「【サーチング】」
ララクはディプロトドンへ視線を向け、スキル画面を展開する。浮かび上がった情報は、この迷宮で長い年月を生き抜いてきた生命の記録だった。
名前 なし
種族 ディプロトドン
レベル 46
アクションスキル一覧
【激突】【ヘビィプレス】【爆食】【ギガクエイク】【ヒップブレイク】
パッシブスキル一覧
【苦味耐性】【酸味耐性】【塩味耐性】【攻撃力上昇】
「これが古代から現在まで生き抜いたサヴァイバーの力」
ララクは表示された能力を眺めながら呟く。
迷宮の罠に適応し、失われた環境の中でも生き延びた存在。その結果として獲得した耐性は、単なる数値ではない。長い時間をかけて積み重ねられた生存の証だった。
「なんか私、凛々しく見えてきた」
ゼマは先ほどまで苦しめられていた味覚攻撃を思い出しながら、巨大なディプロトドンを見る。
自分なら耐えられない不快な感覚を、何事もなかったかのように受け流す姿。その生命力には、戦闘医としてではなく、1人の冒険者として尊敬すら覚えるものがあった。
「ですが、レベル的には瞬間決着可能な程度ですね」
ララクが淡々と告げる。
「なんとおっしゃいに!? レベル40ぐらいなんでしょ? イケちゃうの? 暴力で解決できるの?」
イジネが目を丸くする。
彼女にとって、この迷宮の主とも言える存在だった。長年攻略できなかった場所に住み着き、特殊な環境へ適応した古代種。その相手を前にして、ララクの反応はあまりにも落ち着いている。
「あーそっか、こいつ知らんけど七星レベルなんじゃない?」
ゼマが納得したように頷く。
この国の最高戦力である七星と行動を共にした直後だからこそ、感覚が少し狂っているのかもしれない。
「炎で先制してみます。【フレイムランス】」
ララクが手を前へ向ける。
魔力が集まり、空気中の熱が急激に高まっていく。次の瞬間、赤く輝く巨大な炎の槍が形成された。その大きさは通常の魔法とは明らかに違い、狭い通路を埋め尽くしてしまうほどの規模だった。
「!! アタイの知識にない規模なんだけど!」
イジネが思わず声を上げる。
記録者として数多くの冒険者や兵士を見てきた彼女ですら、その魔力量には驚きを隠せなかった。
「では発射……ん! 視界が……」
放とうとした瞬間、ララクの視界が途切れた。
暗闇に包まれたわけではない。
見えているはずの世界から、視覚だけが突然切り離されたのだ。
これは先ほどまでの味覚攻撃とは違う。ディプロトドンが地面へ放ったスキルによるものだった。
【盲目ノ世界】
効果、対象の視力を一時的に奪う。
単純な効果。
しかし戦闘において、視覚を失うことは致命的な隙になる。
敵の位置も、自分の放つ攻撃の軌道も判断できない。視界という情報源を奪われたことで、ララクは一瞬だけ状況把握を失った。
「っく、状況が状況なら【テレポート】で退避しなければいけないけれど……」
視覚を奪われる。
それは直接的な攻撃力を持たないからこそ厄介だった。相手を傷つけるのではなく、戦うために必要な判断能力そのものを狂わせる。
するとゼマがララクの肩を軽く叩いた。
「冷静になれよ、最強少年。このデカさなら、狙わなくたって当たる。そうだろ?」
その言葉で、ララクは一度思考を切り替える。
敵を正確に見る必要はない。
目の前にいる相手は、人間より遥かに巨大な身体を持つ存在だ。
「はぁ、まだ未熟ですボクは。やることは変わらない。発射!」
視界を失った状態でも、魔力の制御だけは崩さない。
炎の槍が轟音を響かせながら放たれる。通常より僅かに軌道が揺れていたが、その巨大な炎は広い通路を進み、避ける余地すら残さない。
対するディプロトドンも低い姿勢になり、地面を揺らしながら突進を開始する。
巨体が迫るたび、石床が震え、天井から細かな砂埃が落ちる。だが、その勢いは止まらなかった。
次の瞬間、炎の槍が真正面から巨体へ突き刺さる。
赤熱した魔力が分厚い毛皮を焼き、巨体の内部へ熱が侵入する。突進の勢いはその場で崩れ、ディプロトドンの巨体が大きく揺らいだ。
一撃だった。
完全に体力が0になったかまでは確認できない。
しかし、戦闘を続行できる状態ではないことだけは明らかだった。
古代から生き残ったサヴァイバー。
迷宮の異常な環境へ適応した生命。
その力を前にしても、ララクたちは冒険者として培ってきた経験と能力で突破することができた。