キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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続きです。ゆっくりしていってね。


第14話:総司令の盤面と新たなる波

白珪城周辺の治安維持任務を完璧な勝利で完遂した穿紅軍の百五人は、国境地帯の領民たちに見送られながら、再び秦国の首都・咸陽へと向けて凱旋の途についていた。道中、穿紅軍が通る村々では、すでに彼らの「無傷で四倍の敵を殲滅した」という伝説が伝わっており、その鮮烈な赤布を纏った一団が進軍する姿を一目見ようと、多くの人々が街道に集まっていた。

 

「おいおい、見ろよ。俺たち、すっかり有名人じゃねえか。咸陽を出るときは誰も見向きもしなかったのによ」

突撃隊長の雷が、馬の上で誇らしげに胸を張り、集まった群衆に手を振り返す。

 

「調子に乗るな、雷。名が売れるということは、それだけ次の戦場で敵からも警戒されるということだ。魏国だけでなく、他国にも我が穿紅軍の情報が渡っていると考えた方がいい」

軍師の梁が馬の足並みを揃えながら、手元の木簡に新たな戦術のメモを書き込んでいく。その表情には、勝利の驕りは一切なく、常に次なる大戦を見据えた冷静さがあった。

 

「梁の言う通りだ。だが、俺たちの兵の士気はこれ以上ないほど高い。この三ヶ月の練兵と、白珪城での実戦を経て、百人の兵は完全に『一つの生き物』として動けるようになった。これなら、どんな過酷な戦場に放り出されても、簡単には崩れんよ」

副将の鉄が、髭を蓄えた口元を緩めながら、頼もしく成長した兵たちの背中を見つめていた。

 

隊列の先頭を行く貫の左腕には、変わらず『鋼鉄の管』が鈍い光を放っていた。その隣を歩く拓は、大きめの荷車を自ら引きながら、中にある様々な木材や鉱石のサンプルを熱心に観察していた。

 

「貫、咸陽に戻ったらさ、すぐに次の武器の改良に入るからね。白珪城で君が放ったあの突き、凄まじすぎて槍の柄が摩擦と衝撃で少し削れちゃってたんだ。だから次は、普通の木じゃなくて、南方のジャングルで採れるっていう鉄のように硬くてしなる『鉄刀木(タガヤサン)』っていう特殊な木を入手して、それを芯に使った特製の複合槍を作るよ。そうすれば、鋼鉄の管との相乗効果で、さらに破壊力が上がるはずだから!」

 

「ああ、期待しているよ、拓。お前の作る道具があるからこそ、俺は限界を恐れずに『流水』を振るうことができる」

貫が微笑むと、斥候隊長の厳が木の上から音もなく街道へと飛び降りてきて、二人の会話に加わった。

「百人将、咸陽の街に入ったら、俺は少し独自のルートで情報を集めてくるぜ。裏社会の奴らや、各国の商人の動きを探れば、次に見える戦場の全貌が、軍の公式な伝令よりも早く掴めるかもしれないからな」

 

「頼む、厳。お前の『眼』は、我が軍の生命線だ」

貫が頷くと、厳はニヤリと笑い、再び霧のように気配を消して、周囲の林の中へと消えていった。

 

咸陽に到着した穿紅軍は、兵たちを宿舎へと戻した後、幹部である貫、鉄、梁の三人に対して、直ちに王宮の『軍総司令部』への出頭命令が下された。昌文君の謁見の間ではなく、秦国全ての軍事戦略を統括する最重要機関への呼び出し。それは、彼らの挙げた戦果が、単なる一地方の治安維持に留まらない、軍事的な異変として捉えられていることを意味していた。

 

通されたのは、天井が高く、無数の戦術地図や各国の布陣図が壁一面に掛けられた、厳かで圧倒的な空間だった。部屋の中央には、中華全土を模した巨大な兵棋演習用の盤面が置かれており、そこには何千もの精緻な駒が配置されていた。

