世界最強の杖、マジカルチ◯ポ(全年齢版)   作:ゴマ醤油

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どうしてそうなったのか

 ガグン魔法学園、第二食堂。

 大人数の生徒に対応出来るように、たくさんのテーブルに椅子の置かれた清潔感ある大部屋。

 詰まらないよう広いキッチンに備えられた受け取り口に、移動を円滑にする魔法の床。

 この学園に三つある食堂の中で最も大きく、そして繁盛しているらしいそんな場所にて。

 昨日の少女に見つかってしまった俺達は、通報からの学園からの逃亡とはならず、何故か昼食を取ることになってしまっていた。

 

「うん、美味い。この肉のハーブ焼きの定食、中々良い味してるな」

『悪くないな。料理も進化しているとは恐るべし、切って焼いてばかりな私の娯楽にもこれくらいのクオリティを要求したいものだよ』

 

 あまり目立たないように比較的端の方の席へ座り、注文した香味焼き定食に舌鼓を打つ。

 どういう調理法かは知らないが、柔らかな鳥の肉に何とも言えないスパイスとハーブの香りが良い感じに合わさって非常に美味。

 もちろん肉だけではなく、付け合わせの汁物やサラダも非常に出来が良い。たまに店選びに失敗するとメイン以外は食べるのを拒否したくなるようなものを出されることがあるが、これは決して食べるのが億劫にならないながらもメインを損ねることがない。

 

 褒め言葉を送るとするのなら、まさに調和の一言。

 とても一大衆食堂とは思えない、さぞ腕の立つシェフを雇っているのだろうと思えるほどのクオリティに、ヒコさんだって絶対くちばし邪魔だろうに別に分けた食事に満足しているほど。

 

 こんな上等なものを学生価格で食べて、遺憾なく学問に励むのなら確かに捗るというもの。

 学問というのは意志ではなく環境が作るといつかどこかの本で読んだ気がするが、ここを見ているとその通りかもなと痛感させられてしまうな。

 

 ……まあ今の状況を鑑みれば、こんなにのほほんと食事をしている場合ではないとは思うがな。

 

「ほえー、小鳥さんも人間と同じ食事を取るんですね。ちょっとびっくりです」

 

 俺達と同じテーブルの正面で、両方の手で頬杖を突きながら興味深そうにこちらを眺めてくる少女。

 俺とは違い他の学生と同じくきちんと制服を身に纏う、短めの茶髪を少し跳ねさせた彼女。

 昨日路地裏で嬲られていた少女が、ニコニコとこちらを──正確に言えば、俺ではなくヒコさんを興味深げに眺めていた。

 

「……ごちそうさま。今更だけど、通報されなかったばかりか、奢ってもらってさえしてもらって良かったのか?」

「はいです! 昨日助けてもらいましたから、これくらいはさせてくださいです!」

 

 居心地は悪かれど、まあ話を進めるのは食事を取ってからだと。

 この体になってから以前よりも食欲が旺盛になってしまったらしく、大盛りにしてもらったというのにあっという間に食べきってしまってから、改めてお礼を言えば大丈夫だとあわあわと両手を振られてしまう。

 

 ……まあ、通報されないのは好都合だし、一食分浮いたのは幸運だ。

 やっぱり人助けはしておくもんだな。善悪本心がどうであれ、思いも寄らぬ場面で返ってくる。みんな助かってみんないいというやつだ。

 

「今更だけど、俺はマニス。それでこっちは旅の相棒、ヒコさんだ」

「ご丁寧にどうもです! わたしはナオ、ナオ・ホルーです! どうぞナオって呼んでくださいです! マニスさん!」

 

 どう会話を切りだそうか考えて、そういえば名乗ってさえいなかったと自己紹介すれば、茶髪の少女ことナオは朗らかな笑みと共に自身の名も名乗ってくる。

 

 それにしても、素直に名前呼ばれるのって新鮮な気がする。

 思えば隣で水飲んでるこの鳥の姿をした魔法の師匠は、私の娯楽だの馬鹿だのチ◯ポ脳だの好き放題呼んでくるし、今の風貌だと若い旅人扱いで小僧とか坊やばっかりだからな。そう、実は俺はマニスという名前なんだ、よろしくね。

 

「あ、あのぉ……その小鳥さん、もしかしなくてもルールルーですよね? そうですよね? ね?」

「近い近い。そうだけど、それが──」

「ああやっぱり! この西地方ではもうとっくに絶滅したと本で読んだのですけど、もしかしてまだ生き残りがいたんですか!? すごーいです!」

 

 ……もう絶滅してるらしいですけど。それもとっくに。ねえヒコさん、ヒコさーん?

