女装スパイは今日もバレそう~男とバレても転生者とバレても死ぬ俺の学園生活~   作:やっくん。

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第11話 副団長と受験生

――アメリア視点――

 

「……ということで、今年からアムステル女学園の剣術講師として働いてほしいの」

 

 レイクス団長が、執務机の向こうで微笑む。

 

 私は一瞬、返す言葉が見つからず黙ってしまった。

 

「えっ……私が、ですか……団長」

 

「そうよ〜」

 

 団長はあっさり言う。

 

 この人はいつもそうだ。人生を変えるような話を、まるで天気の話でもするように切り出してくる。

 

「ですが、私が第三騎士団から抜けるわけには……」

 

「まぁ聞いてアメリア」

 

 団長が立ち上がり、窓の外を見た。

 

「第一と第二騎士団とは、徐々にだけど戦力に差が出てきている。そしてそれは今後顕著になっていくでしょう」

 

「……はい。そこは私も懸念していました」

 

 現状では戦力差が開きつつあるのは事実だ。

 

 このまま放置すれば、いずれ取り返しのつかないことになる。

 

「そうなると、近い有事の際には、大変困ったことになるのよ。要は、今の内から手を打っとこう、ということ」

 

「はい。それは大事なことだと思います」

 

「だからなのよっ!」

 

 団長が振り返った。目が輝いている。こういう顔をするときは、大抵もう決まっている。

 

「今のうちから学園の優良物件はこちらで囲んじゃいましょう、ってわけ。見込みがあるなら今すぐ引き入れてもいいわ。育てるのはこちらでもできるしね。というわけで、よろしく頼むわね♪」

 

「はぁ……わかり、ました」

 

 レイクス団長はいつもこうだ。

 

 相談なしに勝手にいろいろと決める。

 

 以前は「もっと早く相談してください」と何度も言ったが、もうあきらめた。

 

「期待してるわよん♪」

 

 団長は満足そうに椅子に座り直して書類に目を落とした。話は終わったらしい。

 

(学校の先生か……少しの間、副団長の仕事を休むのも悪くはないか……)

 

「あっ!」

 

 団長がこちらを向き直す。

 

「あと副団長の仕事は引き続きよろしく♪」

 

「……」

 

 

 

 私は一礼して執務室を出た。

 

 廊下を歩きながら、心の中を整理する。

 

(アムステル女学園の剣術講師……か)

 

 学園に通う者たちは次代を担う人間の卵だ。

 

 中立国であるから他国からの留学生も多い。

 

 その中から第三騎士団にふさわしい人物を見つけ出す。

 

 強さだけではだめだ。その精神、騎士道とはなんたるかを理解できる人間でなければ意味がない。

 

(まあ、いたとしても稀だろうが……)

 

 

◇◇◇

 

 

 アムステル女学園での指導が始まってから、しばらく経つ。

 

 今日は転入試験の立ち合い審査だ。

 

(今年の転入生は……だめだな)

 

 今のところ見どころがない。

 

 出てくる受験生がみな同じ顔に見える。

 

 場の雰囲気に飲まれて自分から突っ込んでくる。

 

 技術以前の問題だ。

 

 落ち着いて相手を見ることができなければ、どんな技も活きない。

 

「次っ!」

 

「センス・バッツーダ。前へ」

 

 名前を呼ばれた受験生が、勢いよく中央へ飛び出してきた。

 

 すぐに試験官の合図がある。

 

「はぁーっ!!」

 

 叫びながら向かってくる彼女。

 

 ガチンッ。ガチンッ。

 

 数回打ち合ったが、まるでセンスを感じない。

 

 力はある。ただそれだけだ。

 

「ハッ!」

 

 一閃。

 

 彼女はすぐに倒れた。

 

(まるでだめだ。今年は不作か……)

 

 私は息を吐き、次の受験生を待った。

 

「次ッ!」

 

「マジデ・ランボルギーニ。前へ」

 

「では、はじめ!」

 

 レフェリーの合図とほぼ同時に駆け出すマジデ。

 

「たぁーーっ!」

 

 彼女は大声で叫びながら全速力で突っ込んでくる。

 

(挨拶もなしか……まるで闘牛じゃないか……)

 

 速さはあるが、まっすぐ突っ込んでくるだけ。

 

「ハッ!」

 

 再び一閃。

 

 彼女は「ぐわっ」と言ってすぐに床へと倒れる。

 

(ハァ……骨のある奴はいないのか。ん?)