 

その盤面の前に、一人の男が静かに佇んでいた。

洗練された上質な衣服を身にまとい、彫刻のように整った容姿を持ちながらも、その身体からは、武将としての圧倒的なオーラと、中華最高峰の智者としての底知れない知略の気配が同時に放たれていた。

秦国軍総司令、右丞相・呂不韋の陣営における最大の頭脳であり、かつて天才武将としても名を馳せた男――昌平君(しょうへいくん)であった。その傍らには、彼の側近である介億(かいおく)も控えており、手にした報告書の木簡をじっと見つめていた。

 

昌平君は、貫たちが入ってきたことに気づくと、ゆっくりと顔を上げ、その深く鋭い瞳で貫の全身を射抜くように見つめた。その眼光は、これまでに会った壁や豪徳将軍のものよりも、さらに冷徹で、本質を見透かすような冷たさを持っていた。

 

貫は昌平君の前に進み出ると、一歩の乱れもなく美しい動作で片膝をつき、頭を垂れた。新しく出会う、この秦国の軍事の最高責任者に対し、貫は己の存在と穿紅軍の理念を完全に刻み込むべく、凛とした、戦場全体を支配するかのような静かな声を響かせた。

 

「初めてお目にかかります。秦国第四軍所属、百人将の貫と申します。先の国境地帯における白珪城の任務において、魏軍残党四百を、我が穿紅軍の百五人を以て討伐、これを一人の死者も出すことなく全滅せしめました。我が穿紅軍の赤き旗と、この左腕に宿る穿光の槍は、総司令の描く秦国の覇道を、いかなる障壁をも穿ち貫いて現実のものとするためにあります」

 

貫の淀みのない自己紹介と、その尋常ならざる落ち着き払った態度を聞き、昌平君は僅かに目を細めた。その横で、側近の介億が驚いたように木簡から顔を上げ、貫を見つめる。

 

「……面を上げよ、百人将・貫」

昌平君の声は、静かだが部屋の隅々にまで響き渡るような圧倒的な威厳に満ちていた。

「白珪城の豪徳将軍、および文からの詳細な報告書は、すでに私の元に届いている。僅か百人の新兵を率い、四倍の敵を無傷で全滅させた。その戦果自体も驚異的だが、私が最も興味を惹かれたのは、その戦闘の『中身』だ」

 

昌平君は、盤面の上にあるいくつかの駒を指先で滑らせた。

「お前たちが使った戦術……百人の軍を十人ずつの小部隊に細分化し、霧や地形を利用して、敵を常に各個撃破したという『散兵戦術』。これは、現在の中華に伝わるいかなる兵法書にも、あるいは呉慶や李牧といった他国の天才たちの戦術にも存在しない、全く新しい軍事理論だ。貫、この戦術は、一体誰が考案したものだ」

 

貫は視線を昌平君の瞳へと真っ直ぐに返し、一歩も引かずに答えた。

「我が穿紅軍の副将であり、軍師を務める梁が、我が軍の特性を最大限に活かすために考案したものでございます」

 

昌平君の視線が、貫の背後に控える梁へと移った。梁は緊張で背中に汗を流しながらも、眼鏡の奥の瞳を真っ直ぐに保ち、静かに一礼した。

「ふむ、世にはまだ見ぬ知略の奇才が眠っているということか。面白い」

昌平君の口元に、僅かに冷徹な笑みが浮かんだ。

 

「だが、どれほど優れた戦術であっても、それを現場で実行できる強力な『個の武力』がなければ、ただの絵空事に過ぎん。馬剛の放ったあの巨斧の一撃を、お前はその左腕の奇妙な筒――『鋼鉄の管』を用いて完全に受け流し、一撃でその心臓を穿ち抜いたとある。貫、お前のその武術、そしてその道具、一体どこで手に入れた」

 

