女装スパイは今日もバレそう~男とバレても転生者とバレても死ぬ俺の学園生活~ 作:やっくん。
第9話 転入試験、波乱の幕開け
「はじめ!」
試験官の声と同時に、部屋中で一斉に紙をめくる音がした。
俺も用紙を手に取って、裏返した。
「こ、これは……!?」
危うく声が出そうになった。
問一からして、すごいことになっている。
問一:「政治・外交について。中立国ランダリアが複数の周辺国から圧力をかけられた場合、最も有効な外交戦略を述べよ」
(なん……だと……?)
俺は問題文を三回読んだ。
(これ……冷戦時代のスイスと戦後日本の外交政策じゃないか)
前世の記憶が、するすると引き出されてくる。
永世中立の維持、経済的相互依存の構築、多国間条約への参加による安全保障の確保——
この世界の固有名詞はわからない。でも構造は同じだ。
ペンを走らせる。
(書ける。書けるぞ)
リクとしての記憶は断片的で頼りにならないが、文字の読み書きだけは問題なくできる。
前世の知識をこの世界の言葉に置き換えながら、答えを埋めていった。
「よし、次だっ」
問二:「戦闘について。剣術と魔法はどちらが強いのか。あなたの意見を述べよ」
(うーん……どちらが強いか、か)
自身の技量や能力によっても違うだろうし、状況や距離、相手の特性によっても
変わる。
絶対的な答えがある問題じゃない。
(こういう問題は、どっちが正解かという問題ではないな。考え方の筋道と、破綻なく論を展開できるかを見たいんだろう……)
前世でも似たような設問はあった。
AとBどちらが優れているか、という問いに、結論をどちらか一つに決めて論じるやり方だ。
俺はペンを走らせる。
まずは「魔法が強い」という結論を置いてから、破綻なくその理由を説明した書き方をした。
ただし、剣と魔法の両方が使えるのが一番強い、という自分の意見も補足として書いておいた。
(われながら無難すぎる答えだが、白紙よりはマシだろう)
問三:「魔法について。魔力の伝達経路を阻害する要因を述べよ」
(魔法理論……わからん)
リクの記憶からも何も出てこない。見慣れない用語と図式が並んでいる。
(ん……でもこれ……電気回路の抵抗と同じ構造……なのか)
用紙の伝導経路と書かれている図式は、電流の流れるルートと同じように見える。
阻害要因は抵抗、つまり素材の性質、温度、接触不良——
俺は迷わず、電気回路の知識をそのまま魔法用語に読み替えて書いた。
(採点する先生は困惑するだろうが、白紙よりはマシだろう)
問四:「ダンジョンについて。ダンジョン内での予期せぬ状況やパニック状態のときに、心に止めておくべき三か条は?」
(………これは)
ペンが止まる。
小学一年生のとき。
運動会の練習中に火災訓練があって、先生に連れられて校庭に避難しながら、繰り返し唱えさせられた言葉が、頭の中に浮かんだ。
何も書かないよりはマシだろうと浮かんだ言葉をそのまま書く。
以降の問題は、選択式となっていた。
地名、魔法の歴史、王家の系譜、学園の設立年などが出題内容だったが、全くわからなかった。
リクの記憶はほとんど残っていないので、俺は適当に選択しながら最後のページまでめくった。
「ふぅ……最後の問題か……どれどれ……」
問十:「教養について。正しい男性への接し方について述べよ。ただし、少なくとも3つ以上記述すること」
「なんだ……これ……」
意味がわからないんだが。なぜ教養問題で男への接し方が出るんだ。
異世界だから。そういう価値観だから。それでは理解が追いつかない。
(女性は男性を立てる文化……なのか……それとも……ん?)
