キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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続きです。ゆっくりしていってね



第2話:紅の閃光、戦場を駆ける

蛇甘平原に巻き起こる砂塵は、兵たちの流す血を吸って赤黒く染まっていく。周囲からは絶え間なく、骨が砕ける音、肉が裂ける悲鳴、そして地響きのような怒号が響き渡っていた。

 

貫の放った神速の一突きによって魏の装甲騎兵が落馬した瞬間、その周囲のわずかな空間だけが、まるで時間が凍りついたかのように静まり返った。

 

「一撃……。あの重装甲の騎兵を、正面から、たった一突きで……!」

 

伍長の鉄は、長年戦場を生き抜いてきた自らの経験則が完全に崩壊していくのを感じていた。歩兵が騎兵と正面から戦う場合の鉄則は、盾を並べて突撃の勢いを受け止め、泥泥になりながら馬の足を狙うことだ。しかし、目の前の若者は、突進してくる巨馬の圧力を紙一重でいなし、あろうことか敵の刃が届く手前の「遠間」から、その命を正確に撃ち抜いた。

 

「おい、ボーッとするな! 次が来るぞ!」

 

貫の鋭い声が、呆然としていた伍の面々を現実に引き戻した。

 

前線の決壊を防ぐため、魏軍の第二陣、第三陣の騎兵たちが、先ほどの仲間が討たれたことなど気にも留めずに殺到してくる。その数は十や二十ではない。黒い鉄の塊のような集団が、牙を剥いて突進してきている。

 

「鉄さん、指示を! このままじゃ踏み潰される!」

 

梁が冷静さを保とうと努めながらも、声を張り上げた。その視線はすでに、押し寄せる敵の数と自分たちの配置を計算し、最悪の結末を予測していた。

 

「クソッ、全軍盾を構えろ! 散るな、まとまって耐えるんだ!」

 

鉄が叫ぶが、隣の伍はすでに騎兵の突撃によって無惨に散乱し、悲鳴を上げる暇もなく踏み潰されていた。死の津波が、確実に彼らの伍へと迫っている。

 

「拓、雷、梁、俺の後ろに隠れてろ! 鉄さんは左側から回り込んでくる奴らの視線を引いてくれ!」

 

貫はそう叫ぶと、再び自ら前へと突き出た。今度は一歩ではない。突進してくる複数の騎兵に対し、真っ向から突っ込んでいったのだ。

 

「馬鹿野郎! 自殺行為だ!」

 

鉄が制止の声を上げるが、貫の動きはすでに常人の理解を超えていた。

 

先頭の魏兵が、並外れた怪力で巨大な大刀を振り下ろす。まともに受ければ、鉄の盾ごと体が真っ二つになるような破壊力。しかし、貫はその一撃に対して、自らの左腕――流水岩砕拳の構えを滑り込ませた。

 

大刀の側面を、主人公の掌がぬるりと撫でる。流水岩砕拳の極意である「受け流し」だ。

 

「なっ……!? 手応えが……消えた!?」

 

魏兵が驚愕に目を見開いた瞬間には、その大刀の軌道は完全に逸らされ、自らの馬の首を深く傷つけていた。バランスを崩した馬が大きくよろめく。その一瞬の隙を、貫の右手が逃すはずがなかった。

 

カチャリ、と左手の竹の管が鳴る。

 

吸い込まれるように引き絞られた槍の穂先が、前方へと撃ち出された。それはまさに『閃光』だった。空気を切り裂く鋭い音が響いた瞬間には、魏兵の喉笛にはすでに風穴が空いていた。

 

「一人」

 

貫は冷酷に呟くと、引き戻した槍の反動を利用して、すぐ右隣から迫っていた別の騎兵へと体を反転させた。

 

二人目の敵は、貫の尋常ならざる強さを察知し、間合いを保ったまま長槍で突きを放ってきた。歩兵の槍よりも長い、騎兵特有の長槍。普通であれば、歩兵側が間合いを詰める前に刺し貫かれる状況だ。

 

「間合いの勝負なら、俺の武術が負けるわけがない」

 

貫は冷静に敵の槍先を見据えた。

 

尾張貫流槍術の最大の特徴は、左手の管の中で槍の柄を限界まで滑らせることで、通常の構えからは想像もつかないほど「遠い間合い」へ突きを届かせることができる点にある。敵の騎兵が「自分の槍しか届かない」と確信したその距離こそが、主人公の必殺の間合いだった。

 

シュバッ!!!

