キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
『岩壁の陣』が背後から崩壊したことで、趙軍の中央防衛線は完全に瓦解した。断崖の上から、王騎軍の本隊が怒濤の勢いで趙の本陣へと向けて進撃を開始し、馬陽の平原は秦軍の圧倒的な勝鬨(かちどき)に包まれつつあった。
しかし、その勝利の熱気に沸く戦場の中で、穿紅軍を率いる貫の『流水岩砕拳』の呼吸は、全く別の、どす黒く冷酷な「気」が急速に近づいてくるのを察知していた。
「百人将、前方の防風林から何か来るぜ……! 尋常じゃねえ、まるで墓場から死人が這い出てきたような腐った臭いだ!」
斥候隊長の厳が、木々を飛び移りながら警告の声を上げる。
霧と戦火の煙を切り裂いて現れたのは、尋常ならざる異形の軍勢だった。
彼らは趙の軍旗ではなく、血に染まった怨念の旗を掲げ、何よりその先頭を行く男の姿が、見る者すべての背筋を凍らせた。
異様に白い髪をなびかせ、病的に青白い顔に狂気的な笑みを浮かべた男――趙国一の凶将と恐れられる千人将、万極(まんごく)であった。その手には、波打つ不気味な長剣が握られている。
「秦人(しんじん)め……。長平(ちょうへい)で埋められた我が同胞の怨み、この馬陽の地で一人残らず呪い殺してやるわぁ!」
万極の放つ、かつて秦国が犯した大虐殺の怨念を宿した殺気は、周囲の秦国の一般兵たちを恐怖で動けなくさせるほどの精神的暴力を伴っていた。万極の特攻部隊は、パニックに陥った秦の歩兵たちを、まるで家畜を屠るように冷酷に惨殺していく。
「動揺するな! 突撃隊、敵の側面に回り込んで連携を断ち切りなさい! 鉄さんの盾部隊は、兵たちの精神的支柱となって防衛線を維持して!」
軍師の梁が激しく口笛を吹き鳴らし、穿紅軍の兵たちに指示を出す。
「おうよ! 怨念だか何だか知らねえが、俺たちのスピードの filtration(濾過)にはかからねえよ!」
雷の突撃隊が、恐怖に怯むことなく万極の部隊へと横腹から突撃を敢行する。穿紅軍の兵たちは、日頃から貫の流水の呼吸に触れているため、万極の放つ精神的な威圧感を完全に無効化していた。
「ほう……。我が怨念の闇を前にして、一歩も退かぬ雛鳥どもがいるな。目障りだ、その首、長平の土へ送ってくれるわ!」
万極が白髪を振り乱し、蛇のようにうねる長剣を構えて、穿紅軍の本陣へと真っ直ぐに突撃してきた。
その狂気の刃を正面から受け止めるようにして、一人の若者が静かに歩み出てきた。
肩に巻かれた赤布を風にうねらせ、左腕には鈍い漆黒の二重積層構造を持つ『新生・鋼鉄の管』。右手には、拓が仕上げた至高の重量級得物――『鉄芯複合鉄刀木槍』。百人将、貫だった。
貫の全身の毛穴から、流水の極限の呼吸による白い気が立ち上る。万極が放つ数万人分の死者の呪いを正面から浴びながらも、貫の瞳は、まるですべてを洗い流す清流の如く、一点の曇りもなく澄み渡っていた。
新しく出会う、この趙国の深い宿怨を背負う凶将に対し、貫は己の存在と穿紅軍の不屈の意志を完全に刻み込むべく、冷徹で、淀みのない声を平原に響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃百人隊『穿紅軍』を率いる百人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『新生・鋼鉄の管』、そして『鉄芯複合鉄刀木槍』を以て、貴様らが抱くすべての怨念ごと、その歪んだ刃を穿ち砕く。過去の闇に囚われた貴様の剣など、未来を拓く我が穿光の敵ではない」
貫の傲る高ぶることのない、しかし絶対的な平穏を宿した自己紹介を聞き、万極は顔の血管を激しく浮き上がらせて激昂した。
「黙れぇぇぇ! 綺麗事を抜かすガキが! 貴様の肉を引き裂き、長平の霊への生贄にしてくれるわぁぁ!!」
万極が地を蹴り、目にも留まらぬ速さで跳躍。上空から貫の脳頭部へ向けて、狂気的な執念が乗った怨念のうねる一撃を振り下ろした。
しかし、貫の瞳は、万極の攻撃の根底にある『負の感情の流れ』を完璧に見切っていた。
(流水岩砕拳――暗流受け流し・清流)
貫は一歩も引かず、左腕の『新生・鋼鉄の管』の側面を、万極のうねる長剣の刃へと滑らせるように接触させた。
キィィィィィィィン!!!!