「――残り10分!」
試験官の声が響く。
今、重要な何かに気づいた気がしたが、試験官にかき消されてしまった。
時間もないので、まずは回答を考えよう。
(ふぅ……回答を埋めるには埋めたけど)
Aクラスのボーダーがどこか分からないが、次の魔力検査で点数を稼がないと厳しいかもしれない。
「終わった方は、解答用紙を裏返してそのままにしてください。起立!」
試験官の声で全員が立ち上がった。
◇
次の魔力検査の試験会場は屋外だった。
学園の中庭に出ると、広い石畳の広場が広がっていた。正面には木製の的が何枚か立っていて、地面には複雑な魔法陣が描かれている。
(お約束は……なし……か)
丸い水晶に手を当てて「こ、この色は!?」みたいな感じで魔力を測るのを期待していた。
(しかし、まずいな……見た感じ魔法で的を当てる試験っぽいな……)
実際に魔法を使うとなれば、発動の仕方が全くわからない俺には不利だ。
(どうする……)
マッチとスプレー缶があれば「ファイアー!」とか言ってごまかせるかもしれないが、ここにはどちらも存在しない。
受験生たちが一列に並んだ。俺もその列に加わる。
「これより魔力検査の試験を行います」
教官が前に出た。
筋肉質な女性で声がよく通る。
「魔法を一度でも発動できれば合格です。種類は問いません。どんな魔法でも構いません」
(……ほかの受験者が試験をしている間に考えよう……)
クロエが「リクは魔法の才能がある」と言っていた。でも俺はリクじゃない。転生してから一度も魔法を使っていないし、使い方がわからない。
(……魔力のようなものを内に感じる……わけもないか……くっ)
頭の中で必死考えながら列に並んでいると——
「では名前を呼ばれたら前へ――
――スイ・コロリさま、どうぞ」
え……
教官がこちらを見ていた。
(最初かぁぁぁっ!)
「は、はい」
俺は右手を空手チョップにして、すいませんという感じで前に出る。
的までの距離は、おおよそ十メートルほど。
後方の見学スペースでは、腕を組んでこちらを見ているライラ。
(えぇいままよ)
俺は両足を肩幅に開いて、正面の的を見据える。
右手を持ち上げ、手のひらをパーに広げる。
的に向かって突き出し――
(イメージだ。電気が出る。電撃が出る。ビリビリッと——)
「サンダー!」
静寂。
ひゅるるる――
突如秋風が吹いた。
落ち葉が一枚、くるくると舞う。
「えーっと……今のは実は風魔法で……」
俺は恐る恐る教官に向かって言った。
「今のは、ただのつむじ風です」
教官が淡々と答える。
「は、はは……ですよね……」
「えー、んんっ。魔法が確認できない場合は——」
そのとき――
ビリッ。
俺の手のひらから、小さな光が走った。
黄色い電気の玉が的へ向かって一直線に飛んでいく。
バチンッ!
的に命中した。
乾いた音とともに、的の中心部が焦げた。
煙が細く立ち上る。
「ま、魔法を確認!」
教官が手を挙げた。
「え……っ」
俺は自分の手のひらを見た。
(……何もしてないよ!?)
後方の見学スペースに目をやると、ライラと偶然に視線が合った。
パチンッ!
彼女は可愛くウインクする。
(……ライラさんがやってくれたのかぁ……助かったぁぁ……)
俺は心の中で深く頭を下げた。
「はい、では次の方。終わった方は後ろに下がって見学してください」
俺は列を外れて、後方へ移動した。
すると、すぐ隣に彼女が来て俺の耳元で話しかける。
「貸しイチだかんね〜(ボソッ)」
とケラケラ笑った。
「はい。本当に助かりました(小声)」
「全然おけまる〜! スイッちがキャパってたからさ〜、アタシもアセアセだったわ〜」
(スイッち? その呼び方は家庭用のゲーム機みたいでちょっと……)
「え〜実は今日調子が……」
「あ〜はいはい、あの日ねぇ。まぁそれならしょ〜がないねぇ」
(……なんか勘違いしてるな……ライラさん。やっぱり俺のこと女だと……)
彼女は鼻を鳴らしてから、残りの受験生たちを眺めた。
次々と試験が進んでいく。炎を出す子、氷を出す子、水を操る子。みんなあっさりと魔法を発動させていく。
(おぉっlこれが魔法かぁ……ロマンだねぇ……)
俺も練習次第で魔法が使えると思うとワクワクしてくる。
(それにしても、やっと終わった……はやくうちに帰ってゆっくりしたい)
唐突に教官が前に出た。
「例年では、ここで試験は終了ですが――
(………?)
――今年から、追加で模擬戦闘の試験を開始いたします!」
「どえぇぇぇえぇ!?」