キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
馬陽の広大な戦場を分断するようにそびえ立つ、天を衝くような峻険な断崖絶壁。
鋭く尖った岩肌が連なり、鳥すらも巣をかけるのを躊躇うほどのその天険は、趙軍の総大将・趙荘(ちょうそう)にとって「絶対の安全地帯」であり、彼が敷いた不落の防衛線『岩壁の陣』の完璧な死角であった。
しかし、夜明け前の濃い川霧が辺りを包み込む中、その垂直に近い岩壁を、音もなく這い登る不気味な赤き影の一団があった。
王騎将軍から特命を受けた、特殊遊撃百人隊『穿紅軍』の百五人である。
「みんな、焦らないで。僕が作ったこの『高硬度特殊鋼の登山爪』を岩の隙間に確実に打ち込みながら登るんだ。流水の呼吸を合わせて、身体を軽くすれば、この絶壁だってただの階段だよ!」
工匠の拓が、自らも重い道具袋を背負いながら、小声で兵たちに指示を出す。
貫を先頭とする穿紅軍の兵たちは、かつてない過酷な登山を前にしながらも、一人の落伍者も出していなかった。彼らの肉体には、これまでの過酷な練兵と、貫から叩き込まれた『流水岩砕拳』の呼吸法が染み込んでいる。体内の気の流れを循環させ、指先に驚異的な吸着力を生み出すことで、彼らはまるで大守宮(ヤモリ)の如き速度で絶壁を走破していった。
「百人将、頂上だ。趙の奴ら、完全に油断してやがる。見張りは僅か十数人、焚き火を囲んで居眠りしてやがるぜ」
闇の中から音もなく滑り降りてきた斥候隊長の厳が、ニヤリと笑って報告する。
「よし、厳。突撃隊を率いて一瞬で無力化しろ。梁、本隊を引き上げさせ、敵の陣形を背後から喰い破る配置に付け」
貫が左腕に装着された『新生・鋼鉄の管』を静かに撫でながら、冷徹な指令を下した。
数瞬の後、穿紅軍の百五人は、趙軍の誇る『岩壁の陣』の真裏、その心臓部である高台へと完璧に布陣を完了した。
眼下を見下ろせば、秦軍の正面部隊を完全に足止めし、完璧な防御陣形を誇る趙軍の重装歩兵の巨大な背中が一望できた。彼らは、まさか自分たちの真後ろから敵が降ってくるとは夢にも思っていない。
だが、その異変にいち早く気づき、軍を反転させた男がいた。
趙軍の副将・趙荘の信頼厚い宿将であり、岩壁の陣の右翼後方守備を任されていた三千人将――岩摩(がんま)である。
岩摩は、その名の通り岩石を思わせる頑強な体躯に、幾重にも重ねられた超重装甲の甲冑を身に纏い、手には人間の胴体ほどもある巨大な鉄鉄槌(てっつい)を握っていた。
「何事だ、その赤布の群れは……! まさか、あの断崖を登ってきたというのか!? 馬鹿な、あり得ん! 防衛隊、直ちに反転せよ! 陣形を乱すな、数の力で押し潰せ!」
岩摩の怒号とともに、趙軍の精鋭三千人が、突如として背後に現れた穿紅軍へと牙を剥いた。
その大軍の前に、一歩の乱れもない洗練された歩法で、貫が静かに歩み出てきた。
右手に握られた『鉄芯複合鉄刀木槍』は、これまでの槍とは比較にならない圧倒的な質量感を湛え、鈍い銀の光を放っている。
貫は岩摩の放つ、地盤そのものが迫ってくるかのような重圧を正面から受け止めながらも、体軸をミリ単位すらぶらすことなく、新生の長槍を構え直した。新しく出会う、この不落の陣を守る宿将に対し、貫は己の存在と穿紅軍の進化を完全に刻み込むべく、冷徹で、淀みのない声を響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃百人隊『穿紅軍』を率いる百人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『新生・鋼鉄の管』、そして『鉄芯複合鉄刀木槍』を以て、貴様らが誇る岩壁の陣を、その背後から跡形もなく穿ち砕く。武神の暴威すら越えて進む我らの前に、立ち塞がる壁など存在しない」
貫の傲る高ぶることのない、しかし絶対的な破壊を予感させる自己紹介を聞き、岩摩は激しい怒りで顔を歪ませた。
「ほざけ、秦の雛鳥が! 我が重装甲、そしてこの岩摩の鉄槌、砕けるものなら砕いてみよわぁ!」
岩摩が地鳴りのような足音を立てて突進し、貫の頭上へと巨大な鉄槌を振り下ろした。馬の突撃すら粉砕するその絶対的な重さの一撃。
しかし、貫の瞳は、武神の次元の違う暴力を経験したことで、岩摩の攻撃がまるで止まっているかのように遅く見えていた。
(流水岩砕拳――二重積層・剛流受け流し)
貫は一歩も引かず、左腕の『新生・鋼鉄の管』の側面を、鉄槌の芯へと接触させた。
キィィィィィィィン!!!!