「これは、我が家に伝わる特別な古流武術、呼吸法を用いて自然の力を身体に通す『流水岩砕拳』の極意にございます。そしてこの鋼鉄の管は、我が隊の工匠である拓が、魏軍の装甲戦車の鉄を限界まで叩き上げ、私の速度に耐えうるよう作り上げた、世界に一つだけの武器。我が武と仲間の知恵が合わさり、初めてこの穿光の突きが完成いたします」

 

貫のその言葉を聞き、昌平君はしばらくの間、無言で盤面の駒を見つめ続けた。

室内に流れる沈黙は、まるで次の大戦の前の静けさのように重苦しく、鉄や梁は固唾をのんで総司令の次の言葉を待った。

 

やがて、昌平君は大きく息を吐き出し、貫を強い眼光で見据えた。

「貫、お前たちの存在は、これからの秦国にとって、計り知れない価値を持つことになるだろう。現在、王宮内では呂不韋丞相の勢力と、大王派の勢力が激しく対立している。だが、軍総司令である私の仕事は、どちらの派閥に与するかではない。ただ一つ、秦国が『中華統一』という前人未到の覇道を突き進むために、最強の軍隊を作り上げることだ」

 

昌平君は立ち上がり、巨大な盤面全体を大きく見渡した。

「他国は、我が秦国をただの西方の野蛮な国と見做している。だが、近いうちに、東の趙国、あるいは他国との間で、これまでとは比較にならんほどの巨大な大戦が勃発する。その時、お前たちのその『誰も見たことのない戦術』と『圧倒的な個の武力』は、敵の裏をかき、戦況を根底からひっくり返す最大の切り札となる」

 

昌平君は懐から、一通の金色の刻印が押された特別な軍令状を取り出し、貫の前へと差し出した。

「百人将・貫。お前たち『穿紅軍』に対し、本日を以て、軍総司令部直轄の『特殊遊撃百人隊』としての身分を与える。これよりお前たちは、通常の軍の編成から離れ、私の直令によって動き、中華全土の最も過酷な局地へと赴いてもらうことになる。恩賞として、隊の規模を拡大するための莫大な軍資金と、最新の装備一式を支給する。どうだ、この過酷な宿命、受ける覚悟はあるか」

 

貫はその軍令状を両手で厳かに受け取り、昌平君の瞳に向けて、自らの退路を断つような強い決意を込めて宣言した。

「望むところでございます、昌平君総司令。我が穿紅軍の赤き光が、中華のいかなる闇をも穿ち、秦国の旗を最も高い場所へと掲げてみせましょう」

 

「良い眼だ。その言葉、戦場での戦果を以て証明してみせよ」

昌平君が満足そうに頷き、介億に手を挙げると、呼び出しは終了した。

 

軍総司令部を後にし、咸陽の眩しい光の中に歩み出た貫たちの前に、影から滑り込むようにして厳が姿を現した。その表情は、かつてないほどに緊迫していた。

 

「百人将、大変だ。裏のルートから情報が入った。……東の趙国国境近く、馬陽(ばよう)の周辺で、趙軍の大規模な動静が確認されたらしい。しかも……その軍を率いているのは、かつて秦国を恐怖に陥れた、あの『破壊の象徴』とも呼ばれる化け物たちだっていう噂だ」

 

厳の言葉に、梁の顔色が一気に変わった。

「馬陽……! ついに、趙国が本格的に動き出したのか」

 

貫は左腕の鋼鉄の管をカチャリと鳴らし、遠く東の空、不気味な暗雲が立ち込め始める方向をじっと見つめていた。

総司令から直轄の特命を受け、中華全土を揺るがす巨大な戦乱の渦中へといよいよ飛び込むこととなった穿紅軍。若き穿光・貫の率いる赤き一団の、これが真の無双と、中華の歴史を根底から塗り替える大長編の第ニ幕の、本格的な激動の幕開けであった。




次回:第15話 怪鳥の眼と馬陽の暗雲
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