キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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続きです。ゆっくりしていってね。


第9話:戦の終わりと、次なる路

激痛と引き換えに手に入れた勝利の余韻が、蛇甘平原を包んでいた。魏軍の副将・宮元の首が落とされたことで、敵軍は完全に瓦解し、秦軍の勝利で大戦は幕を閉じた。

 

貫が目を覚ましたのは、秦軍の本陣近くに急造された医療用の天幕の中だった。鼻を突く濃厚な血と消毒の匂い。耳を澄ませば、周囲の天幕からも無数の負傷兵たちのうめき声が聞こえてくる。

 

「……う」

 

身を起こしようとした瞬間、両腕に焼けるような激痛が走り、貫は思わず顔をしかめた。見れば、彼の両腕は手首から肩口まで、幾重にも白い包帯が固く巻き付けられている。流水岩砕拳の完全解放による筋肉の断裂と関節の炎症。命に別状はなかったが、肉体にかかった負荷は、やはり生身の限界を超えていた。

 

「おい! 起きたぞ! 貫が目を覚ました!」

 

天幕の入り口から入ってきた雷が、貫の姿を見るなり大声を上げた。その声に導かれるようにして、伍将の鉄、あるいは梁と拓が次々と天幕の中へ駆け込んでくる。

 

「よかった……。本当に、本当によかった……!」

 

拓はボロ布で拭いたばかりの顔を涙で濡らしながら、貫のベッドの傍らに膝をついた。その手には、戦場で拾い集めてきたのであろう、魏軍の装甲戦車の頑強な鉄の車軸や、上質な青銅の破片が詰まった重そうな袋が握られていた。

 

「貫、これを見てよ。戦車を壊したときの破片とか、壊れた武器から使えそうな金属を全部集めてきたんだ。この金属を溶かして、君の『流水』の力にも絶対に耐えられる、世界に一つだけの『鋼鉄の管槍』を僕が絶対に完成させるからね」

 

拓の瞳には、職人としての、そして戦友としての強い決意が宿っていた。

 

「ああ、期待している。……みんな、無事でよかった」

 

貫は包帯に包まれた手を少しだけ動かし、仲間たちの顔を見渡した。伍将の鉄は、真っ二つにされた大盾の代わりに新しい装備を腰に下げ、梁もまた、いつもと変わらない冷静な表情で頷いていた。

 

「お前が倒れたときは肝を冷やしたがね」

梁が冷静に口を開いた。

「だが、お前が乱角千人将を討ち取ったおかげで、魏軍の本陣は完全に崩壊した。俺たちの伍は、この蛇甘平原の戦いで、歩兵としては破格の軍功を挙げたことになる。近いうちに、大きな論功行賞があるはずだ」

 

「ああ。郭千人将も、お前たちのことを上層部に強く推してくれたからな。俺も長く軍にいるが、こんな凄まじい新兵の伍将になれたことを誇りに思うよ」

鉄が優しく笑いながら、貫の肩を叩いた。

 

その時、天幕の布が静かに上がった。入ってきたのは、郭千人将ではない。仕立ての良い綺麗な甲冑を身にまとい、誠実そうな顔立ちをした一人の若き将校だった。その佇まいからは、一兵卒とは明らかに違う、気品と確かな武人の風格が漂っている。

 

鉄や梁は、その男の甲冑の階級章を見るなり、即座に姿勢を正して最敬礼の姿勢をとった。その男こそ、今回の戦いで昌文君の副官として奮戦した、秦軍の千人将・壁(へき)であった。

 

「皆、楽にしてくれ。怪我人の治療の邪魔をしに来たわけではない」

壁は穏やかな声をかけ、天幕の中を見回した。そして、ベッドの上で包帯を巻かれたまま、静かに自分を見つめている貫の前へと歩み寄った。

 

貫は痛む体を少しだけ起こし、壁の瞳を真っ直ぐに見据えた。新しく出会うこの将校に対し、貫は自身の身分を明かすべく、静かに言葉を紡いだ。

 

「初めてお目にかかります。秦軍第四軍所属、歩兵の貫と申します。先の戦闘で得物である管槍を失い、現在はこのような姿ですが、一応、この伍の切り込み役を務めております」

 

壁は、貫のその落ち着き払った態度と、年齢に似合わない深い輝きを放つ瞳に、一瞬だけ息を呑んだ。

 

「君が、貫か……。よく名乗ってくれた。私は千人将の壁という。……蛇甘平原の戦場で、素手で魏の装甲戦車を五台大破させ、宮元本陣の守護者であった乱角千人将を一撃で葬った『赤布の歩兵』がいると聞き、どうしてもこの目で確かめたくて足を運んだのだ」

 

壁の言葉に、雷が誇らしげに胸を張った。

 

「戦場での噂は、どうやら本当だったようだな。君のその腫れ上がった両腕が、何よりの証明だ。信という少年も凄まじい武功を挙げたが、君の成し遂げた戦果もまた、我が秦軍の勝利を決定づける特大の軍功だ。縛虎申千人将の魂も、きっと喜んでいるだろう」

 

壁はそう言うと、貫の目をじっと見つめ、真摯な口調で続けた。

 

「君のような非凡な才能を持つ若者が、この秦国に現れたことを心から嬉しく思う。今回の論功行賞では、君たちにはそれ相応の地位と恩賞が与えられるはずだ。歩兵の枠に収まる器ではないことは、その佇まいを見ればわかる」

 

「もったいないお言葉です、壁千人将。私はただ、この仲間たちと共に生き残るために、己の全力を尽くしたに過ぎません」

貫は淡々と答えた。その謙虚でありながらも、決して怯むことのない態度に、壁はさらに深い感銘を受けたようだった。

 

「良い眼だ。……貫、君たちの行く末を、私は影ながら楽しみにしている。まずはその腕をしっかりと治すがいい。次に会うときは、戦場の上、あるいはもっと高い場所になるだろう」

 

壁はそう言い残すと、貫たちに満足そうな笑みを向け、天幕を去っていった。

 

「おいおい、千人将の壁様から直接声をかけられるなんて、俺たち本当に大出世しちまうんじゃないか?」

雷が興奮を抑えきれない様子で声を震わせる。

 

「地位が上がれば、それだけ激しい戦場に駆り出されることになる。だが、貫の槍と拳、あるいは拓の作る新しい管があれば、俺たちはどこまででも登っていけるはずだ」

梁の言葉に、全員が力強く頷いた。

 

戦火が止んだ平原の夜空には、満天の星が広がっていた。初めての戦いを生き延び、確かな絆を結んだ貫と仲間たち。そして、次なる時代を担う若き火としての歩みは、この秦国の地で、静かに、しかし確実に始まりを告げていた。拓が手にする鉄の袋が、来たるべき反撃の時を待つように、鈍い光を放っていた。




次回:第10話 穿紅の産声と鋼鉄の管
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