世界最強の杖、マジカルチ◯ポ(全年齢版)   作:ゴマ醤油

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待つこと一日

 多くの犠牲を払いながら謎に乱入してきた謎の美人探偵を退け、無事に泥棒を成功させた。

 ちょっぴり街を壊してしまったせいか、結構なパニックになってしまっていることについては非常に申し訳ないと思いつつ。

 それでも結局は俺も魔女の弟子。罪悪感はあれど、弁償も名乗り出るなんてこともする気はないまま宿へと帰り、その日は夜に寝損ねた分を取り戻す意気で休んでいたら、瞬く間に一日が終わってしまっていた。

 

『ふうん、このコーヒーとパンケーキは中々に悪くない。静けさに身を委ね、深みのある苦味と優しい甘さが一日の始まりを優しく促してくれる。如何なる場合であれ、朝とは穏やかであって欲しいものだ』

 

 そして今日。

 朝早くからいつの間にか戻ってきていた小鳥姿のヒコさんに突き起こされ、シャワーで無理矢理に意識を覚醒させてから向かったのは、宿屋近くにある朝早くから営業しているカフェにて。

 

 どうやらヒコさんこの店の存在を知っていて、今日の朝食はこの店に決めていたらしく。

 まるで頼むものが最初から決まっていたように、俺が何を食べようかと真剣に悩んでいる間に即決してしまい。

 注文からたったの十分で出てきた大きな大きな蜂蜜の掛かったパンケーキの一部を、持参の小皿と小さなカップを『穴』から出し、俺に切り分けさせてから優雅に朝食を楽しんでいた。

 

『そんなに機嫌を損ねるなよ。美味しいんだからいいじゃないか。大体食べたい物があるなら二つ頼めば良かったじゃないか?』

「一つで十分だっての。ただでさえヒコさんの食は細いってのに、今は鳥になってるんだから余るに決まってるじゃん。もったいない」

 

 ……別に、メニューを勝手に決められたことにそこまでの怒りはない。

 それでもこういう場面では、例え決断が同じだったとしても、自分で決めるという行為自体に意味があると俺は考えている。だから、気にしてないとも。おお。

 

 で、それを踏まえて訊きますけど、もし逆の立場だったら、ヒコさん笑顔で許してくれるんです?

 

『嫌だね。赤の他人だったら五感のいずれかを拒絶してやるし、例えお前であっても……そうだな、数日くらい尿意でも拒絶してやるよ。当たり前だろう?』

 

 でしょうね。流石は師匠、嫌がらせ一つでもスケールが段違いだ。

 そして食事中なんで、尿意だの小便だのの話は止めて欲しい。せっかくのパンケーキも色褪せてしまいそうだ。

 

 まあ多少の不満はあれど、パンケーキ自体は美味しかったさしたる問題もなく。

 約束を破ってお釈迦にしてしまったカバーを新しく作ってくれたので、この件はここまでに。

 のんびりと朝の一時を過ごした後、ナオと待ち合わせしている最初の路地裏へ、朧気な記憶を頼りに目指して街を歩いていく。

 

 そう、記憶を頼りに。実のところ、これが簡単なようで難しい。

 何故ならあの日はヒコさんの要望に応えるために必死で、ナオとの一件さえ忘れていたほどだからな。ほとんど知らない街の適当に歩いた夜道など、そう上手く辿り着けるかと言えばノーだ。

 

 ……待ち合わせ場所、失敗したかなぁ。

 多少のリスクを負ってでも、分かりやすそうな学園か図書館前にしておくべきだったなぁ。

 

『しかし見事に穴を開けたものだ。まさかここまでの騒ぎにしてくれるとは、流石は私の娯楽。出会った頃から変わらずにやらかしの天才だな』

「うるさいですよ。それでやらかしの天才の師匠は、そんな俺をほっぽってどこに飛んでいったんです?」

『さあな。そんなことより早く着け。このままだと日が暮れちゃうぞ?』

 

 頭上に乗るヒコさんの催促を流しつつ、記憶を頼りに歩いていけば、ようやくらしい場所へと辿り着く。

 時間は分からないが、出た頃と日の上がり具合から逆算すれば十一時前後といった所。場所が分からない身としては、頑張った方じゃないかな。うん。

 

『……いないな』

「いないですね。まあ、来るまでのんびり待たせてもらいますよ」

 

 朝。

 到着しても流石におらず。流石に早いかなと逆に申し訳なくなってきたと思いながら待ってみるも、すぐに姿を見せてくれるわけもなく。

 

