キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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続きです。ゆっくりしていってね。


第20話:不屈の赤布、進化への鍛鉄

武神・龐煖が去った翌朝、馬陽の山間に立ち込めていた濃霧は、血の臭いを孕んだまま重く垂れ込めていた。

夜襲による被害は甚大だった。しかし、軍師・梁の迅速な撤退指示と、副将・鉄率いる盾部隊の命懸けの防衛により、穿紅軍は最悪の全滅を免れ、数十人の負傷者を出しつつも、百五人の絆を繋ぎ止めていた。

 

隣接する夜営地では、同じく大打撃を受けた飛信隊の兵たちが、互いの無事を確かめ合っている。

 

「てめえ、貫……! 本当にあの化け物の胸を突き刺しやがったんだな……!」

包帯を全身に巻いた信が、痛みに顔を歪めながらも、驚嘆と悔しさを剥き出しにして貫の天幕に転がり込んできた。

 

「ああ、だが浅かった。流水の呼吸を極限まで引き上げ、拓の槍の威力を乗せても、奴の肉体を両断するには至らなかった」

貫は上半身裸になり、左腕の激しい打撲痕に冷水を当てながら静かに答えた。その瞳には敗北の陰りはなく、むしろ怪物の「武」を体感したことで、さらなる高みを見据える鋭さが増していた。

 

「上等だ! 羌瘣も傷を負ったが、あいつだってまだ死んじゃいねえ。次にあいつが現れた時は、俺とお前で、絶対にあの首を叩き落とすぞ!」

信が不敵に笑い、拳を突き出す。貫もまた、自身の右拳をそこに強くぶつけ合った。

 

壊れた武具、紡がれる知恵

天幕の隅では、工匠の拓が、炎を上げた簡易の炉の前に座り込み、凄まじい形相で鉄槌を振るっていた。

彼の前には、龐煖の大矛を受け止めて歪み、内壁に亀裂の入った『鋼鉄の管』と、激しくひび割れた鉄刀木の複合槍が置かれている。

 

「……悔しい、悔しいよ、貫!」

拓は涙を拭いもせず、真っ赤に焼けた鉄を叩きながら叫んだ。

「僕の作った道具が、君の技の速度と、敵の暴力に耐えきれなかった……! 鉄刀木でもダメなら、もう木材だけに頼るわけにはいかない。貫、この槍の柄、魏の装甲戦車から削り出した超硬鉄の芯を、さらに細く引き伸ばして鉄刀木の中に埋め込む! 『鉄芯複合鉄刀木槍』だ! 重さはこれまでの倍になるけど、君の流水の腕力なら振るえるはずだ!」

 

「倍の重量か。構わない、やってくれ、拓。俺の肉体は、その重さをさらに鋭い『加速』へと変えてみせる」

 

「それと、左腕の管だ!」

拓は炉から特殊な黒い合金を取り出した。

「亀裂が入った内壁に、趙軍の重装歩兵から奪った高硬度のブロンズを溶かし込み、二重の積層構造にする。滑りやすさを維持したまま、強度は前の三倍だ。武神の大矛だろうが、今度は絶対に歪ませない!」

 

その横で、軍師の梁が手元の木簡に、新たな布陣図を書き進めていた。

「百人将、敵の総大将・趙荘は、馮忌を失った穴を埋めるべく、本隊九万を大きく三つに分け、防衛線を再構築し始めています。龐煖という『個の天災』に目を奪われがちですが、戦局全体を見れば、今こそ趙軍の連携を断ち切る好機。我が穿紅軍の散兵戦術を、さらに細かく、さらに変幻自在に動かす必要があります」

 

「頼む、梁。武器の進化と、お前の知略があれば、俺たちはまだ戦える」

貫が立ち上がると、天幕の外から、斥候隊長の厳が風のように滑り込んできた。

 

「百人将、王騎将軍の本陣から伝令だ。総大将が、お前を直々に呼んでいる」

 