 

またしても異質な高音が戦場に響く。

 

敵の長槍の刃先が貫の胸元に届くよりも早く、貫の放った槍が、敵の顔面の兜の隙間を正確に貫いていた。一瞬の出来事だった。敵兵は自分がなぜ貫かれたのかすら理解できぬまま、白目を剥いて落馬した。

 

「二人、三人……!」

 

雷がその光景を見ながら、興奮のあまり自身の槍を激しく振り回した。

 

「すげえ……すげえよ! 敵の攻撃が全部滑って、あいつの槍だけが百発百中で当たってやがる! おい、鉄さん! これならいける、いけるぞ!」

 

「ああ……信じられんが、あのガキが敵の突撃の『芯』をすべて叩き潰していやがる。おい、お前ら! ガキが作ったあの隙を無駄にするな! 撃ち漏らしを仕留めるぞ!」

 

鉄の経験が、この好機を逃さなかった。貫が騎兵の勢いを止め、混乱に陥った魏兵の横腹へ、鉄と雷が怒号を上げて突撃した。

 

馬の足を狙って雷が鋭い突きを放ち、バランスを崩した敵を鉄が大盾で押し潰し、首筋を刀で斬り裂く。臆病だった拓も、貫の背中を守るために必死で盾を掲げ、突進してくる馬の体当たりから梁を庇った。

 

「拓、そのまま盾を固定して! 右から来る騎兵は、馬の視界を遮れば速度が落ちる!」

 

梁が的確な指示を飛ばす。戦場という極限状態の中で、この即席だった伍のメンバーの間に、貫の圧倒的な武力を核とした「連携」が急速に形作られていった。

 

貫は流水の拳で敵の武器を弾き、管槍の神速の突きで敵の将校や手強い騎兵を次々と屠っていく。彼の周りには、いつしか魏兵の死体でできた小さな山ができ上がっていた。

 

どれほどの時間が経っただろうか。あれほど絶望的だった魏軍の騎兵隊の突撃が、貫たちのいる一角だけ、完全に瓦解していた。周囲の秦兵たちが呆然と彼らを見つめている。

 

貫は激しく息を吐きながら、右腕の筋肉がきしむのを感じていた。キングダム世界の肉体は頑丈だが、これほど短時間に神速の突きを連発すれば、関節や腱にかかる負担は無視できない。

 

「はぁ、はぁ……。さすがに、この肉体でも少し腕が熱いな」

 

「おい、大丈夫かよ……」

 

雷が心配そうに駆け寄ってきたが、その目はまだ興奮で爛々と輝いていた。

 

「大丈夫だ。それより、みんな無事か?」

 

貫が振り返ると、鉄、梁、拓、そして雷の全員が、傷を負いながらも確かにその足で立っていた。

 

「全員、生きてるよ……。貫、君のおかげだ」

 

梁が泥にまみれた顔で、心からの敬意を込めて微笑んだ。

 

「お前、本当にただのガキじゃねえな。……俺の長い戦人生でも、お前みたいな戦い方をする奴は見たことがねえ」

 

鉄が歩み寄り、貫の肩を力強く叩いた。その目には、もはや最初の侮りは一切なく、一人の優秀な「武将」を見るかのような畏敬の念が宿っていた。

 

「いや、俺一人の力じゃない。拓がこの『管』を作ってくれなきゃ、最初の突きで俺の左手は摩擦でボロボロになっていた。それに、鉄さんたちが周囲の警戒をしてくれたから、俺は正面だけに集中できたんだ」

 

貫がそう言って左手の竹の管を掲げると、拓は鼻の頭をこすりながら、照れくさそうに、しかし誇らしげに胸を張った。

 

「へへ、役に立ったなら良かったよ。でも、次はもっと頑丈なやつを作らないとね。竹じゃ、君の強さに耐えきれなくて割れちゃうよ」

 

拓の言う通り、激しい戦闘を経た竹の管には、微細なひび割れがいくつも入っていた。貫の武術の凄まじさに、道具の進化が追いついていないのだ。

 

「ああ、頼むよ拓。……だが、感傷に浸っている暇はなさそうだ」

 

貫の視線の先、蛇甘平原の中央で、さらなる巨大な砂塵が舞い上がっていた。

 

魏軍の本陣が動き出し、装甲歩兵の巨大な壁と、戦車隊がこちらへ向けて進軍を開始したのだ。本当の地獄は、ここから始まる。

 

「よし、お前ら。ここからが本当の正念場だ」

 

鉄が刀を強く握り直し、伍の先頭に立つ貫の背中を見つめた。

 

「伍長は俺だが……戦場での動きは、お前の槍に合わせる。俺たちを導いてくれ、貫」

 

「了解だ、鉄さん。……全軍、俺の赤布から目を離すな。次の敵も、すべて『穿つ』ぞ」

 

貫は再び不敵に笑うと、ひび割れた管に槍を通し、次なる決戦の地へと足を進めた。戦場に翻る一枚の赤い布は、すでに周囲の兵たちにとって、絶望を切り裂く希望の灯火となりつつあった。




次回:第3話 装甲戦車の脅威と赤き不屈
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