「……来ないですね」

『来ないな。退屈過ぎて飽いてきた。ちょっとその辺飛んでくるから』

 

 昼。

 街の喧騒も大きくなり、ちょっぴりお腹も空いてきたが離れるわけにもいかず。自由にどっか散歩に行ったり満足そうに帰ってくるヒコさんを羨みながら、時間だけが過ぎていき。

 

「…………来ない、来ないなぁ」

 

 そして夕方。

 夕暮れ空を舞う鳥の鳴き声虚しく、ついには茜も黒へと変わりはすれど、それでも目当ての彼女の姿は未だどこにもない。

 

 ……これはあれか。もしかしてだが、もう用はないから、約束など知らないと、そういうことか。

 

「……くくっ、くくくっ、あーっひゃっひゃ! さてはお前、あんな小娘にさえ裏切られたか! まったく未熟ここに極まれりだな! あー面白すぎ!」

 

 弟子の不幸がそんなに面白かったのか、ヒコさんは一応していた念話も忘れ、腹の底からの大爆笑をしてくる。

 裏切られた。持ち逃げされた。割と頑張ったのに、せっかくの成果もなくなってしまった。

 

「……いやでも、何か急に都合が悪くなっただけかもだし、学校終わってから来るかもしれないし、これからが本番かもだから。ええ?」

『おお怖い、そんなにガンつけてくるなよ。お前がどう思うも勝手だが、この瞬間までの現実は大人しく受け入れるべきだと思うぞ……くくくっ!』

 

 ま、まあこの際、約束をブッチされるのは仕方ない。

 所詮は脅迫じみた提案から始まった、一夜だけの関係だ。互いに信用なんて難しい。そもそも時間指定をしなかったこちらの落ち度でもあるし、そこは大人しく受け入れるべきだ。

 

 自分で可能性を残してみたものの、流石に夜まで待とうという気にはなれず。

 大人しく諦めて、ちょっとお高めの食事を奮発してこの一件は記憶から消そうと決意したのと同時に、肝心なことを思い出してしまう。

 

 そうだ。ナオが来ない事実に落胆してつい忘れかけたが、何も祝勝会をやろうって彼女を待っていたわけではない。

 ここに集まろうと言ったのは、あくまで預けた荷物を返してもらうため。

 せっかく図書館から借りた混沌の女神についての一冊。俺の人生をかけた夢、理想のマジカルチ◯ポに繋がる手がかりを手に入れるためだ。

 

 他のことならいい。どんな事情であれ、来なかったことも別に気にしていない。

 けれどマジカルチ◯ポのことでだけは譲れない。あれだけは、必ず取り戻さなければならない。何を賭してでも、再び街をパニックに落としてでも、俺はそれを手に入れなければならないのだ。

 

『くくっ、嗚呼マニス、ようやく私の娯楽らしい調子になってきたじゃないか。そうだ、物を盗まれてしまったのなら、返してもらいに行くしかないよな?』

「まあ確かにそうですけど、いや別に盗まれたわけじゃ、そもそも盗んだのは俺達じゃ……」

『戯けめ。一度手にしたのだからそれはもう自分の物と、それくらい言い張れなくて何が魔女だ。大体自らの大事な物を他者に預け、そのまま奪われるなど魔女の恥だぞ。魔女端会議で暴露でもされれば、向こう百年くらいは笑いものにされるだろうよ』

 

 いや知らんし。

 そもそも俺魔女じゃないし、確かに自分勝手ではあるが、そんな子供みたいにお前の物は俺の物理論を喜々として振りかざすほど常識から外れているわけではない……と思いたい。

 

 そんで魔女会議って何よ。

 そんな井戸端みたいなノリで魔女って集まるのかよ。手を取ることさえない個こそが魔女だろ?

 

『さあ? かつて有象無象の魔女がそんな集まりをしていたなと思い出しただけだ。無論、私はそんなちんけな集まりになど、一縷の興味さえ湧かなかったがな』

 

『さて、そうと決まればくだらん話はそれまでにしてそろそろ行くぞ。待つのは勝手だが、このままだと私の夕食まで潰れそうだからな』

「行くって?」

『決まっている。来ないのならばこちらから出向くまで。魔女に火を付けた報い、味わわせてやろうじゃないか』

 

 青い小鳥は愉しげに、特徴的な鳴き声を囀る。

 純朴な自然の嬰児の姿とは思えぬほどひどく悪辣に、そして何故か当事者の俺よりも愉悦に満ちた心の声を、そのまま心の声に乗せながら。

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