女装スパイは今日もバレそう~男とバレても転生者とバレても死ぬ俺の学園生活~ 作:やっくん。
馬車が石畳の上を揺れるたびに、化粧が崩れていないか気になった。
今朝は大変だった――
夜明け前にクロエとエルミアにたたき起こされ、寝ぼけたまま起き上がったら、朝立ちしたそ径部を目撃され、異様な空気が流れた。
化粧をしてもらっている間は、動けない俺にクロエがダジャレを連発してきたり、そのタイミングで紫髪の少女まで部屋に入ってきたりと収拾がつかなくなった。
「聞いてる?」
クロエの声で我に返る。
「はい、聞いてます」
「私、さっき何て言った?」
「……す、すいません、聞いてませんでした……」
「しっかり聞きなさい!これから任務なのよっ!」
「はい……」
怒られた。
「…… 続きを話すわよ。学園に着いたら、まもなく転入試験があるから」
「試験ですか……」
まずい……試験があるなんて聞いてない……
クロエは膝の上の書類に目を落とした。
「試験は筆記と魔力検査の二科目。結果に応じてSクラスからCクラスに分けられるわ。あなたはAクラスに入りなさい」
うん。無理。
だが口には出せない。
……でも、なんでSクラスじゃないんだ。
「Sじゃないんですね」
「Sはまず無理。貴族や王族、飛び抜けた才能の人たち専用のクラスだから。それに入れたとして、注目を集めすぎるわ」
「なるほど。つまり今回のターゲットはAクラスに……」
「そういうこと。最初の標的は公爵令嬢――ロッテ嬢」
「……ロッテ嬢。」
「そう。ダム家のロッテ嬢よ。他の貴族とも交流が広く、この辺りのダムや水路を管理してる」
「そうなんですね。俺はそのロッテ嬢に近づけばいいんですね……」
「そう。――親友ポジションにでもなれば、彼女から多くの情報を得られるわ」
「親友、か……」
「ベストは勧誘してこちらに引き込むこと……弱みを掴んで無理やり言う事を聞かせるでもいいわ」
いや、よくないだろ。
「そ、そうですね……はは……」
「あなたならできるわ。あなたを信じる私を信じなさい。それと――」
クロエが座席の下から黒いスーツケースを引き出した。
「これを渡しておくわ。寮での生活になるから、必要なお金と物資を全部詰めてある。注意事項と私からのアドバイスを書いたスクロールも入れてある」
それは本当に助かる。情報が足りない状況では立ち回りも限られるからな。
「ありがとうございます」
「読んだら燃やすこと。いいわね」
「燃やす、ですか」
「そう。情報漏洩は命取りよ」
クロエの目が一瞬だけ鋭くなった。
……本物だ、この人……
俺は彼女からスーツケースを受け取った。
寮生活か……
学生時代を思い出す。
「それにしても寮、ですか……」
「そう。寮内には一般学生もいると思うから身バレには気をつけなさい。もし、何かあればライラに相談しなさい」
「ライラ?」
「メンバーの一人よ。今は別の目的で、先に学園に潜入しているわ」
なるほど。そういうことか。
先に講師として潜入している彼女が、試験の時の監督か採点者となってくれると。
「つまり、八百長で試験をパスしてAクラス入りできるってことですね」
「は? 試験は自力よ」
おわった。
「それにライラは学生として潜入しているわ」
「あはは……そうなんですね……」
「ただ、あまり彼女に頼るのは辞めときなさい」
「というのは?」
「彼女は性格が悪い――」
◇
「ということで、彼女がライラよ」
「あ、ご迷惑をおかけしますが、よろしくおねがいします」
「は〜い、よろぴく〜」
ギャルがいた。