女装スパイは今日もバレそう~男とバレても転生者とバレても死ぬ俺の学園生活~   作:やっくん。

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六話 推理とツンデレ

 

――エルミアとクロエが密談を始める、少し前のこと。

 

 廊下に出た後に気づいたんだが。

 

「……おれの、部屋ってどこだ?」

 

 クロエに聞いておけば良かった……

 

 バタンと閉まったドアを改めて振り返る。

 

 ノックして聞き直すか……?

 

 いや、さっき出ていけ、と言われたばかりだ。それに、自分の部屋はどこですか、なんて聞くわけにもいかない。

 

 廊下を見渡す。

 

 どうやらここは居住区画のようだ。

 

 石造りの廊下に居室らしきトビラが一直線に並んでいる。

 

 数えると、全部で九つある。

 

 図にするとこんな感じか。俺は頭の中でイメージする。

 

【入口】①②③④⑤⑥⑦⑧⑨【奥】

 

 ⑨三人で話をした部屋――おそらくエルミアの部屋。

 

 ⑧さきほどまで俺がいたクロエの部屋。

 

 残り①から⑦つの内の一つが俺の部屋なのだろう。

 

 うーん……まずは廊下を歩いてみよう。手がかりがあるかもしれない……

 

 廊下を歩いていくと⑥と⑦の部屋には、木札がかかっており、それぞれ「食堂」、「洗い場」となっていた。

 

 ⑥と⑦は除外……と。

 

 残り候補は①から⑤の五つ。

 

 おや?

 

 廊下の真ん中あたり、⑤の部屋の前にブーツが一足乾かしてある。

 

 近づいてみた。

 

 ……?

 

 もう一歩、近づいた。

 

 クサッ!!!

 

 思わず顔をそむける。

 

 汗と土埃を混ぜて、そのまま煮込んだような匂いだ。

 

 鼻をつまみながら、改めてブーツを観察した。

 

 ……大きいな

 

 今、自分が履いているブーツと比べて、一回り以上は大きい。

 

 この部屋の住人は足がでかい……と。

 

 自分の部屋ではないな。

 

 ⑤も候補から除外。

 

 鼻をつまんだまま、足早にその場を離れた。

 

 次に、隣の④の部屋。

 

 ドアノブに小さなプレートがかかっていた。

 

 なになに……

 

『ミッチェルの部屋。ぜったい入るな! とくにリク!』

 

 ……俺、名指しされてる。

 

 ミッチェルって誰だ。そして、なぜ俺だけ名指し?

 

 とにかく④も除外。

 

 続く③の部屋。

 

 トビラの前を通りかかると、中から何かが擦れるような音がする。

 

 ギシギシギシギシギシ――

 

 ……なんの音だ……

 

 トビラに耳をあててみた。

 

「あっあっあっあっ♡ んっんっんっんっ♡……おぉん!ぎもぢいぃぃぃ……っ!」

 

「………」

 

 俺はそっとトビラから耳を離した。

 

 よし、次。

 

 残りの部屋は①と②の二つ――入口側の①と、その隣の②の部屋。

 

 ここからは真剣に考察する。

 

 前世では、国民的マンガ「ホームセンター探偵コーナン」を全巻読破している。

 

 それで培った推理力を見せる時がきたか……

 

 推理しよう――

 

 廊下の一番奥の部屋は、ボスであるエルミアの部屋である。

 

 これから分かることは何か……

 

 ――そうかっ!

 

 つまり――奥に近いほど部屋ほど組織のおける地位や序列が高いのでは?

 

 うん、そうだ、そうにちがいない。

 

 今までの雰囲気で察するに、おそらく俺は年少で下っ端といったところだろう。

 

 そう、そこから見える真実は――

 

「つまり、ここだぁぁ!」

 

 ①のトビラのノブを勢いよくひねる。

 

 ガチャガチャガチャ――

 

 鍵がかかっていた。

 

 ………

 

 オーライオーライ……結果オーライだ。逆にツイてる。

 

 俺はリスクなく、答えを見つけることができたのだから。

 

「そっか〜おれの部屋は②だったかぁ」

 

 ——と②のドアノブに手をかけ捻る。

 

 ガチャリ。

 

 抵抗なくノブが回り、トビラが開く。

 

「「………」」

 

 部屋の中に少女がいた。

 

 上半身、裸の少女が。

 

 俺はその少女と無言で見つめ合った。

 

 永遠と思える沈黙の中、彼女が静寂を切り裂いた。

 

「リクゥーーーーーー!!!」

 

 その声は部屋全体を震わせた。

 

「今すぐ……」

 

「今すぐ?」

 

「出てけぇ――――――っ!!!」

 

「はいっ!」

 

 バタン!!!

