込む準備はしてたさ」
返ってきた言葉は重かった。最悪の結末も、二度と会えない可能性も、彼はずっと考え続けてきたのだろう。
「っち、悲観野郎が」
吐き捨てるロドナル。
空気が軋む。互いに殴り合う気はない。それでも長年抱え続けた感情の向かう先を失った2人の間には、今にも喧嘩が始まりそうな緊張が漂っていた。ララクはそんな様子を見つめながら、まだ伝えなければならない真実が残っていることを理解していた。