キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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今回は鉄さん活躍回です。ゆっくりしていってね。


第34話:鉄壁の暴風、轟く巨盾の反衝

魏国領内の切り立った岩山が連なる険しい渓谷。その狭隘な出口に、漆紅の戦甲をまとった千の軍勢――新生『穿紅軍』の姿があった。

上空を不穏な暗雲が覆い、吹き抜ける乾いた風が砂塵を巻き上げる中、渓谷の奥からは大地を激しく揺らす地鳴りのような音が響いてきていた。

 

「来るぞ……! 魏軍の重装騎兵部隊だ!!」

 

前線で物見を務めていた雷の声が渓谷に響き渡る。

岩陰の向こうから姿を現したのは、馬体に至るまで分厚い青銅の馬甲で覆われた、魏国が誇る重量級の装甲騎兵数百騎。その背に乗る騎兵たちもまた、全身を頑強な重装甲で固め、長大な突撃槍(ランス)を完全に水平に構えている。狭い渓谷の道幅を埋め尽くすようにして加速するその突撃は、まさに全てを圧殺する「青き鉄の濁流」であった。

 

「ひ、ひえっ……あんなの、まともに受けたら一瞬で肉片にされちまうぞ……!」

王宮から新しく補充された九百人の新兵たちの間に、一瞬にして極限の戦慄と動揺が走る。彼らは百魔山や馬陽の地獄を知らない。ただ突進してくる圧倒的な「質量」の恐怖に、盾を握る手がガタガタと震え、陣形が瓦解しかけていた。

 

「動くなァ!! 新兵どもッ!!」

 

その動揺を一喝して踏み止まらせたのは、穿紅軍が副将、鉄(てつ)の地鳴りのような怒号であった。

鉄は震える新兵たちの前に悠然と進み出ると、背負っていた鈍い銀光を放つ巨盾――工匠の拓が命を懸けて鍛え上げ、貫と共に『流水岩砕拳』の呼吸を染み込ませた『流水反衝・巨鉄盾(りゅうすいはんしょう・きょてつじゅん)』を、地面の岩盤へとドォンと轟音を立てて突き立てた。

 

「お前たちが恐れる気持ちは分かる。だが、この穿紅軍の戦列にいる限り、敵のどんな突撃も、どんな化け物も、この俺の後ろへは一歩たりとも通さん! 良いか、俺の背中を、この盾の威容を、その目に焼き付けろ!」

 

鉄が巨盾の裏側にある、前腕を完全に包み込む強連動グリップをギリリと握り締める。

その瞬間、彼の肉体から立ち上る『流水岩砕拳』の静謐にして強固な気が、盾の内部に施された『蓄気鋼(ちくきこう)』へと流れ込み、盾の表面の『竜鱗積層(りゅうりんせきそう)』が妖しく脈打つように銀色に発光し始めた。カチャカチャと重厚な機械構造が噛み合う音が、鉄の腕の中で響く。

 

迫り来る魏軍の重装騎兵の先頭集団が、鼻息も荒く、鉄のわずか数十歩手前まで肉薄する。蹄の音が耳を聾さんばかりに轟き、突撃槍の鋭利な穂先が、鉄の胸元を正確に捉えていた。

 

(流水岩砕拳――剛流・破岩不動陣)

 

鉄は腰を深く落とし、大地に根を張る巨木のごとく完全に同化する呼吸を執る。

 

「死ねやァ! 秦国の若造どもがァ!!」

魏軍の騎兵隊長が勝ち誇った声を上げ、最高速度に達した人馬一体の超質量が、鉄の巨盾へと真っ正面から激突した。

 

ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!

 

渓谷全体が激しく揺れ、激突の凄まじい衝撃波によって周囲の地面の岩盤がバリバリと蜘蛛の巣状に割れ、激しい砂煙が爆発した。

「鉄さん!!」と新兵たちから悲鳴に似た叫びが上がる。

 

しかし、砂煙の中から現れたのは、驚天動地の光景であった。

魏軍の放った、あらゆる防陣を文字通り圧殺するはずの数千斤の突撃エネルギー。それを真っ正面から受け止めた鉄の肉体は、後方に一寸、一分たりとも退いていなかった。それどころか、激突の刹那、魏軍の突撃が持っていた凄まじい破壊の質量は、巨鉄盾の表面の流星鉄によって完璧に受け止められ、そのまま内部の緩衝ばねと蓄気鋼へと「一瞬で全て吸い込まれて消滅」していたのである。

 

「な、何だと……!? 我らの装甲突撃を、たった一人の盾で完全に止めただと……!?」

激突した魏軍の騎兵隊長が、驚愕のあまり目玉が飛び出んばかりに見開かれる。彼の突撃槍は、盾の表面に傷一つ付けることすらできず、激しい反動で彼の両腕の骨がミシミシと悲鳴を上げていた。

