キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
馬陽の激戦から秦軍本隊が咸陽への撤退を進める中、特殊遊撃百人隊『穿紅軍』の一角は、全く別の目的地へと向かって隠密に動いていた。
目的はただ一つ。限界を迎えた貫の得物を超える新兵器、『超螺旋・流星管槍(ちょうらせん・りゅうせいかんそう)』の核となる幻の稀少鉱物、『流星鉄(りゅうせいてつ)』の獲得である。
「本当にこの先にあるんだな、梁……?」
険しい岩肌が剥き出しになった秦国奥地の秘境――通称『百魔山(ひゃくまざん)』の麓で、工匠の拓が額の汗を拭いながら、広げられた古い竹簡を見つめた。
「ああ、軍司令の秘密書庫の記録に間違いがなければね」
今回の調達行の案内役として同行した軍師の梁が、眼鏡の奥の鋭い瞳で山頂を睨む。
「かつて天より落ちた星の破片が眠る鉱山。だが、ここは秦国の法も届かぬ無法地帯だ。狂暴な猛獣に加え、大戦の混乱に乗じて逃げ延びた凶悪な脱走兵や賊が巣食っている。本来なら軍を動かすレベルの危険地帯さ」
この隠密行に同行したのは、工匠の拓、軍師の梁、そして穿紅軍が誇る二大精鋭――突撃隊長の雷と、副将の鉄である。
「上等じゃねえか。貫が命を預ける新しい槍のためだ、どんな化け物が出てこようが、俺の双剣で細切れにしてやるよ」
雷が不敵に笑い、あちこち刃こぼれした双剣を軽く回す。
「気合を入れるのはいいが、油断するなよ雷。俺の盾もお前の剣も、馬陽の戦いでボロボロだ。無理な正面衝突は避けるぞ」
鉄が歪んだ大盾を背負い直し、低く重い声で釘を刺した。
主である貫は、傷ついた残りの百人を率いて本隊の殿(しんがり)を警戒するため、咸陽への帰路にある。だからこそ、この四人が何としても素材を持ち帰らねばならなかった。
山中へ深く入るほど、空気は重く、獣の血の匂いが濃くなっていく。
行軍を始めて数刻、百魔山の鬱蒼とした森林地帯を抜けた先、巨大な岩盤が剥き出しになった廃鉱山の入り口に辿り着いた。
「ここだ……! 間違いない、この岩盤から放たれる僅かな磁気、流星鉄が近くにある証拠だ!」
拓が懐から取り出した磁石の針が、狂ったように回転するのを見て声を弾ませる。
しかし、歓喜の瞬間は、背後の藪を切り裂く不穏な足音によって遮られた。
「ヒャハハハ! 妙な小汚いガキどもが迷い込んできたと思えば、美味そうな上等な軍服を着てやがるじゃねえか!」
不気味な笑い声と共に岩陰から現れたのは、寄せ集めの歪な甲冑を身にまとった数十人の賊の集団だった。その中央に座すのは、身の丈八尺(約2.4メートル)はあろうかという巨漢。かつて魏国を追放されたという凶賊の頭目――骸骨坊(がいこつぼう)である。その手には、人間の頭ほどもある巨大な鉄球が握られていた。
新しく出会う、この百魔山の闇を支配する凶賊の首領に対し、拓たちは貫の代わりに穿紅軍の誇りと不屈の意志を証明すべく、立ち塞がった。
代表して前に出た副将の鉄が、歪んだ大盾を地面に叩きつけ、戦場全体に響き渡るような、淀みのない声を響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃百人隊『穿紅軍』が副将、鉄(てつ)だ。我らは我が百人将・貫の新たなる牙を鍛え上げるため、この山に眠る流星鉄を求めて参った。大将軍の路を拓く我らの進軍を、国家の法を持たぬ賊風情の力で止めることは叶わん。命が惜しくば、その道を退け」
鉄の傲る高ぶることのない、しかし絶対的な軍人の威圧感を放つ自己紹介を聞き、骸骨坊は顔の肉を醜く歪めて激昂した。
「ふざけた自己紹介をしてんじゃねえぞ、秦の生臭坊主がァ! その小生意気な口ごと、叩き潰してやるわ!」
骸骨坊が咆哮と共に、巨大な鉄球を凄まじい勢いで振り回し、鉄の脳天へと振り下ろしてきた。風を切り裂く破壊の質量。
しかし、鉄の瞳は冷静だった。
(流水岩砕拳――剛流・破岩不動陣)
鉄は、馬陽の戦いで歪んだ大盾を敢えて一歩引きながら構え、鉄球が激突する瞬間に、盾の角度を僅かに傾けた。
ギガァァァァァン!!!!
直撃すれば肉体が消し飛ぶほどの衝撃を、鉄は流水の呼吸を以て足の裏から大地の岩盤へと完全に逃がした。鉄球は盾の表面を激しく滑り、真横の硬い岩壁へと突き刺さり、爆音と共に岩飛沫を上げた。
「な、何だと!? 俺の鉄球を、そのボロ盾で受け流しただと!?」
骸骨坊が驚愕に目を見開いた瞬間、鉄の背後から「赤き光」が飛び出した。
「隙だらけだぜ、大男!」
突撃隊長の雷である。
(尾張貫流槍術――双剣応用・韋駄天穿光)
馬陽の戦いで刃こぼれした双剣が、雷の超高速の身のこなしによって、一瞬の間に無数の閃光へと変わる。
シュバババババッ!!!
骸骨坊が巨体を震わせる暇すらなく、雷の双剣は男の太い両腕の腱と、胸元の急所を正確に切り裂いていた。
「が、はっ……化け物、どもが……!」
巨漢が地響きを立てて倒れると同時に、残された賊たちは恐怖に顔を引きつらせ、一斉に武器を捨てて山の奥へと逃げ去っていった。
「ふぅ、手応えのない奴らだぜ。だが、俺の剣もこれで完全に寿命だな」
雷が、完全に折れた双剣の柄を見つめて苦笑いする。
「二人とも、見事な連携だった! 待たせたな、これを見てくれ!」
廃鉱山の奥から、拓の歓喜の叫び声が響いた。
梁の松明が照らし出したのは、洞窟の最奥、漆黒の岩盤の中に埋め込まれるようにして、妖しく鈍い銀色の光を放つ、拳大の鉱石の塊だった。それこそが、何百年もの間、天の星の熱を宿し続けた伝説の『流星鉄』であった。
「これだ……これがあれば、貫の流水の気に耐え、あの李牧の知略をも叩き割る『最強の槍』が作れる……!」
拓は震える手で流星鉄を抱きかかえ、その確かな重量に涙を浮かべた。
素材は揃った。
百魔山の試練を乗り越え、穿紅軍の絆が持ち帰る天の鉄。
咸陽で待つ貫のもとへ、新兵器『超螺旋・流星管槍』の誕生に向けたカウントダウンが、今、静かに、しかし激しく始まりを告げようとしていた。
次回:第29話 超螺旋の産声、穿光の新生
次に書く二次創作小説の原作
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