女装スパイは今日もバレそう~男とバレても転生者とバレても死ぬ俺の学園生活~   作:やっくん。

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八話 ふとももとおっぱい

 クルクルカフェと書かれたカフェの奥の席。暖簾をくぐると、そこには先客がいた。

 

 金髪の女子生徒がテーブルの上に足を組んで座っていた。

 

 行儀が悪い――それだけならまだいい。足を組んでいるせいで、制服のスカートがちょうど際どい位置に来ている。

 

 それが問題だ。

 

 俺は慌てて視線を上げた。

 

「ちょりー」

 

 クロエの声のトーンがすっと下がった。

 

「挨拶っ!それと足をテーブルから下ろしなさいっ!」

 

「へいへい」

 

 ライラはしぶしぶ足をテーブルから下ろした。

 

 太ももとスカートの位置が戻る。

 

 助かった……

 

 クロエが俺の肩を軽く押した。

 

「紹介するわ。彼がリク。今日から学園に入るわ。お願いね」

 

「あいよ〜」

 

 ライラは軽く手を上げた。

 

 俺は一歩前に出て頭を下げた。

 

「初めまして。リクです。よろしくお願いします」

 

「リクっちね。りょ〜」

 

 リクっち? りょ? 彼女の言っていることがイマイチ理解できん……

 

 彼女は急にぐいっと顔を近づけてくる。

 

 ちかっ……

 

 長いまつ毛。くっきりしたアイライン。艶のある唇。ギャルメイクをしっかり盛っているのに、それでも顔の輪郭が綺麗だとわかる。

 

 

「かーいい顔してんじゃん」

 

 自然と彼女の胸元にも視線がいってしまう。シャツの一番上はボタンが外れており、ゆっくりと開いた胸元からは白い谷間が目に飛び込んでくる。

 

「……」

 

「……リクッち?」

 

「は、はい!」

 

 俺はまっすぐ前を見た。

 

 クロエの手がライラの顔の前に割り込んできた。

 

「距離が近すぎるわよ」

 

 ぐい、とライラの顔が押し戻される。

 

「それと学園ではスイ、だから」

 

「スイ……?」

 

 ここでは名前を変えろと? 自分の名前が変わるとは聞いていないぞ。

 

「学園内では本名は使えないわ。あなたの学園での名前はスイ・コロリよ」

 

「スイ……コロリ……」

 

「そうよ。スイとリク——つまり水陸両用。ね、覚えやすいでしょ? 気に入った?」

 

 クロエが胸を張った。

 

「それと、コロリの部分にもこだわったわ。どんな敵もコロリ、と倒せるようにという願いも込めてあるのよ」

 

 どこか得意げな顔をしている。

 

「……」

 

 部屋の空気がすっと静かになる。テーブルの上のグラスが、かすかに揺れた気がした。

 

 そしてライラが口を開く。

 

「……だっせっ」

 

「……あ?」

 

 隣からドスの効いた声がした。固唾を飲む俺。

 

 ライラはグラスをくるくると指で回しながら、天井を仰いだ。特に怒っている様子はない。むしろ、楽しそうですらある。

 

「あたしならもっといい名前考えるけどね〜」

 

「……あらそう。じゃあ聞かせてもらおうかしら」

 

「もち」

 

「リク、彼女が考えた名前と私のスイ・コロリ……どってが良かったを審判してくれるかしら」

 

 いやです。

 

 ライラは天井を見上げ、顎に手をあてて考えている。

 

「う〜ん、あっ」

 

 彼女は指をパチンと音を立てた。

 

「ベアトリクス・マクスウェルとか」

 

 へぇ、いいじゃん。

 

「ベアトリクスって名前、実は『旅人にして戦う者』って意味があんのよ。マクスウェルは名家の姓だし、合わせると『戦う名家の旅人』みたいな。スパイっぽくない?」

 

 いや、悪くない。悪くないぞ。むしろ、かっこいいまである。

 

「あとは、ソフィア・コンスタンティンとかどうよ」

 

 うん、いいねぇ。

 

「ソフィアは知恵の意味。コンスタンティンは不変の意志。つまり、知恵をもって揺るがぬ意志で戦う者。どう、完璧じゃん?」

 

 おおぉ! まさに俺にピッタリの名前じゃん。

 

 音の響き、由来、センス、格式の高さ、すべてがスイ・コロリを上回っている。

 

 ふと、視線を感じて横を向くと、クロエが俺をまっすぐ見ていた。

 

 目が全然笑っていない。

 

 クロエはゆっくりとテーブルの上のグラスに手を伸ばした。

 

 ダァァン!!

 

 グラスが思いのほか大きな音を立てた。

 

「帰ります」

 

「採点聞いていかねぇの?w」

 

「いいです。もう帰ります」

 

 クロエが立ち上がり、出口に向かって一直線に歩き始める。

 

「あ、クロエさん!」

 

「効いてる効いてるw」

 

 ライラがケラケラと笑う。

 

「追いかけてきます」

 

 立ち上がりかけた俺の袖を、ライラがつかんだ。

 

「ちょっと待ちなって。もう任務の話も荷物も受け取ってんでしょ。ほっときな〜」

 

「でも——」

 

「大丈夫だって。いつもあんな感じなんだからさ〜」

 

 去った彼女の方を見ると、暖簾がすでに揺れているだけだった。

 

 ……行っちゃった……

 

 俺はしぶしぶ腰を下ろした。

 

「それよりさ〜」

 

 ライラが頬杖をついた。

 

「学園ではベアトリクスのベアちゃんにしよっか?」

 

「……いえ」

 

「え〜」

 

「……スイ・コロリでいきます。せっかくクロエさんが思いを込めて考えてくれたので」

 

 ライラは唇を尖らせている。

 

「ちぇ。つまんないの〜」

 

「すいません……せっかくライラさんも考えてくれたのに……」

 

「……もう終わったことだし〜」

 

「……でも、正直に言うと――ベアトリクスって名前すっごくカッコよかったです」

 

「……ふぅん。じゃあ、クロエとの勝負はあたしの勝ち?」

 

「はい、ライラさんの勝ちです!」

 

 これは社会人として学んだ知恵だ。目上の人間には、ハイかYESで答えておくのが正解。

 

 ん?

 

 ライラのポケットが、かすかにピンク色に光った気がした。

 

 気のせいか……

 

「そっかそっか。うんうん。リクっちは分かってるねぇ。よし――気に入ったっ! リクっち、あんたをあたし部下にしてやんよ」

 

 へ?部下?

 

 彼女は向かいの席からすっと立ち上がり、そのまま俺の隣に座ってきた。

 

「……ちょっと、なんで隣に」

 

「んー、部下を可愛がるのは先輩の役目でしょ〜」

 

「一応、俺はクロエさんの部下ってことになってるんですけど……」

 

「聞きたいんだけどさ――

 

 ん?

 

 おっぱい、好きなの?」

 

「え……?」

 

「おっぱいばっか見てるよw」

 

「いえ、そんなことは」

 

「女なのにおっぱい好きなんだぁ」

 

 彼女がケラケラと笑っている。

 

「あっ、もしかしてレズ?」

 

「ちがいます」

 

「言っちゃいなよ〜女の子同士なんだし。あっ、あたしレズだよっ」

 

 え……っ?

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