「ボクも言葉以外の証明が必要だと思ったので、証拠にお越しいただきました」 ララクは真っ直ぐ2人の目を見る。
その言葉にロドナルとモジリフは同時に顔を上げた。そして自然と視線は入口へ流れる。ゼマの斜め後ろ、薄暗いライブハウスの奥からフードを被った高身長の人物が姿を現した。その姿を見た瞬間、モジリフは理解する。
(黒衣の怪人)
学院事件の記事で何度も見たシルエットと一致していた。
「まさか、そのユニットが、こいつだとでも……!?」 モジリフが目を細める。
「へ、変質者通すんじゃねぇよ!」 ロドナルは反射的に身構えた。
「この方が、アカラヘアさんを含む3人の心身が宿った怪人さんです。仮面、とっていただけますか?」
「私が人ではないという事は伝わるか」
怪人は低い声で返し、ゆっくりと仮面へ手を伸ばした。
外されたその下から現れたのは、人の顔を模した金属の頭部だった。露出した金属骨格の上に形成された顔面は確かに人型だが、生身とは明確に異なる。目は自然に動き、口元も会話に合わせて変化する。それでも皮膚の代わりに存在する金属質の光沢が、人ではない現実を否応なく突きつけていた。
「怪人の正体は、テクノロジーだったのか」 モジリフが小さく呟く。
「この不細工づらのどこがアカラヘアなんだよ!」
「だからさ、アカラヘアって冒険者はもういないんだって。今はこの合体人形しかいないみたい」 ゼマが横から割って入る。ララクでは強く言い切れないだろうと判断したのだろう。
その言葉を聞き、ロドナルは反論しようとして口を開きかける。しかし何も出てこない。頭では理解できていた。目の前にいる存在が普通の人間ではないことも、アカラヘアが昔のまま戻ってきたわけではないことも。
「……あいつが、こんな人工物に……?」 ロドナルの声が掠れる。
「はは……様変わりしすぎだろ……。ありえねぇよ、そんなアフター……」
膝から力が抜けた。彼女は椅子へ倒れ込むように腰を落とし、両手で額を押さえる。親友であり、同じバンドで音を鳴らした仲間と再会できる。そんな期待を胸のどこかで抱き続けていたからこそ、目の前に突きつけられた現実はあまりにも重かった。
ライブハウスには静寂が落ちる。誰もすぐには言葉を続けられない。その中で怪人だけが立ち尽くし、苦しむロドナルを静かに見つめていた。
「アカラヘアさんたちの研究動画は、このユニットの中にデータ保存されているそうです。だからそれを視聴することも出来るそうですが……それは推奨したくありませんね」
ララクは慎重に言葉を選びながら説明する。事故の記録を見るということは、当事者たちが壊れていく過程を目の当たりにすることでもある。
「……他に、元の人たちの要素ってあるんですか?」 ララクは怪人へ視線を向けた。
「記憶もない。データを元におおよその人格形成は理解できるが。ここにいるバンドメンバーの情報もあるが……そうだな。それらを解析し、彼らと冒険者アカラヘアしか知りえない事柄を言う事は可能かもしれないが」
淡々とした分析報告だった。感情を交えないからこそ、逆に真実味がある。モジリフはすでに話を疑っていなかった。目の前の存在は嘘をついているのではなく、事実を報告しているだけなのだと理解している。対してロドナルは信じる信じない以前に、心が追いついていなかった。
「他に方法がないなら、その方向でロドナルさんに納得していただくしか……」
探し人の不在証明をしなければ依頼は終わらない。ララクが重く息を吐いた、その時だった。
どん、どんどん。
静まり返った店内に打撃音が響く。
一斉に視線が向く先では、〈オチルレイン〉のドラマーがスティックで近くの機材を叩いていた。普段から無口な男は全員の注目を集めても気にした様子はなく、短く呟く。
「演奏」
その一言を聞いた瞬間、モジリフの目が開く。
「アカラヘアなら、ギターが弾ける」
それに反応したのはロドナルだった。椅子から勢いよく立ち上がる。
「そうだ! ギタリストなんだよあいつは。おいヘンテコ怪人! お前の中にアカラヘアがいるっていうなら、俺らの曲を弾けるはずだ。っふん、そんな事できやしないけどな」
言いながら彼女は自分のギターを持ち上げる。
それはかつてアカラヘアが使い、今はロドナルが受け継いでいる一本だった。長年弾き込まれた傷や塗装の擦れが、持ち主の歴史を物語っている。
「ああ、弾けるはずはない。私はアカラヘアではないのだから。音楽機能もない」
怪人は即座に否定する。
「だからそれを証明しろって。信じねぇ、あいつがいないなんて。どっかでのうのうと生きてる! そういうキャラなんだよ、あいつは」
ロドナルはギターを押し付けるように差し出した。
困惑した怪人はララクへ視線を向ける。助けを求めるような目だったが、少年もどう返すべきか分からない。依頼人が納得しなければクエストは終わらない。そして納得のために望むのがこれならば、試してみるしかないのかもしれない。
「かき鳴らしてみろって。何かが生まれるかもよ」 ゼマが怪人の腰を軽く叩く。
「……はぁ、私は戦闘特化のシステムなんだが」
深いため息と共に、黒衣の存在は差し出されたギターを受け取った。
金属の指先が弦の上に置かれる。
ライブハウスにいる全員が、その光景を固唾を呑んで見守っていた。