 

 トビラがものすごい勢いで閉まる。

 

 再び静寂が戻る。

 

 しばらく呆然と立ち尽くしていると、扉の向こうから声がした。

 

「……リク、あんた見た?」

 

 低く怒気を含んだ声だ。

 

「何も…見てないです……」

 

「その間、怪しいわね。本当のことを言いなさい」

 

「……」

 

 俺は沈黙を選んだ。

 

 時として、答えを出さないことが正解ということもある。

 

 これは社会人になって俺が習得した知識だ。

 

「本当のことを言ってくれたら、今なら許すわ。さーん、に―、いーち」

 

「全部見えました! 綺麗なお椀型のおっぱいにピンク色の乳首、谷間にあるホクロも全部!」

 

「コロス!!! 今すぐ絞めてやるから、着替えるまでそこで待ってなさいっ!」

 

「……え」

 

 そう――時として、真実を述べることが間違いということもあるのだ。

 

◇

 

 ごそごそと布の音がして、やがてトビラが開いた。

 

 さっきの少女が、着替えを終えた状態で仁王立ちしていた。

 

 腕を組んで、眉間にしわを寄せ、俺をまっすぐに睨む。

 

 紫の髪が部屋のランプの明かりに照らされている。

 

 白い肌に鋭い目つき。リク――今の俺と同い年くらいに見える。 

 

 そして、やはり見覚えのない顔だ。

 

「説明しなさい。なんでノックもせずに開けたの」

 

 あっ……普通にノックをして部屋を回れば良かったのか……盲点だった……

 

 そうすれば、部屋を間違えても『明日から任務なので挨拶に来ました』とごまかせる。

 

 しまったなぁ……今はその言い訳も使えないし……

 

「ほ、報告があって……いや、自分の部屋とまちがえて」

 

「あっやしぃー。入口に一番近い部屋とわたしの部屋を間違える?」

 

 正解は①の部屋が正解だったかぁ……

 

 ん? でも、鍵かかってたよな……

 

「でも、扉しまっててさ」

 

「カギなくしたの?」

 

 俺は自分の服のポケットを上から叩いてみた。

 

 カチャン――

 

「……あ、ありました……」

 

「……よかった。ところで、死ぬ準備はできた?」

 

「いや、ほんと出来心というか、なんというか――」

 

「ホントあんたって……ハハァーン。そういうことだ」

 

 紫髪の少女は得意げな表情でニヤリと笑う。

 

 どういうこと?

 

「そんなに私に会いたかったんだぁ」

 

 うわっ、うぜぇ。

 

 彼女はウンウンと頷いた。

 

「任務でしばらく会えないから会いからって……女の子の部屋にノックなしに入るのはさすがにボーダー越えてるわよ。わかった?」

 

「は、はい」

 

「……まぁ、その気持ちは正直嬉しいよ……」

 

 モテモテじゃん。

 

「あ、うん。じゃあ俺、部屋もどるね」

 

「あ、ちょ、まだ話は――」

 

――バタン

 

 これ以上、話を続けられて身バレでもしたら困るからな。

 

「……バカ」

 

 小さな声がドア越しに聞こえた気がした。

 

 それにしても、彼女は典型的な――

 

 「ツンデレだな」

 

 なぜか、不思議と怖くなかった。

 

◇

 

 やっと自分の部屋にたどり着いた。

 

 ベッドに倒れ込む。

 

 天井を見上げた。石造りでランプの明かりが揺れている。

 

 ……正体を言うべきときが、いつかは来るかもしれない。

 

 でも——今は言えない。

 

 俺は生きなければならない。

 

 もう少しだけ、この身体……お借りします。

 

 目を閉じると、すぐに眠気がきた。

 

——明日からアムステル女学園に転校生として潜入開始

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