 

「――お前たちの『力』、確かに受け取った。そして、そのまま返すッ!!」

 

鉄の瞳に、絶対的な勝利の穿光が宿る。

鉄は深く吸い込んだ呼気を、一気に爆発させるように吐き出し、巨盾を前方へと力強く一歩押し出した。

 

(流水岩砕拳――剛流・破岩不動陣「反衝」)

 

カチャリ、と内部のロックが解除される重厚な金属音が響いた瞬間、盾の内部に極限まで圧縮され、蓄積されていた魏軍自身の突撃エネルギーと、鉄の『流水岩砕拳』の剛流の気が、爆発的な斥力(反発力)の波動となって前方に一気に解放された。

 

轟ォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

目に見えない「衝撃の暴風」が、大砲のごとき破壊力を持って前方の魏軍へと炸裂した。

「がはっ!?」「な、何だこれはぁぁぁっ!?」

 

直撃を受けた先頭の重装騎兵数騎は、馬体ごと、文字通り「木端微塵」に弾け飛んだ。分厚い青銅の馬甲も、兵士たちの頑強な装甲も、内側から爆発したかのように粉々に砕け散り、肉片と鉄くずとなって宙を舞う。

それだけでは止まらない。解放された衝撃波は、狭い渓谷の地形によってさらに威力を増し、後続の騎兵部隊をもドミノ倒しのようにまとめて十数メートル後方へと派手に吹き飛ばし、岩壁に叩きつけて圧殺していった。たった一撃の「盾の押し出し」によって、魏軍の誇る先遣隊の先頭が、文字通り跡形もなく消滅したのである。

 

あまりの圧倒的な破壊劇に、渓谷は水を打ったような静寂に包まれた。

 

「う……嘘だろ……。盾で、敵の騎兵隊を馬ごと粉砕しちまった……」

後ろで見ていた九百人の新兵たちは、あまりの衝撃に顎が外れんばかりに驚愕し、言葉を失っていた。しかし、次の瞬間、彼らの胸の内にあった「恐怖」は、完全に「熱狂」へと書き換えられた。

 

「見たか! これが穿紅軍の副将、鉄さんの『盾』だァ!!」

「俺たちの前には、世界最強の壁があるんだ!! 負けるわけがねえ!!」

地鳴りのような大歓声が穿紅軍の新兵たちから沸き起こり、軍全体の士気は天を衝くほどに跳ね上がった。

 

「初めてお目にかかる……いや、魏軍の残党ども、よく聞け!」

 

勝利の余韻に浸る暇を与えず、鉄は再び巨鉄盾をドォンと構え直し、混乱する魏軍の残党たち、そして己の背中にいる新兵たちに向けて、淀みのない、しかし大地を震わせるような威風堂々たる声を響かせた。

 

「秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』が副将、鉄(てつ)だ。我らの千人将の家にに伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して、天の星の鉄より鍛え上げしこの『流水反衝·巨鉄盾』を以て、我が千人将・貫の背中を狙うあらゆる刃、あらゆる装甲部隊の重撃を、その正面から跡形もなく撥ね退け、打ち砕く。新兵ども、恐れるな! 我らが築くこの不落の壁の前に、並び立つ敵など中華のどこにも存在せぬ! 俺に続いて敵を押し潰せェ!!」

 

「おおおおおおおっ!!!」

鉄の絶対的な自己紹介の誓いを受け、新兵たちの盾兵部隊が一斉に雄叫びを上げ、鉄の左右へと綺麗に整列し、強固な漆紅の防壁を完成させた。

 

「見事だ、鉄さん。最高の壁だ」

本陣からその様子を見ていた千人将・貫が、左腕の『超螺旋・流星管槍』を構え、愛馬を前へと進める。その瞳には、魏軍の指揮官を確実に捉える鋭い穿光が宿っていた。

 

「さあ、穿紅軍! 敵は完全に肝を潰している! 鉄さんが作ってくれたこの最高の勝機、一兵たりとも逃すな! 突撃隊、全軍攻勢に出るぞ!!」

 

「応ァァァッ!!」

突撃隊長の雷が双剣を掲げて先陣を切り、千の軍勢となった穿紅軍が、混乱の極みに達した魏軍の二千の重装部隊へと一斉に襲いかかった。

副将・鉄が示した「不落の盾」の圧倒的な進化は、新兵たちを瞬時に最強の戦士へと変貌させ、魏国攻略の初陣を、血湧き肉躍る圧倒的な蹂躙劇へと変えていくのだった。




次回:第35話 競演の野獣、渓谷を埋める双璧の咆哮
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