怪鳥の視線、次なる戦地

秦軍の本陣へと赴いた貫を迎えたのは、天を突くような「王」の軍旗と、圧倒的な威厳を放つ王騎将軍、そして副官の騰であった。

周囲の将校たちは、夜襲で手痛い傷を負ったはずの百人将が、一寸のブレもない美しい歩法で歩いてくる姿に、無言の畏怖を抱いていた。

 

王騎は巨大な黒馬の上から、分厚い唇を歪めて不敵に笑った。

 

「ココココ……。生死の境を彷徨ってきたわりには、随分と良い眼をしていますねぇ、百人将・貫」

 

貫は王騎の前に進み出ると、完璧な動作で片膝をつき、深く頭を下げた。未だ身体の芯に残る武神の残響を、流水の呼吸で完全に押さえ込みながら、凛とした、戦場を支配するような静かな声を響かせた。

 

「秦国軍総司令直轄、特殊遊撃百人隊『穿紅軍』百人将、貫にございます。先の夜襲において、我が軍の力不足により多くの兵を失い、また武神・龐煖を討ち漏らしたこと、不徳の致すところでございます。しかし、我が穿紅軍の赤き布は、未だ一枚たりとも誇りを失ってはおりません。相棒の拓が鍛え直せし『鉄芯複合槍』と、さらに強固となった『鋼鉄の管』、そして全員の生き残る執念を以て、王騎将軍の次なる盤面、いかなる過酷な敵陣をも穿ち、勝利の道を切り拓くために参りました」

 

貫の淀みのない、そして一切の恐怖を排した自己紹介を聞き、副官の騰が小さく開眼した。

 

「ホゥ……。武神の胸を穿ち、その血を流させたというのは、どうやら誇張ではなかったようですね。昌平君があなたを直轄にした理由が、ようやく分かってきましたよ」

王騎は大きな大鉾を軽く回し、遠く趙軍の本陣が構える山脈を指し示した。

 

「現在、趙軍の副将・趙荘は、我が軍の進撃を阻むべく、中央の隘路に強固な『岩壁の陣』を敷いています。まともにぶつかれば、我が軍の騎兵も足を止められ、そこへ再び武神が降臨すれば、文字通りの全滅を迎えるでしょう。――そこで、貫」

 

王騎の瞳に、冷徹な将軍の光が宿る。

 

「お前たち『穿紅軍』に、特命を与えます。その新しく鍛え上げた槍と、誰も見たことのない散兵戦術を以て、趙軍の誇る『岩壁の陣』の真裏――誰も登れぬと割り切られている峻険な断崖絶壁を越え、敵の本陣の心臓部へと、奇襲の楔を打ち込みなさい」

 

「御意にございます、王騎将軍。我が穿紅の光、敵の油断の闇を完璧に穿ち抜いてみせましょう」

 

「ココココ、期待していますよぉ。騰、全軍に突撃の準備をさせなさい。雛鳥たちが道を拓いた瞬間、私がすべてを蹂躙します」

 

「ハッ。御意。ファルファルファル……」

 

駐屯地に戻った貫の前には、拓が文字通り命を削って完成させた、鈍い漆黒と銀の輝きを放つ『新生・鋼鉄の管』、そして圧倒的な質量感を湛えた『鉄芯複合鉄刀木槍』が鎮座していた。

 

貫がそれを左腕に装着し、槍を滑らせる。

ズバアァァァッ!!!

空気そのものが重低音を上げて爆発するような、これまでにない破壊的な真空の音が、夜営地に鳴り響いた。

 

「これなら……いける」

貫の口元に、微かな、しかし絶対的な勝利の笑みが浮かんだ。

 

敗北の深淵から、仲間の知恵と不屈の闘志によって、さらなる進化を遂げた穿紅軍。

目指すは、趙軍が誇る不落の防衛陣。若き穿光・貫の率いる赤き一団は、馬陽の戦雲を完全に切り裂くべく、誰も予想だにしない絶壁の戦場へと向けて、再びその歩みを開始するのであった。




次回:第21話 断崖の赤き影、岩壁の崩壊
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