以前の管であれば歪んでいたはずの衝撃が、ブロンズを溶かし込んだ二重積層構造によって完全に耐え切られ、鉄槌の持つすべての運動エネルギーが、滑らかな円運動によって真横へと受け流された。岩摩の鉄槌は虚しく空を切り、自重によって地面の岩盤を激しく爆発させた。
「な、何だと……!? 我が渾身の一撃が、傷一つつけられずに逸らされた……!?」
岩摩が驚愕に目を見開いた瞬間、貫の肉体は、以前の倍の重量を持つ槍を、さらなる『超加速』へと到達させていた。
(尾張貫流槍術――管槍・重爆穿光)
鉄芯が仕込まれた鉄刀木の柄が、新生の管の内壁を滑る。
拓の施した鏡面研磨により摩擦は完全に「零」。倍の重量が、そのまま倍の破壊力という名の位置エネルギーへと変換され、一本の太い光の濁流となって放たれた。
ズガアァァァッ!!!
空気そのものが爆発するような重低音。
放たれた槍の穂先は、岩摩が誇る幾重にも重ねられた超重装甲の胸当てを、まるで紙細工のように容易く粉砕し、その背後にある巨大な肉体ごと、完全に貫通していた。
「が、はっ……バ、化け物め……我が、装甲が……」
岩摩の口から大量の鮮血が溢れ出る。鉄槌が手から落ち、不落の宿将と呼ばれた男の巨体が、穿紅軍の兵たちの前に派手に崩れ落ちた。
「岩摩将軍が一撃で討ち取られたぞ!! 裏切りだ、背後から化け物が迫っている!!」
三千人の防衛隊は完全にパニックに陥り、そこへ梁の指示を受けた穿紅軍の各小隊が、十人で一人を完璧に仕留める波状攻撃を仕掛け、趙軍の右翼後方は一瞬にして血の海へと変わった。
「……ココココ。やりましたねぇ、昌平君の雛鳥は。完璧な仕事です」
遥か前方の本陣から、断崖の上で巻き起こった爆発的な煙と、趙軍の防衛線が内側から崩壊していく光景を目撃した秦軍総大将・王騎将軍は、分厚いる唇を歪めて歓喜の笑みを漏らした。
「騰、全軍に突撃の合図を。壁は崩れました。これより、趙軍の残党をすべて磨り潰しますよぉ!」
「ハッ。御意にございます。ファルファルファル……!!」
副官の騰が剣を抜き、王騎軍の本隊が爆発的な推進力で突撃を開始した。
背後からの穿紅軍の奇襲、そして正面からの王騎軍の圧倒的な蹂躙により、趙軍の誇る不落の『岩壁の陣』は、文字通り跡形もなく崩壊していった。
戦火の煙が立ち込める断崖の上で、新生・鋼鉄の管をカチャリと鳴らす貫。
敗北の深淵から進化した穿光の槍は、今、馬陽の戦局を完全に秦国の勝利へと傾けようとしていた。しかし、その勝利の歓声の向こう側で、貫の流水の呼吸は、再びあの「武神」の禍々しい殺気が、すぐ近くまで迫ってきているのを確実に捉えていた。
次回:第22話 宿怨の白髪、天を揺るがす大矛
次に書く二次創作小説の原作
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