 

『絶滅、だと……? 大群でやかましく囀り、散々私の眠りを妨げたあのクソ鳥共が? そんな馬鹿なことあるか……?』

 

 あれだけ自信満々に語っていたのに、見事に外した気分はと。

 これは畳み掛けるチャンスだとヒコさんへとじろっと視線を送ってみれば、小鳥は水を飲むのを止め、固まってしまうほどの衝撃に襲われてしまっている。

 

 ま、ヒコさんが自身満々に昔の話は、五割くらいは現代じゃ通用しなくなっているから今更か。

 思い返せば兆候もあった。何せツムリまでの道中でさえ、一匹も見かけなかったからな。二百年という期間は彼女の話の中でも中々ないくらい昔なのだから、むしろ過去の教訓を忘れ、鵜呑みにしてしまった自分を恥ずかしく思うべきだろうよ。

 

 しかしどうしようか。

 この辺にはもういないというのなら、今この世界にどれだけ残存しているのか分からない。下手をすれば世界から絶滅していてもおかしくない。そうだったら俺なんぞよりずっと違和感だし、どうしたものか。

 

「こ、こいつは東の方で雛を譲ってもらったんだ。この辺りについてはよく知らないのだが、もう絶滅している種なのか?」

「え、はいです。百二十三年前の『大渡り』によって虹の橋を渡って姿を消したと、図鑑やツムリの歴史書には記されていますです! はいです!」

 

 まあどうせヒコさんのことだから、街を出るまで姿を変える気はないのだろうと。

 頭上の小鳥に心の底からため息をつきたい衝動に駆られながら、一応の言い訳と共に何故いなくなってしまったのかを尋ねてみると、別段疑われることなく説明してもらえる。

 

『虹の橋……そういうことか。くくっ、相も変わらず忌々しい、私の都合を阻みやがってからに。嗚呼、次会ったら、後生大事にしてる「楽園」への扉でも拒絶してやろうかな?』

「……ヒコさん?」

『気にするな。いつだって何も悪くない私が、今回はどっかのクソ魔女の所業にしてやられただけだ。お前は私を差し置いて、目の前でニコニコしている女に構ってやるといいさ』

 

 なんでそんな投げやりなんだろうな、なんて思いつつ。

 ひとまずは納得したと俺の頭に飛び移り、これ以上はどうでも良いとでも言うかのように眠り始めってしまったので、気にしても仕方ないと意識をナオに向け直す。

 

 こうなってしまったヒコさんは、例え実は起きていたとしても応答してくれない。

 こういう些細な部分でも自分勝手な人だ。少しくらいは説明が欲しい、弟子が困ってますよ?

 

「……そういえば怪我は大丈夫か? 昨日もそうだが、さっきの決闘でも随分と痛めつけられていたようだけど」

「ああはい、もうばっちり大丈夫です! わたし、これでも治りが早いので! えっへんです!」

 

 ならば要望どおりにヒコさんのことは頭の片隅にでも留めつつ。

 傷について問うてみれば、問題ないと言ってきたナオは両手を腰に添え、自慢げに小ぶりな胸を張ってくる。

 確かに肌に傷は残っていない。魔力については元の量を知らないから何とも言えないが、特別少ないわけでもないし、やせ我慢ではなくピンピンしていると考えてもいいだろう。

 

 実はダメージを受けなかったわけでもないだろうし、彼女が言うとおり治りが早い。そういう魔法、それともそういう体質なのだろうか。

 まあ世界は狭いようで広い。例え魔女のように人の理から外れずとも、そういう珍しい体質の魔法使いがいたって何もおかしくはないだろう。むしろ魔女具合で言ったら、この前のネトリンの方がずっと上だ。

 

「そうか。まあ、怪我がないなら良かったよ。見ていた限り、中々やられていたからな」

「……えっと?」

「どうした?」

「いや、あっさり流されるの初めてで驚いてますです。みんなこれを知ると、気味悪がるんですけど……あははっ」

 

 だが俺の軽い反応がそんなに珍しかったのか、ナオはきょとんと目を丸くしながら空笑いをみせてくる。

 

 確かに人間社会では異物かもしれないが、魔女を知る者からしたらその程度なんてことはない。

 

