キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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続きです。ゆっくりしていってね。


第35話:競演の野獣、渓谷を埋める双璧の咆哮

副将・鉄の放った『流水反衝・巨鉄盾』の一撃は、魏軍二千の重装部隊の魂を完全にへし折っていた。

馬ごと木端微塵に弾け飛んだ先頭集団の血煙と、狭い渓谷に響き渡る圧倒的な斥力の爆音。恐怖の連鎖は一瞬にして後方にまで伝播し、あれほど強固だった青き鉄の濁流は、今や我先にと逃げ惑う哀れな敗残兵の群れへと成り果てていた。

 

「敵は完全に瓦解している! 突撃隊、左右から回り込んで退路を断て! 新兵の盾兵部隊は一歩も退くな、そのまま圧殺しろ!」

 

突撃隊長の雷が、血に染まった双剣を振り回しながら、千人隊へと膨れ上がった穿紅軍の将兵を完璧な手際で指揮する。鉄の背中を見て恐怖を忘れた九百の新兵たちは、いまや熟練の戦士の如き猛々しさで、魏兵を容赦なく追い詰めていた。

 

「見事な陣頭指揮だ、梁。これなら飛信隊の到着を待たずとも、ここで完全に殲滅できる」

 

中央の本陣から戦況を見つめていた貫が、左腕の『超螺旋・流星管』を軽く鳴らし、馬を進めようとしたその時だった。

 

渓谷を囲む、切り立った左右の急峻な崖の上から、地響きをも超える凄まじい大音声が降ってきた。

 

「待たせたなァ、貫ーーーーーっ!! お前らだけで美味いところを全部持っていこうなんて、そうは問屋が卸さねえんだよ!!」

 

声の主は、大剣を天に掲げ、ギラギラとした野性の瞳を輝かせた飛信隊の千人将――信(しん)であった。

 

「なっ……崖の上だと!?」

 

軍師の梁が驚愕して見上げる中、信はあろうことか、馬の腹を激しく蹴り、数十メートルはあろうかという急斜面の崖上から、重力を無視するかのように豪快に飛び降りてきたのである。

 

「飛信隊、突撃ィィィ!! 穿紅軍に遅れを取るなァ!!」

信の無茶苦茶な背中に続くように、副長の羌瘣が風のように崖を駆け下り、渕(えん)や田有(でんゆう)、尾平たち千人の飛信隊の兵たちが、雄叫びを上げながら崖の斜面を雪崩のごとく滑り降りて乱入してきた。

 

ズドォォォォォンッ!!!!

 

信の乗る軍馬が着地の衝撃で地面の岩盤を派手に爆発させ、その勢いのまま、退却しようとしていた魏軍のど真ん中へと突っ込む。

「おい貫! 千人隊の初陣で、いきなり手柄の独り占めはナシだぜ! どっちがより多くの敵将を挙げるか、勝負だァ!」

信が大剣を一閃させると、それだけで魏の重装歩兵が鎧ごと三人がかりで吹き飛んだ。

 

「……フッ、やはり大人しく待っているような男ではないな」

貫の口元に、不敵な、しかしどこか嬉しそうな笑みが浮かぶ。

右手に握られた『積層流星槍』の穂先が、主の闘志に呼応するように、鈍い銀光をパチパチと放ち始めた。

 

新しく千の軍勢を率いる真の傑物となり、並び立つライバルとして戦場へ乱入してきた飛信隊、そして恐怖のどん底に突き落とされた魏軍の残党たちに対し、貫は馬上で槍を鋭く構え、戦場全体を圧倒するような、淀みのない声を響かせた。

 

「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』を率いる千人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『超螺旋・流星管』、そして『積層流星槍』を以て、目の前で逃げ惑う魏国の青き装甲ごと、その正面から一人残らず穿ち止める。信、貴様が戦場を荒らす烈火となるならば、俺はすべてを無に帰す新生の穿光だ。我が穿紅軍の前に、挙がる手柄など一分たりとも残しはせん」

 

貫の傲る高ぶることのない、しかし一瞬で戦場の空気を支配する絶対的な自己紹介の激。

それを聞いた信は、体中の血をさらに沸騰させて大笑いした。

 

「へっ、言ってろ! 羌瘣、貂! 穿紅軍のガキどもに、俺たちの本当の『武』を見せてやろうじゃねえか!!」

 

「――千人隊『穿紅軍』、全軍攻勢! 飛信隊を戦果で圧倒するぞ!」

貫の号令が下った瞬間、渓谷は二つの千人隊による、凄まじい「魏兵の争奪戦(競争)」の舞台へと変貌した。

 

(流水岩砕拳――剛流柔流一体・流星連穿)

 

貫が馬を疾走させ、敵の中央突破を図る。管の内壁に刻まれた螺旋がキィィィンと高周波の産声を上げ、放たれた『流星撃』の突きが、一瞬にして十数本の光の槍となって魏軍の重装歩兵の列を襲った。

 

ドゴバババババァッ!!!!