万極の放ったドス黒い破壊力は、二重積層構造の管の表面をぬるりと滑り、その力のベクトルを完全に無力化されて真横の空間へと受け流された。万極の剣は空しく空を切り、自らの体勢が大きく前方に崩れる。
「な、何だと……!? 我が長平の怨念の重さが、ただの腕一本で綺麗に消された……!?」
万極が驚愕に目を見開いた瞬間、貫の肉体は、すでに『真の神速』の領域へと解放されていた。
(尾張貫流槍術――管槍・重爆穿光)
鉄芯が仕込まれた鉄刀木の柄が、新生の管の内壁を摩擦ゼロで滑り出す。
倍の重量を持つ槍が、貫の超人的な腕力と合わさり、一本の太い光の濁流となって放たれた。
ズガアァァァッ!!!
平原の砂煙と、万極の放っていたドス黒い霧を完全に吹き飛ばすような真空の爆音。
放たれた槍の穂先は、万極が咄嗟に剣の腹で防御を試みるよりも早く、彼の右肩の甲冑ごと肉体を激しく撃ち抜き、その骨を粉砕していた。
「が、はあぁぁぁっ!?」
万極の口から鮮血が飛び散り、その身体は数十メートルも後方へと派手に吹き飛ばされ、泥の中に転がった。
「万極様が……一撃で深手を負わされたぞ!! この赤布の部隊、ただの百人隊ではない、本物の化け物だ!!」
頭を傷つけられた怨念の軍勢は完全に戦意を喪失し、そこへ梁の指示を受けた穿紅軍の各部隊が容赦なく襲いかかり、万極の部隊は蜘蛛の子を散らすように敗走していった。
万極を撃退し、穿紅軍が戦域の安全を確保した――その瞬間であった。
ドコォォォォン!!!!
戦場の中央、趙軍の本陣前において、これまでに聞いたこともないような、大気が爆発するほどの凄まじい衝撃音が鳴り響いた。
全軍の兵たちが、恐怖と驚愕のあまり動きを止めてその方向を見つめる。
立ち込める土煙の向こう側――そこに姿を現したのは、尋常ならざる巨躯に天を衝くような大鉾を構えた、秦国総大将・王騎将軍。
そして、その正面に立ち塞がるのは、人間の胴体ほどもある巨大な大矛を狂おしく振り回す、「武神」龐煖であった。
ついに、九年前の因縁に決着をつけるべく、この馬陽の地の中心で、二つの『時代最大の怪物』が正面から激突したのだ。
二人が大鉾を交えるたび、周囲の地面が陥没し、凄まじい暴風が吹き荒れて周囲の兵たちが肉片となって吹き飛んでいく。それは、貫の流水岩砕拳を以てしても、容易に近づくことすら許されない、文字通り「神々の闘争」の領域であった。
「始まったな、貫……」
飛信隊の信が、いつの間にか貫の隣に並び、全身を震わせながらその戦いを見つめていた。
「ああ、これこそが、中華の頂点の武だ」
貫は左腕の新生・鋼鉄の管をカチャリと鳴らし、鉄芯複合鉄刀木槍の柄を強く握り締めた。その瞳には、王騎と龐煖の壮絶な打ち合いへの深い敬意と、いつか必ずあの領域へと到達するという、穿光の如き熱い野心が激しく燃え上がっていた。
宿怨の凶将・万極を打ち破り、進化を証明した穿紅軍。しかし、彼らの目の前で、馬陽の戦いはついに最終局面である「総大将決戦」へと突入する。若き穿光・貫の率いる赤き一団の運命は、この歴史的激突の果てに、どのような光を掴み取るのだろうか。
次回:第23話 大将軍の「重量」、平原に響く鉄音
次に書く二次創作小説の原作
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