 今のヒコさんみたいに、気まぐれで動物へ姿を変えるなんて朝飯前。

 自身の一部をより自分に合った『杖』へ改造するのはもちろんのこと、自身の魔法を最適に行使するために本や液体みたいな物体に固定したり、もっと酷いとまとも形さえ為さずに活動していたり。

 

 何より今の自分がマジカルチ◯ポ(全年齢版)の影響で体を一新しているのだから、たかだか体質一つ程度で引いてなどいられない。そういうのもあるんだなと驚きはするけれど、所詮はそれだけだ。

 

「これでも旅をしているからな。魔法の街の研究」

「……あはっ、あははっ。何ですかそれ、マニスさん、あははっ!」

 

 きっとこの程度の反応を本気で笑える程度には、苦労の人生を送ってきたのだろう。

 所詮は一飯の関係。同情もしないし何か手を差しのばすこともないが、今日まで笑顔を絶やさずに生きてきた彼女に、せめて心の中で称賛くらいは贈らせてもらおうか。

 

「一つ、訊きたいことがあって声を掛けたんだが、いいだろうか」

「は、はいです。わたしに話せることがあれば、気兼ねなくどうぞです!」

「ナオはどうしてあの決闘で……いや、昨日の一件でも魔法を使わなかったんだ? すべてを見ていたわけじゃないから使っていたのなら謝るが、違うのなら是非聞かせて欲しい」

 

 昨日の路地裏も今日の決闘も、どちらもその全てを見ていたわけではないから断言は出来ない。

 

 もしかしたらどちらも、俺が着く前に抵抗は潰され、為す術なかっただけなのかもしれない。

 もしかしたらその面白い体質を利用した耐久戦法こそ、ナオの戦闘スタイルなのかもしれない。

 

 いずれにしても、魔法学園の生徒とは思えないから気になった。これはそれだけの問いだ。

 

「ああ、すまない。答えたくなかったのなら、別に言いたくないで構わないよ」

「そういうわけではないです。……えっとですね、実はわたし、魔法が使えないのです。筆記試験や実験などで進級して五年生にはなれたんですけど、この学園では一年生より落ちこぼれだったりするです。だからちょっと恥ずかしいなって……あははです」

「なるほど、だから魔法を使わなかったと。それなのに魔法決闘(デュエル)に出たのか?」

「はい。マセカ君には元々嫌われていたのですが、昨日はその……成り行きから偶然で。それで今日の決闘は単位のために参加したのですが、たまたま相手が彼だったというだけなのです」

 

 ナオは誤魔化すでもなく、恥ずかしそうに少しを頬を赤らめながらそう話してくる。

 

 ……恐らくだが、相手が彼だったのは偶然ではないのだろう。

 だってあまりにも出来すぎている。いくつかの疑問は残るが、概ね間違いはないのだろう。

 

「……魔法使い、向いてないんじゃないか?」

「はいです。自分でもそう思いますです。魔法のお勉強より、体動かしている方が好きです」

 

 あははと、ナオは困ったような愛想笑いを浮かべてくる。

 

「でもわたしにはやらなければいけないことがあるです。お父さんの一人娘として、ホルーの家の娘として、ここまで育ててもらった恩に報いなければならないです。そしたらきっと、褒めてもらえるはずです」

 

 けれどすぐに彼女は、決意に満ちた目を真っ直ぐとこちらに向け、はっきりと俺に告げてきた。

 

 ……君は分かっているのだろうか。そんな在り方は、親子の関係としては酷く歪だろうに。

 

「なるほど……話してくれてありがとう、おかげでスッキリした。俺達はこれで失礼させてもらうが、これからも頑張って欲しい。それじゃ、縁があったらまたどこかで」

 

 まあどんな事情を秘めているとして、それは俺には関係ないし興味もない。

 俺が抱いた疑問は解決したし、この一食で昨夜の恩とやらも釣り合いが取れただろう。余計な大事に繋がる前に離れ、学園探索を再開するとしようと立ち上がった。

 

「お、お願いがありますです! 恩人のあなたに頼むのはほんとにほんとに最低だと分かってますが、それでもあなたにしか頼めないです!」

 

 そのときだった。ナオは何かを決意したとばかりに、背を向けようとした俺に大声で呼び止めてきたのは。

 

「わたしのために、大図書館から泥棒してくれませんかです! お願いしますです!」

 

 まったく、いい感じに締められたってのに、どうしてそういう方向になっちゃうんだい?

 そしてそんなに大きな声で言うもんじゃないと思うよ。そういう犯罪への勧誘ってのはさ。

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