 

 見学席にいるのは、金髪の派手な雰囲気の生徒。

 

(たしか……二年のライラ……だったか)

 

 魔法もさることながら、剣術も目を見張るものがあったため覚えている。

 

(いっそのこと、彼女を勧誘しようか……しかし、魔法派閥に属している彼女を勧誘するとややこしく……)

 

 などと考えていると、次の受験者の名前が呼ばれる。

 

「続いて——スイ・コロリ、前へ」

 

 スイ・コロリ。

 

(……かわいい響きだな……)

 

 思わずそんなことを考えてしまう。

 

 慌てて頭を小さく左右に振り雑念を飛ばす。

 

 第三騎士団にふさわしいかどうか。今はそれだけだ。

 

 名前を呼ばれた受験生に顔を向ける。

 

 (……ん)

 

 一瞬、目が止まった。

 

 黒髪で、目元がくっきりとして、肌が白い。どこか凛とした佇まい。

 

 昔、父が読み聞かせてくれた絵物語に出てきる、凛々しい女騎士のような——

 

(……何を考えている、私は)

 

 これは審査だ。

 

 容姿で評価するのは騎士道に反する。

 

 その受験生——スイが中央へ歩いてきた。

 

 そして私の前で立ち止まり、深々と頭を下げた。

 

「よろしくお願いします」

 

 (……ほぉ)

 

 先ほどの相手も、その前の相手も、全員私が立っているのを見て気圧されていた。

 

 でもこの子は違うように見える。

 

 決闘をする前に頭を下げたのも良い。

 

 どんな相手でも相手を尊重する姿勢——それは騎士道に通ずるものがある。

 

「礼に始まり礼に終わる……騎士道が少しはわかっているようだな」

 

 だが、礼をしただけで合格点を出すほど私は甘くはない。

 

「今年は歯ごたえがないな。お前は少し楽しませてくれ」 

 

 私は構えた。

 

「それでは——

 

 

 はじめっ!」

 

 試験官の合図が飛んだ。

 

 スイが模擬刀を構える。

 

 (……変わった流派だな)

 

 両手で刀を絞るように持ち、脇を締め、切先を私の喉元に向けて中央に保っている。

 

 (なるほど……上下左右どこからでもでも対応できる構えか……)

 

 探りを入れてみようと、私はすっと一歩前に踏み出した。

 

 (……ん?)

 

 距離が縮まらない。

 

 もう一歩踏み出してみる。

 

 だが、一向にお互いの距離が縮まらない。

 

 (……なるほど……そのすり足か……)

 

 できるだけ姿勢を崩さず動く歩法というわけか。

 

「……その足運び……面白いな。距離感が掴みづらい」

 

 私は少しずつ、意識が変わっていくのを感じていた。

 

 取るに足らない受験生から面白い好敵手へと。

 

(次は何を見せてくれる……)

 

 ひさびさに心がうずうずしてくる。

 

(そちらからは……来ないか……)

 

「ならこちらから行くぞ!」

 

 私は大きく踏み込む。いや―–踏み込もうとした。

 

 その瞬間――

 

 スイが模擬刀を高く、天へ向かって突き上げた。

 

(上からか!)

 

 反射的に模擬刀を横にし、頭上で受けの体勢を取る。

 

 だが——

 

 剣は上から降ってこなかった。

 

 彼女は剣を少し胸元へ引き寄せ、空いた胴に向かって横から薙ぎ払ってくる。

 

(——誘われた!?)

 

 咄嗟にバックステップで距離を取る。

 

 薙ぎ払いが、わずかに届かない距離まで下がる。

 

(……さきの動き……上への警戒を誘って胴を狙うか……なるほど、理にかなっている)

 

「だが——まだ甘い!」

 

 空いた頭上を逃さず、踏み込みの一閃。

 

 叩いた瞬間——

 

「しまった……つい——本気を」

 

 戦いに夢中で叩く力を緩めることを忘れてしまった。

 

 バタッっとスイが、崩れるように倒れる。

 

 訓練場に静寂が落ちた。

 

(……つい本気を出してしまった)

 

 いや、違う。

 

 

 

 本気を——引き出された。

 

 

 

 私は倒れたスイを見下ろしながら、自分でも信じられなかった。

 

 ただの受験生に。

 

 学生もどきの女の子に。

 

 剣一筋で鍛えてきた私が、一瞬でも本気を引き出された。

 

 たかだか学生だと舐めていた。

 

 今年の受験生は不作だとあきらめていた。

 

 いるじゃないか。逸材が。

 

 私はこの子を——

 

 

 

 ――鍛えたい!

 

 

 

「た、担架! 担架を!」

 

 試験官の声が訓練場に響き渡る。

 

「私が医務室まで運ぼう。こうなったのも私の責任だからな」

 

「しかし、残りの受験生は……」

 

「他の講師に頼め」

 

 試験官が何か言おうとしたが、私はそれを聞かなかった。

 

 スイの体を抱き上げる。ずしっとした感覚。

 

 思ったよりもずっと重い。

 

 (……この子は才能の塊だな……わたしがしっかり鍛えてやりたいものだ……)

 

 医務室への廊下を歩きながら、私は考えていた。

 

(礼を知り、読み合いを仕掛けてくる豪胆さ、向かってくる勇気もある。ただ、その剣技……誰かに教わったのか、自己流の流派なのか、それとも……)

 

ふと彼女の顔を見ると、眉間に少ししわが寄っているが、どこか穏やかな寝顔だ。

 

(ふっ……名前だけでなく寝顔も可愛いとはな)

 

「おっと早く、医務室へ運ばないとな」

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