 

分厚い鉄の盾を構えていた魏軍の戦列が、貫の超螺旋の風圧だけで、盾ごと肉体を粉々にねじ切られて消し飛んでいく。

 

「なめるなァッ! 俺の背中を追ってきやがれ、飛信隊の歩兵ども!!」

 

そのわずか数歩横では、信が王騎から受け継いだ『将軍の重量』をなぞるような大剣の猛撃で、魏の騎兵を馬ごと真っ二つに叩き割っていた。

 

「あっちの槍のガキ、なんだあの突きは!? 突くたびに竜巻みたいな風が起きてやがるぞ!」

 

「負けるな! 信殿の剣に続けぇ!!」

 

飛信隊の兵たちも、穿紅軍の圧倒的な新兵器の威力に度肝を抜きつつも、負けじと声を張り上げて敵を斬り伏せる。

 

「おい鉄さん、あっちの飛信隊の副長(羌瘣)を見てみろよ! 動きが速すぎて残像しか見えねえぞ!」

 

突撃隊長の雷が、緑の衣装をまとって神速の暗殺舞踊を踊る羌瘣の姿に目を見張る。

 

「ふん、速さならお前も負けていないはずだ、雷! だが、数の力なら俺たちの防陣の方が上だ! 新兵ども、さらに押し込めぇ!」

 

鉄が『流水反衝・巨鉄盾』で魏兵の槍撃を受け止め、その瞬間に衝撃波を全前方に解放して数十人をまとめて吹き飛ばす。その開いた穴に、穿紅軍の新兵たちが一斉に槍を突き立て、確実に戦果を上げていった。

 

軍師の梁と河了貂は、互いに崖の上と下で戦況を把握しつつも、木札を弾く手が止まらない。

 

「梁、あっちの飛信隊の中央突破の速度、私たちの計算を超えているよ!」

 

「ええ、ですが、我が穿紅軍の側面からの包囲殲滅の精度も、彼らの野性を凌駕しています!」

 

二人の若き知略もまた、盤面の上で激しく競い合っていた。

 

二千あった魏軍の精鋭は、貫と信という「二つの怪物」が率いる千人隊の、凄まじいまでの手柄の奪い合いによって、退却する猶予すら与えられず、わずか半刻(約一時間)の間に、その九割が渓谷の土へと還されることとなった。

 

「敵将、討ち取ったりィィィ!!」

 

信の大剣が、ついに魏軍の総大将の首を空中へと跳ね上げる。

 

「……いや、信。その背後にいた副将の首は、すでに俺の槍が貫いている」

 

貫が、静かに『積層流星槍』を引くと、その足元には魏軍の副将の巨体が崩れ落ちた。

 

「あぁーっ!! ズルイぞ貫、お前いつの間にそこに回り込んでやがった!」

 

信が息を切らしながら大剣を地面に突き立て、悔しそうに顔を歪める。

 

「戦術の勝利だ、信。これが、千人隊となった我が『穿紅軍』の力だ」

 

貫は左腕の管をカチャリと鳴らし、静かに息を整えた。

 

渓谷を埋め尽くした魏軍二千の屍。

初陣にして、圧倒的な格上の軍勢を文字通り「競い合いながら殲滅」してみせた二つの千人隊。新兵たちの顔には、もはや恐怖など微塵もなかった。あるのは、この二人の若き将の下であれば、どんな大戦だろうが勝利できるという、絶対的な確信であった。

 

「へへ、まぁいいさ。小手調べとしては最高だったな」

 

信が不敵に笑い、渓谷の出口の先を見つめる。

砂塵が晴れたその視線の先、遥か彼方の黒い岩壁の上に、昌平君から命じられた本当の攻略目標――魏国天険の要塞『黒狼城』が、不気味な威容を現し始めていた。

 

「ああ。本番はこれからだ。あの城を、俺たちの矛と盾で、正面から穿ち砕く」

 

貫と信、若き二人の千人将は、互いの武の成長をその肌で確かめ合いながら、山陽攻略戦の最初の巨大な障壁へと向かって、力強く一歩を踏み出すのだった。




次回:第36話 廉頗の遺伝子、城壁に聳える大斧の猛将
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