キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
王騎の矛と龐煖の矛が衝突するたび、周囲の空間そのものが激しく歪むかのような大音響が馬陽の平原を支配した。その凄まじい衝撃波は、数十メートル離れた場所にいる秦趙両軍の兵士たちを容赦なく吹き飛ばし、地面にはクレーターのような無数の亀裂が刻まれていく。
「な、何なんだよ、あの狂った一振りは……! 人間の力じゃねえぞ!」
飛信隊の信が、圧倒的な「武」の奔流に気圧されそうになりながらも、その目をそらすことなく叫ぶ。
貫は、左腕の『新生・鋼鉄の管』を構えたまま、極限の集中状態で二人の打ち合いを凝視していた。
『流水岩砕拳』の真髄たる気の流れを読み取る視界の中で、二人の怪物の闘争は、全く異なる二つの理(ことわり)の激突として映っていた。
龐煖の武は、狂おしいほどに研ぎ澄まされた「個」の極致。一切の無駄を削ぎ落とし、天をも穿つために最適化された、冷酷な破壊の機械。
対する王騎の武は――重い。一振りの速度や軌道は龐煖のそれと互角、あるいは一瞬遅れて見えることすらある。しかし、その矛の軌跡には、これまで彼が背負ってきた数万、数十万の兵たちの命、そして共に戦場を駆け抜けた亡き戦友たちの想いが、目に見えない巨大な質量となって乗っていた。
(これが……天下の大将軍の『重量』か)
貫の背中に、冷たい汗が伝う。
己の『流水岩砕拳』は、敵の力を受け流し、その歪みを利用して打ち砕く拳。しかし、今目の前で繰り出されている王騎の重撃は、受け流そうとした瞬間に、その受け流す器(肉体や武器)ごと跡形もなく押しつぶしてしまうほどの絶対的な質量を持っていた。
「百人将! 感心してる暇はありません! 趙の本陣が崩れかけたことで、周囲の残党が死に物狂いでこちらへ押し寄せてきています!」
軍師の梁が、状況の緊迫を告げる。万極こそ撃退したものの、総大将決戦を邪魔させまいとする趙軍の伏兵や、必死の防衛を試みる部隊が、穿紅軍と飛信隊の周囲を完全に包囲しつつあったのだ。
「鉄さんの盾部隊、飛信隊の守備薄いところをカバーして! 雷、行くぞ! 巨頭たちの戦いに泥を塗ろうとする雑兵どもは、俺たちが一人残らず叩き出す!」
貫の鋭い大号令とともに、穿紅軍が再び動く。
「オラァッ!」
雷の双剣が趙兵の喉元を切り裂き、鉄の巨大な盾が突撃してくる騎馬の足を止める。貫の『鉄芯複合鉄刀木槍』は、超高速の管槍術によって、近づく敵の甲冑を紙切れのように貫いていった。
穿紅軍と飛信隊の獅子奮迅の働きにより、王騎と龐煖の決闘場の周囲には、不可侵の絶対領域が保たれていた。
その時、激闘の中で変化が起きる。
王騎の重い一撃が、ついに龐煖の完璧な防陣を打ち破り、その胸元に浅くはない一文字の傷を刻み込んだのだ。
「がはっ……! なぜだ……なぜ貴様の矛の方が重い! 我は天の理を体現せし武神なりぞ!」
狂乱する龐煖。しかし、王騎の表情はどこまでも冷静で、そして傲然としていた。
「ココココ、それが『将軍』の生む力ですよ、龐煖。一人で山にこもり、ただ武を磨いただけの貴様には、死ぬまで理解できぬ重量です」
王騎の放つ威容に、秦軍全体の士気が爆発的に跳ね上がる。勝利は目前に見えた。
だが、その歓喜の絶頂の瞬間、貫の流水の感覚が、戦場の遥か北方の地平線から押し寄せる、狂気的なまでの「絶望の足音」を感知した。
「……っ!? なんだ、この地鳴りは……万極の時とは比べ物にならない、組織され尽くした巨大な鉄の塊が近づいてくる……!」
厳が防風林の頂上から、顔を真っ青にして絶叫した。
「北の山間から大軍勢! 趙の旗ですが、これまでの部隊とは装備の質が違いすぎる! 数は……万を軽々と超えています!」
地平線を埋め尽くすようにして現れたのは、一切の油断も隙もない、完璧な陣形を組んだ趙国の未知なる大軍。その中央に掲げられた不気味なほどにシンプルな軍旗には、ただ一文字、『李』と刻まれていた。
趙国が北方の異民族を圧倒するために隠し続けていた、真の主力軍――李牧(りぼく)の本隊。
「な……んで、こんなところに敵の増援が……!?」
信の言葉が途切れる。秦軍の誰もが、背後から退路を完全に断たれる形で、最悪の包囲網の中に閉じ込められたことを理解した。
周囲が絶望の静寂に包まれる中、王騎将軍だけは、静かにその巨躯を李牧の軍勢へと向け、不敵な笑みを崩さなかった。
「フム……やはり来ましたか、李牧。あなたの張り巡らせた蜘蛛の巣、実に見事なものですよ」
総大将のその言葉一つで、崩壊しかけた秦軍の戦意が奇跡的につなぎ止められる。
王騎は再び矛を強く握り直し、目の前の武神・龐煖を見据えた。李牧の罠を破るためには、ここで目の前の敵の首を挙げ、即座に全軍で一点突破の撤退戦を挑むしかない。
「貫、信、若き雛鳥たちよ。絶望するにはまだ早い。大将軍の背中を、その目に焼き付けなさい」
王騎の身体から、馬陽の戦いの中で最大最強の覇気が立ち上る。
しかしその時、激戦の混乱に紛れ、戦場の物陰から、一本の禍々しい弓矢が王騎の背中を正確に狙い定めていた。趙国一の弓の使い手、魏加(ぎか)が放つ、卑劣なる乾坤一擲の矢。
「させない……っ!!」
貫の瞳が、その殺気の矢の軌道を捉えた。左腕の管をカチャリと鳴らし、身を翻そうとしたその瞬間――。
歴史の歯車が、あまりにも残酷な速度で回り始めようとしていた。
王騎の危機に、貫の槍は間に合うのか!?
次回:第24話 神弓の急襲、血路を拓く赤き光
次に書く二次創作小説の原作
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