キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
流星鉄を携え、百魔山の険路を駆け抜けた拓たちは、ついに咸陽(かんよう)郊外にある穿紅軍の駐屯地へと帰還した。
馬陽の激戦から生還し、一回りの成長を遂げた百人の兵たちが彼らを迎える。その中央で、左腕の管を失った百人将・貫が、静かに待っていた。
「おかえり、みんな。無事で何よりだ」
「おう、待たせたな貫! 最高の素材を持ち帰ったぜ!」
拓は泥と煤にまみれた顔で不敵に笑うと、背負っていた袋から、鈍い銀色の輝きを放つ『流星鉄』の塊を転がし出展。その鉱石から放たれる圧倒的な質量感と磁気に、居合わせた梁や雷、鉄すらも息を呑む。
「……これが、流星鉄。素晴らしいな。では拓、始めようか」
「ああ、俺の技術のすべてを、この一作に注ぎ込む!」
その夜から、駐屯地の一角にある鍛冶場からは、三日三晩、絶えることなく鉄を打つ凄まじい音が響き渡った。
拓は不眠不休で炉の炎を極限まで高め、流星鉄を精錬した。超硬鉄の芯と流星鉄の比率、積層構造の厚み、そして管の内壁に刻む『螺旋』の角度――寸分の狂いも許されない神の領域の作業。貫もまた、鍛冶場に付き添い、自らの『流水の気』を、赤く焼けた鉄へと絶え間なく流し込み続けた。素材と武術家の気を、鍛錬の段階から同調させるために。
そして四日目の朝。
槌の音が止み、凄まじい水蒸気の爆音と共に、新たなる神兵がその姿を現した。
「完成したぞ、貫……! これが俺たちの、新しい力だ!」
拓が差し出したのは、これまでの得物とは明らかに一線を画す、異形の美しさをまとった槍と管だった。
左腕の管は、流星鉄の鈍い銀色をベースに、外脈(外側)へとしなやかな竜の鱗のような積層が施されている。そして右手で握る長槍の柄は、特殊な積層構造によって極限の靭性を持ち、先端の穂先はまるで星の光をそのまま削り出したかのように鋭く輝いていた。
『超螺旋・流星管槍(ちょうらせん・りゅうせいかんそう)』
貫は無言で左腕を突き出し、新たなる銀の管をカチャリと装着した。その瞬間、かつてないほど滑らかに、そして力強く、管が腕の肉体と一体化する感覚が走る。
右手に長槍を構え、駐屯地の広い練兵場の中央へと立った。
「貫、まずは一突き、その性能を試してくれ!」
拓が興奮気味に声を上げる。梁の合図で、肉厚な鉄を何重にも重ねた、重装歩兵用の特大の防壁盾が前方に設置された。
新しく生まれ変わった、この中華を穿つ神兵の産声を告げるべく、貫は全軍の前に立ち、己の存在と穿紅軍の新たなる決意を刻み込むように、淀みのない声を響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃百人隊『穿紅軍』を率いる百人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して、天の星の鉄より鍛え上げし左腕の『超螺旋・流星管』、そして『積層流星槍』を以て、目の前に立ち塞がるあらゆる不落の盾、あらゆる神の知略を、その正面から跡形もなく穿ち砕く。王騎将軍より託されしこの時代、我らの穿光を遮るものなど、中華のどこにも存在せぬ」
貫の傲る高ぶることのない、しかし絶対的な「神の領域」へと足を踏み入れた自己紹介。その瞬間、彼の全神経が極限まで集中した。
(流水岩砕拳――剛流柔流一体・流星集中)
一歩を踏み出し、右手の槍を摩擦ゼロの管へと滑り込ませる。
(超螺旋・管槍術――神速重爆穿光「流星撃」)
ドゴォォォォォンッ!!!!
それは、突きというよりも、一筋の落雷だった。
管の内壁に刻まれた『螺旋』に沿って、槍の柄が超高速で自己回転を始め、空気の渦を巻き起こす。流星鉄の重量がその回転の遠心力と合わさり、破壊力を何十倍にも増幅させて放たれた。
真空の衝撃波が練兵場を吹き抜け、前方にあるはずの特大の防壁盾を見つめた一同は、驚愕に目を見開いた。
「な……消えた……!?」
雷が声を裏返す。
何重にも重ねられていた分厚い鉄盾の中央には、綺麗な円形の「巨大な風穴」が空いており、その遥か後方にある岩山の斜面が、爆発したかのように派手に消し飛んでいた。受け流す余地すら与えず、鉄を文字通り「蒸発」させたのだ。
「す、凄い……! 槍のしなりが、衝撃をすべて前方の回転力に変換している……! 貫の肉体への反動も、これまでの数分の一だ!」
梁が木札を落とし、その数値を弾き出しながら叫ぶ。
「やった……やったぞ! これなら、どんな盾陣だろうが、李牧の軍勢だろうが、正面から消し飛ばせる!」
拓が拳を突き上げ、歓喜の涙を流した。鉄も雷も、その圧倒的な威力に身震いしながらも、誇らしげに笑う。
貫は、微動だにしない左腕の銀の管と、全く無傷の槍の穂先を見つめ、静かに、しかし深く息を吐き出した。
「素晴らしいよ、拓。この槍なら、どこまでもいける」
新たなる神兵の誕生。限界を超えた絆が紡ぎ出した『超螺旋・流星管槍』を携え、若き穿光・貫と穿紅軍は、いよいよ秦国を揺るがす次なる大乱の嵐の中へと、その圧倒的な牙を剥き出しにして進軍を始める。
次回:第30話 切磋の火花、若き双璧の手合わせ